とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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追記
設定画含め色々書き直しました!

【挿絵表示】



1話:始まり

静寂。

 

 

 

 

 

何も無かった。

はずだった。

 

 

 

 

 

鼓動が生まれる。

心臓が動く。

血が体中を這う。

肺に空気が送られる。

 

瞼が開いた。

 

「……生きて、る?」

 

見知った天井。自宅、正確にはアメリカにある父方の実家の天井。なんだか高めの声に内心驚きつつも、懐かしさを感じていた。

しかし同時に混乱が脳をパンクさせる。

 

アメリカにいたのは幼少の頃、小学校に上がるあたりの年齢だと言うのになぜ?

というかそもそも車に轢かれたら病院に搬送されるのでは?

 

たくさんの疑問が湧くものの、ベッドの上にいるだけでは答えは見つからない。

意を決してベッドから飛び起きる。暖かい毛布の中から勢いよく飛び出した体は思いのほか軽く、くらっと体を大きく揺らして床へと着地した。

 

着地した瞬間、全てを悟る。

 

「な、え?ど、どういう……?」

 

一七〇センチ越えの誇らしい高さは、机程の大きさに。

足元が見えないほど大きく育った胸は窪んで。

細くてネイルが映える手はクリームパンのような小さくてやわらかいものに。

 

小さな手、小さな足、小さな胸、小さな頭。

とにかく、全てが()()()()()

 

「子供っ……?」

 

急いで向かった鏡の前に居るのは金髪の子供。三歳か四歳ほどか、赤ん坊にも見える丸い輪郭が口を開く度に動く。

間違いなく、鏡の前に居るのは自分だった。

 

「小さい頃の、あたし……?」

 

家も、体も、周りのものも、確かに幼少期のものばかり。

二〇二〇年となっては時代遅れなカセットや二つ折りのゲーム機。壁にかかったカレンダーも、まるで違う。

 

「どういう、あれ?」

 

呆気にとられつつ後ろに下がると、トンっと何かに足がぶつかる。

柔らかいそれは、どうやら学校用具が詰まったリュックサック。

 

そういえばアメリカではこんな柔らかいパステルカラーのリュックサックで通学してた。

 

「筆箱、教科書、ノー……ト」

 

昔の記憶を思い返しながら、中身を探る。

全く消えない消しゴムや、興味もないユニコーンの絵が書かれた鉛筆。

中をまさぐって、手に取ったのは一冊のノートだった。

 

藍花悦。名前欄に丸っこい子供の字でそう書かれていた。

 

「な、なんで……?」

 

嫌な予感が脳裏を巡る。

 

あぁ嫌だ。そんな予感、当たっていて欲しくない。

 

思いついた瞬間、部屋の扉を開く。

自分が幼少期に住んでいた家と同じならば、それが確実にあると知っていた。

 

「やっぱり!」

 

それとはパソコンのこと。

 

広い廊下の突き当たり、いちばん大きな父親の書斎。

当時は(今もだが)高価で珍しかったパソコン。まるで箱ような大きなパソコンを金持ちボンボンの父は持っていた。

しかもパスワードは現代までずっと使い回し。

 

慣れた手つきでブラウザを開き、検索エンジンに単語を入れる。キーボード設定に日本語を変えて小さい指でちまちまと打つと、処理の遅いパソコンは熱を持ちながら読み込んでいく。

 

探すワードはただ一つ。

 

確証はない。

しかしこの状況証拠からみて、それ以外は考えられなかった。

 

「ヒット……」

 

学園都市。検索結果、たくさん。

 

「どういうわけ……?」

 

学園都市があるという事実。

藍花悦と書かれた自分のノート。

幼い自分。

 

話には聞いていた。こういうジャンルの小説があることも、妹が面白がって読んでいたことも。

だからかすんなりと目の前の説明不可能な現実を受け入れる。

 

「登場人物に、()()()()()()()()()

 

ライトノベル「とある魔術の禁書目録シリーズ」

 

物語の舞台は学園都市。

その都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人、序列六位。

名前しか出ていない登場人物。

藍花悦。

 

天羽彗糸(アモウケイト)は、藍花悦(アイハナエツ)とすり替わった。

 

小さな脳みそで導き出した答えはあまりにも非現実的。

とはいえ憶測はまだまだある。

 

もしかしたら夢かもしれない。

もしかしたらVRの世界かもしれない。

もしかしたら、もしかしたら。

 

けれどそれを判断するには材料が足りない。

目の前の現実を受け入れる他無かった。

 

「は、はは、ジーザス、なぜあたしが、」

 

こんなことなら、ちゃんと死んでおけば良かった。

 

あぁでも、あの子を守れてよかった!

 

背中の痛みと、妹の顔がじわじわと心の底から鮮明に蘇る。

たしかに守った、死という恐怖から見事命よりも大切な妹を守りきった。

その結果が妹のいない、妹の好きな世界へ放り出されることならば、これ程喜ばしいことは無い。

 

後悔とプライドがせめぎ合う。

 

そんな意味不明な感情がぐるぐると脳裏で踊る。けれど、絡まった糸のような思考の中、はっきりとした真実が二つあった。

 

「あたし、あの物語の登場人物になったんだ……」

 

ひとつ。物語の登場人物ということ。

 

「バタフライエフェクトだったっけ?ひとつの事で未来が大きく変わるってやつ……」

 

バタフライエフェクト、それは人の影響力を語る上で欠かせないもの。誰かが何かをした時、それは波紋となり他のものにも影響を及ぼす。

物語の登場人物である以上、それはかならず何らかの役割がある。ならば行動ひとつが全てに影響してくる。

それこそ、小さな蝶の羽ばたきが地球の裏側で竜巻になってしまうほどの影響が。

 

あたしがいないだけで、何かが変わる。

 

あの学園都市だ。登場人物のひとりが登場しないだけで戦争が起こる可能性がないとは言いきれない。

 

wikiを読んだ程度の知識しかないが、本当の藍花悦も物語の外で何かしらしていた。それが何かは分からないが存在が居ないだけで何かしらのハプニングが起こる可能性は十分にある。

 

「目指すは学園都市。きっとあたしにも出来ることがあるはず」

 

妹を救ったように!

 

 

 

ふたつ。

 

彼女は傲慢だった。

彼女は自らの犠牲を尊いものだと思っていた。

 

この体が、この魂が、運命を決められた哀れな誰かを救うことができるのなら。

誰かの涙を拭えるのなら。

神に一矢報いることが出来るのなら。

 

それほど喜ばしいことはない。

 

 

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、前世の知識と様々な人脈とツテとコネをこねくり回してたどり着いた学園都市。

無事例の高校へ入学し、物語も動き出す予感がしていた夏休み前。

 

彼女は地下街のオシャレなカフェで冷や汗をかいていた。

 

「どれにするんだ?」

 

「あっ、えー、んじゃあ、チーズケーキでお願いしまぁす」

 

まさかナンパ野郎が垣根帝督だとは思ってもみなかったよ!!!

 

地球の裏側へ届きそうなほどの大声で叫ぶ。

とはいえ心の中で叫んでいるため、実際に地球の裏側まで届いている訳では無いが。

 

けれど、本当に叫びたいほどの事だった。

たまたまバイトまで時間があって、たまたまゲームセンターに寄って、たまたま男子高校生の近くにいて、たまたまぶつかって、たまたまぶつかった高校生が垣根帝督だったなんて。

 

「さっきは悪かったな」

 

「んー?別に気にしてないよー。わざわざいいのに」

 

人前だからか、オフだからか、記憶にある「垣根帝督」とは違い、律儀に謝罪をする彼がなんだか不気味だ。

 

……垣根帝督ってこんな律儀な紳士キャラだったっけ?

 

彼女は忘れていた。

妹に「一番キャラが良かった」と伝えたキャラクターでも、十数年も経てば重要なキャラクター以外の視覚情報は薄れていくもの。

ロン毛の茶髪、高身長、イケメンという要素を覚えていてもアニメではなく現実であるこの世界ではあまり意味が無い。

 

アニメや漫画、コスプレ文化を嗜まない彼女は尚のこと。

だから名前を聞くまで彼が何者か気づけなかった。

 

「なぁ、その制服見かけねぇけどどこの?」

 

「えー、名前聞いてもわかんないと思うけど……んー、これこれ、ここ」

 

スマホを見せながら談笑を続ける。はたから見たら夜中の激安店にジャージで入店するようなチャラついたカップルだが、事実は違う。

 

この談笑は尋問だ。

 

綺麗な顔に笑みを浮かべるその黒い目には疑惑と敵意が薄らと読み取れる。

彼は疑っているのだ。天羽彗糸という少女を。

 

恐らく名前を聞いて反応してしまったせい。しくじったと思いつつ、顔には笑顔を貼り付ける。

 

あたしの何を知りたい。

あたしのことをどうしたい。

 

あんたの情報が欲しい。

あんたのことを教えて。

 

情報の攻防戦。

互いに情報を引き出して、与える情報を選んで、有利に運ぶ。

 

「……普通の学校だな。悪い意味で」

 

「そういう垣根くんはかの有名な長点上機学園なんだね。やっぱりエリートだ、超能力者って!」

 

「そりゃ頭の出来が違うからな」

 

「ちなみに何年?」

 

徹底的にバカの振りをして、身の回りの情報から話を引き出す。彼の青いブレザーの出処なんて、ちょうどいい話題だ。

 

「2年」

 

「一個上かぁ、あれ、じゃあ先輩って呼んだ方が良さげな感じ?」

 

「いや、垣根でいい」

 

垣根を認識できなかった理由の一つがこのブレザーだ。

 

記憶の中での垣根は暗部として活躍するスーツ姿のみ。赤紫のセットアップと、赤のセーター、白いカッターシャツ。

しかし、今彼が着ているのは紛れもなく高校の制服だ。しかもエリート校と名高い長点上機学園。

流石に数年の学園都市生活で制服やら学校は覚えたため、この情報に間違いは無い。

小説でも漫画でもアニメでも、彼の学校生活の描写はなかった。

だというのに彼は学校に通い、友人がいて(これはスピンオフで判明されていたが)、ゲームセンターなんかに来ている。

 

そして何よりそのことに違和感は感じなかった。まるでそれが当たり前のように、常識のようにストンと頭に記憶される。違和感がないという違和感。

 

世界の辻褄が無理やり作られている。そんな違和感。

 

ここの人々は生きている、意識がある、生活がある、人生がある。何を食べて、何を着て、何を好んで、何を嫌うか。

人生には原作にない描写が必要で、人を人たらしめるため、空白の設定にそれらしい辻褄を合わせていく。

そんなふうにしか考えられなかった。

 

「にしても、なんであの時俺を心配したんだ?」

 

「どのとき?」

 

カチャカチャと音を立て店員が二人分の紅茶とチーズケーキ、モンブランを持ってくる。

甘い香り。

しっとりとした表面にフォークを刺して、戸惑いなく口に入れた。

綺麗な色をしたそれらはどれも美味しく、この緊迫感が遠のくほどの甘さをしていた。

 

「さっきのこと。押し倒しちまったとき。罵詈雑言は覚悟してたんだがな、なんも言わねぇから拍子抜けしちまって」

 

んー、と喉で返事をし、チーズケーキを咀嚼する。どこにでもあるチーズケーキ、甘酸っぱいラズベリーソースを絡めると、また違う味が楽しめて面白い。

 

「目の前に転んだ可愛い男の子がいるんよ?心配しないわけないじゃん?」

 

甘さが頬を緩ませて、つい本音が零れた。

というより、別に言ってしまって構わないと判断した。

 

本当にそうなんだから。

 

見た目は高校生でも、実年齢は享年プラス現在の年齢。

単純計算でアラフォーである。

とはいえ人の精神は肉体に引っ張られるためか、実際の精神年齢はあの頃と変わらない。

 

それでも姉で、元々大学院生で、数日後に新社会人になる予定だった女だ。

男子高校生ごときに押し倒されようと、痴漢されようと、何も思わない。

 

(まぁ、元々あんまりそういうの気にならない人だけど)

 

しかしそれに納得する男子高校生ではない。

ここでは圧倒的に、天羽のほうが間違っていた。

 

「俺は可愛い男の子じゃねぇ、男だ。それを言うなら女である自分の心配をしろ」

 

「あたしは大丈夫だから、心配しないで?」

 

「誰もテメェの事なんざ心配してねぇよ」

 

ぶっきらぼうに言い放ち、そっぽを向く。

その一連の動作に見覚えがあった。

 

「ありがとう、心配してくれて。お姉ちゃんは丈夫だから、心配しなくてもダイジョーブ!」

 

大好きな妹。この命と同じ、それ以上の価値がある家族。

彼女は恥ずかしがり屋だった。

感謝の言葉はいつも背伸びをしていて。

心配の言葉はいつも棘がついていて。

 

その照れ隠しが、くすぐったい。

 

「お姉ちゃんって、お前年下だろ……」

 

「垣根くん弟っぽいからさ」

 

「は?」

 

「うちの妹そっくり」

 

この感情が伝える。

彼は別に悪党ではないんじゃないと。

 

近い未来、一人の少女を救うために奮闘する彼が。

誰かのために天秤を動かせる彼が。

悪逆非道で死ぬべき人間とは思えなかった。

 

自分の信念の元で誰かを救おうと一生懸命その手で必死に光を掴もうとした頑張り屋の少年。

そして、物語故に光を掴めなかった不幸な少年。

救うべき人。

 

傷ついたまま最期を迎える彼の物語を認めない。認めたくなんかない。

たとえ(フィクション)の世界でも誰かが救いを求めるのなら、救ってみせる。

あたしはあたしの正義を貫く。

 

彼女は傲慢だ。

 

救わなくてはいけない。

赦さなくてはならない。

彼女の行動原理。神に成り代わったかのように傲慢で、慈悲深い。

光そのもの。けれどまがい物。

 

ハッピーエンドを愛する怪物。

 

「何が妹だよ。馬鹿らし」

 

「あんたに比べたら馬鹿だろうね、第二位くん」

 

「……そりゃあそうだろ」

 

奇妙な沈黙がしばしの間通り過ぎる。時間を伝えるアラーム音が響くまで。

 

「ごめん、そろそろバイト行かないとマズイ」

 

もうそろそろバイトが始まる時間。チャイム音を鳴らすスマホをカバンの中に収めると、焦ったように天羽は立ちあがる。

 

ここまで長居するなんて思ってもいなかった。

雇い主の先生になんと言われるか気にしながらテーブルに一万円札一枚を置いてドアへと向かう。

だというのに、足が動かなかった。

 

「──待て」

 

「はい?」

 

偶然が必然か、彼女の光を求める少年がここにいた。

 

腕を掴まれ、足が止まる。その手が何を意味しているのか、最初は分からなかった。

だが察しがいい彼女は気がつく。

 

「わ、悪い。無意識に」

 

「ううん、あたしも忘れてた!これ連絡先ね」

 

別の意味で。

 

重い鞄の中からメモ帳とペンを取り出し、メールアドレスをさらさらと書き記す。

掴まれた手に触れ、切り取ったメモを握らせると優しい微笑みを返した。

 

彼とはまた会う。確実に。絶対。

だって救うべき人だもの。

 

「……連絡には期待すんなよ?こう見えても忙しいからな」

 

「ふふ、()()()()。じゃあね、奢ってくれてありがとう。また遊ぼうね!」

 

傲慢な少女の微笑みに垣根は少しばかり驚いて、メモを握りしめる。

そのままバイト先まで小走りで向かう彼女の背を見つめ、少年は冷たい笑みを浮かべていた。

 

少女の失言と、手の中に収めた小さなメモをしまい込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が走り去ったすぐ後のこと。

 

「なんで垣根ばっかりっ!顔か!顔なのか!くそぉぉ」

 

「なぜ!こんなにも!人間とは不公平なのだろうか!!!」

 

垣根の友人たちはそれぞれの思いを叫びながら頭を抱えていた。




ということで、この物語の主人公二人が出会うことになりました。
天羽彗糸ちゃんと垣根帝督のコンビです。あくまでもバディ物です。たぶん。今の所は。

簡単なプロフィールをば
天羽彗糸ちゃん
これで「あもう けいと」と読みます。
みんな毛糸のイントネーションで呼ぶので悲しんでます。ぴえん。
173cmで女の子にしては高いです。24歳のころは176cmありました。
全人類のお姉ちゃん

見た目と性格が似てるお二人です。
ヤンキーみたいな見た目だけど、両者ともその力で自らの正義をなそうとしてる。
片方は悪として人を救おうと、片方は善として。

善と悪が交差するとき物語は始まる、かも?
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