とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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話は一切進んでない上に短いです。御坂さんしか出てこないです。


62話:舞台裏

大覇星祭、初日。騒がしい道の上、時間を気にしながら空を駆ける。

汚れてしまった体操服を着替えに行っただけだったが、思っていたより手間取ってしまった。

学園都市中が人に溢れ、賑わい、活気付くこの期間、磁力を使いながらの空中散歩は意外と気がつかれないようで、次の競技─確かバルーンハンターだったか─に間に合うようビルとビルの間をすり抜けていく。

 

時間にはギリギリ間に合いそうで、競技場の近くまでスピードを上げると同じ体操服を着たクラスメイトたちの頭髪が見え、近くの硬い土に勢いを緩めて降り立った。

工事現場の奥、人気のない場所に複数人でいる彼女らに一瞬疑問が湧くが、待たせている事実の前にはそんな些細なことはどうでもよかった。

 

「ごめーん、遅くなって……」

 

整列されて積み上がった角材の後ろに降り立つと、悪びれながら頭を下げてクラスメイトの元へ走ろうと一歩を踏み出す。

しかし、足を一歩出したはいいものの、クラスメイトや後輩たちの視線の先にいた見慣れた茶髪と顔に思わず体は隠れる場所を求めて角材の裏に足を戻した。

 

「御坂様、サイズ、キツくないですか?」

 

「運動には支障ありません、むしろ胸部に余裕があります」

 

「ねこ、お預かりしておきますね」

 

自分に向けられていない視線の先、毎日のように鏡でみる自分と瓜二つの少女がぼんやりとした目で白と赤の体操服に袖を通す。

その光景に脳が動きを止め、理解の先よりも先に慌てて体を引っ込めると、息を殺して見つからないように口を両手で塞いで黙り込んだ。

 

「あら?」

 

「どうかなさいまして?」

 

「いえ、今誰かいたような……」

 

僅かだがその中の一人、胸元まで伸びる黒髪を三つ編みにした後輩、泡浮万彬と目が合う。

しかしどうやらあまり気には止められておらず、隣に立つ栗色の髪をふわふわとしたボブカットの友人、湾内絹保と不思議そうに顔を見合わせて首を捻るだけ。

 

そんなことよりも、御坂の関心は彼女と瓜二つの少女、妹の姿に向いていた。

同じ顔、同じ背、同じ体格の少女。超能力者(レベル5)のひとりで第三位に位置する彼女、御坂美琴を模した軍用クローンのうち一人が彼女の代わりに友人たちと喋る。

 

何やってんのよ、あの子!

 

はらはらと心臓の脈が早まるのを感じながら、彼女らの成り行きを見守る。

どうやら御坂本人と勘違いされているようで、真っ黒い黒猫を取り上げられた彼女はいつものぼんやりとした無表情で立ち尽くしていた。

 

一体全体なんでこんなことになったのか。

想像はつくも、誰も本人と見分けがつかないとは、助かったような、寂しいような。

 

そろそろ競技の始まる時間。流石に今から彼女と変わるわけにもいかず、起きちゃったものは仕方がないし、その場を後にしてあとは妹に任せることにしよう。

 

 

━━私の代理で出るんだから、思いっきり暴れなさいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが昨日の出来事だった。そして同時に事の発端でもあったのだろう。

 

大覇星祭中は家族とホテルに泊まらなくてはいけないというルールの下、泊まったホテルのいつもとは違う枕の硬さに悩みながらロビーまで続く長い階段を降りる。

朝早いからか、あまり活気はない。

それでもちらほらと同じ体操服に、黄色い学校指定の上着を着た学生たちが何人かおり、小さな声で談笑していた。

同じ学校に在籍する超能力者(レベル5)、食蜂操祈の配下ともすれ違い、なんとも居心地が悪い。

 

「御坂様!」

 

「あ、湾内さん、おはよう」

 

『女王』が朝からいないなどと不穏なことをいう彼女らにも朝の挨拶をしてそのままロビーへ向かうと、今度は昨日見かけた後輩と目が合った。

小さく手を振って笑うと、目の前の友人、湾内絹保はゆるいウェーブがかかった髪に手を掛け気まずそうに顔を困らせる。

 

「おはようございます、あの、差し出がましいかもしれませんが、私の体操服はいつ頃……」

 

「体操服……?」

 

覚えのない質問に体が固まるも、それが昨日コピーの妹が借りた服のことだと気がつくと、自分でも驚くほどの大声がホテルのロビーに響き渡った。

 

「っえ?まだ返しに来てないの!?」

 

「はい?」

 

「あっ、じゃなくて……ごめん、その、コーヒー!コーヒー零しちゃって、クリーニング出しても染み残っちゃうから、買い取らせて?新しいの届くように手配しとくから」

 

「いえいえ、そこまでして頂かなくても」

 

慌てて訂正の言葉を並べて頭を下げると、湾内は優しい顔を浮かべてお辞儀をしてから立ち去って行く。

体操服を借りたままなんて、御坂に迷惑をかけないよう徹底していた妹達(シスターズ)ならありえないことだ。御坂に成り済まして大覇星祭を遊び倒そうという魂胆なのかは分からないが、湾内には申し訳ないことをした。

 

まだ今日の競技までには時間がある。彼女達、通称『妹達(シスターズ)』はその生まれのせいでメンテナンスが必要不可欠な体を持っており、姉としては勝手に出歩いているのは多少なりとも心配だ。

監視カメラを確認して回れば、すぐ見つかるだろう。

楽観的に考えながらホテルのフロントへ向かう最中、心の奥底で燻る不安がゆっくりと溶け出していく。

 

なんだか、胸騒ぎがする。

不安をかき消すように足早にホテルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を飛び回り、複数の監視カメラのデータを覗き見たところ、その胸騒ぎが的中したのか思いもよらない光景が小さなカメラに収まっていた。

 

小型のデバイスの画面に映った映像に冷や汗が頬を伝う。細い路地の奥から担架に担がれて救急車に乗る姿に息が止まった。

瓜二つの顔が赤く染まり、荒い呼吸を繰り返して大量の汗をかく姿は、どう考えても異常だ。

 

急いで磁力を手繰り寄せながらこのエリアの管轄と思われる消防署へ向かう。不安と恐怖が心臓と足を早くする。

妹達(シスターズ)の姉とも言える彼女に、一人が行方不明になったとの連絡が一切入らないのはおかしい。それに、彼女達を預けている第七学区の病院は、信頼できるカエル顔の医者に、少し厳しいが優しい看護師だっている。

看護師として妹達(シスターズ)のメンテナンスの手伝いをしている先輩からメールの一通も来ないのは不自然だ。

 

「あの、すみません」

 

第七学の消防署にたどり着くと、近くで談笑していた中年の男性二人に声をかける。灰色の帽子に髪を隠し、つばを目元まで引き寄せながら映像で見たものと同じナンバーの救急車に指を差すと、彼らは軽く眉を顰めた。

 

「昨日、これを動かしてた方は……?」

 

「昨日?俺とこいつだけど」

 

━━人当たりの良さそうなおじさんで良かった。

 

質問に驚いたような顔をしたが、特に疑うこともせず彼らは頷く。

詮索することもなく軽い口で輸送した病人の詳細を喋る彼らに市民として不安は覚えるとはいえ、手荒な真似もせず教えてくれるのは正直ありがたい。

 

「昼前くらいに茶色がかった髪を肩まで伸ばした女の子を搬送しませんでしたか?」

 

「あー、あの子か。俺たちで運んだよ」

 

「その子、あたしの知り合いで、搬送先の病院がどこか、教えていただけないでしょうか」

 

「それならほら、あそこだよ、見えるだろ?」

 

彼らは目の前の大きな建物を指差す。そこが妹達(シスターズ)がお世話になっている第七学区の病院だったことに驚くが、確かにあそこの病院に運ばれたのならあの医者達が連絡をしない可能性もあり得る。

だって彼らはプロだ。御坂に連絡する前にすぐさま治して何もなかったようにしてしまうかもしれない。

深く安堵すると、教えてくれた彼らにお辞儀をして馴染みの病院へと走り出した。

 

 

 

 

 

しかし、

 

「え?運び込まれてない?」

 

「その時間に急患があった記録はありませんね」

 

救急隊員の言葉が嘘だったと、受付越しに座る若いナースが告げた。

 

「でも、救急隊員の人が運んだって……」

 

「どこかの病院と勘違いされているのでは?」

 

消毒液の匂いがする病院のロビー、予約や会計を請け負う総合受付に座るナースに改めて確認するが、パソコンの情報を照らし合わせても救急隊員の証言を裏付ける証拠は何一つ見つからない。

確かに彼らはここの病院に妹を運んだと言った。嘘をつく意味はないはずなのに、ナースはそんな事実はないと再度告げる。

 

おかしい。証言が食い違うなんて、あり得るのだろうか。

 

ふと、あの先輩の顔が浮かぶ。明るい金髪と桃色の毛先に、緑と赤の瞳を持った一人の女性。

彼女の名前は天羽彗糸。

幻想御手(レベルアッパー)の時は一緒になって木山晴生を止めて、ポルターガイストの時も木山先生の生徒を助けるために尽力してくれ、テレスティーナを許して釈放したことには怒ったけど、妹達(シスターズ)の実験施設を破壊して回った時も、一方通行を止める時も助けてくれた優しい先輩。

彼女の優しいけれどどこか怖い笑顔を思い出す。

 

チャラついた見た目は近寄りがたいが、何度か一緒に厄介ごとに巻き込まれている自分は彼女がどういう人だかよく知っている。

()()()()と同じ、究極のお人好しで善人。自分には厳しく、他人にはとことん甘く接する人。

底抜けに、いや、恐ろしいほど人間に優しい人。

 

最初に出会ったのは上条当麻を追いかけ回していた時のこと。彼氏彼女と勘違いされて恥ずかしさを紛らわすために電撃を放った際だった。

 

━━そんなことで怒ってちゃだめだよ。

 

なんて言って優しく笑いかけてきた人。

 

その頃から印象は変わっていない。

テレスティーナを許して、夏休みのあの日に一方通行を諭すように立ち塞がって、気絶した彼をわざわざ病院に運んだお人好しの先輩。

自分の悪いところをよく知っているからこそ、他人に甘くする彼女は自分には理解できない人間だった。

 

わかるのは彼女が底抜けに優しいことと、責任感を強く感じる性格だということ。

 

「じゃあ、あの、ここにいる看護師の、天羽彗糸に繋げてもらえますか?友達なんです」

 

あの人の性格なら、自分で抱え込んで秘密裏に対応している可能性がある。

もしかしたら彼女なら何か知っているのかもしれない。

 

「友達?……申し訳ないんですが、あの子なら昨日から係の仕事でお休みしています。その関係で大覇星祭中のシフトはありません」

 

「休み?」

 

「はい、先程まで病室で休んでましたけど、ご友人に呼び出されて出掛けていますし、本人に連絡した方が早いかと」

 

「そう、ですか……ありがとうございます」

 

だが肝心な時に自分の勘は役に立たなかった。

昨日の昼、借り物競走の時、垣根と大人数で警備員(アンチスキル)と話していたことを思い出すと、残念ではあるがナースの言葉に納得がいった。

先輩はおそらく関与しておらず、この件も知らない可能性が高い。彼女に伝え、協力を煽るのも一つの手だ。

ロビーを抜け、再び消防署へ走り出す。膨れ上がっていく不安をぐっと抑えながら急いで足を動かした。

 

 

 

 

 

 

十分もかからずに先ほどの消防署にたどり着くと、もう一度同じ質問を聞く。先ほどのナースの証言も添えて。

 

「いや、間違いないって。なぁ?」

 

「確かに、あの病院に運んだよ?」

 

「でも、そんな記録は……!」

 

証言の食い違いが続く。嘘だと看破されても悪びれない職員に苛立つと同時に、あることに気がつくと、目を見開いて白と赤の救急車を見つめた。

 

いや、変だ。

 

行方不明の妹は湾内から借りた常盤台の体操服を着ていた。通常、身元不明の学生が病院に搬送されたら制服から学校を特定し、どこの病院だろうとまず学校に連絡をするものだ。

だというのに、御坂美琴が搬送されたと連絡は一切もらっていない。

一晩たっても学校側からなんの動きもないのはおかしい。

 

「あの、本当なんですか?」

 

そうなると、疑うべきは救急車を運転してた人だ。

 

「じゃあ、引き継いだ病院関係者の名前は?その時の情報を説明出来る?」

 

「当たり前だろう。いつもの子だよ、金髪の背の高い女の子」

 

「彗糸ちゃんがいる日は大体あの子に引き継いで貰ってるからね」

 

疑いの眼差しを向けられても、彼らは当たり前のように質問に答えた。

 

「天羽先輩は昨日からお休み中よ」

 

「え?あれ?じゃああの子は、」

 

彼女は昨日からいない。明らかな嘘だった。

 

素早く救急車の運転席へ乗り込むと、制止も聞かずに能力を使って走行履歴を確認する。青白い電流を流し、ナビを起動させると周辺の地図が表示され、現在地を赤いマークが示していた。

 

「な、降りなさい!」

 

パネルに表示された走行履歴は、彼らの証言を否定する。病院を通りすぎ、地下駐車場に向かったと矢印が静かに主張していた。

 

「君!いい加減に」

 

「これはどういうこと!」

 

病院なんて、向かってないじゃないか!

 

地下駐車場に行って、そこから引き返していると表示されたディスプレイに苛立ち、奥歯を噛む。

あの子は救急車に運ばれて、地下駐車場で別の車に移された。そう考えるのが一番妥当だろう。

自分の知らないところで、妹に聞きが迫っていることに自分の不甲斐なさを痛感する。何も知らずに、遊び呆けていた自分が恨めしい!

 

「この走行履歴を見る限り、あんた達は病院になんて行ってない!説明できるものなら説明してちょうだい!」

 

「そんなはずは……」

 

「動かぬ証拠がある以上、言い逃れはできないわよ!」

 

画面から目を離し、問い詰めようと勢いよく体をひねると、振り向きざま深く被っていた灰色の帽子が落ちた。

露わになった髪と、クリアになった視界のせいでおじさん達の驚いた表情が良く見える。

 

「君は、昨日の……?」

 

やってしまった。搬送した少女と瓜二つの外見を持つ人物がこの場にいるなんて、事情を知らない人から見たら驚きどころの話ではない。

慌てて救急車から降りて説明をしようと口を開くが、出てくるのは空気ばかり。

 

「一体どういうことだ、なんだって搬送された本人が自分がどこにもいないなんて狂言を……」

 

「違うの!これは、」

 

「まて、どこかで見覚えがあると思ったが、超能力者(レベル5)の子だね?電気を操るとか、なんとかの。走行履歴も、君が能力で改竄したんじゃないのかい?」

 

「そんなことするわけないでしょ!?」

 

いわれのない疑いに思わず体が動き、腕が中年の隊員の襟元へと伸びる。強く作業服の襟を掴んで声を荒げてみても、彼らは口を割らない。

ここまでしているのに、一向に本当のことを話さない彼らにいい加減腹が立ってきた。

 

「身元を隠してたのは謝るわ!でも、嘘つかないでホントの事を言って!」

 

「う、嘘なんかついて、ない」

 

「嘘じゃなきゃ、あんた達の記憶はどうなってんのよ!いい加減なことばっかり──」

 

襟を掴む手に力が入る。嘘をついていないと信じたくても、この場にある証拠が全て否定する。

どうしてこうも彼らは頑なに嘘をつき続けるのか分からない。天羽先輩の名前を出してまで嘘を着く彼らに怒りさえ感じるが、ふと別の考えが思い浮かぶ。

 

証明されない証言と、事実と噛み合わない彼らの記憶。

彼らが本当のことを言っているとしたら、食い違った記憶は他の能力者に改竄されたとも考えられるのではないだろうか。

 

いるじゃないか、一人。

 

脱色されたハニーブロンドの髪を腰まで伸ばした同級生の能力者。

 

七人の超能力者(レベル5)の第五位。

誰にも勝る精神干渉能力者、『心理掌握』

 

名前は、

 

「君!その手を離しなさい!」

 

 

食蜂操祈

 

 

 

彼女の煌めきが眩しい瞳が脳に焼きつく。

警備員(アンチスキル)などに包囲されているこの状況を煩わしく感じさせるほど、星形の模様が入ったあの女の目が頭から離れなかった。

 




次回は多分月曜に更新します
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