とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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捻りの無いサブタイ


17話:カーチェイス

絶対能力者(レベル6)?」

 

冷たく硬いベッドの上、幼く可愛らしい少女が鈴のような声で自分を見下ろす老人に話しかける。

身に纏う病衣は純真無垢な彼女を表すように濁りのない科学的な白で染められていた。

 

「そうだ、絶対能力者(レベル6)だ。お前は学園都市の夢になるのだよ」

 

「まぁ!おじい様!私がこの街の夢に!」

 

頬を赤く染め、何も知らずに歓喜に酔う少女の眼前が何かによって暗闇となる。

取り付けられた機械は管を伸ばし、一つの瓶に集結される。何も分からぬまま、何かが起きようとしていた。

 

「そう、その礎にな」

 

真っ赤な血液は管を通り、フラスコに流れ着く。

ピチョン、ピチョンと一滴一滴が瓶の中にこぼれ落ち、それはいつしか結晶となった。

能力体結晶。

赤く光るその宝石は彼女にとって何よりも大切で、何よりも尊ぶべきものだった。

 

「yellow marbleよりmarbleリーダー、報告します。緑色のバイクに追跡されていることが確認されました」

 

その少女は今や立派な女性となった。

彼女、テレスティーナ=木原=ライフラインは紫色のアーマーに身を包みながら部下の報告を確認する。

薄暗い機械の中で彼女は通信をとると、綺麗な顔を醜く歪ませた。

 

「緑……?誰が乗っている」

 

「金髪にピンク色が入った女と茶髪の男です」

 

送られてきたデータを確認すると、見覚えのある顔ぶれがそこに写っているのが分かる。

その人物に心当たりがあった。

自分を睨むように見ていたあのナースとその兄を名乗る少年だ。特にあの女の視線は気味が悪かったのでよく覚えていた。

木原ということを最初から知っていたであろう女が、自分に鋭い目つきを向けるのも無理はない。

しかし不思議だ。何故部外者であるその兄妹がいち早く自分たちの行動を把握したのか。

その答えは見つからぬまま、部下に報告を続けさせる。

 

「……あの兄妹か。了解した。それで、brownmarble、そっちはどうだ?青い車は着いてきているか?」

 

「予定通りです」

 

「ならばbrownmarble、誘導が終わり次第速やかにyellowmarbleの援護へ迎え」

 

何もかもが思い通りに進んでいる。ムカつく兄妹がしゃしゃり出てきてはいるが、それも彼女にとっては脅威ではない。

今一番彼女が目の敵にしているのは第3位のレールガンと子供達の保護者である木山春生。それ以外は眼中になかった。

だからこそ、彼女は調べようともしなかった。

天羽彗糸という女と、天羽帝斗と名乗った自称兄の少年の素性を調べることはなかった。それに後悔するも既に遅い。

念を入れて調べておけばよかったと思いながら舌打ちをして確認をしていく。ある程度現状の分析を完了すると力強い声で部下に指示を出す。

まるで女王様のように振る舞う彼女を咎める従者はいない。

 

「さて、茶番の時間は終わりだ」

 

罠にかかった哀れなモルモットたちを監視衛星から覗き見る。

子供たちを救おうと必死になるその姿が彼女にとっては愉快で堪らない。

 

「そろそろフィナーレと行こうじゃないか」

 

妖艶なその声は誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって高速道路。二三学区へ繋がる道を緑のバイクが猛スピードで突き抜ける。

ヘルメットも付けず、二人乗りで爆走するそのバイクは蛍光緑の車体にベタベタとシールが貼られていた。

そのバイクに乗るのは二人の男女。

運転している女はバイクを乗るには動きにくそうなウェッジソールでギアを変える。

彼女のくせ毛は太陽を反射して金色に光っており、ピンク色に染まった毛先は空の青さをさらに引き立てていた。

少女というには大人びている彼女、天羽彗糸は後ろに向かって大きく叫ぶ。

 

「次は?!」

 

風に掻き消されない強い声は後ろに乗っていた少年の耳に入る。

追っていた車はもう遠く見えなくなっており、いちいち少年に道順を聞かなくてはならなかった。

今回ばかりは二十歳ではない自分を酷く呪った。自動車免許を取れていれば、スポーツカーでも買って追いかけたというのに。

だが例え彼女が車で追いかけていたとしてもきっと撒かれていただろう。

なぜなら追っていた車両はレスキュー隊のもので、学園都市の技術で作られたもの。彼女が好む他国の有名なスポーツカーでは到底追いつかない。

 

「左」

 

ぶっきらぼうに答えた少年はバイクの後ろに足を組みながら悠々自適にのんびりと欠伸を噛み殺す。

安全性などまるでない座り方の少年を彗糸は少し心配に感じたが、彼はこの学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)第二位の垣根帝督なのだ、その心配は杞憂で終わる。

しかしたとえどんなに強い相手でも身を案じてしまうのが天羽彗糸という女であり、それは垣根に対しても変わらなかった。

 

「はぁ、にしても誰も追ってこないね」

 

「つーか、やけに静かだな」

 

それもそのはず。今この場には彼女たち以外に車も何もいなかったのだ。

そしてその静けさは次に何が起こるかも暗示していた。

 

奇妙な静寂の中、かすかな音の違いを感じ取る。

音が耳に入った瞬間にアクセル全開で道路を走り抜けると、バキッと嫌な音が地面から聞こえてくる。

ピシッと道路に亀裂が入ると、それは線となり一直線に彼女たちに向かってくる。

亀裂の下から大きな音を立てて黄色と黒の警戒色が目に悪い大きなロボットが現れた。

四角く、六メートルはありそうなロボット。その肩には灰色でMARと刻印されていた。

 

「面白い、もっとも、そのくらいの方がぶっ殺しがいがねぇもんなぁ!?」

 

そのロボットからは狂気に満ちた一人の女の声が響いてきた。

それがテレスティーナのものであると理解すると、垣根が彗糸の背中を強く叩く。

 

「おい」

 

「わかってる!空飛んで逃げてもいいんだよ?」

 

更にスピードを上げ、ロボットから遠ざかろうとするも、車と同等、またはそれ以上の馬力をもつロボットからは逃れられない。

少し離れたと思ったらまた距離が縮まる。

窮地に陥っている彼女らだが、彗糸自身は内心喜んでいた。

それはロボットがこちらに向かってきたからである。彼女は賭けに勝った。

元々、テレスティーナをこちらに誘き寄せるのが目的だった彼女なのだ、喜ぶのも無理はない。

しかしその喜びよりも先に後ろに座る少年に声をかけてしまうのは彼女の性格故か。

 

「誰にモノを言ってる、俺が逃げるわけねぇだろカス」

 

「せめて怪我しないようにね!」

 

「わかってるっつーの」

 

軽く言い合いながらも高速道路を走る。

背後から近づいてくるロボットが無ければありきたりな兄妹喧嘩にしか見えないが、ここはこれから戦場と化すのだ。和気あいあいとした空気は場にあってなかった。

 

「オラオラ!命懸けで逃げねぇと!ペシャンコになっちまうぞ!」

 

その光景に苛立ちを覚えるとテレスティーナはマイク越しに声を荒らげる。

声はバイクを運転する彗糸の鼓膜を揺さぶる。

 

「テレスティーナさん……」

 

「あ?テメェはあの女も赦すとでも言うのか」

 

悲しそうな声色が垣根を苛立たせる。

唸るような低い声は天羽彗糸への嫌悪と警戒が入り混じっていた。

 

「彼女に正義はない、だからこそ、あたしは正しく導かなくてはいけないの、だってあたしは──」

 

「姉だから、か?」

 

マイナスの感情を向けられながらも姉である彼女は物怖じせずに断言する。しかし言い切る前に垣根は勝手に言葉の先を当ててしまう。

少しの間とはいえ、彼らはお互いを誰よりも理解していた。それは他に彼らを理解する人がいないからでもある。

秘密の多い少年と、秘密の多い女。

誰も知らないことを彼らは少しだけ知っていた。

他の誰も踏み込んだことのない領域を少しだけのぞいたことがある二人。

だからこそ他のものより少しだけ互いを理解していた。

他は0しか知らない世界で、彼らだけは互いの1を知っていた。

たったそれだけのことが彼らをトクベツにした。

 

「大正解!あとでなんか奢ってあげる」

 

「これ程までに正解したくなかった問題がかつてあっただろうか」

 

「反語やめい!」

 

猛スピードで緑色のバイクが駆け抜ける。モーターの音が空気を震わせ、体を駆け巡る。

 

「テメェの能力は肉体干渉!近接戦闘しか出来ねぇ無能が!しゃしゃり出てんじゃねぇ!」

 

テレスティーナの叫び声がスピーカーを通り、彼らの耳を劈く。

その叫び声に垣根が反応すると、スピードをあげたバイクのタンデムシートにゆっくりと足を乗っけた。

黒く分厚いシートの上に優雅に立ち上がると、キャラメルのような茶色い髪が凄まじい勢いの風に靡いて顔を隠す。黒檀のように黒く美しい瞳は真っ直ぐ機械の中に体を隠すテレスティーナを射抜いた。

 

「俺を忘れてもらっちゃ困る、なぁ?テレスティーナ=木原=ライフライン」

 

「あぁん?大能力者(レベル4)だったか?テメェに何ができるってんだ?」

 

鼻で笑われても気にもとめず、垣根帝督は優雅さを保ったまま威風堂々たる姿で黄色い玩具を見据える。

 

「改めて自己紹介させてもらおうか、俺はこいつの兄なんかじゃない」

 

嘲笑うかのように薄く笑った彼はか弱い少年と呼べるものではなかった。

強さからくる余裕の笑みは科学者に少しの警戒を与える。

 

超能力者(レベル5)序列二位、未元物質(ダークマター)

 

圧倒的強者と呼ぶに相応しい佇まいで自らの名を高らかに宣言した。

 

「垣根帝督だ、以後お見知りおきを」

 

未元物質(ダークマター)……!」

 

その事実は酷くテレスティーナを動揺させる。

油断大敵とはこのことだ、と少し自傷気味に心の中でテレスティーナは悪態をつく。

彼女は調べることを怠ったのだ。その怠惰が今、脅威となって立ち向かう。

それも最悪の形で。

 

「未知を操る俺に、ただの玩具がどう戦うってんだ?」

 

「はっ、だからなんだ?学園都市のモルモットであるテメェらが、研究者に適うとでも思ってんのか?」

 

それでもまだテレスティーナは勝ちを確信していた。

モルモットと研究者、それは相容れない存在で互いの強さを象徴する単語。

彼女が研究者である限り、モルモット風情に負けないというのが持論だった。

たとえそれが幻想であるとしても。

 

「うぜぇことこの上ねぇな。おい、こっち左だ」

 

「りょーかい!」

 

スピードをもろともせず、綺麗な円を描いてバイクは左にターンしていく。

 

「おい、greenmarble、そっち行ったぞ、潰せ」

 

「こちらgreenmarble、現在警備員(アンチスキル)に──」

 

その先にいる自身の部下に通信を入れると、ノイズがかった声が流れた。不審に思い、監視衛星を使い状況を確認し始める。

 

「あれ、初春ちゃんから電話だ、垣根くん取って」

 

同時に彗糸のスマホにも着信を知らせる電子音が鳴った。

ごちゃごちゃとシールを貼ったシルバーグリーンのスマホをジーンズのバックポケット取り出すと、未だ立ち続ける垣根に片手で渡す。

画面に映るのは知り合いの中学生の電話番号。鳴り響く着信音に彼は手馴れた様子で通話ボタンを押した。

チャラチャラとリボンなどのアクセサリーが着いたそのスマホは、彼が持つにはすこしだけファンシー過ぎる。

 

「あ?んだよ。はーい、こちらおバカなナースの電話ですがー?」

 

『か、垣根さん!?あの!なんでそこに天羽さんといるんですか!』

 

スピーカーモードにされたスマホからは飴のように甘ったるい声が聞こえた。その声の主は風紀委員(ジャッジメント)の1人、初春飾利。

彼らの安否を気にして電話してきたようだったが、垣根の低い声に少し驚き一瞬言葉が詰まる。

 

「それは俺が聞きてぇ。んで、何の用だ。こちとら取り込み中だぞ」

 

『あ、あの、あのですね!警備員(アンチスキル)が足止めをして下さっているのを教えようかと……!なのでそっちの道は今は安全です!』

 

物怖じせずに要件をはっきりと伝えるが、それでもやはり少し怖いのか声が震えていた。

特別垣根が怖いというわけではない。しかし彼女の人間としての本能が電話越しの不機嫌な声に恐怖を感じるのも事実。

結果として彼女は木山春生の青いスポーツカーの助手席で涙目になりながら通話しているのだが、それは垣根にはわからない。

 

「ねぇ!そっちはどうなってるの!」

 

バイクを運転しながら彗糸は後ろに向かって声を張り上げる。

見かねた垣根はバイクの上にしゃがむと、スマホを彼女の口元に持っていく。その行動は優しさからではなく、声のボリュームに苛立ったからであるが、その感情が能天気な女に伝わることはない。

ありがとうと笑顔でいうその姿にさらに苛立ちを覚える。

 

『木山先生とそちらに向かってます!追っていたMARは白井さんが片付けちゃいました!』

 

「怪我人は!」

 

『え、い、いないと思います!』

 

「ならよし!」

 

彼女の報告に笑みを見せると、しゃがんでいるのがつらくなってきたのか垣根は立ち上がり通話を終わらせる。

あまりにも唐突な行動に彼女は少し狼狽えたが、手元を狂わせないのは前世からのバイク経験の賜物なのか異常なほどの器用さ故か。

 

「あーはいはい。切るぞ」

 

『えっ、ちょっ!』

 

気まぐれな猫を彷彿とさせる少年にもはや呆れとため息しか出ない。

 

「垣根くん、あんまり辛辣な態度取ってると嫌われちゃうよ?お姉ちゃん心配だなぁ」

 

「あ?」

 

姉であることに酷く拘るその女は年上であるはずの垣根でさえ「守るべき対象」として認識してしまう。

それが彼女の性質であり、本質。たとえ天変地異があろうとも、姉でありナース(見守る者)である彼女はその考え方を改めない。

きっとそれは彼女が自らと向き合わない限り、変わらない。不変な感情。

それが変わる時、彼女は彼女でいられるのか。それは神でさえ知る由もない。

 

「っち!役立たずのゴミ共が!だったら自分でやってやる!」

 

「華麗なハンドル捌き期待してるぞ?」

 

「はいはい!」

 

強烈な存在感を放つ黄色いロボットから声が聞こえた瞬間、凶悪的な速さで何かが迫ってくる。

ロボットの腕だと思われるそれをいとも容易くハンドルを制御してかわしてみせ、そのままのスピードを維持して走り続けてしまう。

彼女の運転はレーサーと勘違いしてしまうほど見事なもので、なんならその心持ちも命がけのレースに参加する人と同一のものとなっている。

もはや彼女の脳はジェットコースターに乗っているのと同じくらいのドーパミンを分泌しており、競うことに一種の興奮さえ覚えていた。

 

元々彼女はそういうものだった。

最愛の女性()を救う事に人生をかけた狂人だと思われがちだが、彼女は他の面でも頭の螺子が二、三本抜けていた。

ついこの間、垣根とシューティングゲームをしたときだってそうだ。ただの少女が、人を殺す事に長けている少年に銃で引き分けるはずがないのだ。異常な器用さ、そして豪運。

武器と称するものならなんでも扱えて、それが勝負事なら尚更興奮するのも彼女の狂人的な面でもあった。

そもそもの話、妹を救うというゲームにのめり込んでいた彼女が今現在キャラクターを救うというゲームに命をかけているのが何よりの証拠だ。

自動書記(ヨハネのペン)の奥に隠れ見えた悍しい未知の領域に興奮していたのもその一環だろう。

 

彼女は神の手にも余る狂人だった。

 

「チョロチョロと!いい加減諦めろ!テメェらがどんなに足掻こうが!ガキ共を助けることなんざ出来っこねぇんだからよ!」

 

そんな器用な彼女は武器(バイク)を華麗に乗りこなすと後ろから降ってきたロボットの腕を躱す。

しかし、彼女のハンドル捌きがプロと匹敵するほどのものだとしても、彼女を殺そうとしている人にとっては目障りであることこの上ない。テレスティーナは喉を痛めつけてしまいそうなほどの大声がロボットに取り付けてあるスピーカーから流れ出る。

 

「どんなに難しいことでも、どんなに出来ないと言われても!科学者で!姉であるあたしは!足掻き続けなきゃいけないんだっつーの!お姉ちゃんナメんなよ!」

 

針のような言葉にも彼女は屈しなかった。

足掻き続けた先に何が待っているか分からずとも、彼女は永遠に()()()()()()

それが報われないと知っていても。彼女はそういう生物だった。

 

「その理屈はおかしいだろ」

 

だがしかし、彼女を未だ人間としてしか見れていない垣根は発言に理解を示さない。

たまに彼女を宇宙人か何かだと思うことはあったが、彼は彼女を人間と認めていた。

だからこそ執着を生む。

理解不能な人間ほど恐ろしくて興味深いことを彼は知っていた。

 

「うっさいな!あたしは助けなきゃいけない!救わなきゃいけない!導かなくてはいけない!だってあたしは!みんなのお姉ちゃんだから!」

 

彼の言葉に少しイラついてしまい、ついつい大声で反論してしまう。

その心の内をぶちまけるとそれを聞いた垣根は口から空気を吐き出すように笑い飛ばす。

よほど面白かったのか、涙目になりながら笑うと背筋を伸ばして目を瞑る。

 

「っは、頭がイカれた女だ。だからこそ面白い。底が見えないからこそ、理解したい、解析したい」

 

小さな声で呟くが、その声は彗糸は届かない。

ため息をついてゆっくりと目を開く。

その先には黄色い標的しか見えなかった。

 

「テメェを解析する前にくたばられたらいい迷惑なんだよ。だからテメェの道は俺が開いてやる」

 

「テメェらに何が出来る?この機体はあくまでもレスキューのために作られたものだ!電撃も炎も水も!災害時を想定されて設計された!」

 

「それは常識の範囲内での災害の為の玩具だろ?」

 

その少年は神々しいほど白く光る3対6枚の羽を背中から伸ばすと自分よりはるかに大きいその黄色いオモチャを見下ろす。バランスの悪いバイクの後ろに優雅に立つ彼は宗教画に描かれそうなほど気高く美しかった。

 

「俺の未元物質(ダークマター)に、常識は通用しねぇんだよ!」

 

「垣根くん!殺さないように!」

 

バイクを運転する彼女の忠告なんて気にもとめずに彼は背中に意識を向ける。

白い翼が大きく広げられると、三日月のように天に伸び湾曲する。

 

「テメェの玩具は、未知の光線に耐えられるかな?」

 

「なっ!?」

 

彼が手を上げると円を描くその翼の真ん中には手のひらに収まるほど小さな太陽が生まれる。

そしてその手を玩具に向かって振り下ろすと、太陽は無機物のような白い光線を黄色い物体に向けて撃ち放った。

レーザービームと形容するには禍々しく、破壊力が強すぎるその光の柱はロボットをまるでおもちゃのようにいとも簡単に破壊する。勢いが弱々しくなると、光が消えていき、徐々に柱が見えなくなった。

 

「いっちょ上がりだな」

 

「ちょ、ちょっと待って!?垣根くんいつの間にそんな技を!?」

 

あまりの威力に思わず驚き、声を上げる。

彼女が驚いたのはそれだけでない。見たことのない攻撃に恐ろしさを覚えたのだ。

彗糸が知っている垣根帝督という人間はどこかのゲームに出てきそうな破壊光線を打つような人間ではなかった。何故なら彼女の知っているアニメの世界、そして漫画の世界でそのような描写はなかったからだ。

 

「あ?インデックスが出した聖ジョージの聖域ってあったろ?あれを未元物質(ダークマター)で再現したんだよ。見りゃわかんだろ」

 

「わかんねーよ!」

 

天羽彗糸がこの世界に加わり起こした改変が、彼の糧となったのだ。

喜ぶべきことなのか彼女には分からない。しかしそれを考えるより先に彼女は焦りを覚えていた。

彼女が垣根と行動することによって生まれた違いが彼を強くした。その事実に彼女は恐怖する。きっと彼女は彼を力で止めることは出来ないと。それでも全人類の姉として全てを救うと誓いを立ててしまった彼女は諦めはしない。

どうしようと悩むふりをしながら今後の展開を軽くシミュレートしてみるが、スーパーコンピュータ並の知力も演算力もない彼女が思い描く未来は陳腐でご都合的なものだった。

 

「初めてやってみたが、なかなか上手くいったな」

 

鼻歌気味に自分の作り上げた惨状に満足するが、バイクに乗っている彼女はそうはいかない。

減速しながらも彼に文句の一つくらい言いたくなるのも当然の心理と言える。

 

「しかも初めてとか!こんな大事な時に実験ですか!」

 

モルモット(俺ら)の人生はいつだって実験だろ」

 

一度誰もいない道路の上で停止し、依然としてバイクの上に立ち続ける彼に着席を促す。

随分とご機嫌なようでニカッと悪戯っ子のような笑みを浮かべると素直にバイクに跨った。

 

「そーでしたね!すみませんね!」

 

「ほら、道は空いたんだ。とっとと行くぞ」

 

「なーんか、納得いかないなぁ」

 

アクセルを捻り、エンジンを再び起動させると風を感じながら目的地へとバイクを走らせる。

生温い風が彼らの頬を掠めた。




三人称でのお話でした。いわゆる神様視点ですね。
何が言いたかったかというと、彼女は衛生兵ってことです。
治療をメインに行うけど、生身で前線にも行っちゃうやばたにえんな子ってことです。

豪運と書きましたが、垣根くんと偶然にも出会ったことが一番幸運なことだったりします。
死んだことは神様の介入によるものなのでノーカウント。
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