とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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月曜に間に合った


22話:瓜二つ

ミサカと出会った次の日、昨日から天羽は休みを貰って街中をひたすら歩いていた。

隣にいつもいる彼はおらず、今日は一人での散歩。新鮮だが少しつまらない。

垣根はテレスティーナの監視をしているとかで居ないのだ。

たしかに盗聴されているが、それでも実物が隣にいないのはなんだか悲しい気持ちになる。

元々はこれが正解だと言うのに。

 

(なんだかつまらないなぁ)

 

(現世)(前世)も変わらない。いつも一人。

だからそんな気持ち、覚えるはずもないというのに。ここ最近の彼女は少しおかしい。

 

昔から友達はいなかった。

 

どんなに可愛くても、どんなに綺麗だと持て囃されても、天羽にとっては妹が一番で、他の誰もは平等に見ていた。

誰もが平等に「愛すべき隣人」なのだ。もちろん手伝うこともあれば、助けることだってあった。

けれど取っ付きにくい彼女は深く誰かと付き合ったことがない。

 

クラスメイト曰く、高嶺の花。

先生曰く、八方美人。

他人曰く、ビッチ。

両親曰く、博愛主義者。

妹曰く、無性愛者。

酷い言われようだ。

 

けれどそれが正解なのだ。

誰も深入りできない奇妙な隣人を誰も真の意味で好きになることはなかった。

そしてそれは彼女も同じ。平等な愛は裏を返せば平等な無関心。抜きん出た特別は妹だけ。

 

けれども今その均衡は崩れ始めている。

出なければおかしい。

 

彼がいない。

 

それだけの事が酷く天羽の心を不安にさせるなんて、おかしなことだ。

初めて誰かがいないことに寂しさを覚えている。

 

「まったく、ミサカちゃんはどこにいるのやら……」

 

炎天下の中、意味のない思考に頭を使いながあら当ても無くひたすら歩く。

通気性のいい真っ白いシャツを着ていてもまだ暑い。黒いズボンが熱を吸収するせいか。

 

ネガティブな感情を取っ払って休憩でもしよう。

そうだ、駅前のカフェにでも行こう。丁度良くショッピングセンターの近くにいるのだ、涼しい店内で美味しいケーキでも食べようじゃないか。

思いついた気分転換に行き先を変えて進み出す。

歩道橋を渡り、階段を降りる。何やら賑やかなガシャポンコーナーを横切り、カフェへ向かった。

 

「ん?」

 

が、見知った顔を見かけた気がして一度通り過ぎた子供達が群がるガシャポンコーナーのもとへ引き返す。

茶色い髪と常盤台の制服。聞き覚えのある声。

 

疑惑が確信に変わる。

子供たちに囲まれ、ガシャガシャから取ったと思われる缶バッチを握りしめながら喜びの声を上げる御坂美琴がそこにいた。

 

「み、御坂ちゃん?」

 

「あっ、せ、先輩……」

 

いつもの常盤台の制服に、ルーズソックス。思春期盛りで可愛らしい中学二年生の御坂美琴。

子供達の視線を集めながら御坂に話しかけると、真っ赤な顔で後ろ手で何かを隠すと、慌てふためき出す。

 

「でかい……!」

 

「でっっっか……」

 

しかし慌てる御坂とは真逆に子供たちは別の意味で天羽を見つめていた。

それは身長、およびある一点。

背が高く、金髪に染髪、色々と大きい天羽はやたら目立つ。

おかげセクハラ紛いの言葉を浴びせられるが、子供相手にムキになったって仕方がない。

 

「一体何してるの?」

 

「え、いやっ!これはぁ!」

 

子供達の熱い視線を無視して御坂の手元を見ると、そこにはガチャのカプセルが握られていた。

どうやら彼女はこの少年少女を従えてガシャポンをしていたようで、カゴの中に所狭しと入っているたくさんの缶バッチからみるに目的のものは揃っていないらしい。

 

「ゲコ太?」

 

一体なんのガシャポンに夢中になってるんだと気になって覗き見る。

もう残量の少なくなったガチャマシンには、緑色の生命体が描かれていた。

 

可愛いのかよくわからないカエルのキャラクター。

名前はゲコ太。子供ウケの良さそうなロゴでそう書いてある。

 

丸っこいフォルムが何処と無く前世でお世話になったマヨネーズのキャラクターに似ている。

そう言えばこのゲコ太といい、キャラクターものが好きなんだったか。

メルヘンで乙女趣味。可愛らしい子供は真っ赤な顔をして慌てふためいていた。

 

「あの!こ、こここここれは別に!」

 

「おねーちゃん、缶バッチが欲しかったんだって!」

 

「沢山回ったらやっと取れたんだよ!」

 

「へー、どれどれ」

 

沢山回ったのは足元にある複数のカゴを見ればよく分かる。一体どれ位一万円札を消費したのだろうか。

欲しいもののために全てを投げ捨てる心意気はよく理解できるし、天羽だってそんな感じなので咎めることなしない。

 

ただ、これ程までに目当てのものが出ないとなると、彼女の幸運値が気になるところ。一体排出率何%なんだ。

仕方ないと、天羽は財布から百円を一枚取りだしちゃりんとガシャポンに入れる。

この頃はまだ五百円とかぼったくり価格じゃないのかとつまらないことを思いながら、天羽はふと昔のことを思い出していた。

 

「さーて、何が出るかなぁ」

 

昔はよく妹の欲しいものを当ててあげていたな。

 

取っ手を回し、ガコンと出てきた丸いカプセルを手に取る。微妙に曇っているカプセル越しからはよく見えず、テープを外して中身を取り出すと、絵柄がようやく見えた。

缶バッチに描かれていたのは天使の羽がついたカエルの絵。

 

「ゲコ太!」

 

「運すご!?」

 

その絵柄に御坂は驚きのあまり立ち上がって天羽の手をとる。

どうやらたった一回で目当てのものを取ってしまったようで、目を見開いた子供たちが羨望の眼差しで天羽を見る。

 

「おねーちゃんが一万円以上溶かしたものを百円で……!」

 

天羽は昔からツイていた。

運を引き寄せる性質。そういう人。

神に目をつけられた故の弊害。

 

だからよく妹に頼まれてスマホゲーのガチャを引かされたり、クジを引かされたりなどしていた。

今もこの豪運は健在のようで、今回のガシャだけでなく、垣根と出会ったこと、冥土帰しに拾われたこと、藍花悦に成ったこと、ほとんど全てが彼女にとってはラッキーだ。

 

「そうなの?じゃあ、はい、どーぞ」

 

「い、いいの!?」

 

とはいえ天羽はゲコ太には興味はなく、手にしたものは御坂に渡す。物凄い笑顔でそれを受け取る御坂に良かったと微笑ましく思うも、下に置いてあるハズレの缶バッチには少し狂気を感じてしまう。

天羽にも好きなマスコット━━心臓を模したゆるキャラで、垣根にはセンスを疑うと言われた代物だが━━がいるので彼女の気持ちはなんとなくわかるが、流石にここまでの執着心をマスコットに持つのは狂気的としか言いようがない。

その金で垣根に何かしてあげたいとすら思う。

 

「あたしより好きな人が持ってた方がいいでしょ?」

 

「ありがとう!」

 

手渡した同時にどこからか電子音が鳴る。自分から音が出ているのかと思いポケットからスマホを取り出すが、着信は愚か、通知は一件も来ていない。

ちょっと寂しい。

 

「あ、もうこんな時間!帰らなきゃ!」

 

音の出処は御坂に着いてきた子供のうちの一人だったようで、携帯を見ると焦り始める。

もう時計は十七時を回っていた。

子供は帰る時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供たちを送ることになり、バスへ大人数で歩く。

夕日が眩しいオレンジ色の空に少しだけ目が眩んだ。どこかで見た事のある光景。

これもアニメのワンシーンだったか。

デジャブのように感じる光景は記憶の棚から何かを引き出そうとするが、あやふやな記憶からはなにも思い出せない。

 

「今日は他の子と一緒じゃないんだね」

 

「黒子は風紀委員(ジャッジメント)の仕事で、他の子も用事あるみたいで」

 

たわいもない話をしながら道を歩く。

きっと何かが起きるはず。天羽の勘とデジャブを信じて御坂達に同行し、バス停に歩みを進める。

 

「でも、こんなに貰っていいの?」

 

そんな天羽の腕の中には袋いっぱいの缶バッチがあった。

カプセルに入ったままの景品がガチャガチャと擦れるような音が袋から聞こえる。

 

「取りすぎて困ってたから……」

 

「ありがとうね、病院で配るよ」

 

可愛らしい缶バッチは入院患者への良いプレゼントになるだろう。ついでにテレスティーナがこういった類のものが好きだったはず。

今や共同のものとなった天羽の研究室は最近彼女によって研究室がさらにファンシーなものになっているのだ。

すこし困りはするが、彼女が幸せなら目を瞑ろう。

 

「御坂ちゃん?」

 

「なんか、変な感じが……」

 

ぱっと視線を袋から視線を外すと御坂がどこか遠くを見ているのに気づく。

 

眉を顰める彼女だったが、彼女のいう変な感じは天羽には伝わらない。

よく分からないが、なにか事件が起こっているのだろうか。

疑問を持ちながらも歩き、バス停にたどり着く。そこにちょうどバスが止まり、子供たちはそれに急いで乗り込む。

 

「じゃあね、お姉ちゃんたち!」

 

「バイバイ!」

 

「じゃーね」

 

袋を抱えた子供たちを見送り、帰路に着こうとするが御坂は立ち止まったまま。

 

「どうかした?」

 

だんまりとする彼女の顔を覗き込む。

先ほどの“変な感じ”が未だ引っかかっているようで、何やら難しい顔をしていた。

 

「変な感じがしたって場所に、戻ってみる?」

 

「……ええ」

 

多分あそこに行かないと物語が進まない。

天羽の直感と昔の記憶がそう告げる。

 

(多分、ここが『超電磁砲』での一方通行(アクセラレータ)編の導入だ)

 

直感的にそう思うと二人で走り始める。

大まかなあらすじしか覚えてない今、直感と薄っすらと残る視覚的描写しか頼りにならない。

自分の勘と御坂の感覚を頼って先ほどの場所に引き返す。

 

「確か、この辺りから……」

 

道路を渡り、並木通りをひたすら走る。御坂の後ろを追うように。

辺りを見渡しながらマンション群の近くを彷徨くと、木陰の下に人影が見えた。

木を眺める少女はゆっくりとこちらを向く。

 

「あ、アンタ……」

 

その少女は御坂美琴と瓜二つの容姿を持っていた。

同じ顔、同じ体、同じ髪、同じ瞳。全てが同じ。

頭に着いたゴーグルとピン留めだけが彼女たちを区別する唯一の方法だった。

 

「……みゃー」

 

「は?」

 

瓜二つの少女は脈絡もなく猫の鳴き真似をする。

突然のことに反応が追いつかず唖然としていると、彼女は再び上を見上げた。

 

「と鳴く四足歩行生物がピンチです」

 

「ミサカちゃん?」

 

急いで彼女の元へ駆け寄り、彼女の視線の先を辿るように目を追うと黒い物体が木の枝に乗っているのが見える。

真っ黒い子猫が木から降りれなくなっているようで、しきりに鳴いていた。

 

(これを眺めていたのか)

 

姉妹仲良く可愛いものが好きなようだ。

 

「先程、この道を通り掛かった際に路上駐車された車に取り残された赤ん坊を発見しました」

 

説明を求めるように御坂が彼女を見つめると、子猫を見つめ口を開く。

 

「熱中症の危険がありましたので、ミサカの電力でロックを解除し、窓を開けたのですが、それに驚いたその生物が驚いて木に駆け上がり、降りることが出来なくなったのです、とミサカは懇切丁寧に説明します」

 

「あー……って、そんなことはどうだっていいのよ!私はあんたがなんなのかって聞いてんじゃない!」

 

「妹じゃないの?」

 

「私にこんなそっくりな妹はいないわよ!」

 

分からないふりを続け、御坂に問いかけるが怒った声で怒鳴られてしまう。

勿論実際は分かっているが、わかっていることを表に出してしまったら今度は天羽が疑われる。

 

通称御坂妹。

二万人もいる御坂美琴のクローン、妹達(シスターズ)のひとり。番号までは覚えていないが、一万に近かったことは確か。

 

「どうやら、さらに危機的状況になったようです。助けなくてよろしいのでしょうか? 」

 

御坂の叫びに小さな悲鳴をあげて木の上の猫が飛び上がった。

そのまま木から落ちかけ、必死になって太い枝にしがみつく。

何とかしないと落ちそうだ。

 

ミサカはじっと御坂の方を見つめるが、誰も子猫を助けようとしない。

天羽は動物なんて興味が無いし、助けるつもりは無いので、彼女たちが何とかしなきゃいけないのだが、誰一人として動こうとしなかった。

 

「ちっさくてもネコなんだから、あのくらいの高さ大丈夫よ!それより!」

 

「そうですか、お姉様はあの生物が地面に叩きつけられても一向に構わないというのですね」

 

「……っ」

 

「その結果、大きな怪我をして機能障害がでても、生命活動を停止しても、関係ないと」

 

猫を無視してミサカに詰め寄るが、暗い瞳でオリジナルを責め立てる。

 

「自分で助ければいいじゃない?」

 

だが、それは天羽には通じない。丸め込まれることはない。

というのも、木をよじ登るなり、救急に電話するなり、やりようはいくらでもあるはずなのだ。

ただ突っ立ているだけなのは如何せん良い行動とは言えない。

 

行動を起こすことこそが、大事。

少なくとも、天羽には。

 

「あそこまで手は届きません」

 

「いや、登ればいいじゃん……ったく、あたしがやるから、よーく見ときなさい」

 

どことなく悲しみながらミサカは言う。

その顔になんだか複雑な気分になり、子猫を助けるために木に足をかける。

 

(人はいないのでまぁ大丈夫でしょ)

 

軽々と木によじ登り、子猫の首根っこを人差し指と親指で摘まみ上げる。

子猫の持ち上げ方としては正しいが、人としてはあまり良い印象を与えるものではない。

 

天羽は医学オタクである。人体はもちろん動植物にも詳しい。

猫もその範疇。ゆえにその怖さはよく知っている。

猫ひっかき病にマダニなど、野良猫を触るのはオススメしない。

中にはアルコール消毒でも殺菌できなかったりするのだ、一度かかると治すのが面倒。

なら最初っから最低限の接触で済ませるべき。

 

「っと、はい」

 

「そういった乱暴な掴み方は如何なものかと」

 

「あたし動物あんま好きじゃないの」

 

猫を摘み上げ、地面に降り立つとそのまま猫を地面に下ろす。

ミサカにムッとした表情を向けられるが、仕方がない。

 

天羽は動物が好きじゃない。正しくは、人間以外にその隣人愛は適応されないのだ。

興味が無い。それに尽きる。

 

「え、意外……アレルギーでもあるの?」

 

「そーじゃないけど、なーんか、嫌いなんだよねぇ」

 

もはや本能のようなものだった。人以外の全てが嫌い。

猫も、犬も、牛も、馬も、鹿も、山羊も。

愛する人間以外の生物なんて、興味も愛もない。

 

強いていうなら神くらいだ、感情を持っているのは。

愛憎、嫌悪、様々なものが混じった汚い感情は今のとこ神と天羽にしか向いていない。

 

「でも貴方に懐いてるようですね」

 

「うっわ、よじ登るな」

 

だが天羽の無関心とは真逆に、子猫は天羽に関心を抱く。下ろしたはずの真っ黒い子猫がズボンに爪をひっかけ、よじ登ってくる。

まだ子猫だからか爪による痛みはないが、懸命によじ登り、胸元へ駆け上がってきた。

 

「動物に嫌われる体質から見ると羨ましいけどね」

 

「あー、電磁波……だっけ?」

 

胸元にしがみつく猫に触れようと御坂が手を出すが、嫌がってさらに上へ昇ってくる。

羨ましそうに見つめる御坂達だったが、電気系統の能力者は動物に嫌われやすいそう。

動物が嫌がる電磁波がでるとか出ないとか。

 

(……いや、嫌がるって何)

 

しかしその理論はノンフィクションの天羽には納得のいくものではなく。

 

低周波の電磁波はほとんど人体に影響がない。人間に害を及ぼしてないこと、携帯電話をミサあkが使えているということは低周波。

どう考えても猫に影響が出るとは思えない。

猫が電磁波を嫌がるというのなら常に電子機器を持ったスマホを持った人間に寄り付かない。

しかしそんなことを考えていたって時間の無駄。問題は胸元で丸まる子猫の方。

 

「そうそう、電気使いの宿命ね」

 

「ミサカもダメなようですね」

 

二人の御坂による電磁波に子猫は怯え、胸元で丸くなる。そのまま目を瞑り、眠る子猫に天羽はただ呆れてしまう。

 

「タピオカチャレンジみたいなことなってる……」

 

「たぴ?」

 

白いシャツの上に丸くなった子猫はどことなく震えてる。

そんなこと御構い無しに天羽は黒い子猫を持ち上げ、地面へ下ろすとトテトテとどこかへ走り去る。

毛だらけになったシャツを軽く手ではらうと目的を思い出した御坂が大きく声を張り上げた。

 

「って、そうじゃなくって!さっきからお姉様とかミサカとか!アンタ、私の、ク、クローンなわけ!?」

 

「はい」

 

先ほどからずっと聞きたかった質問をぶつけるも、クローンだと肯定した少女は無表情で答える。

 

「あっさり……」

 

「クローンねぇ……でもあんま似てないね」

 

見比べるように瓜二つの少女の顔を交互に見るも、明らかに違う部分があった。

顔は元気ハツラツなオリジナルと、光のない眠たそうな目のコピー。

 

一番違うのはその声だ。そっくりな顔はしているが声質が微妙に違う。

能力で彼女らの生体データを読み取れる天羽にはその違いがはっきりと見えた。

 

彼女らは同じ遺伝子を持っている。

DNAマップ、つまりヒトゲノムを解析して生まれた全く同じDNA配列の生命体。

しかし声帯と脳細胞が少しだけ違う。

 

そしてそれに天羽は心当たりがあった。

 

まず前提として、この世界のキャラクターたちはアニメと全く同じ声を持っている。

垣根は相変わらずのイケメンボイスで、上条も力強い声を持っている。一方通行(アクセラレータ)もあの特徴的な声で確信したようなもの。

声についての言及は原作にはないだろうに。

 

それは御坂美琴とそのクローンもだった。そしてこの二人は声優、いわゆる中の人が違う。

なので声帯や口腔の構造に違いが見られるのだ。

 

そして脳細胞の発達具合も違う。

これに関しては自分だけの現実(オリジナルとのレベル差)が関係しているのだと仮定できるが、声の違いはどうしても答えが見出せない。

 

疑問が増えるばかり。

だがその答えは天羽には見つからない。

 

「れ、例の計画とやらは凍結されたはずでしょ?なんで、なんでアンタみたいなのが存在すんのよ!」

 

「ZXC-741-ASD-852-QWE-963´と、ミサカはパスの確認を取ります」

 

「パス?」

 

体内の情報を見ているうちに話が進む。ミサカの長ったらしいコードを脳に刻み、次の話題を待った。

 

「やはりお姉様は実験の関係者ではないのですね、先程の質問にはお答えできません」

 

「どこのどいつが計画を主導してんの?」

 

少しだけ寂しそうに感じるミサカにズバズバと御坂が質問していく。

 

「機密事項です」

 

「なんのために作られたわけ?」

 

「禁則事項です」

 

「痛い目に会いたいの?力尽くで聞き出したって……」

 

しかしどれもこれものらりくらりとかわされてしまい、苛立ちから勢いよく胸倉を掴み御坂は自身のクローンに詰め寄る。

迫力のある声で無理やり口を開かせようとするが、それにクローンの少女はそれに全く動じなかった。

その姿に何か思ったのか手を放し、押し退ける。

 

「いいわ、行きなさい、勝手にあとをつけさせてもらうから。どうせアンタはどっかの施設なり研究所まで帰るわけでしょ?そこでアンタの製造者をとっ捕まえて直接話を聞き出してやるわ」

 

それを聞くとミサカは何事もなかったようにその場を離れてどこかへふらふらと行ってしまった。

 

「よくわかんないけど、妹ちゃんはクローンで、実験に使われてるってことでいいのかな?」

 

「……先輩には関係ないわ」

 

流石に何も聞かなかった事にはできず、すっとぼけながら一応御坂に確認をとっておく。

布石。

この事件に天羽は首を突っ込む気でいる。ならばここで接点を持っておけば変に勘繰ることはない。

 

「そう?クローンなんて如何にも医学に通ずるあたしの分野じゃない?」

 

「危険だから、着いてこないで」

 

「まぁまぁ、お姉ちゃんを頼りなさいって」

 

そして御坂美琴はある程度天羽を知っている。

幻想御手の件といい、なんとなくでも彼女の行動原理を知っている。だからこそ御坂は天羽を止められない。

笑顔で首を突っ込んでくることを御坂は察していた。

 

妹達(シスターズ)……」

 

「それが計画の名前?」

 

彼女の隣に立ち、前を進むミサカを追跡する。

ぼーっと歩く彼女からは殺伐とした裏の世界を感じることはなかった。

 

実際の計画は「一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)にしよう計画」だが、知らないふりを続ける。

二万ものクローンを破壊することで絶対能力者(レベル6)に到達するという話だが、本当だったのだろうかと少し疑ってしまう。

 

ゲームでもあるまいし、二万程度の敵を殺したところでレベルアップができるものなのだろうか。

天羽自身はゲームなぞ詳しくもないし、妹にレベル上げを頼まれた数種しか知らないが、そんな方法で現実世界でもレベル上げができたら苦労しないだろう。

 

(経験値を得るだけなら巨大アルマジロでも作ったほうが強そうな気がするし。怪獣)

 

そもそもアレイスターはクローンそのものが必要だという。ならば一方通行(アクセラレータ)の計画は嘘だったのかもしれない。

 

「……私の軍用クローンを作るとかで」

 

「軍用かぁ、それはそれは、面白いことで」

 

「ん?妹達(シスターズ)?……ちょ、ちょっと!」

 

何かに気がついたのか御坂は前を歩く少女の元へ駆け寄り、回り込んで彼女の肩を掴む。

 

「まさかとは思うけど、アンタみたいのが五人も十人もいるんじゃないでしょうね!」

 

御坂はまだ二万人もいることを知らない。

 

(自分が二万人もいたら世界中で人助けができるな。あたしのクローンでも作ってくれればよかったのに。こき使うんだけどなぁ)

 

そんな考えが浮かぶ中、少女の大声が耳に入る。

 

「ふふふ……こねこ……上から読んでもしたから読んでもこねこ……ふふふ」

 

「って、くだんないこといってないで聞けよ!」

 

言い争う二人は本当の姉妹のようでとても懐かしい気持ちにさせる。

 

おぼろげな記憶を一つ思い出す。それは中学生の頃の話。

中学二年の天羽に、小学二年の妹。毎日の登下校、車椅子の重さ。

昇る朝日に、落ちる夕焼け。

思い出は断片的で、もう全てを思い出すことはできない。

あの子の顔もわからないほど記憶が欠落し始めていた。天羽彗糸という存在が蝕まれていく。

 

それでも心臓に刻み込まれた想いがあの子の存在を忘れさせないでいた。

 

「まるで双子だねぇ」

 

「血どころか遺伝子を分けてるんですけどね……」

 

疲れ気味の御坂と未だにニヤケ顔のミサカの顔は雰囲気以外はとても似ている。

全く一緒の顔がこうも並ぶと少し面白い。

 

「とりあえず、カフェでもいく?」

 

落ちる夕焼けを背に提案すると、二人は顔を見合わせて頷いた。

賑やかな少女たちと、ちょっぴり感じる寂しさを胸に天羽は太陽が眩しいを道を歩く。

 

夜はまだまだ来なさそうだ。

 




妹達なんてどう見てもお姉ちゃん案件。首をつっこむ以外の未来が見えませんね。
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