とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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この世界の垣根くんは出席日数を気にしてくれる仲の良い友達がいるという点を考慮して彼の表世界の振る舞いを考えているので、原作と比べるとかなり差異があります。


2話:顔合わせ

授業中、とある少年により恐る恐るとスライド式のドアが開かれる。

もう既に授業が開始しており、昼休みに近い午前。遅刻者の登場が授業者の声を止めた。

 

「お、おはようございまーす……」

 

夏休みが近づき始め、みんな浮き足立ち始める七月の頭。

クーラーのよく効いた教室は少年の登場でより一層の冷える。空気がしんと、静まり返っていた。

 

「上条ちゃん!また遅刻ですか!?」

 

背の低い少女―いや幼女と呼ぶべきか―は遅れて教室に入ってきたツンツン髪の少年に目をつけ、その可愛らしい顔を膨らませる。

教員である彼女は、遅刻者に対して厳しくなくてはならない。たとえ相手がどんなに不幸で、運がなく、今日も財布と家の鍵を無くして家宅捜索をしていた少年だとしても。

 

「カミやん!今日はどんな不幸だったのかにゃー?」

 

「どうせ女の子相手にフラグ立ててきたんやろ!?そうなんやろ!?」

 

金髪グラサンのいかにも怪しい少年と、青い髪にピアスが特徴的な男子生徒二人、途中参戦してきた少年にからかいの言葉を投げかける。

とぼとぼと教室の窓側にある自身の席へ向かう彼に、そのからかいを交わす余裕などなかった。

 

「はぁ……土御門、不幸と決めつけるな。青髪ピアス、フラグはない!」

 

少年の名前は上条当麻。

この世界の主人公。

そして、前の席に座る少女の妹が好きだったキャラクター。

 

「上条くんおっつ〜。そんで今日は何があった感じなん?」

 

金髪を振り払って後ろを向くと、上条の気だるげそうな顔は少し難しい顔をする

そんな顔はいつもの事で、不幸を起こす度に彼女はちょっかいをかけていた。

 

というのも、彼の不幸は物語の起因となることが圧倒的に多いためだ。

彼は主人公であり、この世界を動かす超重要人物。彼が起こす行動は逐一知らなくてはならない。

知らずのうちに物語が進み、部外者になっているなんて、考えたくもなかった。

 

なのでこれは友情から起こる会話でも、心配でもなく、ただの誘導。

お前余計なことしてねぇよな?ヒロインと会ってないよな?

という余計なお世話とも言わんばかりの誘導尋問。彼に対しての好感とはその程度だった。

 

彼は必ず幸せになる。どんな結末になろうと。

彼は主人公だから。

 

そう思うと興味が薄れる。

アニメを流し見した時より好青年で、良い奴で、クラスメイトとしてはこれからも仲良くしたい。(もちろん打算もあるが)

 

ただ友情かどうか聞かれたら少し言い淀んでしまう。

 

天羽彗糸にとって彼女のするべきことは彼の救いの手から零れ落ちた不幸な子供たちの救出であり、不幸を嘆く幸運な少年をサポートすることでは無いのだから。

 

「いやぁ、それがですね?財布と家の鍵を落としてしまいまして……」

 

「マ?やばたにえんじゃん!さすが不幸のプロって感じ?」

 

「上条さんには天羽さんが何を言ってるのか一ミリも分からん分からない分かりかねます三段活用っ!」

 

「三段活用関係なくね?上条くんまじウケるんすけど」

 

わざと馬鹿みたいな口調で上条に話しかけるもぐったりしている彼にツッコまれることはなく。

 

明るく元気で馬鹿な少女。それでいてたまに鋭い指摘をする。

脈絡もなく、情報を聞き出すのにうってつけなのは馬鹿を演じること。

長年アメリカの大学で媚びを売ってテストの情報を集めていた甲斐が有る。

 

「だめですよ!授業中に喋っちゃ!天羽ちゃんは一応優秀なので大抵の事は大目に見ますけど、上条ちゃんの邪魔だけはしちゃダメですっ!」

 

「はぁ〜い」

 

「小萌せんせーに怒られちゃったね〜」

 

「だいたいお前のせいだろ」

 

「あと遅刻もメッ!ですよ!」

 

担任の言葉に素直に従い、黒板のほうに姿勢を正して授業に戻る。

しかし、目線は机の下。正しく言えば机の下で握ったスマホである。

 

メールアプリの受信ボックスをくるくると回して、メールが増えてないかの確認。

相手はついこの間出会った彼。

メールを送信してからしばらく経つが、返信が来ない。

 

「あ、そうそう上条ちゃん、放課後残ってくださいね?遅刻した分とこの間の宿題未提出のことでお話があります!」

 

逃げちゃダメですよ?と付け足した小萌先生の笑顔には誰一人逆らえないとこの教室の生徒たちは理解していた。生徒たち全員が一斉に上条くんのほうに目を向けると、そこにはプルプルと身体を震わせた不幸な少年が立っていた。

 

「……ふ、ふ、不幸だぁー!!」

 

その言葉と同じ時刻。音もなく受信ボックスに新着メールのアイコンが表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、あれは傑作だったにゃー」

 

「自業自得やな、遅刻したカミやんが悪い」

 

「仕方ないだろー?財布も鍵もなかったんだから……」

 

今朝の一悶着から数時間が過ぎ去り、あっという間に下校時間。

職員室に呼び出され、担任の長い生徒指導を聞いていたら、いつもより遅めの帰り道となった。

仲の良い三人組は、仲良く列になって道を往く。科学の発展したこの街は、日が傾く時間だというのに賑わっていて、あちらこちら人で溢れかえっていた。

 

「にしてもカミやんはええなぁ」

 

わざとらしく大きなため息をつくと、青い髪の少年は何故か恨めしげに上条の顔を見つめ、不貞腐れる。

わざとらしいその動と口調に、友人としての勘が告げていた。ろくな話ではないと。

 

「ん?何がだ?」

 

「やって、あの天羽彗糸様に懐かれとるやんか!」

 

突然でてきたクラスメイトの名にしばし驚くと、目の前の赤信号で足を止める。

いちいち背が高くて呑気な男だ。

男子高校生らしい話題に尽きず、楽しいやつだが、この話題は嬉しくない。

というのも、上条当麻はこの女を好きでなかったからだ。

 

「あれ絶対カミやんのこと好きやろ!あー、なんでカミやんばっかり!」

 

「そうかにゃー?天羽はカミやんに哀れみに近い感情を抱いてる気がするぞ?」

 

「え、上条さん知らない間に天羽に同情されてたわけでせう……?」

 

天羽彗糸。

入学当初から仲良くしている女子生徒。

 

彼女はエリートである。

あの馬鹿な話し方も、立ち振る舞いも、演技であると上条は気づいていた。

いつもは鈍感な上条だが、彼女の嫌な目線には何故かすぐに気がついた。それも、かなり早く。

 

だっておかしな話だった。

誰にだって人当たりがよく、見てくれもそれなりで、派手好きなギャルで、成績は言うまでもない少女が、不幸ばかりの男に興味を引かれるなんて。

 

「そりゃあ不幸人間カミやんだからぜよ」

 

「そう言われてもなぁ、天羽は俺に興味無いだろうし」

 

そもそも、あんま好きじゃねぇし。

 

「上条くん!」

 

なんて、心の奥底で唱えると底抜けに明るい声が、赤信号の向こう側、反対の歩道から響く。

 

「奇遇だねー!」

 

夕焼けに照らされた金色。その隣には少し深い茶色の髪が揺れる。

すらっとした、端正な顔の青年だった。

 

「……誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

聞こえるのは草木の揺れる音だけ。

誰も口を開かず、居心地の悪い空気の中、彼女は能天気に笑顔を作る。

 

「こちらが垣根帝督くんで、こっちが上条当麻くんと愉快な仲間、土御門元春くん、

青髪ピアスくん」

 

眉ひとつ動かさず、いつもの調子で、いつも笑顔で紹介する天羽に対して、男性陣は静まり返っていた。

 

場所を変え寄り道脇道、近くの公園でベンチに腰をかけて、少年少女らはしばし言葉を交わす。

ゴシップ好きな友人二人が言い出したものの、茶髪の少年、垣根帝督の鋭い眼光に気圧され、機嫌を伺うように天羽に視線を向けていた。

 

「垣根帝督って言うたら、あの超能力者の?」

 

「よく知ってんねー、そうだよん」

 

「……有名だからな、名前だけは」

 

彼は学園都市の頂点に君臨する七人の一人。上から二番目の男である。

エリート中のエリート。

そんな男を前にして成績不振、落第寸前、遅刻常習犯の上条は何も言えず。

 

「いつの間にそんな有名人とお近付きに……」

 

「上条くんも似たようなものでしょ?」

 

「それは……」

 

大物に恐れおののいてつい震えた声をだすと、天羽はにっこりと、とある知り合いを引き合いに出す。

 

確かに、彼女の言うとおり超能力者の知り合いは別にいるが、それはあちらさんが挑んでくるだけで、彼女のそれとは話が違う。

 

人脈というか、なんというか。この少女は色々なところに知り合いがいた。

彼女の人柄なら当然だろうが、それにしたって有名どころや高名な人と知り合うのは並の幸運ではありえない。

 

顔に、体に、性格に、才能に、幸運に恵まれた、人生イージーモードの完璧超人。

そういうところも好かなかった。

 

「お前なら超能力者全員と友達になれそうだよな。全員気難しいって話だけど」

 

「確かに。入学式じゃ全員と友達になる勢いで話しかけてたもんにゃー」

 

「無理なのは素性のわかっとらん第六位くらいか。どないやっちゃね?」

 

話は変わり、すっかり目の前の超能力者に興味をなくした友人らは別のゴシップを口にする。

学園都市の超能力者なんて、噂や都市伝説好きの子供らにとっては格好のゴシップネタだった。

 

もし自分が超能力者だったら、付き合うなら。そういった妄想ばかりのつまらない話題から、どんな能力者で、どんなやつか、なんて個人情報まで。名前が轟いている現状、話題にされることが多い。

 

その中でも第六位は多くの謎があった。

名前も能力も、何もかもが開示されていない。

 

だからこの場にいる誰も、その名を呼ぶことは無かった。

 

「──藍花悦」

 

そう思われた。

 

「藍花悦?」

 

「第六位の名前だ。人づてに聞いた話だがな」

 

知らない名前を垣根は読み上げるように呟く。

 

「能力は疎か、見た目、性別、年齢……その何もかもが見当たらねぇ」

 

「見当たらない?」

 

「なーんか昔はテレビや新聞で引っ張りだこだったらしいがな。その映像も新聞のページも何も見つからないんだと 」

 

「ふーん」

 

どんなやつだろうな。

 

そう言いかけた瞬間だった。

けたたましいアラーム音が静寂のなか鳴り響く。公園のベンチで鳴るアラームは、家で聞くよりうるさかった。

 

「あ、ごめん。バイトだ」

 

「おー、さすがバイト戦士。昨日もバイトじゃなかったか?」

 

聞きなれたアラーム音をスマホの持ち主がとめると、焦ったようにカバンを掴む。

スマホで揺れるストラップは新しいもののようで、夕焼けを反射してキラキラと輝いていた。

 

「まーね。あとは男性陣だけで楽しんでて!」

 

重そうなカバンを肩にかけて背を向ける。髪に、アクセサリーに、バッグチャームを揺らして急いで駆けていく彼女の姿を見送って、男子四人、また静寂に包まれる。

 

「ほんとバイト狂だよなぁ。うちの学校選んだのもバイト先が近いからって話だぜ」

 

「激務のブラックだし、しょーがないぜい」

 

「前働いてるとこ見たんけど、めちゃくちゃエロかったで。さすが天使様や」

 

毎日忙しく働く彼女は、遅刻にはとりわけ厳しい。だいたい同じ時間帯にアラームをかけて、仕事へ向かっていた。

とはいうものの、今日は少し早めだったが。

 

大変だろうに。金がなくとも、さすがに週七日間は働けない。

その献身さも、なんだか嘘っぽくって彼女を好きになれなかった。本心からだとしても、あまりにも善人すぎて不気味だ。

とはいえ、そんなことを言ってはボコボコにされるのがオチ。ただ彼女が消えた道の向こうをぼんやりと見つめていた。

 

そんな中、一人だけ怪訝な顔をしてその道を見つめる人が居た。

 

「激務って、何のバイトだよ」

 

「知らねぇの?」

 

「知るわけねぇだろ。ウェイトレスか何かじゃねーの」

 

少しだけバカにした目で、垣根は少女の辿った道を追う。

どうやら彼女のことを何も知らないよう。仲が良さそうに見えた故に、少しばかり驚いた。

 

「天羽は看護師だぜい?」

 

そしてその驚きは更に大きくなる。

 

「能力も相まって、医者の方から務めてくれって言われたって話やったけねー?」

 

「冥土返しんとこな」

 

「いやいや、看護師って国家資格だろ……高校生な上あんなちゃらんぽらんなやつがなんでまた……」

 

「ちゃらんぽらんって、垣根なんも知らねぇんだな」

 

少しばかりの動揺を見せて、垣根は口を噤む。

 

「大能力者だぜ、あいつ」

 

なんてことない事実だというのに、垣根の顔は酷く驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危なかった。

 

スマホの画面に映る時計アプリ。本来鳴るはずのアラームは、一時間後に設定されている。

 

(演技力でカバー出来ても、あれ以上探られるとボロが出そうだしね)

 

わざわざ手動で鳴らしたタイマーが上手くいったと、少し上機嫌に帰路につく。

バイト先に向かうのは本当のこと、別に嘘は付いていない。そもそも職場が家のようなもの、何も疑われまい。

 

(つっても、垣根くんには色々バレそうだけど。あの子たち全部喋っちゃうから)

 

今日のことは誤算だった。

昼頃送られた垣根からの呼び出しメール。合流して帰るぞというタイミングで上条たちとの遭遇。

運があるのかないのか。

 

(垣根くんが上条くんと仲良くなるのはプラン通りだけど、土御門が鬼門かな?何とかなるようにするしかない)

 

計画的には早かったが、主人公と合流出来たので良しとしよう。

生存確率が上がる。

 

(あとは自分の問題か)

 

歩道橋の中腹。足を止めると手に持ったスマホに目線を落とした。

そこにあるのは新品のストラップ。

 

今日、垣根が彼女を呼んだのはこのため。

ずいっと言葉も発さずに押し付けてきたのは可愛らしいピンクと蛍光グリーンのスマホストラップ。

巨大なリボンがついたそれはこの間ネットで見かけたお高いブランドのロゴが付いていた。

 

(盗聴器か、爆弾か、あるいは両方か)

 

お詫びと称して持ってきた可愛らしいプレゼントは、どこからどう見ても罠にしかみえない。

 

(他人と話す時も気をつけないと)

 

でないと、全てが崩れてしまう。

 

なんだか嫌な予感がする。

橋の上、落ちる太陽が目が潰れてしまうほど眩しくて、少し怖かった。

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