とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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19話:格上

八月八日、いちばん暑いお昼時。

お腹がすいてくるこの時間帯、天羽は病室の中で二枚のカードをテーブルに放り投げた。

山のように積まれたカードに落ちると、彼女は楽しそうな声をあげる。

そのカードにはスペードとクローバーの十の模様が描かれていた。

 

「あっがり〜!垣根くん弱いねぇ」

 

「テメェ狡したろ!」

 

ここは難病を抱えた子供たちの病室。大部屋の中、ひとつのベッドの上で子供たちと天羽はカードゲームに興じる。

年相応の笑顔と子供じみたゲームは、看護師の格好をした彼女の仕事とは思えず。垣根は圧勝する天羽に苛立ちを覚えつつ舌打ちをうつ。

 

しかしこれも仕事だ。

彼女は人の傷を癒す仕事を任されている。それは精神も傷も。

特に子供の傷を。

簡単にいえばメンタルセラピーと遠隔からによる肉体の干渉。子供の遊び相手になるというのも仕事の一つ。

能力を全て開示できない彼女には、垣根たちの前ではそれぐらいしかできない。

 

「してませーん!純粋なあたしの運で勝ったんですぅ」

 

仕事として何度もやってきたせいでもういい加減飽きてきたトランプだったが、メンバーが増えると楽しいものだ。

しかし勝ちすぎて垣根にイカサマを疑われるのはもう十何回は超えており、そこにはうんざりしてしまう。

 

ただただ運がいいだけ。だというのに疑われるのは癪だ。

死さえ覆し、神に愛されている豪運を持っているだけというのに。

とは言え、その運でどうにか出来ない(神に見捨てられた)出来事もあったが。

 

「第ニ位様は随分と疑り深いな?このバカにそこまで出来るスキルはねーよ」

 

もう一人、子供に混じってトランプを山札に捨てる女性がいた。淡い髪色とノーフレームの眼鏡。

マーブルチョコレート片手にカードを二枚手元に持ちながら、テレスティーナが鼻で笑う。

子供たちも一緒に「お兄ちゃん負け惜しみ!」などブーイングを飛ばすと、ピクピクと垣根の眉が動く。

 

(あー怒ってるなぁ)

 

分かってはいても精神的年下をからかうのはやめられない。

 

「垣根くんほんっと運ないねぇ……上条くんと戦わせたらどうなるんだろ」

 

「運だけで二十五連勝してるのはどう考えてもおかしいだろ!つかなんでこのクソ女がここにいる!」

 

上条とタメを張れるほどの不運な垣根をここぞとばかりにおちょくると、ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がる。

流石にからかいすぎたと焦るも垣根の怒りは別のところにあるようで、テレスティーナを指さすと怒ったような声を張り上げた。

 

「なんでって、垣根くんだって知ってるじゃん、テレスティーナさんはここの研究員になったって。ねー?」

 

「ねー」

 

「仲良くしてんじゃねぇ気色悪ぃ!そうじゃなくて、今ここに!なんでいるってんだ!テメェ自分の研究室もらってただろ!」

 

垣根の怒りの先は天羽ではなく、その隣にいるテレスティーナ。

本来ならばこの場にいないはずの彼女に垣根は苛立つ。

 

この間の事件以降、テレスティーナはうちの病院の研究員として雇われている。それは垣根も知っている。

だが天羽と一緒に行動していることが不服だった。

 

しかし天羽としては一緒に行動するには理由があった。

一つ目はテレスティーナに天羽の隠れ蓑になってもらいたいから。

隠れ蓑、つまるとこデコイだ。

 

天羽彗糸は少し目立ちすぎている。幻想御手(レベルアッパー)の件、今回のポルターガイスト、前回のインデックスの件、色々と介入している。

どう考えてもビーカーで浮かんでる総括理事長に目はつけられているだろう。

だから囚人の彼女を招き入れた。

暗部を知り、木原である彼女が病院という施設にいるのだ。厄介極まりないだろう。

そうすることで天羽じゃなくテレスティーナに目を向けさせよう、そんな魂胆である。

 

だが、それは成功しない。そのことは承知である。

監視カメラがミクロの世界の大きさで、何百万と散りばめられている。目をつけられないなんて無茶な話。

なのでデコイ。看破されることを見越した時間稼ぎ。

 

「もー、テレスティーナがいるなら俺も行く!って言ったの垣根くんだよ?」

 

「そりゃあテメェが死なねーか見張ってなきゃいけねーだろ!」

 

「あはは、ないない」

 

「テメェ……!痛い目見ても知らねーからな!」

 

垣根をなだめながら再び考えを巡らせる。

 

テレスティーナを呼んだもう一つの理由は彼女の知識を借りるため。

木原を名字を持つ彼女は科学者としては非常に優秀だ。その知識はこの先必ず必要になる。

彼女の研究はAIM拡散力場への干渉。キャパシティーダウンと能力体結晶がいい例だ。

 

パワーアップはこの先必須、ならば彼女の知恵を借りるのも一つの手。

天羽に足りないのは学園都市独自の超心理学。なら優秀な研究員にご教授願うのは当たり前だろう。

 

「垣根くん的にはあたしに痛い目見てほしいんじゃないの?」

 

「それでくたばったら元も子もねーだろ」

 

垣根がこんなに感情をあらわにするのは珍しいな、と思いながら適当に話を流す。

 

天羽(回復持ち)が死なないことは知っているというのに、なぜここまで心配するのか分からない。

母の後ろを付いてくるヒヨコのようにぴよぴよと彼女に付いて回る姿になんとなくほっこりする。

その分儚い命だと思うと嫌な気分にもなるが。

 

「じゃああたし勝ったし、買い出し行くね」

 

椅子から立ち上がり、いまだにトランプの勝敗が付いていない彼らの元から離れてドアへ向かう。

看護師としての業務とは少し離れるが、先生、垣根やテレスティーナにお昼ご飯を買ってこなくてはならないのだ。

彼らに書かせた買い物リストの紙を手に取り、ドアを開く。

 

「彗糸、アイスココア忘れんなよ」

 

「……早く帰ってこいよ。腹減った」

 

「言っとくけど、先生に頼まれたもののついでだからね?」

 

彼らに軽く手を振って部屋を出る。

外に出るのは少し億劫だが、業務とあれば仕方がない。着替えのため自室同然の研究室まで降りて、面倒な業務を片付けに歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私服に着替え、街へ出る。ワイドパンツにTシャツ。そして大量のアクセサリー。ポニーテールが揺れて、太陽の光をチカチカと反射している。

見るからにギャルで身長も高い高圧的な姿に通行人たちは一種の怖さも覚えるも、天羽は困ったようにメモ片手に歩いていた。

目的地は少し遠いコンビニ。テレスティーナに頼まれた期間限定のスイーツのためにひたすら歩く。

人通りのまばらな道。

道なりに歩いていくと、何やら騒がしい声が耳に入ってきた。

 

「教科書ってなんでこんなに高いんだろうな」

 

「そのお金で何が買えたのかなー?」

 

少年の声と少女の声。

生前から知っているその声の主は想像通りなら知り合いだろう。

その声がする場所に目を向けると、そこにはツンツン頭の少年と真白いシスターが立っていた。

 

「あっれ〜?上条くんたちじゃん、ちゃおちゃお〜!」

 

「けいと!」

 

手を振りながら彼らに近寄ると、少女、インデックスがびっくりしたようにこちらを向く。

その隣にいる少年、上条も「久しぶり」と手を振ってくれた。

仲良くデート中のようで、和気藹々と信号機の前で二人並んでいる。

 

「今日は垣根と一緒じゃないのな」

 

「まーね」

 

「喧嘩でもしたか?」

 

「そう思う?」

 

「ねーか、お前らに限って」

 

学校で日頃行っている会話と同じような、普通の会話。何も忘れていない、少年の会話。

普段と同じような態度で話しかけてくれる彼に少しだけホッとする。本来なら記憶が破壊されているはずだというのに、それがないことがとてつもなく彼女に安心感をもたらした。

 

あの日、上条当麻の記憶はなくならなかった。

だから彼女のことも垣根のことも覚えている。それが何よりも嬉しかった。未来を変えられたのだと。

たとえそれが垣根によって訪れた改変だとしても。

 

「にしても夏休みは毎日バイト〜って教室で叫んでたお前が、なんで今日は私服なんだ?バイトないのか?」

 

「あはは、お昼の買い出しお願いされちゃってね。ほら、ナース服で出歩くのはあんまり良くないから」

 

二人の隣に並んで合流すると、上条は天羽の服装に少し眉を顰めて首を傾げる。

珍しいというのもあるが、上条的にはそのスタイリングへの疑問である。

 

夕日のスナップが真ん中にプリントされた真白いTシャツ。鮮やかな赤いハイウエストのワイドパンツ。しかもシャツイン。

正直いうと、上条のセンスには合わない。もっと細かくいえばこの時代に合わない。

今時(2010年代)ではなく、イマドキ(2020年)。この時代でシャツインと派手な色のズボンはサブカルファッション、つまり変な服装である。女の子らしいファッションが流行りの今、マニッシュの成分も入っている服装は変にしか見えない。

別に少女らしい服が嫌いではないし、一種の憧れもあるが、背も高く、胸も大きく、大人びた体格の彼女にはメンズファッションぐらいがちょうどいい。

 

「でもこの間はナース服だったよな」

 

「あの時は別の病院に配属されてたから、その帰りだったの。だから着てたわけ。あんま褒められたもんじゃないけどね」

 

「なるほどな」

 

「んで?お二人はデート中?」

 

自分の服装から話題を変えようと、上条の隣に立っているインデックスに視線を向ける。きっと今の彼女はニヤケ顔だ。

恋愛など全くと言っていいほど興味はないが、他人の恋愛模様に関しては別である。

お姉ちゃんらしくおせっかいな性格は恋バナと非常に親和性が高い。

 

アニメと違い、記憶がある上条なのだ、そういう関係になっていてもおかしくはないはず。

同棲してるのだからそういったことが起きる可能性は大いにある。

男女の友情は高確率で成立しない。

 

ちなみに彼女が垣根たちに向ける感情は家族愛、姉妹愛と呼ばれるそれなのでセーフ。

というのが天羽の持論である。

 

「そ、そんなんじゃ!」

 

「そーだぞ?三六〇〇円もする参考書を買いに行ってきたんだ、デートじゃねーよ」

 

しかし上条くんは男女間の友情を信じているタイプの人間だった。

最初は少し照れていたインデックスだったが、その発言を聞くや否や眉間にしわを寄せる。

 

「……とうまのバカ」

 

「上条くんって、なんでそうなんだろうね……」

 

呆れて言葉も出ない。垣根だってここまで鈍感ではないだろう。

希少生物上条は彼女たちの呆れ顔なんて気づきもせず言葉を続ける。

 

「たしかに俺が勉強してれば三六〇〇円も使わなくて済んだからな……馬鹿であることは認めよう」

 

「違うんですけど」

 

なぜこうも分からないものなのか。好きじゃなければ同棲なんてするはずないだろう。

ため息を一つついてインデックスに目を向けるが、彼女はそこには居ない。

ちょろちょろと移動するインデックスはすでに関心が別のものに向いていた。

 

「あれ?インデックスちゃん?」

 

「おい、何見てんだ?」

 

どうやら何かを見つけたようでじっと食いつくように建物を見つめ、彼女たちの声は届いてないようだ。

穴があくほど見つめられているそれは、アイスクリームがでかでかと印刷してある大きな看板。

冷たいアイスクリーム。

それを羨ましげに眺めている彼女が今何を考えているかはすぐにわかった。

 

「食べたいの?」

 

「インデックス……まさか一緒に散歩した見返りに三六〇〇円分のアイスとか要求するんじゃないだろうな……?」

 

暑く、日差しが眩しい夏のお昼頃、アイスが食べたくなるのは自然の理だろう。

それも過食症気味のインデックスはなおさらその欲求が強いはず。

たくさん食べるのはいいことだが、流石に三六〇〇円分のアイスは腹を壊すだろう。

 

「とうま!私は一言たりとも暑い、辛い、バテたなんて言ってないよ!まして、他人のお金を使いたいと考えたこともないし!結論として、アイスが食べたいだなんて微塵も思ってない!」

 

「わかったよ、素直にエアコンの効いた店の中でアイス食いてぇと言えば良かろう」

 

「とうま!この服は主の御加護を視覚化したものであって、私は1度たりとも、不便だとか暑苦しいだとか、あぁ鬱陶しいだとか!微塵も思ったことないよ!」

 

「思ったんだね」

 

上条の一言に傷ついたようで頬を膨らませて訴える。その姿は怖さよりもかわいさしかない。

しかしその可愛さは上条には効果が無いようで、彼はため息をついて口を開く。

インデックスはそれに慌てて声を荒げて否定する。

たしかに彼女の服は暑そうだ。白は光を反射するとはいえ、布地はかなり分厚く、夏場に着るものではない。

 

「それに!私は修行中の身だから、一切の嗜好品の摂取は禁じられてるんだよ!」

 

「なんでダメなの?神だって物語の中で嗜好品食べてるじゃん?」

 

「そうなのか?」

 

「ノアの方舟、知ってるでしょ?アレって神の世界の嗜好品を人間が知っちゃって手に負えなくなったから神が全部水で洗い流したってお話でしょ?この世界にある嗜好品は神の世界で普通なら、人間だって嗜んでもいいんじゃない?」

 

シスターの禁止事項や掟は知らない上興味もないが少し疑問が浮かぶと、少しばかり残ってる前世の記憶から数少ない神話の知識を引っ張り出す。

元々勤勉で勉強好き、その上宗教が幅を効かせる国に住んでいた天羽にとって神話や宗教は常識の範囲内の話。

学園都市の子どもとは思えない知識の広さは、前世がある彼女の特権だろう。

 

「でも!でも!」

 

「んじゃ、やめとくか?悩むほどなら食べない方がいいんじゃねーの?」

 

「確かに、禁じられてるけれども!誤って口にアイスが放り込まれる可能性も無きにしも非ずで!とうま!」

 

「圧がすごいね」

 

欲望と立場の矛盾に振り回されているインデックスだったが、上条の言葉に素早く反応すると彼の背中にしがみつく。

子供のように目をキラキラさせる彼女は小動物のようだ。

 

ムキになる彼女も可愛らしい。

道行く人の視線を集める彼女は美少女と呼ぶにふさわしく、笑顔が眩しい。

 

垣根やインデックス、神裂(公式で美人と明言されているらしい人々)を見ていると、いかにこの世界の美人が人間離れしているかがよくわかる。

自分自身の顔の造形を低く見積もっているつもりはないが、基本スッピンのこの世界の住人とは違い、天羽はトリックアート並みに顔を化粧で作っている。元の顔もパッとしないが悪くはない。けれど化粧で可愛らしく顔を変えないと落ち着かない。

 

とはいえそれは全て天羽の価値観。彼女の低い自己肯定感の中ではそういうものとなっている。

 

「あれー?カミやん?」

 

結局欲望に負けたシスターが目の前でわいわい騒いでいると、後ろから声をかけられる。

ぱっとその声がした方を向くと、そこには原作ではびっくりするようなテノールを持つらしいピアスをつけた青い髪の少年と、金髪アロハグラサンのどう見てもヤンキーな少年がニヤニヤと立っていた。

 

「彗糸ちゃんやないか!それに謎のシスターさん!」

 

「ん?」

 

青髪ピアスと土御門元春。

二人ともクラスメイトで、上条のお友達。

 

「お久しぶりやなぁ!彗糸ちゃん!」

 

「おひさ〜!」

 

まさかこんなところで会うとは思ってもなかったと、天羽は珍しい光景に何かを思い出す。

 

(……あれ?アニメでこんなシーンなかったっけ?)

 

デジャブを感じる。見たことがある。

天羽の薄い記憶の中でこの光景にあるエピソードを思い出した。

 

「んで〜?その子誰ぜよ?」

 

「もしかして、女装少年?女の子にしてはぺったんこ過ぎるし」

 

「お、お前ら!言っていいことと悪いことが……!幾ら幼児体型だからって!」

 

確か吸血鬼の話。

 

冷や汗が出る。十五年も前に流しみたアニメの記憶が少ししかない。ましてや最初の方は記憶が薄い。

そうなると今日の出来事を思い出すことも困難で。この土壇場で思い出しただけでも優秀な方だ。

 

しかしこの件はノータッチで進もうと気持ちは固まっている。

 

なるべく魔術サイドには関わりたくないのが正直な気持ちだった。魔術の習得もできず、上条がいる時点で救われない登場人物もいない。

おまけに大きく魔術サイドに関与するとアレイスターに目をつけられる。

錬金術師に会いたい気持ちはあったが、少し躊躇してしまう。

 

「天羽も来るかにゃー?」

 

「……」

 

「めっちゃ悩んでるな」

 

天羽の考えを遮るように土御門が呼びかけてくる。最終的にアイスクリーム屋に行くことになったようで、インデックスは嬉しそうに笑っている。

しかしここは分岐点。土御門の問いにすぐには答えられない。

慎重に行動を決めなくては。頭をフル回転させ考える。

 

(ついていきたい。ついていきたいけど……!)

 

リスクとリターンを天秤にかける。

魔術を取るか垣根を取るか。

 

「垣根くん、に、買い物、頼まれてる、から」

 

結果、垣根をとった。

 

魔術を覚えられるところは他にもある。それに、最近の垣根は彼女に対してなんだか過保護気味だ。

下手に天羽のことを追ってきて錬金術など垣根と相性が悪そうな魔術師と戦闘が起きるのは困る。前回のポルターガイストの件を考えても、今の垣根は天羽にぴこぴこついてくるのはかなり高い確率であり得るのだ、無闇に彼を危ない場所に誘導したくない。

それだけでなく買い物から帰ってこないなんて彼の機嫌を悪くするに決まっている。そのまま怒りで錬金術師の住処に飛び込んできてしまいそうで正直怖い。

残念だが、合流するなら垣根にご飯を届けてからにしなくてはならない。

 

「……天羽、彼とまだつるんでるのか?」

 

泣く泣くお誘いを断るが、それに土御門が反応する。

垣根という存在に、アレイスターとも繋がってる多重スパイの彼は警戒心が強まっていた。

 

「学園都市第ニ位、いい噂は聞かないが、大丈夫か?」

 

「……心配ないよ、だって垣根くんが危険なことをしたらあたしがそれを止めるもの」

 

そしてその警戒心は天羽とて同じ。

彼女が垣根のそばにいて暗部入りを疑われるのも困るが、それより困るのは垣根を調べられること。

学園都市への反抗心と野心、革命。それを知られたら先回りされる可能性は十分ある。

 

天羽にかせられている縛り。そこそこ疑われず自分の利になるように動くこと。

それはとても面倒で、難しい。

 

「上条くん、なにかあったら電話してね」

 

「お、おう?」

 

とりあえず早く買っていかなくてはならない。これ以上言葉を交わしてボロを出すのも困る。

上条に念を押し、早歩きでその場から離れると元々の目的地、コンビニへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……まさかこの日とは」

 

目的地だったコンビニを見つけると、すぐさま店内に駆け込む。

入店すると軽快な電子音がドアから流れた。

改めて買い物リストを確認するが、ため息しか出ない。

そのメモ帳に書かれたコンビニ限定のお菓子やお弁当を一つづつ手に取る。

 

「コーヒー、コーヒー……あった」

 

最後はコーヒー。テレスティーナに頼まれたココアはもうすでにカゴの中で、残りは垣根に頼まれたコーヒーだけ

なんでも珍しいコーヒーだそうで、特定のコンビニにしか置いてないらしいそのコーヒーは垣根の最近のお気に入りらしく、よく飲んでいるのを見かけていた。

 

「っ、」

 

「あ、ごめんね、取っていいよ」

 

リストの最後に書かれてあるコーヒーを見つけると手に取ろうと腕を伸ばす。

しかし同じようにコーヒーに手を伸ばした誰かに指先がぶつかった。

同じコーヒーを求めた手。その手は不思議なことに、触れた瞬間、力が反転されたかのように天羽の手を弾いた。

 

「どォーも」

 

不思議な子だった。

色素の抜けた白い頭髪と肌、リンゴのような赤い目。

身長はおそらく上条と同じくらい。ヒールを履いていなくとも自分より背が低いのがわかるほど病的に小柄な体型。

 

その子供の名前を天羽は知っていた。

一方通行(アクセラレータ)

学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の中の頂点に君臨する少年。

 

だがそんな情報とは裏腹に、天羽の視線はそのカゴの中身に釘付けにされていた。

 

「君、どんだけ買うつもり?」

 

彼のカゴにびっしりと詰まったコーヒーの数は異常と言わざるを得ないほどの量だった。

中毒を疑う量。このコンビニの在庫を枯渇させる量。

 

「全部」

 

「ぜ、全部!?カフェイン中毒なっちゃうよ?」

 

手を休めず、コンビニの在庫を0にする勢いでカゴに入れる彼の姿を見て様々な病状が浮かぶ。

 

「カフェインの過剰摂取は胃痛、貧血、頭痛、自律神経失調症、冷え性、不眠、動悸、その他もろもろに繋がるんだよ!?ダメだよそんなに飲んじゃ!」

 

「一日で飲むわけじゃねー、つかうっせェな、テメェには関係ねェよ」

 

「関係あるある!あたしは全人類のお姉ちゃんだし、ナースなんだから!」

 

どう見てもカフェイン中毒だ。

ナースとして、姉として、心配するのは当然。

 

「は?頭イカれてんのか?ナースって……もっとまともな嘘つけよ」

 

「あー!信じてないね!はい、これ」

 

そういってズボンのポケットから金属製の長方形のケースを取り出し、その中から一枚の小さい紙を手渡す。

病院勤務、肉体干渉能力保持特別医療従事者、学生、など様々な漢字が並ぶその紙はついこの間先生に言われて作ったもの。

天羽彗糸の名前と業務用の連絡先が載っているそれは、端的にいえば名刺である。

 

「……マジでナースかよ」

 

「だから、青少年の健康を心配するのは当たり前なの」

 

「ふーン、そうですかァ……」

 

「で、君は?」

 

名刺と天羽を交互に見比べながらつまんなそうな顔で口を開く彼に名前を聞くと、その人は怪訝そうな声色をこぼす。

一瞬ワケがわからないと言った表情をみせると、怪訝そうな顔で天羽を見つめた。

 

「あ?ンだよ」

 

「名前、聞いてないからさ」

 

「聞きたいか?」

 

聞きたいもなにも名前以上のことを既に知っているが、確認は大事。

彼が一方通行(アクセラレータ)ということは確認せずとも分かってはいる。

 

白髪赤眼、ホルモンバランスが崩れており、中性的。不思議な喋り方に、整ってはいるが少し怖い人相はどう考えても一方通行(アクセラレータ)で、彼以外にこんな姿の子は多分居ない。

 

「うん。だって名刺渡したし、等価交換ってやつだよ。名前くらい聞いてもいいでしょ?」

 

「……一方通行(アクセラレータ)、名前くらい聞いたことあるだろ」

 

「あらら、有名人と会えるとは」

 

前世から知っています、というわけにもいかないので取り敢えず在り来たりな反応を見せる。

 

名前を聞いているのは接点を持つため。

これから先、一番の見せ場があるヒーローと接点を持っておくのは悪くない。

 

「わかったならどっかいけ」

 

「まあ言われなくても買い物終わったら帰るけど……でも一方通行(アクセラレータ)くんは本当にその量のコーヒーを飲むつもり?」

 

「うっせェな、てかクン付けすンじゃねェ」

 

ぶっきらぼうに突き放つ姿はまさしく反抗期の少年といった感じ。

これ以上ちょっかい出すとキレられそうだ。潮時かな。

 

うざいと罵られるが、なんだか垣根と似ていて笑ってしまう。

垣根に反抗期と子供っぽさを少し入れた感じというか、なんというか。

正しく「姉好み」である。

 

「えー、呼び捨てはちょっと……」

 

「うぜェンだよ」

 

「それよく言われる」

 

(特に垣根に)

 

反抗的な一方通行に笑いかけるも、それがさらに腹立たせる要因となる。

攻撃的な言葉を受けていながらも、笑って流す大人の対応は子供にはムカつくだけ。

 

「友達いねェだろ」

 

「うん、よく分かったね」

 

「そりゃァな……」

 

友達がいないなど一方通行にとっても同じことだったが、ブーメランなど気にせず天羽をバカにする。それでも彼女は笑顔を止めない。

そんなことは別にコンプレックスでも、気にすることでもないから。

 

彼女の歪んだ愛情を理解する人間などいない。

理解できないものを友人として置いておく人間などいない。

だから必要ない。

ただそれだけのこと。

事実であり、覆らないこと。興味もなかった。

 

そんなこと、一方通行にはわかるまい。

 

「とにかく!コーヒー飲み過ぎないようにね?」

 

「あーはいはい、ンじゃ、さよーなら」

 

「体調壊したら病院行きなよ!?一方通行(アクセラレータ)くん!」

 

「クン付けすんじゃねぇクソ女!」

 

気味の悪い女を振り切るように一方通行は背を向ける。その冷たい空気に逆らうような朗らかな女の声が、ただただ場違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話を()()()()少年は、会話が映し出された携帯を閉じて一人口角を釣り上げる。

 

「……これは、面白いことなってきたな」

 

音声を自動入力し、メールに送られてくシステムはうまくいっている。

まさかこんな情報が得られるとは。

 

そんなことを考えていた少年は手持ちのカードをみる。

ハートの二とクローバーのキングの二枚。

もう少しで勝てるだろう。

 

「あ?次はテメェの番だぞクソガキ」

 

「勝つ」

 

目の前のいけ好かない女から直感でカードを引く。残り三枚のカード、どれか一つがジョーカーだ。

早く上がってしまいたい。その一心で引いたカードを裏返す。

カードには薄気味悪い笑顔のピエロが写っていた。

 

あぁ、不幸だ。




ちょっとした箸休め回でした。
やってもやっても課題が湧き出てくる現実をぶち壊したい。
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