とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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24話:一人目

朝日が昇り、窓を通り抜けながら光が差し込む。その光は優しく少女の瞼を照らし、閉ざされた茶色の瞳を呼び起こす。

ゆっくりと開かれた瞳に映るのは白い部屋と朝焼け。

 

「あ、れ、ここは」

 

「起きた?」

 

「天羽、さん……」

 

ベッドの上で窓の外を眺める彼女に金髪の少女は優しく喋りかける。

 

「おはよう、ミサカちゃん」

 

病衣を着た御坂のクローンと、ナース服を着た天羽。どういう関係かは明白だ。

昨夜より容態が良さそうな彼女に安堵しているとミサカは質問を投げかける。

 

「おはよう、ございます……あの、ここは」

 

「うちの病院の最上階の個室」

 

一種のVIPルームであるこの病室は完全な個室。

そのため少々値が張るが、今回は天羽が支払いをしているので特に問題は無い。

 

「だからほら、足も治ってるでしょ?」

 

そう言って天羽が指さすのは布団に隠れた彼女の左足。

布団に山を作っているそこは左足が出会ったばかりの頃と変わりなくついていた。

 

「……ミサカの足は無くなったはずでは?」

 

「医学って凄いでしょ?」

 

引きちぎられたその足は天羽の能力により復元した。

DNA情報による複製、復元。それも彼女の能力がもたらすもの。

切断しようが引き千切ろうが、傷口からDNA情報を元に復元できるのだ。それを彼女に使ったのだが、少しばかり驚かれてしまった。

 

しかしそれを教えたら超能力者(レベル5)だと怪しまれる可能性があるので秘密にしておく。

笑顔で話を流すが、ますます怪しまれるだけだった。

 

「医学うんぬんの話ではないと思うのですが」

 

「まぁ、あんまり気にしないで?」

 

「いや、気にしますが……」

 

その話を根掘り葉掘り聞かれると少し困るので、別の話に話題を変える。

頭の隅でゆっくりと、彼女の心を蝕む演算を行いながら。

 

「で、生き残った感想は?」

 

「……不思議な気持ちです」

 

天羽は彼女の目を見つめる。

窓から差し込み目を細める姿から察するに、朝日が眩しいようだ。

その姿は猫のよう。静かな彼女に少し意地悪をしようと問いかける。

意地悪な質問は彼女の本音を引き出すための薬。

 

「アナタが戻りたいなら研究所に五体満足で返すけど、どうする?ここにいたい?」

 

「……実験をするのがミサカの役割です」

 

目を伏せると茶色い髪がカーテンのように顔にかかる。

横に置かれたピカピカと光る缶バッチに目を移すと、天羽はゆっくりと口を開いた。

 

「それはクローンとしてのミサカちゃんの役割でしょ?」

 

足を組み、頬杖をついて優しく問いかける。

彼女の顔を覗きみようとするが、深く頭を下ろす彼女の顔は少しも見れなかった。

 

「あなたを一人の人間とみなして質問してるの」

 

「ミサカはクローンです。人間とカテゴライズされません」

 

小さく溜息をつき、なんて答えようとしばし悩む。

もうとっくに彼女のことを人間として認識していた天羽には少々めんどくさい。如何にして彼女を人間だと認識させるか。

頑固な頭に干渉し、じわじわと彼女の考えを柔軟にしていく。肉体の全てを操れることは、擬似的な感情を作ることと同義だ。

 

「……そうだなぁ、ミサカちゃん、マリーの部屋って知ってる?」

 

「有名な思考実験のことなら知ってます、とミサカは賢さをアピールします」

 

少し考えて出てきたのが前世で雑学程度に習った有名な思考実験。

 

生まれた時から白黒の部屋に閉じ込められた少女がいる。

その少女は色についての学問を極めており、色に関してならどんな問題も解ける。ただ、本物の色を見たことは無い。

林檎は何色か、朝顔は何色か、どうやって色が見えて、どういう仕組みで色を判別しているのか、彼女には知識しかない。

 

そんな少女が色のある世界と出会った時、何を感じるか。

人間にクオリア、心はあるのか、というのがこの思考実験。

 

「これってミサカちゃんと似てると思わない?」

 

キョトンとする彼女に笑顔を向ける。

 

「研究所の中で知識を直接インプットされたミサカちゃんは、外に出てなにか新しいことを感じた?」

 

「……それは」

 

足を組みなおし、椅子に手を置いて仰け反る。後ろを見るとそこには昇る太陽が朝を告げていた。

 

「クオリアって言ってね、言語化不能の私秘的な感覚を意味するんだけど、あたしはそれが人間を構成する大事な要素だと思ってるの」

 

クオリアとは体験を通じて獲得する感覚のこと。感覚質とも呼ばれるそれはとてもあやふやで、人間にしか感じ取れない。

朝焼けの空の感じ、頬を抓られた時の痛み、感覚。脳科学で未だ証明されていないこの問題は、この世界でも謎のまま。

どのようなメカニズムで、どのようなクオリアを生み出すのか、あまり研究が進んでいない。

第五位の能力を持ってしても、きっと分からない。それは魂そのものだから。

 

「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、痛覚、冷熱、感情、それら全てにクオリアは存在するとされてる」

 

知ってるでしょ?と彼女に聞くと小さく頷く。流石に知っているか。

 

「そしてそれを持たないならあたしにとってはただの肉塊としか認識しない」

 

同じ思考実験の一つ、哲学的ゾンビというものがある。ゾンビといっても、天羽みたいな死に損ないや、動く死体のことではない。

この哲学的ゾンビは人間そっくりなのだ。まるで人間のように行動し、言葉を喋る。内蔵も、心臓も、細胞も、ただの人間と同じもの。

それと人間の唯一の違いはクオリアがないこと。クオリアがない、つまり内面的な経験を持たない人間。架空の存在。

哲学的ゾンビは存在可能なのかなど、哲学者の間で議論されている代物だ。

 

クオリアを持つものが人間であり、それ以外はただの動物。哲学的にはそう考えられる。

言葉を喋る肉塊。

それを天羽は人間とは呼ばない。

人の肉体と人の意識、その二つがなければ人とは呼べない。

 

それ以外は物理的反応、化学的反応、電気的反応の集合体でしかないのだ。

 

「初めて音楽を聞いた時、どんな感覚がした?初めて誰かに触れた時、どんな感触だった?缶バッチを貰った時、どんな気持ちが沸いた?」

 

「……」

 

「そしてクオリアを持っているかは他人からは分からない。だからあたしはアナタの心に問いかけてるの」

 

津上に置かれた缶バッジを彼女の手のひらにのせる。

血を綺麗に拭き取ったそれはガシャから取り出したばかりのようだった。

 

「アナタは、生き続けたい?」

 

手を握り、彼女の目を見つめる。

 

「……生まれた理由は一方通行(アクセラレータ)のプランのためです。死ぬのが使命です」

 

「それは人間が与えた使命でしょう?人間如きが、他の人間の生きる使命を定めることはできない」

 

静かな部屋に天羽の声が響く。

 

「自分で考えたアナタの生きる意味、神に与えられた使命、心臓に刻まれた存在理由、あるでしょう?」

 

「ミサカに、あるのでしょうか」

 

顔を上げて天羽の瞳を見つめる。

潤んだ瞳は彼女の意図しないとこで天羽が与えたストレスによるもの。

彼女は勘違いをする。感情があると。その勘違いが彼女に本当の感情を生む。

一度知ってしまえば、壊れたダムのように欲と感情は溢れる。

 

「これから知っていくのも一つの手だよ、あたしは元々知っていたけど」

 

彼女に感情が芽生えた。天羽の手によって。

 

「……ミサカは、お姉様と、もっと喋りたいです」

 

「うん」

 

蚊のように小さな声が彼女の口からこぼれ落ちる。

 

「ミサカは、猫を撫でてみたい、です」

 

「うん」

 

「ミサカは、オシャレなお洋服を着たいです」

 

「うん」

 

ぽろぽろと欲が溢れ出す。

脳に位置する側坐核におけるニューロンを刺激されてでてくる偽りの欲望。

彼女を人間として意識させるにはこれぐらいしかできなかった。

 

「ミサカは、アクセサリーを沢山つけたいです」

 

「あたしなら、全部叶えてあげられるよ」

 

その感情が与えられているものと気付かずに言葉を続けた彼女の頭を優しく撫でる。

妹の姿がちらついた。

あの子の方が甘え上手だったな、と少し懐かしい気持ちが溢れてくる。

 

「年上に甘えていいんだよ」

 

「ほんとに、いいんですか?」

 

「あたしはその為にここにいるのだから」

 

力強い声ではっきりと言葉を返した。

席から立ち上がり、ポケットに入れていたスマホを手に取る。

 

「そうだね、まずは一つ目から叶えてあげようかな」

 

「一つ目?」

 

通話アプリを開くと、あたしは少しウィンクをしてみせる。

 

「まぁ、見てなって」

 

首を傾げるミサカを見下ろしてスマホを頬に近づけた。

スマホから漏れた鬱々とした音声は目の前の少女より少し低い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二十分は経った頃だろうか、病室の外からバタバタとうるさい足音が聞こえてきた。

 

「っ先輩!」

 

「surprise、まさか本当に病院に搬送されていたとは……」

 

バンッと大きな音を立てて扉が開くと、そこにはミサカそっくりの人物、遺伝子提供者本人である御坂美琴と、青い制服に身を包んだ黒髪の少女が息を切らして病室に入ってきた。

病院内はお静かに、と言いたいところだが、彼女達の心境を考えて天羽は特に注意することもなかった。

 

「よく来たね。ほら、ミサカちゃん、ご挨拶」

 

「……お姉様、おはようございます」

 

少しだけ嬉しそうにミサカは御坂美琴をみる。

光の宿っていない瞳だが、確かに想いが見えた。

 

「あぁ、おはよう……じゃなくて!てっ、てっきり、死んだのかとっ!」

 

「残念なことに、ミサカはまだ生きております」

 

「あ、足は!?足が落ちてて、それで私っ!」

 

「何故かこのように完璧に治っております」

 

「えっ!?な、なんで!?」

 

御坂の反応を見るに、彼女は昨夜アニメと同じように一方通行(アクセラレータ)と対峙して負けたのだろう。

ひどく動揺する姿から、そこに置いてきたクローンの足を見つけたのだとわかってしまう。

しかし一方通行(アクセラレータ)も悪い子だ。生きていることを伝えてあげれば済む話だというのに。

 

「医学ってスゲー、ということらしいです、とミサカは適当に話を逸らします」

 

慌てる御坂に妹の方は布団を剥がし立派な足を見せつける。無い胸を張ってすごいだろ、とでも言うようにフッと軽く笑う。

治した天羽本人より嬉しそうだった。

 

その姿に天羽は内心大喜びであった。

彼女の医学への信仰は、並々ならぬもの。それを褒められて喜ぶのは当然。

 

医学はすごい。

今回は一から脚を作り上げたが、私の上司に当たるこの病院のとある医者は上条の腕をくっつけることもできるのだ。

神経を繋ぎ合わせ、血管をくっつける。これ自体は前世でもあった事例で、腕のみならず脚や顔、男性器や頭をくっつけた症例もある。それ自体は驚きはするが不可能なことではない。

 

だが上条に関しては接合からの回復スピードが凄まじかった。通常、接合した後は数ヶ月のにはリハビリが必要なのだ。

だというのに上条は術後すぐに指を動かせたそうだ。やはりこの世界の医学は進んでいる。

羨ましい。

この世界が本当の世界なら、どんなに良かったか。

 

「But、それより何故病院に搬送されたのかが気になるわ」

 

少し感傷に浸っているとジト目をした少女が口を開く。

少女の名前は布束砥信。テレスティーナが送ってくれた実験についてのデータに名前があった。

それでなくとも天羽は彼女のことを前世から知っている。

アニメと原作の見た目が違うと話題になったとか、なってないとか。その程度のあやふやな知識だが。

 

「あ、あぁ、あたしが運んできたんよ」

 

「先輩が……?」

 

「御坂ちゃんよりは裏の事情を知ってるつもりだからね、出会った時になんとなーく感じ取ってさ、ちょっと調べてたんよ」

 

敵意はないと笑顔を向けるが、逆に怪しまれてしまう。

 

「で、アナタは布束ちゃん」

 

「……随分と知っているのね」

 

「長点上機に知り合いがいてね」

 

そういって自分の鎖骨のあたりを軽くトントンと指で叩く。

指し示した彼女の襟元には長点上機学園の校章をあしらったピンが服についていた。

青く、珍しいシルエットの制服はどう見ても可愛いと天羽の中で評判の長点上機学園のもの。

そしてそこには垣根も在籍している。

 

藍色の制服。

本来はその色から藍花悦に通わせようと思っていたが、あまりにも捻りがないのと有名校すぎるのも相まって辞退した学校である。

 

(というか垣根くんがこの子より年下っていうのもなんかな、高校三年生くらいかと思っていたのに)

 

それにしても、彼女は垣根のことは知っているのだろうか。

彼女は三年生。垣根は二年。有名人同士名前くらい知っていてもおかしくない。

 

「それで、これからどうする?」

 

「どうするって、こんな実験止めさせるのよ」

 

「実験の関連施設は二十を超えるわ。全てを破壊して回るつもり?」

 

静まり返る病室に耐えきれず、天羽は軽い調子で御坂に切り出した。

それに御坂は力強く答える。きつく握りしめた拳は白くなっていた。

 

「あたしも色々気になるところはあるし、手伝うよ」

 

「ねぇ、先輩は関係ないのに、どうして?」

 

「関係大有り、ミサカちゃんの足を治したのはあたしだし」

 

出来ないわけない。

明るい声でそういうと御坂は驚いたように天羽をみる。

天羽の表情は明るく、いつもの天真爛漫な笑顔を浮かべていた。

 

しかし腹の中では一切笑みを浮かべていなかった。

天羽彗糸としては繋がりはないが、藍花悦はこのプロジェクトの根幹にいる。

彼女に出来ない子というレッテルを貼りやがった学園都市に彼女は見せつけなくてはならないのだ。

 

自分は出来る子だと、出来る姉だと、解らせなくてはいけない。

上に立つ生き物として。プライドがそれを肯定する。

 

「それに、患者さんの必要なものを提供する、それがうちの師匠のモットーだから」

 

「……ありがとう、先輩」

 

「当然のことよ」

 

それに、いくら超能力者(レベル5)といえど、所詮は世間知らずのお嬢様。中学生には荷が重く、心細いだろう。

彼女だけでも十分だとは思うが、バックアップは必要だ。

 

「……やってみたいことがあるの」

 

「なになに?」

 

「これ」

 

深く考え始めると、今度は布束の方から話しかけられた。

ホテルのルームキーのようなUSBメモリを握りしめ、彼女はこちらをみる。

その目には正義と彼女の覚悟が簡単に読み取れた。

 

「感情にまつわるデータよ。これを彼女にインプットしたいの」

 

いつも持ち歩いているのかと一瞬驚くも、そのUSBの活用法を考え始める。

USBの中身をインプットなど現実的に考えればありえないのだが、まあここは現実ではない。フィクションだ。

 

「うーん、ここは病院だよ?テレスティーナさんもいるし、人材は十分だけど……多分そういう機材はないよ?」

 

だがそんなことできるとしても相応の機材が必要になる。

こういった類のエキスパートが二人(テレスティーナと木山)いても、機材はない。

 

出来るとしたらアニメに出てきたあの研究所だろう。

この病院でできるかもしれないが、冥土帰しに黙って勝手に使うと怒られる。さらにいえばまた変なことに首を突っ込んだと知られると怒られかねない。

ただでさえ患者で手いっぱいな彼の心配事を増やすのは両親が咎める。首を突っ込んでも秘密裏が必要事項。

天羽にとってあの医者は恩人。学園都市まで安全に連れてきて、第六位なのに暗部やら権力争いに巻き込まれることなく、地位も戸籍もくれた人。

アレイスターと繋がるきな臭いところはあるも、この世界での親代りに迷惑はかけたくなかった。

 

「ま、待って、テレスティーナ!?」

 

「え?うん、テレスティーナさん」

 

何も考えずに今病院にいるもう一人の科学者の名前をあげたことに気づかないまま、ぼーっと考えていると御坂が声を荒げる。

 

(やべ。そうだ、彼女と合わせるのは少しマズイのか)

 

しかし彼女を引き抜いたのはこういった場面に彼女の知識が使えると考えたからだ。彼女を名をあげないでどうする。

 

天羽はSFの知識も、ファンタジーの知識もない。

あるにはあるが、この世界の知識ではない。SFの有名な本、アイザック・アシモフだったりジョージ・オーウェルは知識として読んでいたし、ファンタジーなら神曲やら聖書という原点を何度か読んだことはある。

見かけによらず古典芸術が好きな彼女は、絵画や舞台芸術にも詳しい。

常識的な教養の範囲なら━━とはいえ、天羽の常識的な範囲とは「素人質問で恐縮ですが」と同じような意味であり、本当に常識内かは不明だが━━話の種や一般常識として学んできた。

 

しかしこれらの知識はこの世界の知識ではない。

ましてやオタク文化は妹経由の薄い情報しか知らず、ラノベのお約束など知らない。

この「とある魔術の禁書目録」の世界のSFもファンタジーも彼女はほとんど知らないのだ。

 

知識不足。

 

それを補うのが垣根とテレスティーナだ。

垣根だけでも十分知識は補えるが、如何せん彼は暗部所属の少年だ。しかも現役の。

彼に話を聞くとなると疑われ、何より彼はきっと協力しない。

 

そこで出てくるのがテレスティーナ。一度捕まっており、こちらで行動を把握している彼女は扱いやすい。

しかも暗部について知っており、知識も技術もある。

本当は木山先生にこの位置にいて欲しかったが、彼女には生徒たちがいるのだ、安易に闇に突っ込む真似はおそらくしない。

テレスティーナが適任なのだ。

 

「なんであの女が!」

 

鬼のような形相で御坂は天羽を睨みつける。犯罪者を懐に置いているのだ、当然のこと。

だがそんな表情をされても彼女の心は揺らがない。

()()()()も天羽は否定しないから。

 

「あたしも、科学者だから、気持ちはよくわかるのよ」

 

「わかる!?先輩だってあの場に居たじゃない!非人道的なあの女をよく知っているでしょ?!」

 

「……人を殺すのと、動物を殺すの、アナタはどっちが重い罪だと思う?」

 

喉が痛むような張り裂けるような叫び声に近いその言葉の羅列は少しだけ昔の天羽を思い出させた。

 

「殺すことはいけない事よ」

 

「そうね、ならあたしは彼女と同じだよ。研究者は小さい命を奪うから」

 

古い記憶。

 

あの子のために何匹も殺した事実。

正義のために何匹も何匹も何匹も動物を殺した。

だから天羽は人殺しを否定することができない。殺したという事実は同じなのだから。

正義のため、幸せのためならば殺したって何したって、彼女は止めることはできない。

血の暖かさも、肉の感触も、鳴き声も、天羽は誰よりも知っている。

そして死の痛みもこの体が覚えている。

 

「モルモットも、ラットも、人以外なら殺した。死よりもおぞましい痛みを与えたことは一回だけじゃない」

 

人のためならば人以外なんだって殺すし、なんだって使う。それが天羽が今までしてきたことであり、それをやめろと他の人に押し付けることはできない。

それが彼女の正義。曲げることは許されない。

 

「あたしは目的のために殺した。だからあたしには学園都市の科学者を糾弾する権利はないの」

 

重い沈黙が部屋を満たす。

この異様な空気の中から早く抜け出したかった。

 

 

 

 

 

渦巻くヘドロのような感情が入り混じった今の心情はきっと人間には理解なんてされない。

彼女の目指すもの、彼女が欲しいもの。そのどれもこの世界の人間(物語のキャラクター)に分かるはずないのだから。

 




はじめて人を救えたね。



課題がやばいので次回の更新は8月入ってからだと思います……
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