とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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真面目な下ネタみたいなことに…


4話:木山春生

病院の待合ロビー。そこまで広くないソファに少女が二人並ぶ。

常盤台の制服を着た少女たちは、二人揃って少し遠くで壁にもたれる先輩に声をかけた。

 

「天羽先輩はどうしてここに?」

 

「この通り、お仕事。別の病院でバイトしてるんだけど、こっちに駆り出されてて」

 

「先輩のバイトって医療関係だったんだ」

 

短い茶髪が印象的な御坂美琴は、困惑したように彼女、天羽彗糸を見つめる。

ここに天羽が居ることは本来ならイレギュラーであり、ありえないこと。そもそも存在自体がイレギュラー。

だからか、御坂たちは天羽の動向なんて知る由もない。

 

「あの、お姉様」

 

「あ、ごめん!黒子は知らなかったよね。こちらは別の学校の知り合いで──」

 

「初めまして、あたしは天羽彗糸。聞いてるよ、御坂ちゃんの後輩で、風紀委員(ジャッジメント)の子だ」

 

そしてさらに話が見えていないツインテールの少女は、恐る恐る御坂に耳打ちする。

 

学園都市屈指の名門、常盤台中学。お嬢様学校として有名な中学校に在籍する彼女たちには、天羽のような高校生(しかも見た目がお嬢様とは真逆にいるような!)とは付き合いはほぼない。

校則破りの御坂とは違い、風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけた小柄な少女の方は尚更、天羽のような派手な見た目の頭の悪い女に免疫がなかった。

 

「白井黒子と申しますわ、よろしくお願いしますの。で、そちらは……」

 

しかし更に免疫がないのが後ろで見張る垣根である。

 

(そんな怖い顔しなくても、女子中学生相手に)

 

ホストのような雰囲気を醸し出す、少しアウトローなイケメン。背も高く、身につけたブランド物も彼によく似合っている。

スタイル良し、顔よし、そして金持ちそう。オマケに怖そう。

 

どこからどう見ても女を食い物にしてそうな不良少年であり、人物ではない。

 

「こっちは弟のていとくん」

 

ならばこちらからハードルを下げるしかないと、天羽の単純な頭は思いつく。

長ったらしい病名に、分かりやすい別名を着けるように。

気安くありもしないあだ名で呼びかけ、にこにこと肩を叩いてなんだか重い空気に対抗する。

 

「何ひとつあってねぇじゃねぇか」

 

「弟さん、ですの?」

 

「ちがう」

 

彼女の言葉のチョイスは良かったようで、重苦しい空気は少し和らいだ。

だがその代償として、弟の一言にイラついた垣根の手によってぺしっと金色の頭を叩かれた。

 

(本当のことを言ったのに、何が嫌なんだ。お姉ちゃんに手を挙げた罪で訴えるぞ)

 

ぶすっと抗議する目で垣根を見つめるが、何一つ効いてないようで、ため息混じりに睨まれる。

彼女の姉心は、垣根には届いてないよう。

 

「えー?けち!いいじゃんあたしの扶養に入っちゃえば〜!」

 

「調子乗んな。俺は垣根帝督、こいつの……」

 

「弟!」

 

「俺の方が年上だろーがややこしくなるから黙ってろ脳味噌8bitかテメェは」

 

何を言いかけたかはわからないがやはり弟は譲れない。素早く挙手して胸を張ると、今度は両手で頬を抓られた。

 

脳の記憶容量をファミコンに例えられたのは非常に腹立たしいが、スーパーコンピュータ並の第二位に比べられたら返す言葉もなく。

負けた悔しさから押し黙ると、ようやく垣根からの攻撃も落ち着いて静かになる。

 

子猫のようなじゃれ合い。彼が年相応の少年だと改めて認識させて、なんだか喜ばしい。

彼が守るべき人だと、救うべき人だと、傲慢な彼女は信じてうたがわなかった。

 

「先輩、彼氏いたんデスネ……」

 

だがそんなじゃれ合いを勘違いして、御坂は少し顔を赤くする。

恋する乙女の、小さな羨望。

 

どっちが先に好きになったのかな。

どっちが告白したのかな。

初デートはどこ?

ABCのどこまで進んだのかな。

 

彼女の視線に含まれた憧れと消費が腹立たしかった。

 

「彼氏じゃないよー!あ、だからと言ってセフレでもないよ!」

 

「セ、セフっ、?!」

 

これは下劣な恋でも、薄っぺらい性愛でも、消費され尽くしたロマンスでもないんだ。

愛。

慈愛。

可哀想な少年を救いたい想い。綺麗で、美しい、隣人への愛。

 

品性のかけらもない恋煩いだと誤解されるのは虫酸が走る。

 

しかし、それを表に出すのは憚れる。

流石にその感情が常識外れで、異常だと知っていた。

 

だから否定する。この行き場のない苛立ちを、精一杯の下品な言葉で包んで。

 

「そそそおそんなこと思ってないです!!!疑ってないですから!!」

 

「そう?でも男女にはよくあることでしょ」

 

「よくあっ!?」

 

「……お姉様、この方とのお友達付き合いはもう一度考えたほうがよろしいですわよ。貞操観念の薄さが感染ると思うと……私!私は!」

 

火が出るほど顔赤くさせて強がる御坂とゲテモノを見るような目でこちらを見てくる白井。そしてバカにしたように笑う垣根。

三者三様の反応で面白いと思うと同時に、この反応の良さがツンデレと呼ばれるものかと納得してしまう。

 

「なんだ、お前俺の体目的だったのか?悪いが俺は俺よりバカな女は嫌いだ」

 

「ふふ、興味無いかなぁ。恋とか愛とか性とか 」

 

「はぁ、つまんねーの、そこの中学生の方が面白い顔してんじゃねーか」

 

「残念。お姉ちゃんにそーゆーのは効かないよん」

 

イタズラが失敗したかのようにムスッとする垣根の子供らしい態度に、彼女は十年前になくしたあの子を思い出す。

 

耐性がないくせに下ネタでからかってきたり、生意気にもおちょくってきたり、知らないネットの単語で煽ってきたり。

そんな無邪気で奔放な女の子。

 

不意に痛む足にひどく泣く。痛いと、辛いと泣く。

大人になるにつれて、その痛みを隠す。

 

彼の言葉、態度、すべてに最も尊び、愛し、守りたい幼子が呼び起こされる。

全部、全部。

 

だからこそ、彼女は断言できた。

これが恋なんて単純なものではないと。

 

「……よく分かりませんが、仲が良い、ということでよろしいのでしょうか?」

 

「そうそう、よろしくね白井ちゃん」

 

話が色々と逸れた気がしたが、何はともあれ自己紹介は円満に終わった。

個人的にひやっとした場面はあれど、互いに悪い印象はない模様。ここで彼らを良い形で知り合わせたのは良い結果だった。

 

上条と同じ、御坂もまた主人公の一人。

彼らに取り入っておけば、今後天羽本人が行動不能となっても保険ができる。垣根の幕引きが悪いものにならないように。

 

「君たち、まだ居たのかね」

 

ちょうど話が終わった頃、パンプスを鳴らしこちらに向かう人影があった。

ふわふわとした茶色い髪に鋭い目、その下には激務を証明する隈が色濃く現れていた。

研究者、木山春生。

 

「ちょっとお尋ねしたいことが」

 

気怠そうに廊下を歩く彼女に常盤台の二人は髪を揺らして駆け寄るが、本人はそんなことには目もくれず、天井に設置された大型のエアコンに目を向けた。

 

「それにしても暑いな。ここは真夏日でも冷房を入れない主義なのか……」

 

稼働していないエアコンを睨んで、木山は恨めしそうに呟く。

確かに今日はエアコンを入れてもおかしくない気温であり、長袖の白衣を着る彼女はさらに熱が上がるだろう。

虚ろな目で話す木山は今にも倒れそうにみえる。

 

「あー、昨夜の停電で色んな病院の電気系統が死んじゃって。うちんとこもだけど、大体の病院が復旧してないんすよ」

 

「だからあの病院も暑かったのか」

 

それには理由があった。

というのも、昨夜起こった停電が病院系統に影響を及ぼしたためだ。

 

基本的に病院には緊急時用の自家発電機が置いてある場合が多い。そしてその電気は医療機器や手術、電子カルテなど、生命維持、治療のために使われる。

そうなると、電気の消耗が激しいエアコンへの使用は後回しになる。

まだこの地区は完璧に復旧しておらず、エアコンを使用していない。もしくは設定温度が高く設定されている。

この停電は発電所の不具合によるもの。大本がダメとなると、復旧は遅れるだろう。

 

「御坂ちゃんなんか知らない?電気系統の能力者だし。雷でも落とした?」

 

「え!?か、()()落としてないわよ!」

 

そういえば、と天羽の脳裏にふとある出来事が浮かぶ。

 

アニメの「()()()()」の方だったか、夜中に御坂が雷を落としたというエピソードがあった。

スピンオフの上、物語の序盤ということもありあまり覚えていなかったが、その出来事がきっかけで停電したというオチだったのを思い出す。

 

確か何か大事な日の前日で──

 

「そうか、非常用電源は手術や重篤患者に使われているしな。仕方あるまい」

 

「……ちょっとぉ!?」

 

もう少しで答えにたどり着きそうな思考は、突然上がった御坂の間の抜けた叫びによって中断される。

何かと思えば、木山が着込んだ服を脱ぎ散らかしている最中で。あまりのインパクトに考えていた全てが抜ける。

 

「はーい、垣根くんは見ては行けませんよぉ!」

 

「痴女かよ……」

 

やばい!と姉は瞬時にその過保護を発揮する。木山がシャツを脱ぎ切る前にすぐに垣根の目を両手で覆って、全てをなかったことにした。

流石に思春期の少年に成人のストリップショーを見せるわけにはいかない。

姉、それも過保護な姉としては阻止しなければならないのだ。

 

「ぅ、な、何をいきなりストリップしてますの!」

 

「いや、だって暑いだろ」

 

白井のごもっともな意見を交わしてまで、木山はまだ脱ぎ続ける。正直、ここまで常識がないと心の病でもあるのかと心配になるが、研究者はイカレると大抵こんなものだと、元研究者、現研究所在籍の天羽はよく知っていた。

特に一人研究室にこもってデスクトップが汚いパソコンと結果の出ない実験を前にし続けると、こうなる。実際彼女も大学の卒業論文や教授の研究チームを手伝っていたときは()()と同レベルまで堕ちていた。

 

「女だけならまだしも俺がいるとこで脱ぐんじゃねーよ……」

 

「下着つけててもダメなのか」

 

「ダメです!」

 

人のこと言えないな、なんて思わぬところで心に傷を追っていると、垣根はため息交じりに天羽の手をどかして嫌そうにくるっと壁を向く。

案外紳士的な一面もあるのだ。そもそも性欲自体あまりないのか。

 

その後ろで、白井に強く念を押されて手伝わされながらも服をきちんと着込む。

そして大きくため息を吐いた。

 

「木山先生、専門家としてご意見を伺いたいんですが」

 

「それはいいが……ここは暑すぎる」

 

ようやく、話を聞く体制になったようだった。御坂の真剣な眼差しから逃げるように木山は窓の外を見る。

 

白々しい態度が、全てを知る天羽には少し面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院で細々とした作業が終わった後、青い空をバックに緑のバイクを走らせ駐車場に停めると、そのままファミレスへ向かう。

店のドアを開けると、カランコロンと涼しい音が客人を出迎える。キョロキョロと辺りを見渡し、お目当の人物らを探すと店の奥に彼女たちがいた。

 

「さて、先程の話の続きだが、同程度の露出でもなぜ水着は良くて下着はダメなのか」

 

「いや、そっちではなく」

 

何やら答えが一生でなさそうな話題で盛り上がっている三人組に近づいて声をかけると、パァッと顔が明るくなる。

白井に至っては「助けて」目で訴えていた。

 

「やぁやぁ、何やら面白そうな話をしているね?」

 

「なんつー話題だよ……」

 

未だ本題に入ってない彼女らに少し呆れながら広いソファに腰を下ろすと、気を使ってくれたのか小さな風紀委員は語りはじめる。

先程とは違った真剣な話に、皆静かに耳を傾けていた。

 

 

 

幻想御手(レベルアッパー)?」

 

端的に言うと、内容は薬物の乱用について。

しかし話題の中心にあるものは実際の薬物では無い。

 

「強度をあげる、ね」

 

使えば夢を叶えられる代物。

誰もが夢見る超能力者の段階を踏めるもの。

幻想御手(レベルアッパー)、と現在は呼ばれているそれは、使用者の能力を引き出し、強度を上げる。

誰もが()()()()になれるもの。

そんな、甘美な合法薬物。

 

「それはどう言ったシステムなんだ?形状は?どうやって使う?」

 

「まだ分かりませんの」

 

学者らしく興味津々といった感じに木山が聞くが、名前と存在しかまだ特定できてない風紀委員(ジャッジメント)にはそれ以上の情報は提供しようもなく、ただ下を向く。

 

なんて白々しいのでしょう。

心の中、鼻で笑いながら天羽はただ目の前の研究者を見つめる。

 

大切な子供を助けるため、他の子供を犠牲にする。

それが目の前の研究者のやり口。

 

荒唐無稽、物語を知っている彼女には──いや、たとえ知らなくても彼女はきっと馬鹿にしていた。

誰かのために他人を犠牲にしていては無意味だと。救世主にはなれない彼女に、もはや哀れみすら感じる。

 

「それ使うだけで強度上がんなら、誰も苦労しねぇな」

 

絶対能力者(レベル6)にでもなっちゃう?」

 

「……気にはなるがドーピングに頼るのは御免だ」

 

黙ったまま話に耳を傾けていると、隣に座った男が大きな欠伸をした。

垣根にとっては、とても小さく、つまらない話なのだろう。もはや聞く素振りもなく、空になったアイスコーヒー片手に暇を持て余している。

 

その姿に、微かな不安が過ぎる。

彼をこの事件に巻き込んでもいいのかと。

 

強度が上がる代物、そのシステムについてこれから先必ず知ることとなる。

超能力者のその先、絶対能力者(レベル6)に到達することが暫定的な目標のこの街で、「スペアプラン」と呼ばれる彼と共に、それを知ってもいいものか。

 

現時点で絶対能力者(レベル6)に到達できるのは超能力者第一位の一方通行のみ。

しかしスペアプランである彼は、一方通行が神になり損ねた時、その役割を負う。

 

つまるところ、相応の環境、適した舞台、噛み合った計算さえあれば、彼は絶対能力者(レベル6)に到達する可能性があるのだ。

そんな男を、この物語に巻き込んだらどうなる。

 

この世界はページを巻き戻せない。

舞台の中断なんて出来ない。

選択を間違えたまま物語が進んでしまう。

 

分岐点はここだった。

 

「とにかく君たちはそれが昏睡した学生たちと関係しているのでは無いかと、そう考えているわけだ」

 

「はい」

 

しかしもう既に遅く、話は進む。この一抹の不安を押し殺して、ただ物語に体を預けるほかなかった。

 

「で、そんな話をなぜ私に?」

 

何も知らないかのように、木山は首を傾げる。

 

(よく言うよ)

 

生物物理学を納めた天羽から見ても、そもそも素人から見ても、そこまで難しい話では無く、察しが悪いふりは何のためかと心の中で呆れてしまう。

 

木山の専門は大脳生理学、つまるところ脳についての学問。

そしてこの世界の能力とは、脳の思い込みによって作られる。自分だけの現実(パーソナルリアリティ)と呼ばれるそれは、脳と密接に関係しているのがこの世界の常識。

ならば強度を上げるドラッグが、脳と何かしらの繋がりがあると考えるはず。

 

ここまでの話で、主犯とはいえそこまではぐらかせるのかが不思議だった。

 

「能力を向上させるということは脳に干渉するシステムである可能性が高いと思われますの。ですから、もし幻想御手(レベルアッパー)が見つかったら、専門家である先生に是非調べていただきたいんですの」

 

「ま、妥当だな。自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に干渉してるんだ。脳に何かしら影響してると考えるのは普通だろ」

 

「むしろこちらから協力をお願いしたいね。大脳生理学者として興味がある」

 

ようやく結論に至った所で、木山はひとつ咳払いをする。

ところで、と言葉を続ける彼女の視線の先には大きな窓。

 

「さっきから気になっていたんだが、あの子たちは知り合いかね」

 

そこには黒髪の似合う二人の少女が、談笑する彼らを窓越しに覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

テーブル席に七人の人間が座ると、ギュウギュウ詰めで、座り心地が悪い。

 

「へー、脳学者さんですかぁ」

 

その少女二人はファミレスの中に招かれ、簡単に自己紹介を済ませる。

その肩書きに花飾りの少女はすこし驚く。その腕には風紀委員(ジャッジメント)の腕章が輝いていた。

 

「はっ、白井さんの脳に何か問題が!?」

 

「……幻想御手(レベルアッパー)の件で相談してましたの」

 

「あぁ、それなら」

 

花飾りの少女は白井と二人がふざけ合っていたが、幻想御手(レベルアッパー)の単語に全員がはたと手を止める。

ただし、当事者以外は。

 

持ってますよ、と続けるつもりだったのだろう。

お姫様カットの、少しませた少女は嬉嬉としてポケットに手を伸ばそうとして、止めた。

明確に表すなら、遮られた。

 

「黒子が言うには幻想御手(レベルアッパー)の所有者を保護するんだって」

 

「え?」

 

御坂の淡々とした言葉は、賑やかな店内だと言うのにとてもハッキリと、大きく聞こえた。

 

「どうしてですか?」

 

「まだ調査中ですので、ハッキリしたことは言えませんが使用者に副作用が出る可能性がありますの」

 

「っ、」

 

その言葉に少女の息が詰まる。

当事者にとっては、酷く恐ろしい答えだった。

 

「変なもん使って自滅すんなら自業自得じゃねぇか?」

 

「まあね、それで心に平穏が訪れるのならあたしはなんも言わないよ」

 

「へー?お前がそう言うとは思わなかった」

 

つまらなさそうに、全てを見透かしたような口ぶりで垣根は新しいアイスコーヒーに口をつける。

正直に言うと、天羽はこの件に何ら関心がなかった。

 

「自分が納得するならそれでいいと思うよ?でも力で欲のまま他人を悲しませたりするのはご法度。罰を受けるべきかな」

 

「ふーん、正直言ってドーピングなんて言語道断!とか言うかと」

 

「使うのは構わないよ。ただそれに後悔して悲しむのが嫌なだけ」

 

使えばたちまち夢が叶う。そんな劇薬を手にしたいのは人の性。自分自身だって、例外では無い。

その結果他人が傷つかなければ、自分が傷つかなければ、たとえ刑務所行きになろうと幸せになるのであれば、それでいい。

 

もちろん犯罪歴や依存症などの困り事はあるが、その手前で辞めさせればいい。

そもそも彼女が住んで、学んでいたアメリカはその辺は寛容だ(様々な問題に発展しているが)。

毒にも薬にも、どちらにも転ぶものを安易にNOとは言えなかった。

 

「それに、容易に犯罪に走る傾向が見受けられまして」

 

小声で、お互いの耳元でコソコソと喋っていると、いつの間にか話が発展している。

白井の冷たい言葉に、誰一人反論出来なかった。

 

「ん?どうかしました?佐天さん」

 

「あ、いや、べつに!て、てゆーかさぁ!このイケメンとナースさんはだれ!?私知らないっ!」

 

「ナイス佐天さん!実は私もいつ聞くかちょっと迷ってたんですよぉ」

 

「私は佐天涙子、でこっちは初春飾利!お姉さんたちは?」

 

必死に取り繕い、悟らせまいと佐天と呼ばれた少女は笑顔を作る。

話題を変えるために天羽たちを指さして元気ハツラツと笑う彼女が少し痛ましい。

しかしそんなことは微塵も感じていないのか、誰も違和感を持たず話が進む。

 

「あたしは天羽彗糸。高一。そして病院に勤務するナースさん。んで、この子は」

 

「垣根帝督。高二」

 

「一つ先輩かぁ……一緒にいるの見たことないですけど、珍しいですね」

 

「他校の知り合いでね、長点上機の子なの」

 

本日二回目の自己紹介にすこし面倒くささを感じながらも簡単に、そして簡潔に自らを紹介すると、噂好きでミーハーな子供たちは目を輝かせる。

特に、垣根の方に。

 

「えっ!?あのエリート校の!?」

 

「てめぇ言うなよ」

 

「ごめーん!でもどうせバレるよ」

 

「え!?ってことはかなり高位の能力者なんです!?」

 

バンッとテーブルを叩き興奮する佐天は、垣根のあれこれに興味津々であむった。

それもそうで、いつもは男っ気のない知り合いの輪の中に、一人ぽつんと男がいるのだ。しかも顔はべらぼうに良く、お嬢様たちが普段つるまないようなチャラ男。そして隣にギャルをはべらせているのだ。興味が湧かないはずない。

しかし反対に垣根は冷静に、そして面倒くさそうに答える。

 

「まーな、褒めたくは無いがこいつも似たようなもんだ。見た目に反して力はある」

 

「マ?!今日はどしたん!褒めるなんてデレ期か!」

 

「撫でるな殺すぞ。セット乱れたじゃねぇかムカついた殺す」

 

「あたし死なないし……」

 

面倒くさそうな声色の垣根と目が合うと、赤と緑の目が輝いた。

 

なんてことだ!今日は記念日にしなくては!

 

滅多に、というか垣根が今まで生きてきて一度もしたことがないであろう「褒める」という行為に思わず目を見開く。

まるで赤ちゃんがつかまり立ちに成功したかのような喜びが勢い良く胸を満たした。成長、物語では読めなかった彼の成長は、全人類の姉を豪語する彼女には何よりも喜ばしいこと。

その流れで嫌がられるのが分かっていても、つい頭を撫でてしまうのも姉の性。

 

「いいじゃないの、かわいい弟が珍しく他人を褒めた日なのだから!お姉ちゃんとしては喜ばしい限りよ!」

 

「ご兄弟ですの?それにしては名字が……というか先ほど他校の知り合いと仰ってませんでした?」

 

「こいつが勝手に言ってるだけだ。ややこしいからそれやめろボケ。つか年齢的に兄だろ、俺が」

 

ばちんっ、と大きな音を鳴らして垣根はくっつき虫にデコピンをかますと、天羽の体を嫌そうにぐいっと剥がす。

痛そうな音に少女たちは少し心配そうな顔をして彼らを見守るが、当の本人はけろっといつも通り笑顔を浮かべていた。

 

いつだって笑顔を絶やさず、崩さない彼女にはデコピンも何も、効果がない。

だって痛くないから、痛みなんてもう()()()()()()

 

「あたし全人類のお姉ちゃんだからそこは譲れないんですー」

 

「んだよそれ。年齢も身長も勝てない奴が良く言う」

 

呆れたように否定する垣根だが、代替案は口にしない。彼女らの関係はひどく曖昧で、どちらも答えは出せていないから。

他人の憶測も、誰かの噂も、全部間違い。

 

彼女たちの関係を表すにはこの世界の言葉は少しヘッダが足りないのだ。

 

「これは……仲良しさんってやつですかね?」

 

「なぁんだ恋人じゃないのかぁ」

 

つまらなさそうな顔で佐天はがたんと大きく机を揺らしてテーブルに肘をつく。遠慮のない様は見ていて変に清々しい気分になるが、ここは食事の場、勢い良く座ると他のものに迷惑がかかる。

例えば、今彼女の肘に当たったプラスチックのコップとか。

 

「あっ!」

 

「す、すみませんっ!」

 

派手に水しぶきを立てて、中身が残るコップは机の下に真っ逆さま落ちていく。当たった先は木山のスカート。

中の液体は綺麗な弧を描いてシャツから何まで染みを付けた。

 

「気にしなくていい、かかったのはストッキングだけだから」

 

「で、でも」

 

広いスペースへ移動しようと、木山は席から離れ通路に立つ。確かに、広範囲に広がった飲み物を拭く時は一度立った方がやりやすい。

しかしこの女は常識が斜め上を突き抜ける女、手にとったのは天羽が手にとった紙ナプキンではなく、自分の黒いストッキングだった。

 

「脱いでしまえば──」

 

黒いストッキングをするりと脱いでいくと、白い肌が浮き彫りになった。

公共の場での過度な脱衣は、公然わいせつ罪に該当する可能性がある。そのことを知っているだろうに、木山はそのままスカートにも手を伸ばす。

だがすんでのところで、犯罪は未然に防げた。

 

「だからー!人前で脱いじゃダメだと言ってますでしょうが!」

 

「しかし、起伏に乏しい私の体を見て劣情を催す男性がいるとは……」

 

誰もがあまりの出来事に唖然とする中で、さすが風紀委員(ジャッジメント)というべきか、一人テキパキと衣服を回収し、元の状態に戻しながら白井は叫ぶ。

常識を無視したがる科学者というのは厄介だ。常識外れの能力者たちですらそう思ってしまうほど、この現状は馬鹿馬鹿しい。

 

「いや、それ以前に犯罪だから」

 

「つか性癖なんて人によるだろ」

 

白井の必死の形相に困惑する木山に呆れ、一同ため息をついてそれぞれの話に戻る。

 

「趣味嗜好は人それぞれですの!それに殿方でなくても歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ!?ねぇ!?」

 

断末魔のように、白井の叫びが広いファミレスに響き渡る。

いつ出禁にされるのか少しヒヤヒヤしながら、少女たちは時間が過ぎるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後も連絡先を交換したり(垣根は拒否していたが)と色々話し込んでいたら、いつの間にか日は傾き夕方。

解散となった。

 

「お忙しい中色々教えて頂きありがとうございました」

 

「いや、こちらこそ、教鞭を奮っていた頃を思い出して楽しかったな」

 

白井が丁寧にお辞儀をすると、柔らかく木山が微笑む。先ほどまで見ていた気だるげで常識外れな女とは思えない、優しい顔だった。

 

「教師をなさってらしたんですか?」

 

「むかし、ね」

 

だがその笑みはどこか寂しげで、憂いを秘めた目はどこか遠くを見る。

背を向けて帰る彼女はどこか悲しげに見えた。

 

「なんというか、ちょっと変わった感じの方ですの」

 

「白井さんよりですか?」

 

その背中を見つめる風紀委員(ジャッジメント)の少女たちの後ろで、佐天涙子、そしてその後を追って御坂が走り去る。

 

「データもまとめなきゃいけませんし、私たちは支部へ戻りますの……お姉様は?」

 

「ん?なんか佐天ちゃんと帰っちゃったけど」

 

「そ、そんな!お姉様!」

 

音もなく、挨拶もなく去って行く彼女たちに気がつくはずもなく、白井たちが振り返った頃には目当ての人は誰もいない。

もういい時間。帰りたくのはわかるが、一言くらい伝えてもバチは当たらないだろうに。

 

「俺らも帰るぞ」

 

「あっ!あたしの鍵っ!返せっ!」

 

ここにもう用事はないと、垣根は天羽のポケットから鍵をくすねて駐車場へと歩き出す。

勝手にポケットを弄るなんて言語道断だが、なんだかんだ天羽を待つようにゆっくり歩く彼は悪役とは思えない優しさがあるかに見えた。

 

もともと、いい子だったんだ。

 

夕焼けに溶け込む彼がとても美しくて、すこし誇らしい。

彼のためなら、きっとなんだってできる、叶えられる。そんな確信が天羽にはあった。

だから彼の後ろを追う。この子のために何かをしてあげたいと。

 

そうして彼女たちは帰路につく。

 

 

 

 

 

七月二十日。

今日が何の日か思い出せずに。




7月20日……何の日でしょうね?私にはさっぱりわかりませんとも。

本当は垣根くんにいつものホスト姿でいて欲しかったんですけど最近暑いですし彼の体調面が気になって半袖を着てもらいました。キャラクター原案の方(名前を出して良いのかわからない)が描かれたものは秋服みたいですし、何となくですがあのホスト服は垣根くんのお仕事服って感じがするのでむやみに表舞台で着せたくないんですよね。
オシャレしてくれ
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