とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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十二話構成と言ったな。あれは嘘だ。
正確には十三話構成+一話おまけだ。

あと相変わらず二人は拗れてます。


act12:名状し難き恋

暖かい毛布の中で微睡みと慢性的な痛みが波のように引いては戻る体を温める。

包帯を巻いた体はどこもかしこも痛みがひどくて、眠いのに眠れない無意味な時間が過ぎて行くばかり。

青い空が眩しい窓の外では白い雲が流れていた。

 

「はぁ……情けねぇ」

 

流れていく雲は人の手では掴めない。

掴まえたかった輝きは自分のつまらない人間性によって失い、もう戻らないのは明白。

 

垣根帝督の中で渦巻くのは汚い感情。

別れを切り出した彼女の言葉がずっと脳に残って、体の痛みが全身を蝕んだ。

 

(失恋ひとつでこのザマかよ)

 

失いたくなかった。

なくしたくなかった。

けれど垣根の願いとは真逆に彼女は去っていく。

 

悪夢だ。吐き気が止まらない。

暖かい毛布の中で、体が冷えていく。寒気が酷くて、死んでしまいそう。

 

「なんだァ、 そのボロボロの無様な姿は」

 

「怪我ってマジだったんだな……」

 

毛布の中で蠢いていると、がたんと大きな音が狭い部屋に広がり、誰かのうるさい声が聞こえた。

聞き覚えのある声。

毛布の中から顔を出し、重い体をもぞもぞと動かすと、見知った顔と目が合った。

 

「……何の用だ」

 

そこに居たのは上条当麻と。珍しい組み合わせに少し驚くも、気怠い体と思考ではそれらしいリアクションは出来ない。

 

「あのカブトムシとか、テメェのそっくりさンは一体何だ?」

 

「あ?あぁ、暴走してんだっけか。あれはただの量産品だ、事故で動けねぇから作ったんだよ」

 

彼らの言葉が耳に入るもすぐに出ていく。眠りにつきたいと、彼らを適当にあしらって答えるも一方通行はそれに納得しない。

目を逸らしても分かる彼らの非難する視線が、チクチクと背中を刺して痛かった。

 

「事故に遭ったンならそれらしくしてろ」

 

「うっせぇな。仕事はしなきゃなんねぇんだから、仕方ねぇだろ」

 

「天羽を連れて来て治して貰えばいい話だろォが。見舞いに来てって連絡の一つでもすればいい」

 

一方通行の言葉に体が大きく跳ねる。

 

彼の言い分は尤もで、普通の話。天羽彗糸ならば、包帯に巻かれているこの事態を能力で解決してくれる、出来なくても最大限の看護はしてくれるだろう。

 

「できねぇよ」

 

「喧嘩したって話か?」

 

「……フラれただけだ」

 

だがそんなこと出来ない。

捨てられた身がそんなこと願うことなんて到底無謀だ。

 

なにより、好きな女にこの無様な姿を見られたくなかった。

 

「どォせテメェがくだらねェプライド捨てれねェだけだろ、ヘタレ。交通事故も、それがフラれた衝撃で気緩んでたから起きたンだろ?」

 

「う」

 

「それで怪我したのがかっこ悪いから呼ばねぇってなったのかよ。お前なぁ……」

 

「ううう……」

 

その心理は見破られているのか、一方通行たちは呆れたように垣根を見下ろす。その目が嫌だった。

 

痛む。

包帯の下、薬を塗った傷口が痛む。心臓の痛みと呼応して感情に体が支配されているよう。

 

「そういう事してっからフラれンだよ。分かってンのか?」

 

「何がだよ、知るかよ……」

 

「あのさ、ずっと聞きたかったが、垣根はアイツとどうなりたいんだ?」

 

痛みに悶えて布団の中に潜ると、静かな部屋の中で上条がポツリと呟いた。

布団の中でくぐもった音は聞き取りづらく、聞き取れていても理解できない。上条の簡素な質問はあまりにも情報量が少なくて、一瞬理解に辿り着けなかった。

 

「あ?どうなりたい……?」

 

「付き合ってんだろ?今は喧嘩中だが、まぁ、そこはいいとして、付き合ってるって状態で、お前はなにがしたかったんだって話」

 

「どういう意味だよ」

 

「恋人っつったらほら、一緒にデートして、イチャイチャして、やることやる相手だろ?そんで、俺らは学生だからあんまし関係ないけど、大人の場合だと結婚に至り、子供ををこさえてウンタラカンタラ……っつーのが一応のゴールだ。そこはわかるよな?」

 

「わかるが……」

 

布団から目だけ出して上条の顔を見ても質問の意図がわからない。ますますこんがらがるだけで、痛みと寒気でぐわんぐわんと回る脳では話すこともままならなかった。

 

「俺より馬鹿なテメェにもわっかりやすく言ってやる。いいか?恋人同士という関係性は、普通の家族関係とも、友人関係とも違う。つゥことはその特殊な関係を結んだ相手とは、その特殊な関係だと相互理解するために、該当する行為や行動をする必要があるンだよ」

 

「なんか余計ややこしくなった気がするけど……俺が言いたいのはさ、『鬱陶しい』っつって天羽の誘いを無下にしたり、手も繋がないで、アイツを自分を含めた外敵から守ってるだけじゃ、付き合ってる意味ないんじゃないかって話」

 

寒気が酷くなっていく体に長ったらしい説明がストンと落ちる。ベッドの縁に座った上条の諭すような声と強い目は苛立つほど真っ直ぐで、狭い心の入口にズカズカと入り込む。

 

「付き合うって一方的なものじゃないだろ?友達より深いとこにいるんだから、色々さらけ出さねぇと」

 

「できるわけねぇだろ」

 

「けどよ、アイツは世話好きのお節介焼きだぞ?お前の世話焼きたいんじゃねぇのか?」

 

嫌いだ。

自分を捨てたあの女も。

心の中に入り込む恋も。

汚い感情に踊らされる自分自身も。

 

「じゃあテメェはインデックスに甘えて、弱いとこ見せて、トラウマほじくり返す真似出来んのか?酷いこと、出来んのかよ?」

 

「俺らとお前らじゃ関係性が違うだろ。そうやって八つ当たりしても無意味だぞ」

 

「そうだとしても、アイツに汚いことはできねぇ」

 

記憶の中の肌色が感情が高ぶるたびに引き出される。

暗い部屋に、ロープの跡。男の死体と、タイツから覗く女の肌。

 

恐怖に近い。

 

自分の立場がその男になるのではないか。

彼女に嫌われるのではないか。

彼女に恐れられるのではないか。

 

それが現実になってしまったら、きっと傷がつく。

守ると決めた心の中のヒーローも、愛情に飢えた心の中の少年も。

 

「そういう目にばっかあってきて、それが世界の心理だと思っている馬鹿に手を出す野郎は、俺以上のクソ野郎だな」

 

「けど、アレはそういう類のものを愛情表現だと思ってるわけで、テメェの感情を汚いものとは思ってねぇんだろ」

 

「アレって……」

 

「テメェが選んだのはかなり気持ち悪い生き物ってのは分かる、だがその生物に対応できるのはテメェだけだ。テメェがアレを信じてやれねぇと、アレは一生理解者がいないまま生きるだけだ」

 

双方、足りないのは信頼と話し合い。

一方通行は見た目に反して随分と真っ当で、当たり前の言葉で反論する。

 

「それを踏まえてだ。テメェはあの女とどうなりたい?」

 

破けたセーラー服と冷たい夜風。

ひんやりした風の中、冷たい笑顔で光の下で佇む少女の姿に胸が締め付けられた。

助けたあの日に見せた心配性の柔らかい笑顔が忘れられなくて、冷たい笑顔なんて見たくなくて。

 

そう思っていたらあの言葉が漏れた。

自分なりの感情を伝えてしまった。

 

好きだ。

付き合って。

 

スタートはそこからだった。

 

「俺は、アイツを……あいつに笑っててほしいだけだ……」

 

「なら、笑い()()()ように頑張れよ」

 

毛布をこれでもかと被って、熱い頬を隠す。

 

顔が熱い。

熱を持った心臓がどくどくと波打って落ち着かないのは、きっとあの女のせいだ。

 

お節介な男どもの言葉は寒気を助長するだけで、居心地が悪かった。

 

「……とはいえ、もう無理かもしれねェけどな」

 

しかし一方通行の言葉にその熱は引いていく。

 

「なんでだ?」

 

「さっきコイツのクローンにキスされて泣きながら路地裏に連れてかれてただろォが」

 

「……あー、なるほど。うん。そうそう、そういえばそうだったな〜。アレはやばそうだったなー。うん、やばいなー」

 

予想外の言葉が毛布を貫き、秋の寒さを巻き込んで垣根の心臓の奥まで突き刺さる。

 

「なんでそれを早く言わねぇ!」

 

「聞かれなかったから」

 

「死ね!」

 

キス?

泣いていた?

 

知らない話に飛び起きると、毛布を剥いで明るい窓を開く。

震える心臓が痛みを消し飛ばし、輝く翼が涼しい秋風から体を守る。

 

大丈夫。

どんな姿でも、彼女を救える。

絶対的な自信を胸に、茜色が地面から燃える青緑の空に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔、天使に出会ったことがある。

 

それは幼い頃のこと。

まだ研究所を点々としていた、昔のこと。

 

天羽彗糸が背の低い、恐れられた化け物だった頃の話。

 

「これが例の“神様”か?」

 

「あぁ、アメリカから送られてきたバケモノだ。丁重にあつかえよ?ひと睨みで大人を殺せるらしいぞ」

 

「こえー」

 

研究所の裏口、運搬用のトラックの荷台で日本語を喋る大人が小さな体を囲む。尾ひれのついた噂話をわざとらしく吐き捨てる男たちが馬鹿らしくて、大人びた子供はその小さな脳の中で小さく舌を出す。

貼り付けた笑顔の裏は、少し毒々しかった。

 

「そんなことしないよ。それよりさ、これ外してくれないの?」

 

「研究所の内部を把握されないようにする処置だ、我慢しろ」

 

男の手に髪を掴まれて、無理やり座っていた荷台から降ろされるとアスファルトで固めた地面に足が触れた。

そんなことしなくたって、エコーロケーションで大まかに掴めるよ。なんて、ペラペラと喋る若い研究者たちに言ったらもっと乱暴になるのだろうか。

 

「ついてこい。お前を担当する研究員のところまで連れて行く」

 

腕にゴツゴツした拘束具を付けられて、犬のようにリードを引かれる。鎖が擦れる嫌な音と、大人の汗と薬品の匂いが不愉快で、思わず顔を顰めた。

 

「テレスティーナさんだっけ?今日は顔合わせだけ?」

 

「後はお前の不死性の確認もする。拒否権はあると思うな」

 

「えー、死ぬの?面倒だな、結構エネルギー使うのに」

 

たわいもない話をふると、真面目そうな研究員は案外会話を続けてくれた。

幼い子どもの姿に絆されたか、リードを引く手はそこまで強くない。

 

「どうでもいいが、そっちの神と同じく生き返るのに何日もかけられないのは分かっているな?」

 

「それは神の子ね。学もないの?」

 

「驚いた。小学校にも行っていないガキにそんなこと言われるとは」

 

「大人が多い環境だと、学校にいかなくても学はあるのよ」

 

「さすが、お偉いさん方の慰みものになってたガキはいうことが違うな」

 

男の言葉が耳に残る。

 

うるさいな。分かってるよ。

早い反抗期が苛立ちをパンの生地のように膨らませ、胸の中が不愉快だ。

 

彼女の能力は「肉体の支配者(ドミニオン)

 

どんな病気も治せる。

どんな人間も殺せる。

どんな死人も生き返る。

 

彼女の能力が発現したのは三歳のころ、アメリカでの出来事。

子供には過ぎた力は恐れられ、敬われ、それはいつしか畏怖と崇拝へと変わる。

 

彼女は邪神(アザトース)として育てられた。

 

現代の神。

森羅万象、万物を操る恐れ多き魔皇と、教会を転々としながら崇拝された。

 

そして、神の力を、永遠を望む強欲な罪人たちは少女を食う。

理想として、快楽の追求として、神に到達したいとして、子供の肉を指で食うのだ。

泣きもしない、声もあげない、つまらない子供を大人として扱う。

ただ、理想を反映する都合のいい装置として。

 

そして大人として扱われた少女はいつしか、本当に大人の心を持っていた。

 

「ん?」

 

心で渦巻く嫌な感情と格闘していると、不意に別の存在に気がつく。

目隠しをつけていても能力のサーチに引っかかったその人に気がつくと、手首から伸びるリードを引っ張った。

 

「誰?」

 

「あぁ、あれは未元(ダーク)……あー、天使だよ」

 

能力で分かるのは自分より成長している少年で、美形ということくらい。

同年代を知らない天羽には、少し新鮮で、自ずと興味が湧いた。

 

「天使?」

 

「羽が生える能力なんだとよ。俺らは関与してないから知らないが」

 

広い廊下で少年を横を通り過ぎる。響いた音から算出するに、天羽より十センチ以上は高くて、髪は少し長めのよう。

 

瞬間、彼の横を通るその僅かな時間、彼と目が合った気がした。布越しで本当かどうかは分からない。けれど、甘い弾けるような香りと気配が伝える。

 

見えない瞳が心の隙間に収まった。

 

「……気持ち悪」

 

上擦った少年のソプラノ声に心が掴まれた。

教会の鐘のような綺麗な少年の声。星のようにキラキラで、弾けるような澄んだ香り。

嗅いだことの無い特別、天国の香りに心臓が跳ね上がる。

 

「大丈夫?」

 

聞いたことがない高くて綺麗な声に、思わず返事をしてしまった。

 

「っ、喋れんのか、テメェ」

 

「気持ちが悪いのなら、安静にしておいた方がいいよ」

 

「違ぇよ。テメェの姿が気持ち悪いんだよ」

 

「あぁ、なるほど。アナタは綺麗だから、汚れたものが気に食わないんだ」

 

足を止めて、どこか可愛らしい少年の言葉に耳を傾け真っ直ぐ見えない瞳で彼を見つめる。

 

小さな口がカフェラテのような苦くて甘い言葉を囁いた。

幼さ故の強がりか、どこか覇気のない声が異常に可愛くて、心地よくて、なんだか心が暖かい。

 

「……見えてんの?」

 

「いいえ。でも分かるよ」

 

「は?」

 

「香りがとても綺麗だから。きらきらした香りがする。弾けるような星みたいで、とても綺麗」

 

少年の弾ける鮮やかな香りが顔を綻ばせる。

初めて嗅ぐ天使の香り。甘くて優しくて、とても綺麗。

きっと天国も、同じ香りがするんだろう。

 

「そういうテメェは太陽みたいに真っ白だな。今にも燃え尽きるんじゃねぇの?」

 

「これ、白い服なの?可愛いのかな」

 

天羽の言葉に皮肉を吐き捨てる少年だが、言ったそばからばつの悪そうに『あ』と不思議な鳴き声を出して声に力を無くす。

とても素直な子。

優しい子。

 

それだけで好感は上がるというのに。

 

「まあそれなりに可愛いんじゃねえの?見えねえだろうけど」

 

少年のカモミールのように甘い色の言葉が心の中で咲き誇る。

 

誰かからその言葉をもらうのは、この姿のまま言われたのは初めてだった。

可愛いなんて、最高の賞賛を彼は言ったのだ。

 

気持ち悪い。

頭がおかしい。

かわいそう。

 

そんな言葉はたくさん聞いてきた。

だからこそ、少年の言葉はドラッグのように甘かった。

 

「……馬鹿正直ね。からかっただけなのに。服は自分で着たから分かってるよ」

 

「んなっ!!?」

 

その声がくすぐったくて、可愛らしくて、ぎゅっと心臓の辺りが締め付けられる。

少年に愛が溢れて止まらない。

パッと鮮やかな笑顔を取り戻すと、天羽はとても嬉しそうに微笑んだ。

 

「テ、テメェ……」

 

「ふふ、素直な子。アナタは星のように純粋で可愛らしいのね」

 

ワンピースが天羽の動きに合わせて揺れる。今日という日に感謝して、とても嬉しそうに笑った。

 

学園都市に来れてよかった。

それは紛れもない本心。

 

「あたし、キミのこと好きだよ」

 

大人ばかりの世界。

煙草の匂いと酒の臭さと体液ばかりの日常。

 

心臓にぽっかり空いた穴に、ストンと少年が収まる。

鮮やかな香りが、記憶の奥から離れない。

 

「喋りすぎだ」

 

「それはごめんなさいね」

 

時間が来て、リードを強く引っ張られると少年から遠ざかる。研究室までの道のりはまだ終わらない。

けれど、その足取りは少し軽かった。

 

 

また、会えるかな?

 

それは昔の甘く、きらきらした記憶。

小さな支配者にとってとても大切な出来事。

 

 

 

 

 

 

あの日からずっと、アナタの甘い香りが好きでした。

 

 

 

 

 

 

 

(どうせアナタは覚えてないでしょうけど)

 

自宅へ戻るため、踵を返す。薄暗い路地裏で近道を辿りながら進むも、昔のしょうもない思い出を引き摺って足取りが重くなっていく。

 

歩幅が狭まる。

会えない日なんて今までも沢山あったというのに、今日は普段よりひどく焦燥していた。

 

「いいのかよ、帰って」

 

「別にいいの。それより君たちは帰らなくていいの?」

 

焦りを隠して、彼とよく似た白い少年二人と帰り道を歩く。垣根と同じ匂い香り、同じ顔、同じ背丈、落ち着かない心臓が鼓膜を揺さぶってせわしない。

 

「私は貴女のためにありますから、保護対象」

 

薄暗い路地裏で影が差す。緑の瞳をした少年の天羽より少し高い背がピッタリと背中について圧を感じた。

 

しっとりした空気がどことなく心地悪い。

含みのある微笑みも、優しい声色も不思議と恐怖を煽る。

 

その影にふと冷や汗が落ちた。

 

路地裏で、男ふたりと女ひとり。

この空間はあまり良くないのではないか。

アイドルとして、芸能人として、なにかを感じる。

なぜだろうか、罠に嵌められた気がしてならなかった。

 

「な、に…………?」

 

振り返って、距離を取る。足をくるりと回したその短い時間で、大きな風が、肌を傷つける強い風が狭い道を通り抜けた。

 

その先に見えたのは白い翼と茶色の髪。

合うはずだった緑の目はそれに気を取られ、彼女は一人戸惑った。

 

「テメェら……命令に背いて、馬鹿な女攫うだなんて、つまんねぇなぁ……?」

 

空から風を大きく舞いあげて、降りてきたのは包帯とガーゼをあちこち付けた垣根帝督、白くもカブトムシでもない、本人だった。

 

「え、ちょ、垣根くん!?」

 

「来ましたか」

 

「死ねっ……!」

 

突然現れた垣根に一瞬ぽかんとするも、くらくらと覚束無い足取りで進む彼にはっとする。

今にも倒れそうな彼に心臓が締め付けられて、気づいた時には白い少年を投げ飛ばして走っていた。

 

「クソが、うっ」

 

「落ち着いて、落ち着いて!」

 

目の前からぎゅっと体を抱き締めて、今にも崩れ落ちそうな少年を受け止めると小さな声がポツポツと耳元で微かに聞こえた。

 

せん妄か、切羽詰まっているような彼はどう見ても普通じゃない。

抱き締めたまま地面にゆっくりと座らせ肩に頭を抱き寄せると、その熱が全身から伝わってくる。平熱よりだいぶ高い体温が抱き締めた体を熱して、吐息を温める。苦しそうな顔と痛々しい包帯があまりにも酷く、心が苦しかった。

 

「ちょ、待って垣根くん熱あるじゃん!病院連れてくから……ん?」

 

持ち上げようと膝を浮かせるが、もたれ掛かる体重に阻まれ上手く腰が上がらない。

天羽の筋力は現段階では平均程度。しかし能力を使えば、生活に支障が出るほどの筋力を付けることだって出来る。それなのに、何をどうしても持ち上がらない。

 

原因は簡単だった。

 

「彗糸──」

 

弱々しい声が耳に届く。

 

──置いていかないで。

 

子供のようなうわ言が、強く体を締め付けて離れない。ずり落ちて胸元に顔を埋めた垣根の耳は真っ赤で、その姿に心臓が飛び跳ねた。

 

「……あたしは置いていかないよ」

 

きらめく甘い香りが舞う。

小さな子供を抱きしめて、熱を受け取るこの時間がなんだかとても幸せで、暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支配者の愛。

名状し難き神の愛。

 

彼を独り占めしたい。

彼の全てを知りたい。

 

支配したい。

 

胸の中で眠る幼い少年に、ただ劣情ばかりが湧く。

 

あたしにできる全てを与えたかった。

あたしのできる全てで満たしたかった。

そしたら、もう二度と離れないから。

 

深層心理が浮上した。

温かい体温が、初めて感じる体の大きさに正解が脳裏に浮かぶ。

 

自分だけの笑顔が見たかった。

自分だけで満たされて欲しかった。

 

けれど彼はずっと不機嫌で、苦いコーヒーのよう。

それが堪らなく怖くて、どんな手も使った。

けれど苦味は増すばかりで、失敗しかしない。

 

フィクションの中みたいに、あたしにだけ笑ってよ。あたしにだけ可愛いって言ってよ。

 

その言葉も、体温も、全て欲しかった。

 

これはまぎれもない独占欲。

それは恋と呼ばれる感情。

 

複雑に絡み合って、真っ直ぐにならない。猫が遊んだ毛糸のように、ただ絡まって、猫を悩ますだけ。

 

この感情が、おぞましい衝動が、何もかもが怖かった。

 

 

 

 

 

 




今のところのみなさんの感情

垣根さん
・出会った頃の酷い目に遭ってた天羽さんがかなりトラウマ
・そのためそういった欲を天羽さんに抱く人が嫌い(己含め)
・そして自分がそっち側の人間だと思われるのも嫌だ。なのでカッコよくあろうとする
・しかも小さい頃から仲良くなった女の子がことごとく死んでいくため(天羽さんは死んでないが)、今回はかなり慎重
・けど思春期男子なので好きな子をいじめたい欲はある
・が、上記理由のため絶対に隠し通すつもりだった
・お姫様(天羽さん)と勇者(垣根さん)

天羽さん
・性に執着はない。けど昔からそういうことを求められて来たので、人間皆そんな感じと思っている。
・なのでこの体で幸せにしたい
……と思っていたが実際は少し違う。
・彼の幸せを自分の手で成し遂げたい
・自分だけに笑顔を見せてほしい
・支配欲
・自分以外で満足できなくさせたやりたい
・とにかく全部自分のものにしたい!→だから彼好みの女になろうとするし、エロい誘いをする
・けどその感情がヤベェのはよく分かってるし、彼に害しかないから離れようとした
・神(天羽さん)と人間(垣根さん)

三バカことデルタフォース
・頼む、あいつ結構友達いないしお前しかいないんだ!

一方さん
・夏の件で借りあるし、助け舟は出してやる
・後は知らん
・早く帰りたい


プライドとか色々捨てて話し合えばここまで面倒なことにはならなかったのに……
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