とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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垣根サンタは予想できなかった


49話;怖いこと

バス停を離れ、一旦インデックスと合流するため垣根の案内のもと道を歩く。

騒がしい中心地から少し離れた簡素な道を辿って歩いた先、ピタリと止まった垣根と同じように足を止めると背の高い鉄の柵に囲われた小さな緑豊かな場所が視界に広がった。

 

「ここか」

 

只山大学植物学部と柵にあるプレートに書かれているそこは小さな林のように緑が眩しい樹々が並び、一般公開されているのか門は開かれたままだった。

静かな空間、澄んだ空気、学園都市にしては緑の分量が多い気がするそこに躊躇なく入っていく垣根の後ろをついていく。

 

「なんでこんなとこに?」

 

「お前んとこのミニ教師が引率してくれることになったんだよ」

 

「黄泉川先生に頼んでおいてよかったね」

 

垣根によるとどうやら別れた少女らはアニメと同じように我らが担任、小萌先生のお世話になっているようでこの緑の先にいるそうだ。

黄泉川先生に頼んだ通りに先生と行動している彼らに少しばかり安堵する。

 

小萌先生が魔術に触れていない今、姫神秋沙がオリアナ=トムソンに攻撃されてしまった場合回復手段がない。天羽がその場にいれるかもわからない以上、05を小萌先生の近くに置いておくのが一番安心だ。

 

適当に相槌を打って雑木林を進む。淡い木漏れ日と心地よい風、目に優しい緑の間を潜り抜ける。ジャリジャリと土を踏む音が耳に届く。

 

それと同時に小さい鳴き声が木々の隙間から聞こえてきた。小さな猫の声。

誰かを呼ぶような小さな声に上条が反応すると、垣根もそれに従って道を変える。小さな声の主は案外近くにいたようで、数歩足を進めるとすぐに目と鼻の先にいるのが見えた。

三毛猫が岩の上にちょこんと座っているのに気がつくと、上条はやけに上機嫌に駆け寄った。

 

「お、スフィンクス発見。お前だけか」

 

「いつも猫着いてきてんのかよ」

 

「家に置いておきなよ……あ、近寄らせないでね」

 

動物は嫌いだ。

 

搾取される側。殺される側。

可愛くないし、臭いし、賢くないし、口も聞かないし、利口でもない。

外に出せばノミがついてくるし、病気も持ってくる。

寿命も短いし、簡単に殺せてしまう。

 

興味の欠片もない。

 

というか彼はちゃんと動物病院でワクチンはさせたのだろうか。避妊は?

まぁどうせフィクションの世界なのでこの猫が病気になることも孕むこともないだろうし、現実的に考えてはダメか。

 

何分世界が変にリアル志向なためイマイチ現実的に水を差す癖が抜けない。アニメを見ている分ならなんとも思わないが、実際に目の前で息をしていると変に現実を意識してしまう。

元の世界に戻りたいと思ってしまうのは必然だろう。

 

「天羽、猫苦手なのか?可愛いのに」

 

「そんなものより垣根くんの方が可愛い」

 

「その可愛くて大好きな俺を盾にしてるのお前分かってるか?」

 

上条が抱きかかえる子猫から身を隠すようにサッと垣根の後ろに回って、その場から身を隠す。にゃーにゃーと天羽の方を見て甘えるような子猫の鳴き声はとても鬱陶しい。

それに呆れるように零した冗談混じりの声に何か反論をしようと口を開いた時だった。

 

「マスター、保護対象!」

 

後ろから唐突に声が掛けられる。優しそうな女の声。どこか聞き覚えのある低音が焦ったように足跡をつけるように力強く走ってくるのが聞こえた。

 

保護対象と呼ぶ存在を私は一人しか知らない。

 

声に違和感はあったが、きっとカブトムシ05だろうと何の躊躇もなく振り返る。

しかし、そこには恐ろしい造形物しか立っていなかった。

 

白い肌、真っ白い髪は肩を撫で、大きく膨らんだ胸部まで届き、ふわふわとウェーブがかっている。身長は173cm、私と同じ服を着て、同じピアスをつけて、それは立っていた。

 

「……あたし?」

 

自分が二人いる。

そのおぞましい光景に掠れた声が喉から漏れ出す。

 

思わず垣根のジャージを強く握る。頭が破裂しそうに熱を帯び、心臓は高く跳ね上がった。御使堕し(エンゼルフォール)を思い出すような恐怖。

消えるんじゃないか、彼のそばにいられなくなるんじゃないか。不安が脳を飛び交い、呼吸がうまく機能しない。

 

「05、あんまこいつを驚かすな」

 

「あ、すみません……貴女の姿の方が好都合でして見た目をお借りしております」

 

「な、何だ、05、か。びっくりした、本当に」

 

荒い呼吸を正すように肩に手を置かれる。ゆっくりと呼吸が戻ってくると、はっきりとそれを認識できた。

エメラルドのような澄んだ緑の目。天羽とは違う目の色と髪の色、喋り方と振る舞い方。ようやくそれが05だと理解する。

 

━━大丈夫、大丈夫、姿を取られたわけじゃない。自分が違うものになるわけじゃない。

 

「なっ!お前垣根弟か!?」

 

「はい、そうですが?」

 

「お前の能力って肉体変化(メタモルフォーゼ)なのか!?てっきり垣根と同系統かと」

 

垣根のジャージから手を離して平常心でその場に立つと、驚いた様子の上条が少し声を大きくして目を見開いた。

そういえば彼はまだ05が人ではないことを知らないのだった。それを知ったら風斬氷華と同じように迎え入れるんだろうか。人外を人外として見ず、自分と同じ下まで引き摺り下ろすのだろうか。

腹立たしいことこの上ない。

 

━━()()()()()を人として見るなんて。

 

「話すと長いんだが、まぁ、俺を経由して制限はあるが俺の能力も使えるって話だ。そういう特製のデバイスを持ってるとでも思ってくれ。だからテメェの右手で迂闊に触るなよ?」

 

「さっきの霊装みたいなものか?まぁ、肉体変化(メタモルフォーゼ)なんて珍しいし、隠したがる気持ちは分からんでもないが」

 

「あの、私のことはともかく、保護対象、こんなことを貴女に言うのもおかしいですが、助けていただけませんか?」

 

嫌悪感を潜め彼らの会話を静かに聞いていると、突然自分の姿をした05が天羽の手を握った。本題を思い出したかのように焦ったかのように慌てるそぶりを見せるその姿に違和感を感じる。

まるで人のように慌てる姿は気色悪い。

 

「え?なんでさ」

 

「禁書目録があちらで……」

 

「まさか魔術師が……!?インデックス!」

 

「着替えを……って、今行ったら……!」

 

05の言葉が終わる前に上条が飛び出していく。静止の声も聞かず走り出した彼は白いシスターの名前を叫び、そのまま奥へと猫を抱えて走っていった。

 

「えっ……?」

 

「ぁ……」

 

しかし、その先にいるのは魔術師ではなく着替え中の少女たち。草むらをかき分けたどり着いた彼の目に飛び込んできた光景に上条はあんぐりと口を開けるとまるで時が止まったようにその場が凍る。

元から05経由で何を知っていただろう垣根と、そもそも話の流れを知っている天羽はその光景を見ることはないが、彼らの悲鳴だけははっきりと聞こえた。

 

「……とうま、これで何度目か数えてみると良いかも!!」

 

「す、すみませんんんんっ!!!」

 

ガブリ。

 

叫び声に呆れて彼らを覗きに行くが、チアリーダー姿のインデックスが足に下着を引っ掛けて真っ赤な顔で倒れていたり、同じ服装の小萌先生がチアリーディング用の見せパンを持ってわなわなとへたり込んでいたり、杠がボーっとしていたりと、思っていたよりカオスな光景が広がっておりため息をついてしまう。

 

「お前ん所のクラスメイトと担任だろ、なんとかしろよ」

 

「転校、したいなぁ……」

 

「長点上機くるか?こき使ってやるよ」

 

「遠慮しとく」

 

なぜこんなところで着替えているのかだとか、なぜ下着を脱いでいるのかだとか、何箇所かツッコミたいが、そういった感情が込み上げるかのように頭を抱えた。

せせら笑う垣根の冗談を笑えるほどの気力は残っていない。

 

「申し訳ありません、この場をどうおさめるのが正しいのか分からなくて保護対象を呼んだのですが……」

 

「……まぁ、確かにこの場の空気は男性がベースのアンタにはキツいでしょーね」

 

申し訳なさそうにつぶやく05と惨状を眺めると大きなため息が出る。

たとえマスター個体である垣根が女慣れしていたとしてもだ、実際の経験もなければそれについて理解していない今の05には少し精神的に負担だろう。

それでなくても、男性がこの場にいるのが見られたら通報ものだ。どう考えても犯罪一歩手前の状況にしかみえない。

小さな子供をこんな野外で着替えさせるだなんて先生も先生だが。()()なら炎上ものだろう。

 

落ち込むように肩を落として顔を伏せる05だが、自分の顔をしてるのでなんだかいつもより気色悪い。上から下、観察するように全身像を見るがやはり色は違えど天羽とほぼ一緒、いや、全く同じである。

 

「それにしても似てるね……なんか変な気分。よくそんなに真似できたね」

 

「あぁ、それは貴女のDNAマップのデータが入っているからです」

 

気持ち悪いほど似ていることに嫌悪感をあらわにすると、05はなんともないような顔をして初めて聞くような話をさらりと告げた。

天羽のDNAマップとは何か。

一体なんの話だ。突然降ってきた爆弾のような事実に体が固まる。

 

本日二度目の危険信号が頭を駆け巡り、

様々な考えが脳裏に浮かぶ。

 

「お前の流した血からデータをとった。未元物質(ダークマター)はこういうことにも使えるんだよ」

 

「血液……未元物質(ダークマター)の可能性に涙が出るね、二つの意味で」

 

答えはつい最近の出来事。夏休み最終日のこと。天羽が流した血というのはきっと夏休み最終日の事件か、もしくはその次の日のことか。

未元物質(ダークマター)で血を別の物質に変化させたと思ってたが、どうやらその前にダークマターに既存のDNAを吸収させて一部を手元に残しておいたのだろう。

素晴らしい能力であると同時に脅威だ。

 

「垣根、みて、小萌が着せてくれたの」

 

「……露出多すぎね?」

 

恐ろしさを感じながらその場で肩を落とすと、先ほどまでボーッと突っ立ているだけだった杠が垣根のもとにトテトテと何事もなさそうな顔で服を見せびらかしにやってくる。

 

白と萌黄色のチアリーダー姿。

アメリカじゃチアリーディング部も珍しくなかったが、日本でその服を見るのは久しぶりだ。とはいえ子供にさせる格好かどうか聞かれたら首を捻る。

どうやら垣根も同じ考えのようで眉を顰めて口をへの字にさせた。

 

「そう?かわいい」

 

「可愛いのは構わないが、その格好で一人になるなよ?変態に捕まっても俺は知らねーかんな」

 

「そうそう、可愛すぎて連れ去られちゃうかもね。05から離れちゃダメだよ?」

 

05に小さい杠の手を握らせると、彼女は少しだけ口を尖らせてぎゅっと05の手を握り返した。

和やかな空気、この空気が無くならなきゃいいのに。

しかし現実とは非常で、男の高い悲鳴でその空気はすぐに消え失せてしまう。

 

「この裏切り者がぁ!!」

 

「うがぁぁぁ!」

 

怒りを含んだ女の声と良く知っている男の悲鳴。全員の視線がその声のした方角に移る。

 

「なんだ?上条の断末魔が聞こえたが」

 

「あー……05、その姿のままでいいから引率してあげてね?あたし達はまた離脱するから」

 

「かしこまりました」

 

仕方がないので少女たちを置いて声のした方へ進む。進むにつれ大きくなっていく声は林の出口からしたようで、学校指定のジャージと体操服を着た女が座り込む上条の襟首を引っ張っている姿が出入り口の前にあった。

 

「まったく!少しは大会を成功させようという努力は出来ないの貴様は!」

 

「今ってうちの学校はなんの競技やってるのかな……」

 

「それくらいなんで覚えられない!?そうか、脳の栄養が足りてないようだから糖分を摂取しなさい!」

 

「そんなことをしても上条さんのお馬鹿は治りませんのことよ!」

 

尻餅をついた上条の頭にプロレス技の様な何かをかけるのは同じ学校の体操服を着た女子高生だった。

デコ出しの胸まで伸びた黒髪は天羽と同じくらいの長さで、大きな胸もおそらく同じくらい。去年まで中学生とは思えない体つきの女子に見覚えがあった。

 

「今は二年女子の綱引きと、三年男子選抜のトライアスロンだよ、上条くん」

 

その学生がクラスメイトの吹寄制理だと気がつくと、彼らの青春真っ只中な会話に割り込む。

突然降ってきた声に吹寄が目を丸くさせ、今度は珍しいのか怪訝そうな顔で垣根と天羽を見比べた。

 

「ん?天羽さん?……それと、どなた?」

 

「……こいつの親戚だ」

 

「天羽さんの親戚?確かに雰囲気は似てるかも」

 

天羽が誰かと一緒にいるのは珍しいのだろう。しかも見た目が少々やんちゃそうな少年と一緒だなんて、正義感が強くて仕切りたがりの女の子なら余計に気にするはず。

しかし一般的な警戒心を持っているにも関わらず、猫かぶった表情でついた垣根の適当な嘘を疑うことはなかった。

どう見ても顔は似てないし、髪色も二人して明るいとは言え天羽の方は金髪だ。しかも目の色は真っ黒と赤緑のヘンテコな色で掠りすらしない。

どうしてその嘘を見抜けなかったのか。

 

「てかお前は早く立てよ」

 

「う、最もなご意見どうも……」

 

「……もう、ほら」

 

未だ下半身を地面と接触させながら吹寄に引っ張られる上条に垣根の一言で吹寄が手を差し伸べる。そのまま手を引いて木々の外へ抜けた彼らを追って天羽たちも足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな林から賑やかな大通りへ。上条の手首をしっかり握って前を歩く吹寄たちを眺めるように数歩後ろを歩く。

青春を駆ける高校生たちの背中はなんだか見ていてとても心がくすぐったい。

 

「青春だねぇ、誰かの青春は見てて楽しいよ」

 

「俺らには縁がないものだからな」

 

彼らの甘酸っぱい青春劇を暖かく見守る。天羽の人生に甘酸っぱいことはレモンの果汁一滴分もなかったのでなんだか新鮮だ。

彼らの姿を酒の肴にして青少年たちをからかいたい程度にはとても興味があった。未成年なのが悔やまれるばかり。

 

「ねぇ、上条。大覇星祭ってつまらない?」

 

「ん?」

 

「どうも貴様は浮ついているというか、別のことが気になっているような気がする」

 

「それは……」

 

「上条が今日つまんないのなら、運営委員として準備を進めてきた私がなにか不足していたという訳だからさ。企画を立てて今日まで頑張ってきた身としてはみんなに楽しい思い出を共有して貰いたいと思ってしまうのよ、我儘かもしれないけどさ」

 

捉えようによってはまるで嫉妬する初々しい乙女のように聞こえる言葉を吐いて吹寄はずんずんと顔を上げて前に進む。

離れているとは言え数歩しか距離がないので彼らの声ははっきりと聞こえた。

 

「そりゃあ厄介事が舞い込む体質だからな」

 

「垣根くん水差さないの」

 

「お前のクラスメイトはお前と違って嫌になる程生真面目だな。イベントなんか適当にやればいいだけだろ」

 

「大覇星祭に一喜一憂するほどの感受性はうちらには無いから理解しづらいだけだよ。まぁ垣根くんはそこが可愛いからわかんなくてもいいと思うよ」

 

前を行く彼らに聞こえない程度の音量で小さく呟いた垣根の脇腹を肘で少し小突くと、ちろりと赤い舌を出してさらに話を続けた。

 

天羽たちとは違う性格で、趣味で、考え方の人間を理解できないのは当たり前だろう。生暖かい目線を上条たちに送る垣根に少し意地悪な答えを返すと、彼は不機嫌そうな顔で天羽を見下ろす。

 

「さっきから可愛い可愛いうっせぇな、テメェはオウムか」

 

「女子高生ですから、一応。可愛いしか言えないんだよ」

 

「いい加減にしねぇと口縫い合わす」

 

「垣根くんの気がすむならいいんじゃない?垣根くんになら何されても可愛いからヨシって感じだし。ねー?」

 

「ねー?じゃねぇよ、日本語喋ろボケ。意味不明すぎるんだよ」

 

かなり苛立ったのか天羽の頬をこれでもかと抓ってくるが、痛覚を遮断しているのでくすぐったい程度だ。ベーっと舌を出してくだらない攻防を始めようとお互い目を鋭くさせるが、前方から聞こえた悲鳴に近い大声に思わず二人して意識がそれてしまう。

 

「やはり他のことが気になって仕方ないみたいね!」

 

「え、いや違うって!」

 

なんの話をしていたかはさっぱりだが、突然吹寄が大声を張り上げた。まるでキスをするかのように近い彼らの顔。顔を赤らめて長い髪を弾ませると、彼女は大きく背を仰け反らせる。

 

「は、離れなさい上条当麻!」

 

「いってぇ!?」

 

ごっつん。

 

照れ隠しか拒否反応か、物凄く痛そうな音とともに彼女らのおでこが勢いよくぶつかる。その反動でデコをぶつけられた上条はフラフラヨタヨタと後ろ、つまり天羽の方へ倒れこむ。

 

「あぁっん!」

 

柔らかく大きな胸に飛び込んでしまった上条だったが、彼を受け止め艶やかな声を出したのは天羽ではない。

腰に当てられた手に、誰かの鼓動と息遣い。ドッと汗が流れる。

 

「平気か?」

 

「あ、ありがとう、ごめんね」

 

上条が天羽に激突しないようにと珍しく気を利かせたのだろうか、腰を掴み引き寄せて助けてくれた垣根はめんどくさそうな顔をしていた。

受け止める自身があった自分としては別にありがたくもないが、とりあえず感謝を伝えると彼の手を無理矢理剥がした。

 

焦燥感と恐怖心。ウィンドブレーカーの上からもわかる体の線を知られたくない。

 

「……お前さ、その服の下」

 

「あー、か、上条くん、大丈夫?」

 

怒ったような、探るような彼の目つきから逃れるように垣根の言葉をかき消すように少しだけ大きな声をかける。

知らない女の人の胸にダイブした上条のもとに駆け寄って何事も無かったように明るい顔をして彼らに視線を移すと、上条がぶつかった女の全体像がよく見えた。

 

「ごめんねぇ、こんな人混みはあんまり慣れてなくて」

 

「あ、いや、こちらこそ」

 

「大丈夫?痛いとこない?おでこが赤くなってる」

 

天羽と同じような眩しい金髪に、同じように大きい胸、暗い青の瞳、大胆に着崩したベージュの作業着。そして手元には身長と同じくらい大きい白い布で包まれた長方形の何か。

 

オリアナ=トムソン。

 

その女が今追っている魔術師であると理解するのは容易かった。

 

「……なぁ、ひとついいか?」

 

「なーに?」

 

「金髪の西洋人、それもどでかい物をもっている神裂火織もびっくりな露出度の高い女。お前はどう思う?」

 

「垣根くん、それは答えを言ってるようなものだよ」

 

そしてどうやらそれに気づいたのは天羽だけでは無いようで。耳元でさりげなく呟くと垣根は彼女の肩に肘を乗せてめんどくさそうにため息をついた。

 

「ま、だからなんだと言う話だがな。俺らには関係ない」

 

「……そう思わされてるだけかもね」

 

ヒソヒソと小さく答えると、彼は眉を潜めて体重をかけてくる。答えろと圧を物理的にかかれるが、何も答えずに黙って見てろと上条の方へ視線を促した。

 

「ぶつかってしまったお詫びに、ね?」

 

右手を差し出して握手を求めると、女性は目を細めて妖艶に笑う。

「キスの方がいい?」なんて子供をからかうように囁くと、欲望に忠実なのか冗談なのか上条が大声で「はい」と叫んだ。

 

「はい!その方がっうぐっ!?」

 

高校生の欲望がこれでもかと詰め込まれた力強い上条の答えは吹寄の気に障ったようで軽く殴られ、結局右手を差し出して握手に応じた。

右手が女の手に触れる。

 

しかし握手をしようと互いの手が触れたその瞬間、女の方が手を思いっきり引っ込めた。優しそうな色っぽい目つきは途端に驚き、恐れ、疑うような暗い色を纏う。

 

「ッ、そろそろ、お仕事に戻らなくっちゃ、じゃあね」

 

急ぎ足で女はこの場から離れると人混みに隠れるように溶け込んでいく。

派手な格好の女一人を見失うことはそうそう無いが、今から追わないと確実に見失うだろう。どうするか、どう出るか、上条の言葉を待つように沈黙が場を満たす。

 

「……垣根、天羽、行けるか?」

 

「いいよ、お姉ちゃんが着いてってあげる」

 

女が逃げた方角から目を逸らさず、上条は差し出していた強く右手を握る。

強い主人公の眼差しを向けたまま真っ直ぐ前を見つめる彼に笑顔を向けると力強く頷いた。

 

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