とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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リアルが忙しいので隔週更新になりそうです。12月後半には週2に戻るかと。


47話:厄介

歓声で賑わうスタジアム。観客が入り乱れる通路の手すりにもたれ掛かりフィールドを見渡すと、隣に立つ小さい少女が声を漏らす。

 

「凄かったね、天羽の学校」

 

「まぁ、上条くんがいるからねぇ……勝つ未来は見えていたというか」

 

初めての観戦が終わり、先程まで棒を倒すためにフィールドを走り回っていたクラスメイト達をキラキラとした目で見つめる杠の視線に複雑な感情を抱くと一人ため息を吐く。

誰かと何かをするなんて無理、協調性のない天羽には擦れた意見を言うことしか出来ない。子供に対してそんな物言いをするのもどうかと思うが、そんな言葉しか出なかった。

既に選手は退場し、次の種目の準備を始めるフィールドを背にして手すりに体重をかけると今度は彼女の擦れた発言に背の高い少年が反応する。

瓜二つの顔の少年二人が別々の表情を浮かべる姿はなんとも愉快で可愛いと言うべきか。

 

「まぁ上条盾にすれば何とかなりそうだもんな」

 

「代わりに上条くん過労死するだけだからね」

 

「とうまがどうしたって?」

 

瓜二つの少年の片割れ、垣根と一緒に不幸な少年の疲労を心配していると、突然目の前にどこからともなく白く小さい生き物がとび出てくる。

ヒラヒラとした白い布を被ったその人に思わず驚くと、彼女は笑顔をみせた。

 

「うぉ、びっくりした!」

 

「おや、貴女は……」

 

「やっほーけいと!ていとく!」

 

金で縁取られた白い修道服に、銀髪碧眼。この物語のヒロインであるインデックスが笑顔で前に立つ。

周りを見渡してみると、どうやら彼女一人きりのようで見慣れたつんつん髪の少年はいなかった。

 

「あ?インデックスじゃねーか」

 

「ねー、とうまどこにいるか知らない?」

 

そしてそのいない保護者はどうやら彼女の探している人物だったようで、首を可愛くこてんと傾げて見上げてくる。

SNSに蔓延る小動物の動画なんか目でもない可愛い顔に心が動かされると、垣根の隣に立つカブトムシ05に助けるよう目線を投げた。

 

「あー……05、見てあげて」

 

「彼なら学校の方かと思います。先程ナンバー138が目撃していました」

 

「だってさ」

 

間髪入れずに答えた05に感心しながらそのままインデックスに目を向けると、彼女は喜びながらも驚くような複雑な表情を浮かべる。

 

「ありがと……って、ていとくが二人いるんだよ!?」

 

「こんにちは、禁書目録。会うのは初めてですね」

 

「あー弟だ、弟。めんどくせぇからそれ以上は聞くな」

 

混乱しているのか垣根と05を見比べると、目を丸くしてぽかんと口を開けた。

確かに全く同じ顔の人間が並んで、しかも片方は色素が異常に薄いなんて普通の人ならば驚くだろう。

それに対して説明するのを面倒くさがった垣根は何も聞くなと釘を刺す。少し戸惑った様子のインデックスだったが、天羽と垣根の間にいる杠の小さい声に反応するといつの間にか話題は変わってしまった。

 

「垣根、誰……?」

 

「友人の同棲相手だ、仲良くしろよ?」

 

天羽と垣根の間に立つ杠は垣根のジャージの袖を掴んで困ったように眉を顰める。

それに答えるように杠より少しだけ背の高いインデックスは困惑する少女に笑顔を見せると、彼女の手を取って笑いかけた。

 

「私はインデックス!あなたは?」

 

「……林檎、杠林檎」

 

「よろしくね、りんご!」

 

「よろしく……?」

 

原作じゃ見ることの無かったシーンに少し目眩が起きそうになるが、ぐっと感情を堪える。

各作品ヒロインが仲良くしている。

例えそこまで愛着がなかったアニメの作品といえど、片方は死にゆく運命だったのだ。喜ばないはずがないだろう。

 

「ところでインデックス、こんな所で暇潰ししてねぇで愛しの上条のとこ行ってこいよ。多分アイツも探してるぞ」

 

「いえ、もう既にこちらに向かっているので、それは悪手かと」

 

ニコニコと四人の可愛らしい会話に耳を傾けていたが、05の言葉と同時に誰かのスニーカーを踏みしめる音が微かに耳に届くとすぐさま笑顔を封じてそちらへ顔を向ける。

キュッと靴を地面にこすり合せるその音の先には、クラスメイトの一人がポツンと携帯を握り締めて立っていた。つんつんと尖った黒髪に、同じような黒の瞳。

それがクラスメイトで、この世界の中心人物、上条当麻であることに気がつくのにそう時間はかからなかった。

 

「インデックス!ここに居たのか!」

 

「とうま!って、なんで涙目なの?」

 

インデックスの顔を認識するや否や、ぽかんと立っていた上条は何故か打たれたように赤く腫れた顔に涙を薄っすらと浮かべ迫ってくる。

その表情に疑問が尽きないインデックスは彼の心配そうな大声を無視してこてんと首を傾げた。

 

「よぉ、上条、インデックス放ったらかしでどーこ行ってたんだよ」

 

「お久しぶりです上条当麻」

 

言葉にならない怒りやら心配で頭を掻く上条に垣根たちが話しかけると、空気は一気に明るくなる。

やはり女子より同性同士の方が話しやすいのだろうか。明るい主人公と暗い─この場合は闇を知っているという意味だが─準主人公、波長は合わないはずなのに何故か仲良く見えた。

というより境遇や野望を考えると、垣根が仲良くしてやっているに近そうだが。

 

「垣根!それに垣根弟!久しぶりだな、二週間ぶりか?」

 

「その説はお世話になりました、保護対象が」

 

「05?喧嘩売ってるでしょ?」

 

挨拶もせずに彼らの会話をくだらない思考の外側で聞いていると突然話を振られ、思考が一気に引き戻される。突然とはいえ振られた話題に冗談交じりに返事をすると、それに05ではなく上条が眉を八の字にし、顔を顰めた。

 

「てか天羽、お前休みって聞いてたんだけど?」

 

「公欠」

 

「あぁ……なるほど」

 

彼の疑問に簡潔に答えると、彼は天羽の腕についた腕章を見て苦笑いを浮かべた。

 

そして腕章に向かっていた彼の視線は次に天羽と垣根の間に立つ少女に移る。

初めて会う幼い少女と目が合うと彼は何を妄想したのか胸を押さえて天羽に怪訝な顔を向けてきた。

 

「……天羽、隠し子がいたんだな?似てねぇけど」

 

「誰の隠し子だって?もっかい言ってもいいんだよ?」

 

「冗談です、すみませんでした……」

 

面白くもない冗談に握った拳と笑顔を見せると、上条は九十度に腰を曲げて勢い良く頭を下げる。中身が年増とはいえ十五、六の同級生になんてことを言うのだ。

ともあれ流石にクラスメイトの頭をずっと見ているのも忍びない。「怒ってない」と簡単に伝えると、彼は笑って頭をあげる。そして人懐っこい笑みで少女たちを見比べて自己紹介を求めると、静かな杠に困って最終的に天羽を見上げてきた。

 

「えっと、この子は杠林檎。ちょっと訳ありでね、一緒住んでるの」

 

「新しく出来た友達なんだよ!ねー、りんご!」

 

「うん……新しい……おとも、だち」

 

屈託のない上条の笑顔に怖気付いたのか、警戒心が強まった杠の代わりに簡単な紹介を述べると、インデックスが意気揚々とその間に割って入る。

出会って数秒、数分にしか満たない人間を共と呼ぶその神経の太さに一瞬驚くも、杠が嬉しそうな顔をしているのに気付くと静かに口を閉じる。

 

「そっか、俺は上条当麻だ。よろしく、杠」

 

「うん、よろしく、上条」

 

ほんわかとした時が流れる。どうせならシリアスな話からこの暖かい空気を保ったまま話を進めて何も起きない大覇星祭でも楽しみたいと、ぼんやり頭に過ぎる。

そんなことができるはずもないと分かってはいるが、翼が生えたりだとか嫌いな生命体に出会っただとか、前世含め20年ぶりの子供との生活だったりと、精神は疲弊しているためまともな思考ができない。

 

「ねぇとうま、お腹空いたんだよ!」

 

「垣根、私も」

 

ふわふわと外れた思考は誰かの腹の音で否応無く現実に引き戻される。朝ごはんも食べさせたのにどこにお腹が空く隙間があるのだろうか。

食べ物を摂取しなくて済む自分にとっては不思議でしょうがないが、成長期の子供たちの食欲と成長の止まった自分とを比較するのは時間の無駄だ。

 

「子供は食欲旺盛だな」

 

「じゃあみんなで食べに行こうか」

 

「屋台エリアまで行けば山ほどあるしな」

 

「では向かいましょう」

 

腹を空かせた子供たちに、保護者四人(?)は互いに顔を見合わせる。

子供たちの期待の籠った熱い眼差しは天羽たちを香り立ち込める屋台へと足を向けさせるほどの力を秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その足は無慈悲にも一つの看板によって道を塞がれる。

 

「ごめんね、ここ、もうすぐパレードが始まるじゃんよ」

 

黒い長髪を低い位置で結び、警備員(アンチスキル)の藍と黒の制服に身を包んだ女性が通行止めと書かれた看板を先頭を歩いていた上条の前に立てかけた。

何度か色々な事件で会っているその警備員(アンチスキル)、そして天羽が通っている学校の先生である彼女、黄泉川愛穂先生は申し訳なさそうに彼女たちに謝ると、上条は肩を落とす。

 

「やはり不幸なのが上条当麻……アイデンティティに愛されてるね」

 

「すげぇなお前、ちょうど行く時に看板立てられるってなかなかない経験だぞ」

 

「くそぉ……」

 

まさか本当にアニメ通りのことが起こるとは。こうなると分かってはいたものの、実際起こるとなんだか不思議だ。

屋台へ向かうための近道、大通りを渡って目的地に行くはずだったが、まばらに集まる人々と、立て掛けられた看板がそれを阻害する。どうやら何かしらのパレードがあるようだ。

前世から知っているパレードなんて千葉に位置する大きな遊園地や御神輿くらいなので少し興味深いが、人混みにいるのは苦手なので個人的には人が集まる前にご退散したいものだ。

 

「うぅ、手を伸ばせばそこにあるのにぃ……」

 

「ご飯……ガレット……」

 

「そんなに落ち込まなくても、ご飯は逃げませんよ」

 

しかし少女たちはそうもいかないようで、看板にしがみついて反対側の道路をなんともいえない悲しい顔で見つめる。その表情にありもしない心でも打たれたのか05が彼女たちを励ますが、それでも少女たちの顔は晴れない。

食に勝る喜びはないと言うことか。

 

「黄泉川センセェ、五秒くらいだし、ぱぱっと渡らせてよぉ」

 

「ダメじゃんよ。天羽に至っては巡回ルートがあるんだろ?ちゃんと歩け少年少女!」

 

ダメもとで黄泉川先生にお願いしてみるも、呆気なく却下されてしまう。痛いところまで突かれ、反論の余地はない。

残念ながら遠回りをするしかないようだ。どうするか隣に立つ垣根にパッと目線を向けると、彼は呆れたように別の道を長い指でさし示す。

 

「こっからだとあっちの地下街から横断するしかないな。めちゃくちゃ遠いが」

 

「西に三キロのとこだな。よく知ってるじゃん、双子の少年」

 

「まぁ、多少は……」

 

第二位の良すぎる頭にはきっとマップすら仕込んであるのだろう。学園都市はよく道が変わるとか言うが、随時更新しているのだろうか。疑問は尽きない。

そんな完璧超人の片鱗を見せる垣根に黄泉川先生は笑顔を見せると、彼は目を逸らして口籠る。

 

「夏休みの時も目の前の建物を直ぐに原子力実験炉だって答えていたし、優秀なんだな、少年」

 

「……そんな昔のこと、よく覚えてますね」

 

「もち覚えてるじゃんよ、そっちの弟くんのことも」

 

「そりゃ、どうも」

 

なんだなんだ、一般人を前に猫被る垣根に何やら成長だとか可愛いだとかいう感情が湧き上がる。そんな顔もできるんだと、アニメでも漫画でも見ることの叶わなかったこそばゆい彼の表情に昔妹に感じたような気持ち、例えるなら赤子の頃の妹が初めて立った時と似たような、達成感やら喜びやら愛情といった何かが心臓を満たす。

確かキュートアグレッションと呼ぶんだったか。

 

「垣根くん可愛いねぇ!褒められて照れてるんだ?」

 

「うっせぇカス足踏むぞ」

 

「もう踏んでる!靴が!下ろしたての靴が!」

 

年上に褒められたことを照れて可愛い反応をする彼を茶化すように顔を覗き込むと、癪に触ったのか彼は悪態をつきながら天羽のスニーカーをぎゅっと踏んだ。彼の黒いスニーカーに踏まれた白いハイカットのスニーカーは哀れな姿になり、くっきりと垣根の足跡が付いてしまう。

大雑把にその汚れを拭き取るが、なかなか落ちない。

 

「仕方ねぇ、次の大玉転がしまで我慢な」

 

「さすがに三キロとなると歩きたくありませんもんね」

 

05と上条の二人で悪食な少女たちはその場に崩れ落ちる。片方はしくしくと膝を抱え、片方は体を震わせて人体で一番鋭い牙を上条に見せつけた。

キラリと覗く白い歯は上条の体を強張らせるほどには恐怖を煽る。

 

「と、う、まぁー!」

 

「え、なんで……?ちょ、ちょとぉぉぉぉおおぉ?!」

 

インデックスは勢いよく上条に飛びかかり、彼のツンツン頭に噛み付こうと彼女は大きく口を開けた。

彼女の足が地面から離れる。まるでスローモーションのように彼に飛び込むが、目的の人物はもうすでにその場から消えていた。

別に彼がインデックスを避けたわけでもなければ、インデックスが照準を誤ったわけでもない。彼はその場に声だけ残していなくなった。

 

「っしゃぁああああ!捕まえたわよ!私の勝利条件!」

 

理由は実に乙女的なもの。どうやら内容的に借り人競争の真っ最中なのだろう。

雷のような一瞬で上条の襟首を掴んだ常盤台の超電磁砲(レールガン)、御坂美琴が凄まじい速さで群衆の中に消えていく。

捕まったことに不幸を叫び、遠く彼方に消えていく上条たちを暖かい目で見守りながら、天羽たちは立ち尽くす。

 

「あーあ、誘拐されちゃった」

 

「……追うか」

 

不幸というより、男なら羨ましいだけではないだろうか。そんな瞬間に立ち会った垣根と天羽は互いに顔を見合わせてため息をついた。

本当は追うつもりは更々無かったが、少し悩んで彼の言葉に頷く。どうせなら派手に物語に巻き込まれようじゃないか。

 

「05、インデックスちゃんと杠ちゃんをご飯食べれるとこまで連れてってあげて」

 

「えっ!いいの?!」

 

「それが一番だな。少し不安はあるが」

 

大人だけで自称不幸少年を追いかけよう。

かと言って腹をすかせた子達を放っておくほど落ちぶれてもいない訳で。丁度いい小間使いがいるのなら、それを有効活用しない手はない。

 

「不安なら月詠先生に連絡しておくから、安心して行ってくるといい。友人を迎えに行ってやれ」

 

「えっ!黄泉川先生最高じゃん!あり!」

 

05に彼女たちの護衛を頼むと、少しだけ眉をひそめる垣根に思わぬところから声がかかる。

笑顔を天羽たちに見せると、黄泉川先生は願っても無い提案をして親指を立てた。嬉しい申し出に思わず感情が高ぶり先生に抱き着くと、彼女は頭をぽんぽんと優しく叩く。

黄泉川先生に連絡されれば小萌先生だって無下にはできないだろう。先生にこんなくだらないことで連絡するのは少々しにくいので実にありがたい。

 

「オラ、くっついてねぇでとっとといくぞ。追い付かなきゃいけねーの分かってんのか」

 

「垣根くんもお姉ちゃんにハグされたいのかい?いいよ、このデカイおっぱいは皆のものだからね!」

 

「ハイハイ、もう馬鹿が馬鹿なこと言ってんのにはなれたんだわ、ごちゃごちゃ言ってねーでいくぞ妹分」

 

感謝の気持ちをハグというとても安易で安上がりな態度で示していると、後ろから強引に首根っこを引っ張られる。

かなり真面目に怒っている垣根にからかい混じりに鼻で笑って腕を広げると、今度は呆れたようにズルズルと天羽のウィンドブレーカーの襟を引っ張って上条たちの走って言った道へと進み出した。

 

強引に引っ張られながら進む天羽たちの後ろから聞こえた「行ってらっしゃい」に手を振って、主人公二人が走り去って行った道を二人で早歩きで歩いていく。

借り人競争は佳境に入っているようで、何回もアナウンスが耳に届くと、その音に導かれるように彼女たちは主人公の元へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてパレードが始まり人混みがさらにひどくなった頃、天羽たちは三人横一列に並び混雑した道を歩く。

 

「散々だったな、お前」

 

「ほんと、それな……はぁ、不幸だ」

 

「いいじゃん、青春してて」

 

「こんな青春望んでませんことよ……」

 

難なく上条を捕まえられた天羽たちは先ほど別れた場所へ道を辿りなんてことない会話を続けた。御坂に連れて行かれた先で何があったのかは知らないが、ヘトヘトになった彼を挟んで垣根と笑う。

もうすでにいなくなった少女たちの跡を辿るように道なりに進み、パレードが始まる賑わいを通り過ぎた。

 

「インデックス達は垣根弟と屋台エリア行ったんだっけ?」

 

「うん、ちょっと遠いけど、お腹空いてたからさ。放っておくのも可哀想でしょ?」

 

「悪いな、インデックスの我儘に振り回しちまって」

 

「林檎も行きてぇっつてたし、起こるべくして起こったようなもんだ。気にすんな」

 

「垣根様……ありがてぇ」

 

「ハイハイ、あ?」

 

垣根にペコペコと頭を下げ、男子高校生らしい会話をする彼らだが、ある一点に気がつくと途端に足を止める。

道の先、人混みの中で浮くような赤毛と金髪の長身の男二人に目線を向けると、彼らもこちらに気がついた。赤毛の男と金髪の男。よく知るその顔触れに思わず声をあげると、彼らも同じように気づいて目線が交じり合う。

 

「土御門に……ステイル……?」

 

「おや、厄介な人物が三人も来た」

 

2mはある長身に、首を掠める赤毛、真っ黒い神父の格好をした西洋から来た魔術師、ステイル=マグヌス。そしてツンツンした金髪に学校指定の体操服を着た柄の悪いサングラスの少年土御門元春。

騒がしい道の端でコントラストのはっきりした二人の少年に目が止まると、自然と体は彼らの元へ呼び寄せられる。厄介ごとの香りにどう足掻いても主人公気質の二人は抗えないようだ。

 

「いつかの神父様と……お前は確か……」

 

「……こっち側では出会いたくなかったんだけどな、第二位も魔術を知っているし、しょうがないか」

 

「へー?お前も魔術師ってやつなのか、世間は狭いな」

 

面白い組み合わせの二人組に垣根が疑問を示すと、土御門は一つため息をついて鋭い眼光をサングラスから覗かせる。闇を感じさせる強い瞳にも動じず垣根は鼻で軽く笑って挑発的な笑みを浮かべた。

ほとんど同じ身長の二人が散らす火花に特に気にせず、天羽は誰も違和感を持たないように振る舞うだけ。元から知っているとはいえ、実際は知ってはいけないことなのだ、極力顔に出さないように振る舞うのがベストだろう。

 

「土御門くんも魔術師なんだ、結構身近にいるんだね」

 

「……妙に芝居がかった台詞はやめろ天羽。どうせ知ってたんだろ?」

 

しかしどうやら天羽の演技はいつも演技をしている土御門にはどうやら無意味だったよう。彼は険しい顔で今度は天羽を見下ろす。

 

━━あぁ、最悪。

 

背の高い男に見下ろされるのはひどく虫唾が走る。ヒールのない靴は彼らとの差をさらに広げ、ひどい不快感をもたらした。

 

上に立つのは彼女だ。いつだって、彼女は姉でなくてはいけない、上でなくてはいけない。

人を見下ろす側にいなくてはいけない。それはきっと、身長も同じ。

 

「お姉ちゃんは弟たちのことはなんでも知っているのだよ、土御門くん」

 

「その情報の出所が聞きたいんだよ。お前は何かと胡散臭い。本当は上条と一緒に行動しているのも嫌なんだ」

 

「胡散臭いだなんて失礼ね。アンタの方が胡散臭いだろ、鏡見てきなよ」

 

だからこそ、思ってもない挑発の言葉がすらすらと口から流れ出る。たった七センチの身長差にここまで苛立ちを覚えるのはなぜだろう。

 

垣根と同じだから?サングラスに映った自分が嫌いだから?

 

結局答えは出なかった。

自分の性格の悪さと沸点の低さに自ら呆れ、強く腕を組む。思わず口から出てきてしまった挑発の言葉につなげる言葉を、足りない頭で必死に考えながら。

 

「そうだなぁ。じゃあとびっきりのヒントをあげよう。名前はとても大切なもの、どんな人間か、名前を見ればすぐ分かる。名は体を表すって言うでしょ?」

 

「何が言いたい」

 

「隠れたいのなら、名前ぐらい改名すればって言ってんの。()()からのアドバイスってやっつ?そんな分かりやすい名前しておいて隠れるだなんて笑止千万だよ。」

 

結局出てきたのは苦し紛れのメタ的な考察。

 

記憶が間違いじゃなければ、土御門という苗字のルーツは安倍晴明。そのことを事前に知っていた。だからこそ作品鑑賞中、彼が陰陽師と名乗って合点がいった。

だがここで苗字の珍しさなど意味が無いにも程がある。

天羽に垣根、上条、月詠、杠。前世で見たことのない名字のラインナップに「浮いてるから分かりやすい」なんてギャグにもほどがある。

 

「……こちらの歴史にも詳しいんだな」

 

「こう見えて勤勉なの。魔術の仕組みは分からないけど、宗教に関しては大まかな歴史くらいは知ってるよ?カトリックなんかは特に」

 

「それはいい、説明しても理解して貰える可能性が高まるからね」

 

「説明?」

 

その返答に天羽が陰陽師関連の歴史に詳しいと誤認されたものの、うまく切り抜けられたようで今度は別に声がかかる。ステイルの真剣な顔つきに、空気が変わった。

その返事に上条が何を意図しているのか分からないといった風に首を傾げると、ステイルは大きく息をついて言葉を続ける。

 

 

「君たち、厄介事に巻き込まれるつもりは無いかい?」

 

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