とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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48話:疑問

騒がしい会場の真ん中、柔らかい人工芝で大きな玉を転がすだけの競技が行われる。ツンツン髪の少年が正気のない顔でその玉を転がしたり、転がさなかったりするつまらない光景にあくびを噛み殺す。

 

「で?改名女はこれから何をするつもりで?」

 

「さぁ?上条くんに付いて行こうかなって。彼の隣いれば厄介ごとは確実でしょ」

 

ステイルやらなんやらと別れた後、競技に出なくてはならない上条を追ってスタジアムの観客席に座り、上の空で景色を眺めていたところに垣根が口を開く。

 

いちいち棘のある言葉。知らなかったことが余程プライドを傷つけたようで、ずっとこの調子だ。

子供らしく拗ねる彼に可愛さとめんどくささを感じるが、可愛さが勝ってしまうので特にダメージは無かった。

 

「本名も教えていないくせにアレを信頼してるとでもいうのか?お前が好きで仕方がない俺にすら教えてない癖に?」

 

「拗ねないでよ、そんなに知りたいなら調べれば良いじゃん。どうせ秘密ってあとでバレるようになってんだし」

 

「ふん、余裕ぶってろ。後悔しても知らねぇからな」

 

どうせ名前など遅かれ早かれいつかバレてしまう。切り札として大切にしておきたいが、それでも覚悟はしている。

頭だって、器量だって悪いんだから。落ちこぼれなんだから。

気が滅入ってしまう自己嫌悪に憂鬱になりながらフィールドで呆然と立ちすくむ選手、上条当麻に目線を移す。

これ以上考えたら病んでしまいそうだ。

 

「それにしても、上条くん、やる気失ってるね」

 

「ま、あんなこと言われたらな」

 

二人の魔術師との会話を再び思い返すと、垣根と二人顔を見合わせてもう一回、今度は深く長いため息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術師が侵入している?」

 

それは数十分前のこと。

背の高い赤毛の魔術師と金髪の柄の悪い魔術に挟まれて話が進み、物騒な言葉が場に飛び交う。

彼らの言葉に驚いたふりをしながら呟くと、ステイルが深く頷いた。

 

「そう、今の学園都市は一般来場客を招く為に警備を甘くしている」

 

「その隙を着いてこの中に魔術師たちが侵入しているって訳だぜ?」

 

彼の言葉に続けるように口を開くと土御門はニヒルな笑みを浮かべる。サングラスの奥に見え隠れする猫目は細く弧を描いていた。

 

「この間のゴスロリみてぇに爆弾抱えてるってわけか。なんでこんなに魔術師は学園都市にホイホイ侵入できるんだろうな」

 

「あれ、垣根あの時いたっけ?」

 

「あー、弟経由だ」

 

なんだかんだ魔術に順応してきているのか、特になんとも思っていなさそうに垣根がぼやく。めんどくさいと言いたげな彼だが、厄介ごとは否応無しに舞い降りる。

 

「現在確認しているのは二人。ローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティ、そいつが雇った運び屋のオリアナ=トムソン」

 

「運び屋、か。取引をするためにこの街に来たんだな?」

 

諦めたように近くの壁にもたれかかる彼はステイルの言葉にいち早く反応する。暗部出身なだけあって、薄暗い話には敏感で、尚且つ危機感を持てるような人間だ。

垣根の低い声に場の空気がより一層重苦しくなる。

 

「その通り。奴らはこの街で教会に伝わる霊装の取引を行おうとしている」

 

「……霊装?なんだそれ?」

 

「魔術的要素を含んだ武器とでも考えるといいぜ。ゲームにおける勇者の剣みたいなもんだにゃー」

 

「でもなんでこんな所で……学園都市って一番オカルトから1番縁のない所だろ?」

 

霊装、辞書的な意味ではフォーマルな服やらを意味するが、魔術では違う。

ゲームなんて妹とやっていた(正しくはやらされていただが)初心者向けのものしか知らない天羽には土御門の例がうまく伝わらない。だがとても影響力のある武器ということは辛うじて分かる。

 

霊装とは確か偶像の理論を用いたものだったか、頼りない記憶を掘り起こす。

伝説や聖書の内容を解釈して、それに近い現実のもので代用することで数パーセントにも満たない力を得ることができるとか、できないとか。

 

「だからこそじゃねーの?学園都市側、魔術側、お互いに手を出しにくい場所なんだろ?大切な取引をするにはもってこいだ」

 

「今その人たちを取り締まれるのは魔術を知る学園都市内部の人間だけだし、数は限られてくるよね」

 

「動けるのは君たちくらいってわけだ」

 

魔術師の侵入を三回も許すなんて、わざととはいえ学園都市の警備はザルすぎる。

外部の客が来るのだ、もう少し緊張感を持ってほしいとすら思う。

 

「じゃあ神裂は?あいつ確か聖人とかって……」

 

「あぁ、あのでっけぇ刀の……聖人って、善人ってことか?」

 

「神の子の身体的特徴、あるいは魔術的記号を持つ人のことだ。世界に20人ほどしかいない貴重な人達でね、君が戦ったときの人間離れの身体能力は彼女が聖人だから出せるものなんだよ」

 

「あれは魔術的なバフを掛けてるわけじゃなかったのか」

 

あったこともない人間への厄介な憎悪に心を悩ませているが、それに気づかずに他の少年たちは話を続ける。嫌になる自分の汚い心情を消しとばして彼らの話について行こうと耳を傾けて次に続ける言葉を待った。

 

「そんな聖人は確かに戦力になる。けどね、今回は使えないんだ。何しろ取引されている霊装が霊装でね」

 

「どういう意味だ」

 

神妙な顔つきでステイルはゆっくりと口を開く。

眉間に皺を寄せて、重々しい表情をする赤毛の神父は嫌そうにその名前を呟いた。

 

「その霊装の名前は刺突杭剣(スタブソード)。あらゆる聖人を一撃で即死させるものらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話を交わした後、天羽たちは無気力な上条の競技を観戦する今に至ったのだ。

観戦席にボーッと座り、彼らとの会話を思い出しながら二人考えにふける。

 

刺突杭剣(スタブソード)かぁ……刺す剣ってもうちょっと名前ひねられなかったのかな」

 

「刺突する剣って頭痛が痛いみたいなネーミングだが……分かりやすくていいじゃねぇか。まぁ、秘匿するものをわかりやすくしちゃあんま意味ねぇけど」

 

アニメを見て、wikiを多少見た程度の身としてはなんだか腑に落ちない。

ローマ・カトリックは一番歴史やらが価値観がめんどくさい宗派、カトリックが神の子を殺す武器を持ってるなんて少しおかしい話だ。自分たちの神を裏切るのと同義じゃないか。

 

キリスト教、ひいては十字教は色々と分岐してる。

 

十字教、ユダヤ教、イスラム教、それぞれルーツは同じ。でも重要視する聖書や、神が違うから違うものに分断されたわけで。

三位一体、父と子と精霊。父なる神と、神の子と、精霊を唯一信仰するのがキリスト教、または十字教。唯一神の子イエスを信じているカトリックが、それと酷似する聖人を殺す武器を持っているのはなんともおかしな話だ。

 

「もう宗教壊滅させた方がこの世界幸せになる気がする」

 

「なら新しく宗教でも作るか?垣根教でどうよ?」

 

ただひたすら思考の海で泳いでいると、突飛な声が真横から掛けられる。

自分を神格化すると受け取れるような言葉に小さく吹き出すと、そのまま息を抑えるように口から笑いが漏れ出した。からかい混じりにニンマリと弧を描く挑戦的な笑みは、なんだかとっても子供らしい。

 

「ふ、ふは、まぁ、確かに?神道的には人間皆神様だしね?あながち可笑しくもないけどさ、垣根くんが神、教祖とか、ぶふっ、無理でしょ。めんどくさくて三日坊主になるのが目に見える、ふふ」

 

「何言ってんだ、この俺にできねぇことはねぇんだろ?」

 

「ふふ、確かにそうかも、じゃあ垣根くんが神様になったらあたしが信徒になってあげるね」

 

ビジュアル的には熾天使止まりな彼だが、天使は別の多神教じゃ神になれると言うし、彼があの汚物に取って代わることもできるのかもしれない。

そうなってくれたら、彼女は喜んで彼の供物になって、手足になってあげるのに。

 

「へー?言ったな?俺の為に貢物でも捧げろよ?」

 

「うん、いいよ。あたしから得られるもの全部あげるから。垣根くんのためだったらあたしなんでも捨てれるもん」

 

「相変わらず愛が重いな、そんなに要らねぇ」

 

「それは残念。今ならお買い得なのに」

 

「本名も教えられねぇ嘘つきの愛なんか貰ったってしょうがないだろ」

 

「まだ拗ねてんの?」

 

妹へ捧げてた行き場のない綺麗な愛情を、全部、全部あげてしまいたい。しかし彼はそれを望んでいないようだった。

どんなに拒絶しても、彼女が愛を押し付けるだけとも分からないのか。嫌われたってなんだって、自らが()()()()だと証明するために、彼に全部渡してしまう。

 

「で、今回その刺突杭剣(スタブソード)を持ち込んだのはローマ正教だっけか。どんな宗派なんだ?」

 

「ローマ正教はカトリックの総本山だね。一番信心深いイメージがあるかな。ローマに行った事ないからあんま知らないけど」

 

話は戻り、今度は今起きている厄介事へと話題が変わる。めんどくさいと思ったのだろう、ふっと顔を背けて垣根は言葉を続けた。

 

「そういやお前もカトリックだったよな」

 

「アメリカは無神論者だと異端扱いされるからねぇ。それに、カトリックってプロテスタントと比べて割合多いから納得されやすいんだよ」

 

たった一つの嘘で面倒事を避け、他人に好印象を与えられるならそれをするのが一番合理的だ。

信心がないので地獄に落ちるかもしれないが、それだけで妹を助けるために行く様々な研究所の人間に愛嬌を振り撒けられるならやらないわけにはいかない。

 

「めんどくせぇな……同じ十字教なんだろ?どこが違うってんだ」

 

「呼び方とか?神父と呼ぶのがカトリックで、プロテスタントは牧師で……まぁ一番は大切にするものが違うんじゃない?」

 

「だから牧師って言った時あの赤髪は訂正を入れたのか。なるほど」

 

複雑な心情を封じて垣根の問いに適当に答えると、同時に少し疑問が湧く。

 

この世界の宗教と前世の宗教はどれほど違うのだろうか。名前と宗派は決定打だが、そのほかはどうだろうか。

カトリックはミサがあり、政治と絡んでいた為教会が豪華。反対にプロテスタントは結構質素、そしてカトリックとは違い離婚でき、尚且つ聖母の扱いが違う。

というのが前世での基本だが、そもそもこの世界でプロテスタントの魔術師にお目に掛かったことが無いのでこちらのプロテスタントに関してほとんど情報がないのが現状だ。

 

聞きたいことは他にもある。

刺突杭剣(スタブソード)と偽られたペテロの十字架は元々逆十字架なのにアニメでは正位置だったり、

イギリスの国教はプロテスタントだったり、

現実の(この場合前世)知識とはかなり食い違いがある。

 

小説の方は知らないが、アニメと原作は大きく違うと言われているらしいし、この世界も大きく違うのだろう。

つまり、天羽の知識はこの世界にあまり通用しないのではないかということだ。

 

そこで問題にぶつかる。

天羽は果たして彼に前世の知識を教えていいのだろうが。

いや、考えても仕方がないのはわかっている。けれど垣根はいいとしてアレイスターに前世がバレるのは極力避けたいのが心情だ。

 

「……なぁ、お前十歳の頃までしかアメリカいなかったんだろ?なんでそんなに知ってんだよ」

 

「一般常識だし……それに嫌だったけどミサとか行ってたからね、学園都市育ちの子よりは知ってるのはあたりまえでしょ」

 

「あたりまえ、ね。神を嫌ってるって言った奴がカトリックを名乗ることもか?」

 

大玉転がしが終わったと報告するアナウンスに混じって垣根からピリピリとした嫌な空気が張り詰める。

彼の質問はなんてことないものだった。ただの事実確認、意味のない疑問。

 

「……だって()()()()()()()()

 

天羽はそれを知っている。この世界に呼んだ神の施しを、傲慢な救いの糸を。

愛しはしない、けれど認めはする。あの汚物を。

でなければ彼女の現世を否定することになってしまうから。

 

「は?それってどういう……」

 

「あ、上条くん来たよ。合流しようよ」

 

「……そうだな」

 

小さく呟いた言葉を聞き返そうとする彼の声に被せるように席を立つ。

戦意を削がれ、聞き返すことなく怪訝な顔をするだけして座る彼を見下ろすのはなかなか愉快なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技が終わった上条と土御門と合流し、いまはバスの中。自動運転で動く無人バスは天羽たち四人の声しかしなかった。

 

「十字架に架けられた神の子は一体どうやって殺されたか知ってるか?」

 

「あー、磔にされてってやつだよな?」

 

「磔刑のことね。十字架に両手首と両足首を釘でうちつけて、体の支えを無くす刑罰だけど、実際それで死んだかは怪しいらしいよ」

 

土御門の質問に上条が首をかしげると、それに天羽は自信満々に答える。

死に方は聖書よりも医療分野に近い。それに実在する刑罰だ、これくらいなら答えたって支障はあるまい。

 

「体を支えられなくなることで呼吸困難に陥って死に至るわけなんだけど、即死しないから最終的には槍で刺すんだよ」

 

「お、天羽が正解だ。刺殺されたって説が有力だな」

 

確か槍を刺したのがロンギヌスで、これをロンギヌスの槍って呼ぶとかなんとか。そんな話が頭の奥の方にあるのを見つけて引っ張り出す。

色んなアニメやゲームで名前が上がるのを聞いたことが多少あるので、きっと知っていてもそう可笑しくないはずだ。

 

「この刺突杭剣(スタブソード)ってのは処刑と刺殺の宗教的意味を抽出し、極限まで増幅、凝縮、収束させた霊装ですたい」

 

「つまり、刺殺された神の子とニアリーイコールの聖人には効くってことか」

 

「そういうことだ。普通の人間にはなんの効果もないが相手が聖人なら一撃で葬る力を持つって代物だ」

 

実際は違うとしても、もしそんなものがあったとしたら確かに脅威だろう。核爆弾を全て壊すスイッチがあるようなものだ、様々な国が阻止しに翻弄されるのも事実。

本当はその思考さえ変えてしまう恐ろしい洗脳兵器だとしても。

 

「そんなもん取引して、魔術師たちは何をするつもりなんだ?」

 

「戦争じゃねぇの?聖人って俺ら(LEVEL5)みたいなものなんだろ?」

 

「けど、聖人以外の魔術師いっぱいいるんだろ?神裂が居なくても戦えそうな気がするけど……」

 

「うーん、核を無力化できる技術があるなら勝てる勝てないに関わらず戦争は起こるんじゃない?」

 

「そうだな、実際に勝てるかどうかではなくて、勝てるかもしれないと錯覚させただけで戦争ってのは起こっちまうのさ」

 

上条の質問にみんなで答えるがそれでも上条の疑問は尽きぬまま。揺れるバスのアナウンスに急かされて降車するも、上条は眉を寄せて立ち止まる。

 

「でもそんなやばいものならインデックスに協力を仰いだ方が良くないか?」

 

「ダメだ。今回の件じゃあの禁書目録を使えない。事件の現場に近づけさせることも、事件に関する情報を伝えることもやっちゃいけないぜ?」

 

「なんで……」

 

今はいない魔術のプロを思い出し、降りたバス停の前で彼は土御門に聞くが望んだ答えは得られない。

それもそのはず、インデックスは何かと監視の目が向けられている重要人。そして取引なんてヤバそうなものにそんな人を巻き込むのは面倒ごとを増やすだけだ。

 

「何かが起こるならあの子が中心、って外の魔術師達のサーチが集中してるからにゃー。もしあの子が動けば魔術師たちが一斉に押し寄せて来るって寸法さ」

 

「つまり、あのインデックスに魔術のことを気づかせないようにしながら何とかしなきゃいけないってことかよ」

 

天羽の考え通り、ひいてはアニメ通りのセリフをいうと、上条は苦々しい表情で頭を抱える。頼もしい相棒がいなくなったら誰だってそうするか。

とはいえ彼は主人公で、んなものがなくたって物事は解決できるし、人を幸せにできる。

 

ムカつくことこの上ない。

 

「やっぱお前といると厄介事が舞い降りてくるな。しかも知らない情報がわんさかと見つかるし?着いてきて正解だ」

 

ニコニコと機嫌が良さそうに私の肩を肘置きにして不安を煽るような悪戯っ子の笑みを浮かべるを浮かべる垣根を見てふと正気に戻る。

彼女は主人公じゃないから、この世界の人間じゃないから、醜い泥濘を汚く這いずり回ってでしか幸せを掴めない。最悪、掴むことすらできないのに。

 

「……そうかもね」

 

恨めしい、羨ましい。彼女が得ることのできなかったそれを持っている上条がひどく羨ましい。

醜い嫉妬に悩まされながら、彼女は優しく垣根に微笑んだ。

 

この汚い心臓を拙く隠すように。

 

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