とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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天羽ちゃんは可愛い、かもしれない。多分。


54話:可愛い子、可愛そうな子

学園都市にしては緑が豊かな道に一人、携帯を片手に当てもなく歩く。通常なら学生しか歩かない静かな歩道は、普段より多い警備員(アンチスキル)や保護者の声と足音で賑やかだ。

それでもどこか静かに感じるのは八重桜のような鮮やかな色を持つ金髪の五月蝿いメジロが隣にいないからだろうか。

 

「はぁ、あの馬鹿、勝手にどっか行きやがって」

 

昼飯を食わせてやろうと一緒にいた天羽彗糸は垣根ではなく、初めて出会ったやかましい馬鹿を優先し何処かへ行ってしまった。

いなくなった彼女に多少腹立たしさは感じるが、それでも心は随分と落ち着いていた。

 

たとえ初めて会った何も知らない第七位如きに可愛いと言われ、珍しく照れて視線を泳がせていたとしても、彼の心は平穏な静けさを保っている。

垣根が一番彼女の深淵を知っている。

だから別にムカついてない。

 

確かにあの根性馬鹿に何か感化されないか気にはなるが、携帯を持つ手についた花の匂いがそんな些細なことを吹き飛ばした。

彼女の髪についた甘すぎる花と果実の匂いが未だに香る。メジロと例えた自分は案外間違っていなかった。

秋だというのに春の匂いがした彼女はきっとメジロのように、甘いものを買ってやると囁けばすぐに第七位なんぞ置いてきぼりにして垣根の元へ戻ってくる。

そして垣根を見つけるとメジロのつがいのように彼に抱きついてくるのだ。

アレはずっと、これから先も垣根しか見えていないのは明白。だから別になんとも思わなかった。

 

それに今日は()()()()も見れた。紫陽花なんて色が変わる花の名前をあげただけで、一瞬で卵色の肌を青くさせる彼女を思い出すと少しだけ口角があがってしまう。

 

藍色と紅色の花はそのどちらも持つ彼女が嫌厭するべき花。

それはどちらにも取れるから。

垣根が彼女に『ブルーが似合う』と言っているようにも、『マゼンダが似合う』と言っているようにも聞こえるのが紫陽花という花なのだ。

だから先ほどの彼女は見るからに垣根を悩み、恐れ、逃げようとした。

 

なんとも愉快なことか。小鳥を追い詰める瞬間は最高に面白い。

垣根が青い彼女を知っているとバラしてしまったのは痛手だが、面白おかしく表情をぐるぐる変える馬鹿な女を見れただけで元は取れた。

 

機嫌がいい今のうちにあの女に連絡して餌付けをしようと、携帯の電話帳を開く。林檎と、あの女と飯を食えば監視になる。

場所はわかっているのだ、あとはあの鳥の好物を聞き出して彼に感謝させてやるだけ。足を止めて電話帳の一番上を押そうと決定ボタンに指を掛ける。

 

「刀夜さん、後ろ!」

 

「おっと!すみません!」

 

しかし、後ろからぶつかってきた男のせいで決定ボタンは押されるどころか、手を離れて汚い地面に滑り落ちた。

ぶつかった男に文句でも言おうかと後ろを振り向くと、だれかに何処と無く似ている男が申し訳なさそうに頭を下げるのが目に飛び込み、あまりの勢いに一瞬身を引いてしまう。

 

「あ、いや、こちらこそ立ち止まっててすんません」

 

「主人が申し訳ありません。携帯、壊れていませんか?」

 

「すみません奥さん、ありがとうございます。壊れてないみたいなんで、大丈夫です」

 

刀夜と呼ばれた男の隣で、若々しい見た目の女性が落とした携帯を両手で渡して困ったように眉を寄せた。夫婦揃っていい人そうで、なんとも居心地が悪い。

渡された携帯に一切ヒビは入っておらず、それを聞いて胸をなでおろすと今度は申し訳なさそうに眉を寄せる。

 

「……あの、もしかして当麻さんのお友達ですか?」

 

「母さん?」

 

「電話帳に上条当麻、私たちの息子の名前が見えたので……すみません、盗み見てしまって」

 

携帯を開いてデータが壊れていないか確認していた垣根に、彼女は自分の息子の名前を告げる。落とした時に間違えてボタンを押してしまったのだろう、開いた携帯は電話帳の天羽のア行からカ行に変わっており、上条当麻の名前が一番上に入力されていた。

 

「あいつの親御さんか……ええ、知り合いです。謝らなくても大丈夫ですよ、奥さん」

 

「当麻のお友達、か。会えて嬉しいよ」

 

「しかもこんなかっこいい子だなんて、嬉しいわ、刀夜さん」

 

物腰が柔らかく綺麗な顔をした女性の息子は、どうやら垣根の知り合いだったようだ、ぶつかった夫婦は優しそうに互いに顔を見合わせて笑う。

確かに、どことなく優しい雰囲気は言われてみれば上条と似ている。

きっと彼らは自分の息子がこの都市に蔓延る『計画(プラン)』に関与しているとも知らないのだろう。息子共々哀れなことだ。

 

今日は随分と運がいい。嫌いな女の面白い挙動も見ることができ、アレイスターに繋がる野郎の家族にも会えた。

猫を被って探る程度、造作もない。

 

「上条くんをお探しですか?必要あれば連絡しますよ」

 

「気にしなくても大丈夫ですよ、何やら急いで居たようですし」

 

「いや、急いでなんか居ませんよ。お友達の御両親ですから、ぜひお手伝いさせてください」

 

必要あらば愛想良く振る舞い、あくまでも友好的に接すれば、表の人間はあっけなく信用する。そうしていれば邪魔もされないし、一般人をこちら側に巻き込むことはない。

ニコニコと笑みを貼り付けて優しく提案すると、夫婦は悩むようなそぶりを見せて困ったように笑う。

もうひと押し、何か引き止める方法が必要だ。

 

「あーっ!」

 

何か案はないか考えていた脳に甲高い女の声が響く。

考えそっちのけで上条夫妻とその声の主に視線を向けると、そこには誰かになんとなく似ている女性が微笑みながら走ってくる。

これまた何処かで見たことあるような栗色の髪に、高い背と豊満な胸も持った女性が嬉しそうに駆け寄ると、知り合いとみられる上条夫妻は少々驚いた顔をして彼女に会釈をする。

 

「こんにちは、また会いましたね!」

 

「あぁ、朝の」

 

「はいっ!今朝はどうもありがとうございました。おかげでこの通り」

 

大学生もしくは院生くらいの若々しい顔立ちをしたその女性は同じような顔をした少女を連れており、女性の親族と思われるその少女は上条夫妻の後ろに立つ垣根に気がついてなさそうだ。

常盤台中学の体操服を着ているその少女は、話についていけてないようで、顔色を伺いながら隣の女性を見上げた。

 

「……誰?知ってる人?」

 

「第三位様が大好きな上条当麻の親御さんだ」

 

大人同士の会話に馴染めずに少女、御坂美琴がぎこちなく声をかけると、その質問に上条夫妻の後ろから顔を出して答える。

中学生にしては高い背と、栗色のショートヘアの少女は垣根と同じこの学園に七人しかいない超能力者(レベル5)の第三位、常盤台に在籍する電撃使い(エレクトロマスター)、通称『超電磁砲(レールガン)』こと御坂美琴だった。

 

「へ、へぇっ!?ち、違っ!べ、別にっそんなんじゃっ、って垣根さん!?」

 

「よお第三位、綺麗なお姉さん連れて昼飯か?」

 

少し前の騒動で顔見知りになった第三位は垣根の言葉に真っ赤な顔であたふたと訂正を入れ、必死に弁解し始めた。

そして真っ赤な顔と冷静じゃない頭で垣根だと認識すると、なぜいるのかと言いたげな表情で驚いて耳の近くで大きな声を張り上げる。

いつもいる女とは違う酷く高い声に鼓膜が揺さぶられると、思わず舌打ちをして耳を片方塞いでしまう。うるさいのには慣れているが、それでもやはり五月蝿いものは五月蝿い。

 

「おや、君も彼女と知り合いなのか。世間は狭いな」

 

「あらあら、美琴ちゃん!誰、このかっこいい子は!」

 

「初めまして、垣根っていいます。そこのお嬢さんとは少し顔見知りでして」

 

「こちらこそ初めまして、御坂美鈴と申します。よろしくね」

 

御坂美鈴と名乗った第三位の親戚と握手を交わすと、淡い香水の匂いが鼻の奥を刺激した。

しかし自分の体にこびり付いた主張の激しい花の香りがそれを打ち消す。女性にしては高い身長にモデル顔負けのプロポーション、そして甘い匂い。

先ほど別れたばかりの馬鹿な少女を思い出すのは当然だろう。

 

天羽はよく自分を上だと、大人だと主張するが、こういう人や上条の母親を大人の女性というのであって、天羽は絶対違う。

全人類の姉を名乗る馬鹿なあの女は絶対に姉なんかじゃない。

だってあいつは子供で、垣根より年下で、小さくて、弱くて、幼くて、可哀想で、可愛い馬鹿だから。

 

「色目使ったら天羽先輩にチクるわよ」

 

「何であいつの名前が出てくんだよ。関係ないだろ」

 

御坂美鈴と名乗った女性と握手を交わしながらそんなことを考えていると、早く離れろと第三位がじっと嫌そうな目を投げかけ顔を膨れさせる。

家族を取られて寂しいのか嫌味を言ってくる第三位は、不機嫌そうに腰に手を当てジロジロと垣根の顔と服装を交互に眺めて、むすっと眉を顰めた。

 

「ていうか垣根さん長点上機だったわよね?体操服は?」

 

「俺が参加すると思ってんのか?」

 

「まあ、いない方が私達には有利だから別にいいけど」

 

しかし市販の真っ黒いジャージをじっと見つめ、垣根の答えを聞くと目の前の生意気な少女は呆れたように笑う。

垣根が通っている長点上機学園の体操服を着ていないことに毎年勝てもしないライバル校、常盤台に在籍する第三位は薄っぺらい胸を張って勝ち誇る。しかしその発言に今度は垣根を上条当麻の友達としか認識していない上条夫妻が首を捻った。

 

「長点上機?てっきり当麻のクラスメイトだと思ってたんだが……」

 

「競技で独走してる学校よね?常盤台ってそこと交流あったの?」

 

誰も上条当麻のクラスメイトとは言ってないはずなのに、勝手にそう認識していた夫婦は不思議そうに説明を求め、御坂美鈴はきょとんとして発言者である第三位に顔を向けた。

素性を明かすつもりはなかったのに、第三位の余計な言葉で奇妙な目線がチクチクと肌を刺す。

 

「あー、えっと、上条、さんのクラスメイトに垣根さんの彼女がいて、その先輩経緯で垣根さんと知り合った感じ。垣根さんも天羽先輩経由でしょ?」

 

「そうだが、その一文にデマを混ぜるな。誰が誰の彼女だ」

 

「それ以外形容できないじゃないのアンタたち……」

 

めんどくさい追求には答えず、黙り込んで言った本人が説明するのを待っていると、その視線に気づいた第三位が色々と言葉を選びながら話し始める。

昏睡事件をきっかけに知り合ったことは伏せたい事実だったようで、当たり障りのない説明をするが、その中に紛れる嘘につい過敏に反応してしまった。

 

勘違いされたらあの女が物凄く怒り、叫び散らすのが目に見える垣根にはそう言った冗談はとてもじゃないが笑えない。

訂正を入れろと訴えるが、確かに第三位のいう通り彼らの関係性に当てはまる単語はまだ見つかっておらず、言葉に詰まる。

 

「垣根くん恋人がいるのかい?ならその人とお昼食べたほうがいいんじゃないか?」

 

「こんなにかっこいい彼氏なんて彼女さんは気が気じゃないでしょうに!ダメよ〜、浮気なんかしちゃ!」

 

「こんなカッコいいと女の子が放って置かないでしょうし、ねえ、刀夜さん?」

 

「母さん?なんでそんなに怖い顔を……?」

 

言葉に詰まる=事実として認めたと解釈した保護者たちは一斉に思い思いの言葉を述べる。

垣根を恋する少年とでも言いたげな御坂美鈴はキラキラとした目で説教くさい言葉を口にし、上条と同じ女運をしてそうな旦那に上条の母親が釘を刺して冷たい笑みを浮かべて、めんどくさい雰囲気が一気に作られた。

 

「第三位、後で俺とあいつに謝罪な」

 

「悪かったわよ、こんなに聞かれるとは思ってなくて……でもあの人垣根さんにベッタリなのに今日はいないのね」

 

「べったりなのは認めるが、いつも一緒じゃねぇよ」

 

「ねぇねぇ、彼女さんどんな子なの?よかったら彼女さん呼んで皆で一緒にお昼食べない?」

 

話題が自分のせいで面倒な方向に逸れてきたことを認める第三位とは反して、彼女の家族はとても楽しそうにこちらにあの女の話題を振ってくる。

とびきりの営業スマイルで訂正を入れるも、携帯を握る手は力を増していくだけだ。苛立ちを隠しながら笑顔を作っても、この苛立ちは止まることを知らない。

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、家族団欒を邪魔するわけにもいかないので。そもそも彼女なんかいませんし」

 

「彼女じゃない?はっ、もしかして両片思いってやつかしら?青春ねぇ!」

 

訂正しても何度も誤解を繰り返される。この関係性にそんな軽い名前をつけられ、勘違いされるのは酷く不愉快だ。

今なら先ほどのオリアナとの戦闘で拗ねてしまった気難しい女の気持ちが嫌という程わかる。

 

ムカつく。

 

「俺はあの女に恋愛感情及び性的感情を抱いたことは一ミリもありませんよ」

 

「嘘ぉ!?だってあの人、ほら、あの、で、でかいじゃん!」

 

「あのな、俺をなんだと思ってるんだ?性格がクソで天秤に測るまでもねぇだろ、あんな女」

 

━━何も知らない外野があの気持ち悪い女と俺の曖昧な関係に名前をつけるんじゃねぇ。

 

そう叫びたいのを必死に我慢していたはずなのに、顔を真っ赤に染め両手で天羽の胸の大きさを訴える第三位を見ると、その我慢も限界に達しそうだ。

 

いい顔をしていなきゃ物事は上手く進まない。

しかも『計画(プラン)』の中枢にいる上条の関係者なら特に。

だから猫を被っているというのに、あまりに鬱陶しい発言に被った猫はどこかに逃げ出しそうだった。

 

仕方ないじゃ無いか。

話聞かない、言うこと聞かない、爆弾に突撃する、人を下に見る、自分に過信する、自分のことを考えない、垣根の事を弟呼ばわりするクズ女、この世界の誰が好きになるか。

気持ち悪い。

 

酷い目に合わせても懲りないあの五月蝿いガキを思い出すだけであの白く細い首を絞めたくなる。

気味の悪い少女の何もかもを知らないくせに、胸がでかいだの、可愛い顔だの、股が緩そうな外見だので垣根との関係性を疑う人間は全員ムカつくだけだ。

 

その感情のまま、低い声で御坂美琴の鬱陶しい質問に答えたが、すぐに御坂美鈴の発言に彼女を卑下した言い方をしてしまったことを少し悔やむ。

携帯を握りしめて顔を伏せた垣根を見る保護者たちの目には嫌厭の色が混じっていた。

 

「よく分からないけど、美琴ちゃんが変な子と一緒にいるのはちょっと心配かも……」

 

「悪い奴じゃねぇ……っす。その、普通に優しいし。人のことを考えすぎて、怪我するようなやつなんですよ」

 

「いい人よ、先輩。ただ無茶し過ぎなだけ。垣根さんは大変でしょうね。あと垣根さんはただのツンデレってやつだし」

 

「おい、誰がツンデレだ」

 

彼女が危惧することは理解できるが、誤解されるのも少々まずい。必死に持ち上げようと適当に言葉を濁しながら伝えてみるが、最終的に年下にフォローされる羽目になってしまった。

御坂が付け足した言葉に納得してくれた保護者共は顔を見合わせてふっと笑う。勘違いをしているのがすぐわかる。

 

「ふふ、危なっかしくてほっとけない子なんですね」

 

「さては好きな子に意地悪したくなるタイプだな?優しくしてあげるんだぞ?」

 

誤解を解くメンドくささに体が疲れてしまったこともあるが、理解できない奴らにこれ以上言ったって無駄だ。

あの女の気持ち悪いところを知っているのは垣根だけでいい。

 

自分のこと考えず、誘拐されても助けは呼ばないし、知らない奴に付いてくし、垣根の言う事を聞かずに怪我ばかりして、人を頼らない。

 

天羽彗糸という少女は、垣根がいなくては死んじゃうような弱くてダメダメな女だった。

怪我しても笑って済まして、彼に隠し事ばかり。分かりやすい虚勢を張って、分かりやすい嘘をついて、子供のくせに自分を大きく見せようとする意地っ張り。それに加えて甘え下手。

 

頭が悪くて器用貧乏、要領も悪いし、詰めが甘くて、肝心な部分がすぐ露呈してしまう。

必死に頑張って空回りしてる姿は籠の中で必死に飛び立とうとしてる小鳥のようで、とても愚かで可愛そう。

 

「ねぇねぇ、ちょっと興味湧いちゃった。写真とかある?」

 

「そういえば夏休みにゲーセン行った時二人で撮ってたよね。見せてあげれば?」

 

勘違いに拍車はかかり、あろうことか彼女の顔写真まで要求される。微笑ましい光景を見る目は不愉快だ。

勝手に話を進める彼らに呆れため息をついてしまうが、どうせもう二度と会う機会はないのだ、今回だけは見逃そう。

 

握っていた携帯のアルバムを開いて、目当ての画像を見つけだすと目の前にいるミーハーな大人共に画面を見せる。

眩しい金髪の毛先を鮮やかなピンクに染めた大人びた少女が映った画面は夏休みに撮ったもの。笑顔を浮かべる彼女と、メンドくさそうに隣に立つ垣根が映っている自撮りは正直あまり見せたくない代物だ。

 

上半身しか隠せないぴったりとした黄色い半袖のTシャツにチョーカーと金色のネックレス、そして右手のピンキーリングに、左手のサムリング。

誰に見せても恥ずかしい、頭の弱そうで股の緩そうな見た目をした彼女のアーモンドのような大きい目はピンク色の濃い化粧で囲われており、つけまつげとマスカラ、ピンクの明るい口紅は彼女の幼く不思議な顔立ちに似合っていない。

 

「あらぁ、可愛い子!」

 

「綺麗な子ですね、お化粧してるのが勿体無いくらい」

 

「やんちゃしてそうだが、可愛らしい見た目だな」

 

そんな見た目だというのに女性陣からは高い声が上がり、お世辞が飛び交う。

消しておけばよかったと後悔してももう遅い。携帯に映った金髪の少女を見て各々が感想を述べキャーキャーと騒がしく笑い、勘違いがさらに大きくなっていくのが嫌でもわかった。

 

「しかし、この子どこかで見た記憶があるな。どこだったか……」

 

「あら、やっぱり?私も見た記憶あったんですよ!」

 

しかし、勘違いの激しい彼らの会話に小さな情報がこぼれ落ちる。

初めて見せたはずなのに、もしかしてどこかで会ったことがあったのか?まさかもう既に知り合いに?

様々な憶測が一瞬で頭を埋め尽くすが、すぐに御坂美鈴が答えを出した。

 

「天羽のこと、知ってるんですか?」

 

「知ってる、というより見たことがある、の方が正しいかも。この子、芸能人か何かじゃないかしら?テレビで見たことあるわ」

 

「かもしれませんね、私もテレビか雑誌で見たことあります。職業まではわからないけど、昔こんな顔をした可愛い女の子が一時期ずっとテレビで特集組まれていたんです。確か、当麻さんが十歳だった時ね」

 

それはテレビ。

一番縁がなく、情報源としては最低限なメディアが一番に挙げられたことに頭が追いつかない。

記憶に刻むように上条の母が言った言葉を頭でゆっくりと何回も唱える。それほどまでに彼らの言っていることは自分の中の彼女と結びつかなかった。

 

「あ、勘違いかもしれませんよ?名字は天羽ではありませんでしたし、黒髪だったので」

 

「もしかしたら彼女の親戚とかかもしれませんね。顔はそっくりなので」

 

「へー、天羽先輩の意外な過去。芸能関係者なら派手好きなのは納得かも」

 

「青がとっても似合う子だったのよ。いつも青い服ばかり着てて。でもこんな感じに成長したのねぇ」

 

そんな自分の心境を察したのか上条の母が訂正を入れるが、それでも天羽と似た顔であることには否定せず、他の証言も天羽を彷彿とさせるもの。

 

黒髪で、青がよく似合う可愛くて幼い女の子。

彼はその少女を知っていた。

 

「それってこんな子、っすか?」

 

「そうそう!この子!よく子供の頃の写真なんか持ってるわね」

 

急いで携帯のボタンを押してアルバムの画像欄を下に進め、見つけた画像を見せつける。幼さの割に背の高い女の子が写ったそれは、冥土帰しに見せてもらった天羽が十歳頃の写真のコピー。

130cm程度の背丈に合わせて作られたズボンスタイルのナース服を着てニコニコと微笑む彼女は、不本意だがテレビに映っていてもおかしくない程度には愛らしい見た目はしていた。

 

「にしても、なんで見た目が違うのにわかったの?天羽先輩、黒髪じゃないし」

 

「その子、物凄く大人びてて子供に見えなかったの。悪い言い方で申し訳ないけど、すごく怖かった印象があって。それに綺麗な子だしね、顔だけは良く覚えてる」

 

夏休み最終日、天羽が小さい頃から気味の悪いくらい大人びていたと冥土帰しが言っていたことをふと思い出す。

彼女はその環境のせいで昔から、大人として生きてきたのかもしれない。なら、実際より年上に見せようと大人じみた服装をしたり、姉という立場に執着するのも腑に落ちる。

 

彼女は()()()()()()なんだ。

 

何かが心を満たすと同時に、ピロンと小さく音が鳴る。自分の携帯から鳴ったその音はメールを受信した際に鳴る電子音。

携帯の画面には『メール:天羽彗糸』とだけ簡素なフォントで通知されていた。

 

「俺はこれで失礼しますね。色々話せてよかったです、本当に」

 

『ちゃんとご飯食べた?』と書かれたメールになんとも言えない高揚感を感じると、すぐに彼らに小さくお辞儀をしてあの女の元へ行こうと体をくるりと翻す。

もう彼らに用はない。

早くあの女に伝えに行かなくては、お前の秘密を。

 

「またね、垣根さん。今度は天羽先輩と一緒にね」

 

最後、第三位の言葉に足を止めたが、結局振り返ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も知らない表の人々から遠のき、警備員(アンチスキル)がやたら多い公園を抜ける。その足取りは軽い。

早く青ざめる女の姿が見たいがために急ぎ足で向かう中、携帯でそれとは別の人物に電話をかけるとワンコールの後に同い年くらいの少年が短く返事をした。

 

その野郎の名前を機嫌よく呼ぶと電話越しでもわかるほど分かりやすく慌てふためく。面倒をかけられるとわかっているその少年は少しして諦めたようにため息をつくと、静かに垣根の言葉を待った。

 

「誉望、調べて欲しい人がいる」

 

『また随分と急に……誰を調べればいいんすか?』

 

違う名前。

隠蔽された能力。

神の領域に踏み込める三番目。

アレイスターが管理したがる能力者。

青、蒼、碧。必死に隠そうとする藍色。

 

その全てから導かれる名前は一つ。

学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人。第六位を冠するその人。

 

「藍花悦っていうんだけど」

 




あ〜ぁ。
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