とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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三日目:こんにちわ

暗い外を窓越しに見つめながら少女は唸る。姉はおらず、妹と垣根の二人きり。

車椅子を引くとフローリングと擦れたタイヤが軋んだ。

 

「冬休み、宿題沢山、パラドクス」

 

「クソみてぇな俳句だな」

 

リビングのテーブルに薄っぺらい教科書とプリントを散らかして、金色のつむじを見せつけるように目の前のチビは机に突っ伏す。高校2年、物理と書かれた教科書を読んでいる彼女の目は死んだ魚のように絶望ばかりが多い尽くしていた。

 

「物理分かんにゃいにょ。ゲームしよ、乱闘しよーよぉ、ひと狩り行こうよぉ、イカでもいいぞ」

 

「こんな小学生レベルで躓いてんじゃねぇぞコラ。ゲームは後にしろ」

 

「IQ1億の人間と比べられてもねぇ」

 

「確かに俺様はテメェみたいな道端のゴミと比べられないほどの天才だが、流石にそんなねぇよ」

 

要領が悪いのか小学生レベルの宿題に頭を抱える彼女は、大学レベルくらいとっくに修了した垣根には馬鹿らしい。姉に頼まれ宿題をする妹を監視しているが、そろそろ面倒になって来た。

ため息をついて姉の方に借りたタブレットで生物学の論文を暇つぶしに読みながら、垣根は妹の方から視線を逸らす。縋るような子供のわがままに付き合いきれなかった。

 

「ううぅ……ていとくん代わりにやって」

 

「テメェのためになんねぇだろ」

 

「優しいねぇ……そんな優しさいらないねぇ……」

 

「今日中に終わらなかったらそのゲーム機叩き割るぞ」

 

グダグダと鉛筆を置く彼女に呆れて、金髪頭を少し小突く。二つに括った髪が揺れると、長い前髪の隙間から姉とよく似た大きな瞳が覗いた。

 

「思ったより優しくないねぇ!?割ったら四万弁償してもらうからね」

 

「壊したら直せばいい」

 

「んんんんん理工学男子ムカつきますわぁ!!無職の癖に……」

 

「お前と違って稼ぐ方法なら色々ある」

 

小型犬のように威嚇して、彼女はきゃんきゃん吠える。姉と違って落ち着きがないのか、姉がただ大人しいだけなのか、全く違う姉妹は飽きがこない。

クソガキの侮辱は、欠伸が出るような可愛げのあるものばかり。垣根が怒ることはほとんどなかった。

 

「え、売春……?」

 

「ちげーわ」

 

「でもおっさんに身売りしてそう」

 

「殺すぞ」

 

「やっぱり童ていとくんなん?チンチン何センチ?」

 

「お前の事セクハラで訴えたら金取れるかな」

 

「でもこの世の中には垣根帝督の貞操が気になる生物だっているんだよ!?垣根帝督のチンチンサイズで一喜一憂する人間がいるんだよ!!?彼らはネットでいつ来るかもわからない原作垣根を待っては夜な夜な泣いてるんだよ!!!?教えてあげなよ!!!!」

 

「滅びろそんな人間」

 

セクハラじみた少女の興奮した声を淡々と切り捨て再び電子書籍に目を落とす。

神経やら脳の構造について書かれた本を読んでいる方がよっぽど有意義で、彼女の言葉はあまり耳に入っていない。ひどいことを言っているのは分かるが、この生き物に構うのは時間の無駄だとこの三日過ごして嫌という程わかっていた。

 

「でも実際問題、身売り以外にどうやって稼ぐの?パパ活ならお姉ちゃん名義で贈与税払えばいいけど、ちゃんとしたバイトとか正社員って戸籍とか必要じゃない?」

 

「……お前の言ってることも間違いじゃねぇな。クソほど下品だが」

 

しかし急に飛び出したまともな意見に、タブレットを見つめる視線が動く。

彼女のいうことは下品だが、根本的な疑問は正しい。

この世界から戻る方法が見つかっておらず、なんなら戻りたくない垣根としてはこの世界で金を得て、生きて行くしかない。そのためには戸籍、身分を証明するための何かが必要になる。

それはもっともな意見だ。

 

「フリーランスかぁ……動画配信とか?でもその顔目立つからなぁ。んー……この世界では学歴もないし……」

 

「まぁ、暴力に頼ればなんとかなるかもしれねぇが、彗糸に迷惑かけるし、案外難しいな」

 

「食蜂操祈とかなら洗脳して戸籍とか作れるだろうけど、未元物質(ダークマター)ってそういう用途じゃないじゃん?正直、戸籍周りとか法的なこと?解決する手段、今のとこないよ?」

 

「となると、個人事業主するのが一番現実的か?と言っても何をすればいいのか……」

 

それをクリアするには姉の名義を借りて家の中で商売をするしかない。戸籍がない以上、この世界の法律の仕組みに則って金を得るのは難しく、それぐらいしか案が思い浮かばない。

しかし個人事業主として何をするかはよくわからない。

この世界のレベルに合わせる必要があるため、表に出すスキルは限られており、学園都市の技術を意図せず使う可能性があるプログラマーやエンジニアはリスクがある。また彼女の言う通り、モデルや芸能人のようにホイホイと顔を出すのも難しい。本を書いたりしても面白いが、これもまた内容によっては学園都市の技術を漏洩してしまう危険がある。

 

何が最善か、今の垣根にはピンとこなかった。

 

「あ、そうだ!あるじゃん」

 

「なんだよ」

 

「芸術家!ほら、ていとくんカブトムシ作ってたじゃん!アレ自作でしょ?手先器用なんじゃない?」

 

だが妹にはいい案があるようで、机から身を乗り出して輝く瞳で垣根をまっすぐ見つめる。昔なくした少女と同じ、キラキラした瞳は少し垣根には眩しかった。

 

「あのデザインはこっちだとイラストレーターが考えたものだけどさ、あれを考えた設定を持ってるていとくんなら、そのイラストレーターと同じレベルのデザイン能力がある訳で、金になると思うよ」

 

「理論的には分かるが……」

 

「作ってみよーよ!カブトムシ05作ろうよぅ!」

 

身振りを大きくして彼女は笑う。姉とよく似た笑顔で。

 

「その前にお前は宿題終わらせろ」

 

「うゔぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

なんだかとても腹立たしかった。

彼女と血が繋がっていると見せつけられているようで。

 

「……あいつ虫平気か?」

 

お出かけ中の彼女の顔を思い出しながら爪先をいじる。あの優しい笑顔をくもらすのは少し忍びなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅、寒々しい空に白い息を吐きながら賑やかな人混みを掻き分ける。お土産を買いに駅のモールに来たはいいものの、年末のセールや正月準備のためか人が多く進みづらい。

院の知り合いへのお土産、妹たちのおやつ、大掃除の道具、餅も買って、おせちの材料、年越しのそばと今晩のご飯。とりあえず今日はお土産と餅だけ買うつもりだが、未だ手には鞄しかない。

 

誰か連れて来ればよかった。心の中で悪態をつきながらキョロキョロとどこから回るか考えていると、タイミングがいいのか悪いのか、スマートフォンから音が鳴った

 

「ん?メール?」

 

何かと思って写真をたくさん貼り付けたスマホを手に取り、通知に目を通す。教授からのメールや、サブスクの通知に埋もれるようにあったのはメールではなく妹のスマホ経由で送られてきたチャット。

 

『カブトムシは好きか?』と簡潔に書かれた分はどう見てもうるさい妹が考えた文面ではなさそうで、あまりにも脈絡がない文章に一瞬立ち止まる。

何を思ってそんな文章を送ってきたのか分からないがとりあえず返事を送って再び歩き出す。

 

「……飼いたいのかな?」

 

怪訝に思いつつも『好きかも』とだけ答え、思考を巡らせる。なんでそんな文面を送られてきたのか、考えられる一番の理由は飼育のためくらい。

事実、垣根帝督は虫が好きらしいと妹から聞いていた。世話もろくにしない猫や犬を飼われるよりマシかと思い、不安を募らせつつ買い物へ向かう。

帰宅が待ち遠しくないのは、初めてのことではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が過ぎる。黒鉛が紙を滑る音と、自分の呼吸音が静かなリビングに響く。暗く鳴ってきた外にリビングの明かりが反射して窓が鏡のように垣根たちを移す。

とても静かでゆったりとした空間は、とても居心地がよかった。

車椅子の少女が口を開くまでは。

 

「あぁあぁぁぁぁあぁわかんない!!!!物理ってナニ!!!!??イキって物理選ばなければよかったぁぁ!!」

 

「ウルセェな、静かにできねぇのか単細胞」

 

うるさい叫び声をあげてその生き物は机に頭を叩きつける。半日は過ぎたと言うのに一向にページが進まないことを嘆く女子高校生は、来年受験生とは思えないほどおつむが弱かった。

 

「助けてかきねもん」

 

「何を」

 

「全部」

 

「ヤダ」

 

「なぁんで」

 

「お前が嫌いだから」

 

すすり泣いて忙しい垣根の腕を掴むその生き物は、姉と違って惨めに嘆願する。それを無視して白いカブトムシを作り続けていると、さらにそれは声を荒げて泣きわめいた。

 

「えぇー、なんでよ。お姉ちゃんとクリソツだぞ!!可愛いでしょ!!手伝ってよぉ!!!!」

 

「似てるって言っても、顔だけじゃねぇか」

 

騒がしい少女に根負けして手を止めると、長い前髪の隙間から見える瞳と目があった。元気そうな幼い顔と、ヘーゼル色の虹彩、確かに彼女と似ている。化粧をした後の姉の顔と。

しかしそれだけである。

そのすぐ下は平たく小さい体がくっついている。どう見ても、姉とは似ても似つかない。

 

「オイ!どこ見てんだ!」

 

「身長」

 

「いいや、目線は30センチ下見ていたぞ貴様!」

 

「かわいそうに。自己肯定感の低さから自虐か」

 

「確かにお姉ちゃん見たら凹んでるけどさぁ!巨乳の方がレアなんだから!!こっちが普通なんだから!!」

 

「俺はなんも言ってねぇからな」

 

体だけ遺伝子が同じにならなかった哀れな妹からの悲痛な叫びを無視して、手元の白い塊を形成して行く。

徐々にカブトムシの形になってきたそれは、初めて作るにしてはやけに手に馴染んでいた。

 

「やっぱりお姉ちゃんが好きか、見損なったぞていとくん!」

 

「ほんと騒がしいな、お前」

 

「じゃあ嫌い?お姉ちゃんのこと」

 

不意にかけられた問いにピタリと手が止まる。

あまりにもナンセンスでつまらない問いは、垣根の心をずっしりと重くさせた。

 

「……絶滅危惧種に認定すべき善良な人間だとは思う」

 

「何それ、つまんないの。もっと色々あると思ったのに!」

 

言葉にするなら恩人というのが正解だろう。

見ず知らずの世界で、見ず知らずの人間に衣食住を用意して来れて、甘い言葉をかけてくれる。そんなファンタジーのような人間、嫌いになる人間がいるのだろうか。

 

好意を持っている。それは間違いない。

けれどそれは目の前の子供が考えるような汚いものではない。

 

これはもっと根強く、根深く、偉大で、神聖なもの。

誰にも理解できない厳かで美しいもの。

 

「はぁ?お前、俺に恋愛感情でも持ってて欲しいのかよ。無理だぞ、正直、アレにそういう感情を持つのは」

 

「まぁ分からないでもないかなー、お姉ちゃん変人だもんね」

 

「変人?」

 

「分かるでしょ?あの人、頭おかしいんだよ。他人への絶対的な支配欲っていうか、奉仕欲っていうか、あの人はね、他人を自分の力で幸せにすることで自己肯定感をあげてんの」

 

ポツリポツリと、少女は蛇口から落ちる水滴のようなさみしい声で何かを話す。垣根の思いを牽制するような酷い罵倒を、ただひたすらに。

 

「酷い人なんだよ、お姉ちゃんは。幸せになって欲しいのに、人の話なんて聞かないで勝手に突っ走る。誰かが手綱を握らなきゃ、あの人はいつか騙されて、最悪な人生を辿るんじゃない?」

 

「ひでぇな、そこまで言うか?」

 

「それぐらいおかしいの、お姉ちゃんは」

 

呆れたように顔を伏せてしばらく口を閉じると、妹は椅子を引いて、見せびらかすようにタイヤを大きく回す。

重たい前髪で見えない表情が、なんだかとても不気味だった。

 

「この足さ、ずっと動かないんだよね。医者は匙を投げて、通院は半年に一度。一生動かないって言われてるんよ」

 

「それが?」

 

「垣根くんならどうする?たった一人の妹が、何よりも変え難い大切な人が、哀れにも一生歩けぬまま生涯を終えることに、どう思う?」

 

先ほどとは打って変わった深刻な問いに、一瞬驚き、すぐにその答えを導き出す。

ずっと車椅子の上、一人の人間がそれ以上を知らずに死ぬ。それは、学園都市の子供達とよく似ている。

小さい頃から運命が決定づけられ、それ以上を求められない環境。可哀想だと卑下されて、面倒なものとして扱われ、何も起こらない。

そんな少女たちを見てきた。その笑顔も、その最期も。

 

「……動くための技術を開発する?」

 

「あぁ、君もそっち側なのね。だからお姉ちゃんは好きなんだ、君の事」

 

考え抜いた答えをつぶやくと、彼女はあからさまに落ち込む。わざとらしく大きなため息をついて、ひどく惨めなものを見る顔で垣根を見上げていた。

 

「んだよ、どう答えて欲しかったんだ」

 

「そうだなぁ。君が相対した一方通行(アクセラレータ)なら、車椅子で転ばないように道を綺麗にする。上条くんなら、車椅子でも幸せになれるよう美味しいご飯を作る。その日常が壊れないように。足が動かないことを前提に物事を考えるわけだ」

 

「それじゃ根本的な解決にならねぇだろ」

 

「そうだね。君は諦めが悪くて、理想主義者で、完璧主義の潔癖症で、革命を起こしたがる変人だ。平穏な日常を壊して、さらなる幸福を目指す。不幸な子供たちに目を向けて、学園都市に反旗を翻す君は、そういう人でしょ?」

 

足をさすって彼女は冷たい瞳で床を見つめる。小学生に見える小柄な少女は狭いなで肩を更に落として椅子に深く背を預けた。

 

彼女は垣根が好きじゃないのだ。

 

言葉の節々から感じる違和感と憎悪。彼女の視線と呟いた音に納得がいく。

姉とよく似た欲と、他者のための革命。

自分のため、他人のために世界を巻き込む主人公は、彼女のお好みではない。

自分の平穏を祈り、少女の平穏を祈り、巻き込む悪から少女を守るヒーローこそが彼女の理想。

垣根はそれにそぐわない。

 

「お姉ちゃんもそうなんだよ。あの人は、文字通り、人生かけて私の日常をより良いものにしたがる。誰もそんなこと頼んでないのに」

 

彼らは革命家。未来を見据えて行動する。

それを今を生きて死んだ少女たちが望んでいないとしても。

 

「その分愛されてんだろ」

 

「自分のことも愛せない人に愛されたって困るだけだよ。愛し方を知らないんだから」

 

だがその思いは垣根にとってただただ不愉快なだけ。

 

あんなに愛されているのに。

あんなに想われているのに。

学園都市の子供達がその一生で出会わないような光溢るる慈愛を貰っているくせに、くだらない憎悪でそれを無下にする。

 

「お前、神様に嫌われてそうだな」

 

「そうかもねぇ。それで殺してくれるとありがたいんだけど」

 

血が繋がっているだけで、同じ血が流れているだけで、無償の愛をもらえる目の前の餓鬼が忌々しかった。

 

「早死にしたいのかよ」

 

「お姉ちゃんよりまし。私のためとか言ってアメリカの大学まで行くほうが自殺に近いでしょ。銃社会だぜ?危険だって言ったのに!」

 

もう話なんてないと机と向き合った途端、少女の声がやけにクリアに聞こえる。これ以上嫌いなガキと話なんかしたくないのに、はっきりと聞こえた国の名前に脳は素早く反応した。

聞こえた言葉が本当だと信じたくなくて。

 

「そりゃ──アメリカ?」

 

「そうだよ。私の足を治す研究がしたいって言って、勝手に行って、年に数回しか帰ってこない。聞いてると思うけど、お姉ちゃんが生物学に進んだのもそのせいだかんね」

 

「じゃあ、大学院も、同じアメリカ……だよな?」

 

「え、うん、今も通ってるよ?来月の二日に戻るはずだけど……」

 

恐ろしい予感は的中する。運命とは、つくづく垣根の味方をしない。

 

一生一緒にいれると思ったのに。

ずっとこの生活が続くと思ったのに。

12月27日、残り一週間もない僅かな時間で彼女は垣根の手から離れて行く。

 

虚しさ、苦しさ。怒りが体をめぐる。

 

窓の外は雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っくしゅん……うー……誰か噂してる?」

 

空調管理の行き届いたモールの中で寒気が走る。小さくくしゃみをすると、ポケットからティッシュを取り出して軽く鼻をかむ。

分厚いコートを着ているというのに、寒気はなかなか治らなかった。

 

「風邪かね?」

 

「あれ、お隣の」

 

コートの襟を正してティッシュをしまうと、背後からふと声を掛けられる。

聞き覚えのある低い声は、隣に住む顔見知りのもの。慌ててお辞儀をすると、彼はにっこりと笑みを浮かべて彗糸の前に立つ。

スーツにジレ、凛とした隣人はどこか胡散臭かった。

 

「やぁ、久しいね。アメリカは楽しいかい?」

 

「えぇ。おかげさまで、研究室にどっぷり浸かってますよぉ」

 

「それは良かった。君が不幸せだと困る人間もいるからね」

 

「あはは、イギリスの方は面白い言い回しをするんですね」

 

たわいもない会話を重ねて、どうにかこうにかやり過ごす。片腕にかけたエコバックが重みで腕を痛めて、早く帰りたい。

 

「それより、いつもより服が華やかだが、どこかにお出かけしてきたのかな?」

 

「あぁ、うち今、えっと、ホームステイしてる子がいまして、買い物といえど、ちゃんとした格好してた方がいいかなって」

 

「……ホームステイ?」

 

「えぇ、家庭の事情で預かっているというか、男の子を泊めていて。ですから、うちに知らない少年がいても不審者で通報しないでくださいね?」

 

そそくさと帰ろうとするも、進展する会話に思わず肩が跳ねる。慌てて嘘を交えて素直に答えると、更に会話が広がって行く。

嘘をつくのは苦手ではないが、家に垣根がいるところを目撃されている可能性がある以上、下手にごまかすのは得策ではない。

それらしい言い訳と事実を交えて会話を繋げる、それくらい簡単だった。

 

「……それは、もしかして茶髪のかっこいい子かな?」

 

「あ、もしかしてもう見かけました?ご挨拶に伺えなくて申し訳ない」

 

「いや、気にしなくて結構」

 

もう一度お辞儀をして暗に離れることを示す。

最後に一言添えて。

 

「今度、ご紹介しますね。アレイスターさん」

 

「……それは楽しみだ」

 

その言葉に男は少し眉を顰める。染めたように綺麗な長いプラチナブロンドが揺れて、深い碧眼が少し泳ぐ。

 

彼の名はアレイスター・クロウリー。

ただの善良で、普遍的で、人畜無害のお隣さん。

 

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