とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

5 / 162
短い気がする


七月
3話:夏休み


夏休みが始まった。

子供たちは自由に遊び、宿題のことなんて忘れて、楽しく駆け回る。そんな七月二十日。

 

「お前、大能力者(レベル4)なんだって?」

 

「それがどうかしたの?」

 

どうやら目の前の男に気に入られたようで、天羽彗糸は再び彼からのメールで呼び出されていた。

面倒なことこの上なかったが、彼は大切な守るべき人、無下に断る事は決してなかった。

 

「教えてくれたっていいじゃないか。少し驚いたぞ」

 

「別に聞かれてないしね。要件はそれだけ?」

 

自販機で買った棒付きアイスをかじって、不服そうに頬を膨らませる。

彼に疑いの目を向けられていたのは知っていたが、書庫をハッキングすれば簡単にわかることでいちいち呼び出されるのは癪だった。

 

「それだけじゃねぇよ。つーか用がないと話もしちゃなんねぇのか?」

 

「暇なの?垣根くんって。それくらいメールで終わらせればいいじゃん。それか調べなよ、すぐ出てくるよ」

 

「ああ言えばこう言う。そりゃ調べたけどよ、気になってな。どんなもんかと思って」

 

疑り深いのも一苦労だ。

 

尽きない垣根の好奇心にため息をつくと、ポケットに忍ばせたスマホが二回小刻みに震えた。

今度はバイト先からの連絡。夏休みも、彼女は働いてばかり。

休みのない仕事はやりがいはあれど、新鮮はない。目の前の疑り深い少年にもう一度視線を移すと、少し考えるそぶりをして、そしてひらめいた。

 

「なら、使ってるとこ、見てみる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七学区にある総合病院。彼女の雇い主、および父親代わりである医者は、どこか他人事のように仕事にやって来た少女と少年に告げる。

髪をくくって染髪を隠し、ピンク色のナース服を着ている彼女は、どこからどう見ても、立派な看護師。

のこのこと付いて来た垣根は、その姿に驚きしかなかった。そもそも看護師という話も信じていなかった。

しかし、それを天羽が知る由もなく、話は進む。

 

「派遣?」

 

「そうだね?」

 

「なにかあったんです?」

 

いつもつけているピアスも、ネックレスも、チョーカーも、指輪も、ブレスレットもなにひとつなく、質素。

と本人は思っているが、実際はいつも通り派手な顔と髪色のせいか、地味な印象はなく看護師と呼ぶには華やかすぎる。

そのせいか様々な病院で名前が知れ渡っているが、本人にとっては些細なことだった。

 

虚空爆破事件(グラビトン)、って知ってるかい?」

 

「あー、あの連続爆破事件か」

 

カエル顔の医者、ニックネームは冥土帰し。彼は声色も変えず、淡々と、事務的につい先日起きた事件の名前を口にした。

 

虚空爆破事件(グラビトン)

一昨日犯人が捕まったことにより収束した連続爆破事件のことで、コンビニやセブンスミスト、様々な場所が規則性なく爆破された事件。

彼女たちの知らぬところでめでたく風紀委員と超電磁砲、不幸な少年の手によって幕を下ろした。

 

とはいえ彗糸に関してはこのことを隅々まで知っている。

この話は超電磁砲に元からある事件のひとつ、話の流れも、犯人も、結果も知っていた。

知らなかったのは日にちだけ。

 

彼女は別にこの作品の熱狂的なファンではなく、一読者であり、一視聴者。しかも十年も前に倍速とウィキペディアの情報しかない。

大きな出来事、それも本編に関わることしかあまり覚えていない。逆にそれだけでも覚えている方がすごいだろうと、褒めてもらいたいくらいだった。

 

「その犯人の学生が昏睡状態に陥った」

 

「ふーん?」

 

「それであたしに向かって欲しいと?」

 

「そういう事だね?似たような症例が沢山来てあっちも参ってるみたいだ。ということで、これがあちらから送られてきたカルテと病院の場所。よろしく頼むね?」

 

人使いが荒い医者はカルテをダウンロードしたタブレット端末を天羽に手渡すと、にっこりと微笑む。終わったらそのまま帰りなさい、と一言付け加えて。

 

「りょーかいしましたー。んじゃま、職員ロッカーからスマホ取りに行くから、先ロータリー行っててよ」

 

「早くしろよ」

 

「もちろん」

 

垣根は面倒くさそうに部屋から出て行くと、しばらく部屋が静かになる。どうやら言葉通り、エレベーターへ向かったようで、すぐに彼の気配はしなくなった。

能力を教えてあげるといったのが、効果的だったのか。なんだか素直だった。

 

「君が友達を紹介するなんて、初めてじゃないかね?」

 

彼と同じようにドアノブに手をかけると、冥土帰しに呼び止められる。

短いやり取り、何気ない会話。その光景は冥土返しには物珍しいようで、悪戯好きな少年のように言葉を続ける。

 

「友達じゃない」

 

「十歳の君をアメリカの大学からわざわざ受け入れた時とは変わったね?学園都市に来た時とはエライ違いだ」

 

「そんな昔のこと引き合いに出されても」

 

「六年前は昔かね?大学で黙々と研究していたあの頃とは、見た目も変わったじゃないか」

 

昔話に花を咲かせ、冥土帰しは古いカルテを鍵付きの棚から抜き取る。

一番最初のページ、五十音順の一番最初。彼女専用のバインダー。

藍花悦の名前が記されたそのページには、十歳前後の少女が写っていた。

 

「懐かしいかね?あの頃の君は愛想はあっても大人びてて、テレビや新聞に引っ張りだこで」

 

ページをめくっていく。分厚いバインダーには新聞や雑誌のスクラップが所狭しと張ってあり、そのどれにも、黒髪黒目、藍色青色似合う清楚でミステリアスな子供。

書かれてある見出しも、天才少女やら、飛び級やら、いまの天羽とはかけ離れた話題ばかり。

 

これがこの世界での藍花悦のキャラ付けだった。

大学に飛び級、医学を専攻し、学園都市へ。

自分自身、天羽彗糸自身の歴史をなぞって、ここまでたどり着いた。

 

「僕としては、黒髪だった頃の方がよかったかな?いまの君は、病院で働くには眩しすぎる」

 

「あたしはもともとこの色だもん。戸籍を分ける以上、姿は二つないと困るし」

 

「君のわがままには困ったもんだね?それ、面倒だったんだよ?手続き」

 

「だから働いてんじゃん、対価はちゃんと払ってるつもりだよ」

 

その時に協力を得たのがこの医者だった。戸籍も住む場所も、能力と働きを対価に与えてもらった。

ずっと前からよくして貰っている。

だから彼が心配する気持ちも分かってはいた。姉として、心配する側に立っていたから。

 

「でも、まさか友達ができるとは?しかも第二位なんて、思いもよらなかったね?」

 

「だから友達じゃないって──」

 

「打ち明けないのかい?君が六位ということを」

 

しんと、部屋が一気に静まり返る。

スマホは別の病棟の職員ロッカーの中、盗聴の心配はない。それでも、その名前を声に出されると緊張が走る。

 

忌々しい名前だ。

 

天羽彗糸を隠れ蓑として、この世界の藍花悦は生きている。

その事実が気に食わない。まるで天羽彗糸が偽物だと突きつけられていて、喉元を掻き切るほと鋭くて、怖い。

 

「……いいの。そっちのぼくは、別に役割があるんですから」

 

「そうかい?藍花くん、君は無茶ばかりだから心配なんだがね?」

 

「ご忠告どうも!それでも、あたしは止めらんないんで!」

 

幸いそれを知っているのはこの医者だけ。

そして口の硬いこの男には信頼を置いていた。たとえこの都市の統括者と通じ合っていると知っていても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターで下へ降り、関係者出入口へ。言われた通りロータリーでしばらく待っていると、明るい金髪が駐車場から間抜けな声でやってくる。

 

「お待たせ」

 

「遅い」

 

ノロノロとやってきたのは金髪頭と蛍光グリーンのバイク。

小型で女性でも乗りやすいが、イカついく、デザイン的には女性にやや不人気なモデル。べたべたとボディにはこれでもかとシールが貼られ、所有権が主張されている。

 

派手な頭に派手な顔ときたら、今度は派手なバイク。

一人ネオン街のような鮮やかさをしている彼女の姿がちかちかして目に悪い。

 

「バイク?」

 

「そ、かわいいっしょ?」

 

年相応の笑顔で、少女はヘルメットを手渡す。

同じようにベタベタとダイカットシールやラメが貼られたスペア。彼女の少女趣味が垣間見えて少しゾワゾワする。

しかも自分自身は黒いフルフェイスを付けるときた。

 

「お前が運転すんの?」

 

「そりゃああたしの私物だし」

 

「免許は?」

 

「もってるよ!一応四月生まれだからもう十六歳なの」

 

ものすごく嫌な感情がぐずぐずと心の底から湧き上がる。理由はごく単純だ。

 

年下の、ちゃらんぽらんの、バカの、運転。

 

不安しか垣根の中になかった。自分自身も運転技術がある故か、彼女の後ろに座る気にはなれない。

そもそも、運転出来るのにバイクの後ろに乗るは格好悪いというのが垣根の持論である。

ゆえに、彼女の提案にイエスはいえなかった。

 

「貸せ。俺が運転する」

 

「え?」

 

「早くしろ」

 

「あの、あたしのバイク……」

 

彼女が頭にはめていたヘルメットを抜き取って交換。彼女の頭にヘルメットを無造作に乗っけて、そのままの流れで鍵を奪ってバイクに跨る。

手馴れているのがスムーズにエンジンを付けると、バイクが大きく振動し始めた。

 

(ぜってぇこの女の後ろなんか乗るかよ)

 

固い意思で垣根はバイクのハンドルを握る。この席を譲る気はさらさらない。

何を言われても、立ち上がるつもりはなかった。

 

しかし、意に反して天羽は咎めることは無かった。

 

「……もー、まったく。わがまま言っていいのはお姉ちゃんにだけだからねー?」

 

「誰がお姉ちゃんだ、年下」

 

腹立たしい慈愛の目線が突き刺さる。本心からお姉ちゃんぶる彼女に嫌悪感しか無い。

彼女に被せたヘルメットを直してやると、垣根はため息をついた。

 

すっとぼける彼女を後ろに乗せてバイクは走り出す。

お姉ちゃんなんて、お前には無理だろ。なんて悪態を心の中でつきながら。

 

 

 

 

そして彼女の案内のもと到着したのは、大きな総合病院。

受付に話を通すと、案内されたのは奥の病棟。看護師の話し声と、病室のテレビから聞こえるバラエティーショー。ひどく冷たく、静か。

 

「初めまして、天羽彗糸です。本日依頼があって派遣された──」

 

「あぁ、あなたが。話は伺ってるよ……そちらは?」

 

冷たい廊下の先、待機していた医者は天羽を一瞥すると、垣根に怪訝なそうな目線を向ける。

そりゃあそうだ。

垣根はそもそも部外者であり、お呼びではない客人。突然の訪問は誰だって困る。

そう納得したものの、短気な垣根にはその視線は腹立たしいだけのものだった。

 

「彼は我々の病院に善意で協力をしてくれている超能力者(レベル5)のお一人です。前もって御相談せずにお連れしたことはお詫び申し上げます。彼も病室へ連れて行ってもよろしいでしょうか?」

 

「あ、あぁ、構わないが……」

 

「どーも」

 

しかしその視線を遮るように天羽は一歩前に踏み出した。適当な理由を早口で、大声で並べると、気の弱そう(というより疲れ果てているといった方が近い)な医者は言葉を濁してつい道を譲る。

見た目に反してまともに目上の人間と話せるらしい。風貌とのギャップに内心笑ってしまう。

 

「お前、敬語使えるんだな」

 

「そりゃーTPOくらい弁えるっつーの……」

 

「そんな言葉がお前の口から出るとは。明日は土砂降りだな」

 

コツコツと足音を響かせながら病室に向かう。

道中でタブレットからカルテを確認する彼女に嫌味を小さくいうと、少しだけ眉間にシワを寄せてそっぽを向かれる。

同年代の女子生徒をプライベートで相手にするのはほぼ初めて。だから彼女の言動は新鮮で、からかうのが楽しかった。

 

「こちらです」

 

案内された先にあった病室の扉を開け、中に入るとそこには髪が伸びている少年が横たわっていた。少年を囲む看護師や他の医者は、天羽を認識すると道を開ける。

疲れきった寝顔を晒す意識のない少年は、この間の連続爆破事件の犯人。人を殺しかけておいて、優しい医療に救われるだなんてお笑いだ。

少し腹立たしい。

覚悟を決めて、全てを犠牲にしてまで成し遂げたいことがあったのなら、救済されるより死んだ方がマシだろうに。

 

「彼女が例の大能力者(レベル4)……」

 

「ええ。どんな傷でも直す奇跡」

 

「……肉体支配(リカバライザー)

 

医者たちが見守る中、垣根は小さくその異能を呟いた。

 

首から下げる名札には、可愛いシールと、丸っこい名前と、肉体干渉能力保持特別医療従事者の文字列。

横たわる少年の額に手を置いて深呼吸する彼女は正真正銘の、垣根とは違う意味でのエリート。

 

彼女は他者の傷や怪我を治癒できる。

精神への干渉はよく見聞きするが、他人の肉体への干渉、それも高強度(レベル)のものは珍しい。

それは単純に、傷の再生とは様々な要因が噛み合ってくるためだ。

血、水、細胞、栄養。操るものは一つではない。そうなると演算は複雑になり、重くなる。

それを可能にするにはある程度の()()は必要で、自ずと使い手も少ない計算になる。

 

もしこの能力が超能力者(レベル5)の域まで到達したら、いったいどのようになるのか。

どんな傷も、どんな病も治せたら、それは不老不死と同じだ。考えるだけで少しおぞましい。

 

「外傷、脳内物質にホルモン、血液、神経。どれも異常無し」

 

しばらくして、ベッドから立ち上がると天羽は小さく首をふった。

 

「なにか、手がかりは?」

 

「強いていうなら、脳内電気活動の異常が観測出来ました。脳波の測定をするのをオススメします」

 

「君の能力でなんとかできないのか」

 

「たしかに私の能力なら精神的な損傷も治せないわけではありませんが、この場合だと()()()では手も足も出ません」

 

どこか冷めた目で少年を見下ろすと、タブレットにバイタルを記入して医者に手渡す。手慣れているところをみるに、彼女はずっとこのようなバイトをしてきたのだろう。

勝手に期待されて、勝手に落胆される。

なんともかわいそうなことか。

 

「……わかりました。ご協力感謝します」

 

医者の暗い顔がさらに暗くなる。犯罪者とはいえ、患者を見殺しにするのは話が違うのだろう。

面倒な職業なことで。

 

そのまま暗い空気を漂わせながら病室を出ると、軽やかな足音が院内に響く。

足音から察するに、軽くて若い女。気になって音の方向に視線を向けると、明るい髪色をした少女二人が走ってくるのが視界に写り込んだ。

 

風紀委員(ジャッジメント)の白井です。様態は?」

 

「最善は尽くしていますが、以前意識を取り戻す様子は……」

 

綺麗な髪を高い位置で二つ結んだ小柄な少女と、明るい茶髪の背の高い──といっても天羽ほどではないが──少女が二人、不安そうに医者に話しかける。

名門女子中学校の制服を着こなす少女二人。その片割れ、背が高めの女子中学生には見覚えがあった。

 

「ぁ、あの、私この前そいつの顔思いっきりぶん殴っちゃったんですけど」

 

「それなら大丈夫だよ、御坂ちゃん。頭部に損傷は無いから、アンタのせいじゃないよ」

 

常盤台の電撃娘。

七人の超能力者(レベル5)のうちの一人。

第三位、超電磁砲(レールガン)

御坂美琴である。

 

「天羽先輩!」

 

「久しぶり、元気してた?」

 

親しい友人に話しかけるように、天羽はにっこりと御坂美琴に笑顔を向ける。どうやら知り合いらしく、第三位は目を見開いて驚いていた。

 

「何、テメェの知り合い?」

 

「上条くん経由でね、ちょーっとだけ」

 

天羽は躊躇なく挨拶のハグをすると、ツインテールの少女がわなわなと怒りと嫉妬で肩を震わせる。

ハグをされた本人といえば、上条の名前に反応してか頬を紅くして少しばかり口数が減った。

 

恋か。

 

垣根にはこれっぽっちも縁がない感情。それでも恋をしている人間に気づけないほど鈍感でもなく、賢いなりに察しがいい。

顔見知りの恋愛話など死ぬほど興味がなかったが、それでも第三位があの男に恋をしているなんて面白くてしょうがない。

 

「と、とにかく!犯人の様子はどうなの?」

 

「どうって。彼に外傷は一切ないわ。御坂ちゃんが気にすることはないよ」

 

「でも脳波に少し異常があるんだろ?」

 

「電気活動に異常が見られる、の方が正しいかな。脳波って生き物の電気活動を電極によって読み取り記録したもので、脳波図が正式名称だから」

 

恥ずかしいのか、御坂は小さく腕を伸ばしてハグから脱出する。

彼女はこの事件に巻き込まれたのだろう。どこか焦っているようで、犯人のいる病室と天羽、そして傍にいる医者に視線を配っていた。

 

「でも一番異常なのは彼ではないのよ」

 

その視線が交わると、天羽は申し訳なさそうな顔をしてタブレットを覗く。医者も同様だった。

暗い顔の医療従事者二人、嫌な予感と呼ぶには露骨すぎる。

 

「実は、今週に入って同じ症状の患者が次々と運ばれてきていて……」

 

「同じ?」

 

そう言った医者の表情は酷くつらそうだった。医者として、人を救う者としての苛立ち、葛藤。

その後ろでは中学生二人が何やら思い当たる節があるのか険しい顔をしている。

 

「情けない話ですが、当院の施設とスタッフの手に余る事態ですので天羽さんを派遣させてもらったり、外部から大脳生理学の専門家を招きました」

 

医者の言葉と被さるように、低いパンプスが音を鳴らす。

薄暗い廊下の影から現れたのは、細身で、顔の整った、けれど少し不健康そうな白衣姿の女性。

 

「お待たせ致しました。水穂機構病院院長から招聘を受けました、木山春生です」

 

長い髪を揺らし、女は木山と名乗る。

その登場に誰もが口を閉ざす。

 

無垢な少女たちはその真剣な顔つきに緊張感を覚えて。

少年はその名前に少し眉を顰めて。

そして全てを知る少女白々しいその女に少しだけ笑ってしまうのを抑えるのがなんとも大変で。

 

誰も言葉を発せられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。陽が傾き、空が茜色に差し掛かる頃。冥土帰しは研究室のなかで電話を受けていた。

内容は、ついす時間前送り出した愛弟子(あるいは娘に近しい存在)のこと。

 

簡単にいえば、仕事は失敗に終わった。それだけ。

 

「まあ、そうだろうね?あの子では治せないさ」

 

だが差して驚くこともない。

結果はわかっていた。彼女の能力について書かれたバインダーを見つめながら、カエル顔の医者はため息をつく。

 

天羽彗糸の能力はあくまでも肉体の回復であり、精神への干渉はできない。

体内の電気信号や水分を操ればいいところまではいけるかもしれないが、彼女ではできない。

 

「あっちでは、違うだろうが」

 

天羽彗糸では。

 

「七人しかいない超能力者(レベル5)、序列六位」

 

彼女は大能力者(レベル4)ではない。

それを凌駕した力もつもの。

 

「名を不死者(アンデッド)

 

それは超能力者(レベル5)第六位の藍花悦の能力に付けられた識別名。

 

不死者(アンデッド)

 

彼女は永遠を手にした不死の生き物。そして、死を操るもの。

 

分泌されるホルモンの増減、筋肉の縮小増大、細胞の活性化と壊死、脳内信号の制御。

自分と、他人の肉体を構成する細胞、脳から送られる電気信号、神経、ホルモン、その全てを支配し、操る。

死んでも脳があれば生き返り、身体能力だって電気信号の制御と筋力の調整でなんとでもなる。

触れもせず、他者の生き死に干渉することだって容易い。死者の蘇生も、ゾンビも、クローンも、なんだって叶う。

 

それがこの能力の本質。

 

そしてこの能力は彼女との親和性が非常に高かった。

元々彼女は大学で生物物理学、つまり体の仕組みを研究していた。

体の細胞からなにもかも勉強し、研究し続けていた。

 

万能の力。それを彼女は持っていた。学園都市の上層部、冥土帰しの()()()()()()()も、それが欲しくて彼女を呼んだ。

けれど彼女はそれを隠す。

自身の素性を隠すため。能力の使用に制限を設けて、決して第六位とバレないように。

 

どうしてそんなことをしているのかは冥土帰しには分からなかった。

面倒ごとに巻き込まれたくないという気持ちは分かるが、ここまで用意周到に動く彼女の目的は誰一人として分からない。

 

「君は、何を企んでいるんだろうね?」

 

笑顔の裏で何を思考しているか分からない、唯一の弟子。

彼女は今頃何しているのか、脳の片隅で心配しながら彼はいつもの業務へと戻る。

 

新しくできた友人と仲良くできていることを祈りながら。




木山さん、好きだ……
けいとちゃんの演算は結構適当です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。