ミサカちゃんと出会った次の日、昨日からあたしは休みを貰って街中をひたすら歩いていた。
隣にいつもいる彼はおらず、今日は1人での散歩。新鮮だが少しつまらない。
垣根くんはテレスティーナの監視をしているとかで居ないのだ。
たしかに盗聴されているが、それでも実物が隣にいないのはなんだか悲しい気持ちになる。
元々はこれが正解だと言うのに。
友達はいなかった。
どんなに可愛くても、どんなに綺麗だと持て囃されても、あたしにとっては妹が一番で、他の誰もは平等に見ていた。
誰もが平等に「愛すべき隣人」なのだ。もちろん手伝うこともあれば、助けることだってあった。
けれど取っ付きにくいあたしは深く誰かと付き合ったことがない。
クラスメイト曰く、高嶺の花。先生曰く、八方美人。他人曰く、ビッチ。両親曰く、博愛主義者。妹曰く、無性愛者。
酷い言われようだ。
けれどそれが正解なのだ。
誰とも関わらず、遠くで見守り、助けるべき時に助ける。
それが正しいはずなのに。
彼がいない。
それだけの事が酷くあたしの心を不安にさせる。
初めて誰かがいないことに寂しさを覚えていた。
「まったく、ミサカちゃんはどこにいるのやら……」
炎天下の中、当ても無くひたすら歩く。通気性のいい真っ白いシャツを着ていてもまだ暑い。黒いズボンが熱を吸収するせいか。
ネガティブな感情を取っ払って休憩でもしよう。
そうだ、駅前のカフェにでも行こう。丁度良くショッピングセンターの近くにいるのだ、涼しい店内で美味しいケーキでも食べようじゃないか。
歩道橋を渡り、階段を降りる。何やら賑やかなガシャポンコーナーを横切り、カフェへ向かう。
「ん?」
が、見知った顔を見かけた気がして一度通り過ぎた子供達が群がるガシャポンコーナーのもとへ引き返す。
子供たちに囲まれ、ガシャガシャから取ったと思われる缶バッチを握りしめながら喜びの声を上げる御坂美琴がそこにいた。
「み、御坂ちゃん?」
「あっ、せ、先輩……」
いつもの常盤台の制服に、ルーズソックス、茶色い髪が可愛らしい中学2年生の御坂美琴ちゃん。
子供達の視線を集めながら、御坂ちゃんに話しかけると真っ赤な顔で後ろ手で何かを隠すと、慌てふためき出す。
「でかい……!」
「でっっっか……」
ある一点を凝視されセクハラ紛いの言葉を浴びせられるが、子供相手にムキになったって仕方がない。
特に何の反応も示さず、彼女の周りを冷静に観察してみる。
どうやら彼女はこの少年少女を従えてガシャポンをしていたようだ。
カゴの中に所狭しと入っているたくさんの缶バッチがそれを教えていた。
一体なんのガシャポンに夢中になってるんだ?
彼女の後ろからちらりとそのガシャポンを確認すると、緑色の生命体が描かれたガシャポンが眼に映る。
「ゲコ太?」
可愛いのかよくわからないカエルのキャラクターがガシャポンの機械に描かれていた。
名前はゲコタと言うそうだ。
丸っこいフォルムが何処と無く前世でお世話になったマヨネーズのキャラクターに似ている。
そう言えばこのゲコ太といい、キャラクターものが好きなんだったか。
メルヘンで乙女趣味。そういえばそんな少女だった。
「おねーちゃん、缶バッチが欲しかったんだって!」
「沢山回ったらやっと取れたんだよ!」
「へー、どれどれ」
沢山回ったのは足元にある複数のカゴを見ればよく分かる。一体どれ位1万円札を消費したのだろうか。
欲しいもののために全てを投げ捨てる心意気はよく理解できるし、あたしだってそんな感じなので咎めることなしない。
ただ、これ程までに目当てのものが出ないとなると、彼女の幸運値が気になるところ。一体排出率何%なんだ。
財布から100円を1枚取りだし、ちゃりんとガシャポンに入れる。この頃はまだ300円とかぼったくり価格じゃないのか。
「ん?なんだろ」
取っ手を回し、ガコンと出てきた丸いカプセルを手に取る。微妙に曇っているカプセル越しからはよく見えず、テープを外して中身を取り出す。
缶バッチに描かれていたのは天使の羽がついたカエルの絵。
あっさり出てきた主人公に少し拍子抜けしてしまう。
「ゲコ太!」
「運すご!?」
どうやらたった一回で目当てのものを取ってしまったようだ。
驚きに満ち溢れた子供たちが羨望の眼差しであたしを見る。
「おねーちゃんが1万円以上溶かしたものを100円で……!」
あたしは昔からツイていた。
だからあの子にはスマホゲーのガチャを引かされたり、クジを引かされたりなどしていた。
今もこの豪運は健在のようで、今回のガシャだけでなく、垣根くんと出会ったこと、冥土帰しに拾われたこと、藍花悦に成ったこと、ほとんど全てがあたしにとってはラッキーだ。
まぁ、死んだことは不幸かもしれないが、垣根くんと出逢えたのは中々嬉しいことだ。いい子だし、あたしがいれば幸せになれるかもしれないから。
そう思えるほどには彼が好きだ。勿論、姉として。
あたしは彼を幸せへと導き、死の運命を覆さなければならない。
「そうなの?じゃあ、はい、どーぞ」
「い、いいの!?」
御坂ちゃんに手渡すと物凄い笑顔でそれを受け取った。
運試しで取ったものだ、あたしが持っていても仕方がない。
「あたしより好きな人が持ってた方がいいでしょ?」
「ありがとう!」
手渡した同時にどこからか電子音が鳴る。自分から音が出ているのかと思いポケットからキーホルダーがジャラジャラついたスマホを取り出すが、着信は愚か、通知は1件も来ていない。
ちょっと寂しい。
「あ、もうこんな時間!帰らなきゃ!」
音の出処は御坂ちゃんに着いてきた子供のうちの一人だったようで、携帯を見ると焦り始める。
もう時計は17時を回っていた。
子供は帰る時間だ。
子供たちを送ることになり、バスへ大人数で歩く。
夕日が眩しいオレンジ色の空に少しだけ目が眩んだ。どこかで見た事のある光景。
これもアニメのワンシーンだったか。
デジャブのように感じる光景は記憶の棚から何かを引き出そうとするが、あやふやな記憶からはなにも思い出せない。
「今日は他の子と一緒じゃないんだね」
「黒子は風紀委員の仕事で、他の子も用事あるみたいで」
たわいもない話をしながら道を歩く。
きっと何かが起きるはず。あたしの勘とデジャブを信じて御坂ちゃん達に同行し、バス停に歩みを進める。
「でも、こんなに貰っていいの?」
そんなあたしの腕の中には袋いっぱいの缶バッチがあった。
カプセルに入ったままの景品がガチャガチャと擦れるような音が袋から聞こえる。
「取りすぎて困ってたから……」
「ありがとうね、病院で配るよ」
テレスティーナさんがこういった類のものが好きだったはず。
今や共同のものとなったあたしの研究室は最近彼女によって研究室がさらにファンシーなものになっているのだ。すこし困りはするが、彼女が幸せなら目を瞑ろう。
「御坂ちゃん?」
「なんか、変な感じが……」
ぱっと視線を袋から視線を外すと御坂ちゃんがどこか遠くを見ているのに気づく。
眉を顰める彼女だったが、彼女のいう変な感じはあたしには伝わらない。
変な感じ?
よく分からないが、なにか事件が起こっているのだろうか。
疑問を持ちながらも歩き、バス停にたどり着く。そこにちょうどバスが止まり、子供たちはそれに急いで乗り込む。
「じゃあね、お姉ちゃんたち!」
「バイバイ!」
「じゃーね」
袋を抱えた子供たちを見送り、帰路に着こうとするが御坂ちゃんは立ち止まったまま。
「どうかした?」
だんまりとする彼女の顔を覗き込む。
先ほどの“変な感じ”が未だ引っかかっているようで、何やら難しい顔をしていた。
「変な感じがしたって場所に、戻ってみる?」
「……ええ」
多分あそこに行かないと物語が進まない。多分、ここが『超電磁砲』での
直感的にそう思うと2人で走り始める。
大まかなあらすじしか覚えてない今、直感と薄っすらと残る視覚的描写しか頼りにならない。
自分の勘と御坂ちゃんの感覚を頼って先ほどの場所に引き返す。
「確か、この辺りから……」
道路を渡り、並木通りをひたすら走る。
辺りを見渡しながらマンション群の近くを彷徨くと、木陰の下に人影が見えた。
木を眺める少女はゆっくりとこちらを向く。
「あ、アンタ……」
その少女は御坂美琴と瓜二つの容姿を持っていた。
同じ顔、同じ体、同じ髪、同じ瞳。全てが同じ。
頭に着いたゴーグルとピン留めだけが彼女たちを区別する唯一の方法だった。
「……みゃー」
「は?」
瓜二つの少女は脈絡もなく猫の鳴き真似をする。
突然のことに反応が追いつかず唖然としていると、彼女は再び上を見上げた。
「と鳴く四足歩行生物がピンチです」
「ミサカちゃん?」
急いで彼女の元へ駆け寄り、彼女の視線の先を辿るように目を追うと黒い物体が木の枝に乗っているのが見える。
真っ黒い子猫が木から降りれなくなっているようで、しきりに鳴いていた。
これを眺めていたのか。姉妹仲良く可愛いものが好きなようだ。
「先程、この道を通り掛かった際に路上駐車された車に取り残された赤ん坊を発見しました」
説明を求めるように御坂ちゃんが彼女を見つめると、子猫を見つめ口を開く。
「熱中症の危険がありましたので、ミサカの電力でロックを解除し、窓を開けたのですが、それに驚いたその生物が驚いて木に駆け上がり、降りることが出来なくなったのです、とミサカは懇切丁寧に説明します」
「あー……って、そんなことはどうだっていいのよ!私はあんたがなんなのかって聞いてんじゃない!」
「妹じゃないの?」
「私にこんなそっくりな妹はいないわよ!」
分からないふりを続け、御坂ちゃんに問いかけるが怒った声で怒鳴られてしまう。
勿論実際は分かっているが、わかっていることを表に出してしまったら今度は私が疑われる。
御坂妹、2万人もいる御坂美琴のクローンのひとり。番号までは覚えていないが、1万に近かった気がする。
御坂ちゃんが叫ぶと、小さな悲鳴をあげて木の上の猫が飛び上がった。
そのまま木から落ちかけ、必死になって太い枝にしがみつく。
何とかしないと落ちそうだ。
「どうやら、さらに危機的状況になったようです。助けなくてよろしいのでしょうか? 」
じっと御坂ちゃんの方を見つめるが、誰も子猫を助けようとしない。
あたしは動物なんて興味が無いし、助けるつもりは無いので、彼女たちが何とかしなきゃいけないのだが。
「ちっさくてもネコなんだから、あのくらいの高さ大丈夫よ!それより!」
「そうですか、お姉様はあの生物が地面に叩きつけられても一向に構わないというのですね」
「その結果、大きな怪我をして機能障害がでても、生命活動を停止しても、関係ないと」
猫を無視してミサカちゃんに詰め寄るが、暗い瞳でオリジナルを責め立てる。
「自分で助ければいいじゃない?」
だが、それが私には通じない。丸め込まれることはない。
というのも、木をよじ登るなり、救急に電話するなり、やりようはいくらでもあるはずなのだ。
ただ突っ立ているだけなのは如何せん良い行動とは言えない。行動を起こすことこそが、大事なのだ。
「あそこまで手は届きません」
「いや、登ればいいじゃん……ったく、あたしがやるから、よーく見ときなさい」
どことなく悲しみながらミサカちゃんは言う。
その顔になんだか複雑な気分になり、子猫を助けるために木に足をかける。
人はいないのでまぁ大丈夫だろう。
軽々と木によじ登り、子猫の首根っこを人差し指と親指で摘まみ上げる。
野良猫は可愛い顔して感染症が多いのだ。猫ひっかき病にマダニなど、野良猫を触るのはオススメしない。
中にはアルコール消毒でも殺菌できなかったりするのだ、一度かかると治すのが面倒。
なら最初っから最低限の接触で済ませるべき。
「っと、はい」
「そういった乱暴な掴み方は如何なものかと」
「あたし動物あんま好きじゃないの」
猫を摘み上げ、地面に降り立つとそのまま猫を地面に下ろす。
ムッとした表情を向けられるが、仕方がないじゃないか。
病気を抜きにしても、そこまで動物が好きじゃないのだ。
嫌いと言うのは少し違うが、あたしは人間以外の生物に愛情をミリ単位も感じられなかった。
興味が無い。それに尽きる。
「え、意外……アレルギーでもあるの?」
「そーじゃないけど、なーんか、嫌いなんだよねぇ」
なぜかは分からない。
もはや本能のようなものだった。人以外の全てが嫌い。
猫も、犬も、牛も、馬も、鹿も、山羊も。
愛する人間以外の生物なんて、興味も愛もない。
強いていうなら神くらいだ、感情を持っているのは。
愛憎、嫌悪、様々なものが混じった汚い感情は今のとこ神とあたしにしか向いていない。
「でも貴方に懐いてるようですね」
「うっわ、よじ登るな」
下ろしたはずの真っ黒い子猫がズボンに爪をひっかけ、よじ登ってくる。
まだ子猫だからか爪による痛みはないが、懸命によじ登り、胸元へ駆け上がってくる。
「動物に嫌われる体質から見ると羨ましいけどね」
「あー、電磁波だっけ?」
胸元にしがみつく猫に触れようと御坂ちゃんが手を出すが、嫌がってさらに上へ昇ってくる。
そういえば電気系統の能力者は動物に嫌われやすいんだったか。
動物が嫌がる電磁波がでるとか出ないとか。
……いや、嫌がるって何。
低周波の電磁波はほとんど人体に影響がない。人間に害を及ぼしてないことと、携帯電話をちゃんと使えてるってことは低周波。どう考えてもwi-fiルーターくらいの電磁波でしょう?そんな嫌がるほどなわけ?
わからんな。
猫が電磁波を嫌がるというのなら人間に寄り付かないだろうし。
そういえば猫が今のように進化したのは人間に餌を与えてもらうためという論文があった。その説が正しいと仮定すると、電磁波を嫌がるのならそんな進化しなくないか?
……まぁいい、どうせサイエンス・フィクションなのだ。考えたって時間の無駄。
猫が死のうが嫌おうが興味はクソほどない。
「そうそう、電気使いの宿命ね」
「ミサカもダメなようですね」
2人の御坂による電磁波に子猫は怯え、胸元で丸くなってしまう。
驚いた、本当に電磁波がダメなのか。本当にこの世界の常識は違うのだな。
垣根くんっぽく言えば「この世界にあたしの常識が通用しねぇ!」……ネガテイブな意味で。
前世でこれについて研究してたらなんかの賞でももらえただろうか。まあ前の世界の技術力じゃ解析できないだろうな。無理だわ。
「タピオカチャレンジみたいなことなってる……」
「たぴ?」
「って、そうじゃなくって!」
白いシャツの上に丸くなった子猫はどことなく震えてる。
そんなこと御構い無しに黒い子猫を持ち上げ、地面へ下ろすとトテトテとどこかへ走り去る。
毛だらけになったシャツを軽く手ではらうと目的を思い出した御坂ちゃんが大きく声を張り上げた。
「さっきからお姉様とかミサカとか!アンタ、私の、ク、クローンなわけ!?」
「はい」
先ほどからずっと聞きたかった質問をぶつけるも、クローンだと肯定した少女は無表情で答える。
「あっさり……」
「クローンねぇ……でもあんま似てないね」
一番違うのはその声だ。そっくりな顔はしているが声質が微妙に違う。
この違いはどうして出ているのだ?
気づかないように能力を展開し、二人の肉体の情報を見比べる。DNAマップ、つまりヒトゲノムを解析して全く同じDNA配列の生命体を生み出したわけだが、なぜか少しだけ違いが出ている。
声の違いと脳細胞が少しだけ違う。
まず前提として、この世界のキャラクターたちはアニメと全く同じ声を持っている。
垣根くんはイケメンボイスだし、上条くんも力強い声を持っている。
そして御坂美琴とそのクローンもだった。
彼女たちは声優、いわゆる中の人が違う。
なので声帯や口腔の構造に違いが見られるのだ。
そして脳細胞の発達具合も違う。
これに関しては
知らないところで改変が行われている?
それも極力関係のないところで?
……調べる必要がありそうだ。
「れ、例の計画とやらは凍結されたはずでしょ?なんで、なんでアンタみたいなのが存在すんのよ!」
「ZXC-741-ASD-852-QWE-963´と、ミサカはパスの確認を取ります」
「パス?」
体内の情報を見ているうちに話が進んでいた。
危ない危ない。パスを記憶しておかなくては。
長いがまあ覚えられない訳ではない。記憶力に自信はある。
だが、前世の記憶があやふやな今、あんまり胸を張って言えないのだ。なので心の中に留めておくだけにしておこう。
「やはりお姉様は実験の関係者ではないのですね、先程の質問にはお答えできません」
「どこのどいつが計画を主導してんの?」
少しだけ寂しそうに感じるミサカちゃんにズバズバと御坂ちゃんが質問していく。
「機密事項です」
「なんのために作られたわけ?」
「禁則事項です」
「痛い目に会いたいの?力尽くで聞き出したって……」
しかしどれもこれものらりくらりとかわされてしまい、苛立つと勢いよく胸倉を掴み御坂ちゃんは自身のクローンに詰め寄る。
迫力のある声で無理やり口を開かせようとするが、それにクローンの少女はそれに全く動じなかった。
その姿に何か思ったのか手を放し、押し退ける。
「いいわ、行きなさい、勝手にあとをつけさせてもらうから。どうせアンタはどっかの施設なり研究所まで帰るわけでしょ?そこでアンタの製造者をとっ捕まえて直接話を聞き出してやるわ」
それを聞くとミサカちゃんは何事もなかったようにその場を離れてどこかへふらふらと行ってしまった。
「よくわかんないけど、妹ちゃんはクローンで、実験に使われてるってことでいいのかな?」
「……先輩には関係ないわ」
とりあえず何も聞かなかった事にはできないので、一応御坂ちゃんに確認をとっておく。
この事件に首を突っ込む気でいるので、ここで接点を持っておけば変に勘繰ることはないだろう。
「そう?クローンなんて如何にも医学に通ずるあたしの分野じゃない?」
「危険だから、着いてこないで」
「まぁまぁ、お姉ちゃんを頼りなさいって」
御坂美琴はある程度あたしを知っている。
幻想御手の件といい、なんとなくでもあたしの行動原理を知っている。だからこそ彼女はあたしを止められない。
笑顔で答えると、諦めたように彼女はため息をつく。
「
彼女の隣に立ち、前を進むミサカちゃんを追跡する。
ぼーっと歩く彼女からは殺伐とした裏の世界を感じることはなかった。
「それが計画の名前?」
実際の計画は概要しか知らない「
2万ものクローンを破壊することで
二万程度の敵を殺したところでレベルアップができるものなのだろうか。ゲームは妹にレベル上げを頼まれた数種しか知らないが、そんな方法で現実世界でもレベル上げができたら苦労しないだろう。
確かアレイスターはクローンそのものが必要なんだったか。そう考えると
あんまり知らないので憶測でしか語れないが。
「……私の軍用クローンを作るとかで」
「軍用かぁ、それはそれは、面白いことで」
もういっそのこと巨大アルマジロでも作ったほうが強そうな気がするけどね。防弾も攻撃力もあるし
……いや、それをしてしまうと怪獣大戦になってしまうな。見てみたい気がするが、考えるのはやめておこう。
軍用そのものもフェイクみたいなものだし、深く考えちゃいけない気がする。
「ん?
何かに気がついたのか御坂ちゃんは前を歩く少女の元へ駆け寄り、回り込んで彼女の肩を掴む。
「まさかとは思うけど、アンタみたいのが5人も10人もいるんじゃないでしょうね!」
あぁ、そうか。まだ2万人もいることを知らないのか。
自分が2万人もいたら世界中で人助けができるな。
あたしのクローンでも作ってくれればよかったのに。こき使うんだけどなぁ。
そんな考えが浮かぶ中、少女の大声が耳に入る。御坂ちゃんとミサカちゃんが二人でなにやら話している。
「ふふふ……こねこ……上から読んでもしたから読んでもこねこ……ふふふ」
「って、くだんないこといってないで聞けよ!」
言い争う二人は本当の姉妹のようでとても懐かしい気持ちにさせる。
おぼろげな記憶を一つ思い出す。それは中学生の頃の話。
中学二年のあたしに、小学二年の妹。毎日の登下校、車椅子の重さ。
昇る朝日に、落ちる夕焼け。
思い出は断片的で、もう全てを思い出すことはできない。
あの子の顔もわからないほど記憶が欠落し始めていた。私が蝕まれていく。
それでも心臓に刻み込まれた想いがあの子の存在を忘れさせないでいた。
「まるで双子だねぇ」
「血どころか遺伝子を分けてるんですけどね……」
疲れ気味の御坂ちゃんと未だにニヤケ顔のミサカちゃんの顔は寸分の狂いないほど似ている。
ミサカちゃんの方が少しだけジト目気味な気もするが、全く一緒の顔がこうも並ぶと少し面白い。
「とりあえず、カフェでもいく?」
落ちる夕焼けを背に提案すると、二人は顔を見合わせて頷いた。
賑やかな少女たちと、ちょっぴり感じる寂しさを胸に私は太陽が眩しいを道を歩く。
夜はまだまだ来なさそうだ。
妹達なんてどう見てもお姉ちゃん案件。首をつっこむ以外の未来が見えませんね。