とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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63話:発覚

静かな廊下に響くほど強くドアを蹴破る。垣根の蹴りにチャチな電子ロックは見事に破壊され跡形もなく木っ端微塵になると、明るい光が部屋から溢れた。

靴音をうるさく鳴らし、中にいたムカつく顔の研究員の机を強く叩く。

鬱陶しそうに顔を上げた彼女、テレスティーナは面倒そうに溜息をつくと一度振り向いたというのに顔を背けてパソコンを立ち上げた。

 

「あの馬鹿はどこだ、どこにやった」

 

「あ?扉は静かに閉めろよ」

 

「いいから答えろクソ女。あの女は一体どこだ?」

 

暴れてしまいたいほどの情動をコントロールしながら問い詰める。接続が切れたことに気がついて慌てて向かったこの研究室にあの金髪がおらず、テレスティーナしかいない明るい室内には甘い香りだけが残っていた。

 

「あいつなら四十分前くらいに連絡きた奴とデートとか言って05と仲良く遊びに行ったぜ?」

 

「は?デートぉ??あいつに俺以外の男がいるわけないだろ」

 

「男ではありませんよ、とミサカは訂正します」

 

呆れた表情で淡々と話すテレスティーナの声に不安が募る。どうしようもない感情に苛立って強く拳を握って目の前の女を睨むと、突然少女の声がした。

感情が汲み取れない冷たい声に振り向くと、茶髪の少女と黒髪の子供が目に入る。

 

「相似に誘拐されて搬送されてたガキじゃねぇか。九九八二号、そのガキどうしたんだ?」

 

「垣根さんに先ほど面倒見ろと言われたのですが、何やら彗糸お姉様がピンチと聞きまして、とミサカはここにいる理由を簡潔に話します」

 

「林檎、お前話したのか」

 

「うん、知りたいって言われたから」

 

御坂美琴の軍用クローン、缶バッチとヘアピンをつけている個体、九九八二号が杠林檎の手を引いて壊れたドアを跨ぎ、二人揃って無表情でこちらを見つめる。

不気味に感じながらも、無表情なりに彼女達の感情は感じ取れていた。

クローンの遺伝子元と同じように、彼女もまた他人を助けたがる主人公タイプなんだと、何と無く分かってしまう。林檎のいい預け先だと思ったが、どうやら自分の考えは的外れだったようだ。

 

「ったく、コレじゃお前を九九八二号に預けた意味ないだろ。それで、あの女は誰とどこに?」

 

「食蜂操祈のもとへ行くとおっしゃってました、とミサカは彗糸お姉様の発言を思い出して見ます」

 

「……は?食蜂操祈?」

 

聞き覚えのある名前に軋むほど強く机を掴む。天羽と接点のないはずの格下の名前が出るとは予想もしていなかった。

 

「って、誰?」

 

超能力者(レベル5)、第五位の精神干渉能力者だ……昨日選手宣誓に出てた女だな。第一位、第二位、第三位ときて第五位まで知り合いか。いや、そういや第七位とも知り合いっつてたな」

 

天羽は第五位と知り合いなんかじゃない。林檎の質問になんだかんだ丁寧に答えるテレスティーナを横目に見ながらギリギリと手に力を入れる。

 

テレスティーナの言う通り、彼女は第一位と第三位、そして第二位である垣根と知り合いだ。

ずっと一緒にいたのだ、彼女が誰と出会っていたのか知らないはずがない。

第五位とも、第七位ともあった記録はないのに。現状がそれを否定する。

 

しかし昨日のことをふと思い出す。第七位とも知り合い、今テレスティーナはそう言った。

なのに何故、昨日、第七位は知らない他人かのように振舞っていたのだろうか。

 

「ですが第五位の方が彗糸お姉さまになんの御用なんでしょうか、とミサカは疑問に思います。他に頼れる方は居そうですが、とさらに付け加えます」

 

「さーな、用事でもあったんじゃねぇの?」

 

第七位のことは後で問い詰めるとして、九九八二号の言葉に再び第五位に関して考察を巡らす。

 

天羽自体が第五位と接触するのは性格的にありえる。鳥頭の彼女なら危ない目に合うと分かっていても、涙を流しながら助けを請えばすぐに騙されるだろう。いや、嘘と分かっていても救ってあげるだろう。

しかし、第五位の目的は不明だ。

 

と言うのも、天羽をわざわざ呼ぶ理由が見当たらないからだ。

 

第三候補、三番目の天使等、知らないところで異名が増え続ける彼女だが、第五位が暗部や上層部と関係がありそうなこのワードと関係あるとは思えられない。

かと言って能力目当てとも思えなかった。

 

天羽にできることは限られている。

治すこと、戦うことしかできない。しかも無能力者相手でようやく勝てる程度のチワワみたいな強さしか持てない馬鹿ときた。

人畜無害、それどころか喋ると精神が疲れて、目を離すとすぐに面倒ごとを持って来て垣根を困らせる。

ほっといてはいけないタイプの人間。

何もできない愚かな人。それでいて何かを成し遂げようと足掻く。 

それが彼女だ。

 

知らないとはいえ、そんな女になんの用事があるというんだ。

しかも精神に関することならなんでもできる能力を持つ第五位が。

 

そうなると一つしか浮かばない。

必要なのは天羽の持つ癒しの力。もしくは死を呼ぶ力。

 

秘密裏に殺してほしい相手がいたか。

それとも治してほしい急患でもいたのか。それも、この病院に連れて来られないワケありの患者が。

 

「ったく、今日は10032号もどっか行っちまったし、相似の野郎もついて行ったし、人がいねぇーんだよ。手伝わねぇならドア直して帰れや」

 

「待て、どの野郎だって?そいつあのクソ野郎じゃ、」

 

「あ、内線だ。ちょっと待ってろ」

 

頭を掻きながら聞き覚えのある名前を出すテレスティーナは、突然鳴り響いたデスクの内線電話を手に取り適当に有耶無耶にする。

尋問したい衝動に駆られるが、電話が終わるのを待ちながら必死に堪えた。

 

「……なぁ、天羽の友達を名乗る女子中学生が現れたようなんだが」

 

「そういえば先ほど、お姉様の微弱な電磁波を感じ取ったような……」

 

電話を置いて何度目かのため息をつくと、彼女は落ち着いた様子で電話内容を伝える。思ってもいなかった客人に互いに顔を見合わせる。

 

「関連性があるかは分からないが、どうする?調べてみるか?」

 

「テメェも手伝うんだろうな?」

 

「大事なモルモットのためだ、手伝ってやるよ」

 

何かを企んでいる食蜂操祈と、このタイミングで天羽を探しに来た御坂美琴。

天羽がまた何かに巻き込まれていることだけは、この場にいる全員、分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、申し訳ありませんでした」

 

連絡を受けて駆けつけた教師とともに消防隊員達に深く頭を下げ、苦々しい顔で謝罪を述べる。何も情報を得られず、妹のために何もできなかった自分の不甲斐なさが胃を熱く煮えたぎらせた。

不安と無力感が体を襲う。そして思い浮かんだあのふざけた女の笑顔に奥歯を強く噛む。

 

「ほら、行きますよ」

 

教師に促されるまま黒い高級車の後部座席に座り、重苦しい雰囲気のまま車が走り出す。両手をきつく握りしめて光沢のある座席に座っていても、思考は先生のお説教よりも妹達に向いていた。

 

「全く、何を考えているのです。公共機関に対して脅迫紛いの狂言なんて、大事にならないよう相手方が便宜を図ってくださったから良かったものの……一体、何が原因なのですか?」

 

綿辺先生が来るまでの間、消防隊のおじさんたちに引っかけを混じえた質問をしたけど、嘘をついているようには見えなかった。

だとしたら、やっぱり彼女しかいない。

 

学園都市一の精神干渉能力者。食蜂操祈。

彼女なら他人の記憶を操作し、人の認識をすり替えることだって可能だ。

 

「食蜂操祈に、能力を悪用して犯罪を隠蔽した疑いがあります」

 

「それが本当なら、由々しき事態ですが……そう判断せざる負えない根拠があるのですか?」

 

「それは……」

 

しかし学校側にどう報告しても、妹達に触れることになる。それは避けなくてはいけない。

その結果なんとも歯切れの悪い返答しか返せないことにむず痒さを覚えてしまう。

 

「具体的には、なにがどうとは言えないのですが……」

 

「それでは如何ともし難いですね……御坂さん、今は大覇星祭の期間中、学園都市が世界中から注目を集めています。超能力者(レベル5)の貴方は我が校のみならず、学園都市の代表として振る舞わなければなりません。それが重圧になってることは理解していますが、軽率な行動は普段以上に慎んでください。理解出来ますね?」

 

「はい……」

 

小さな声で呟くと、先生はため息をついてこめかみを抑えた。

先生が御坂を心配してくれているのはわかっているが、それでも妹達と食蜂操祈を放っておけるわけがない。

 

車の外から見えるビル群を尻目に、お叱りを聞き流しながら考える。しかし考えても、考えても一向に分からない。

食蜂操祈が救急隊員を操って運び屋をさせたとして、目的は一体なに?

いや、それに関して今はいい。

とにかく、競技が始まったら抜け出して、可愛い妹を探しに向かわなくてはいけない。

今の所、救急車がいった地下駐車場が唯一の手掛かり。まずはそこに向かうしかあるまい。

 

今後の行動を組み立てながら一人静かに座っていると、車が歩道に乗り上げ停車する。先生の後を追うように車から降りたのはいいものの、何か違和感を感じてしまう。

 

「あら、丁度良かった」

 

「な、」

 

どうやらその違和感は正しかった。

車から降りた先、先生は近くで話し込んでいた同じ学校の生徒達に話しかける。十人はいるそのグループの顔触れに見覚えがあった。

 

「あなた達、ちょっとお願い出来るかしら。御坂さんは今少し精神的に不安定になっているので、見ていてあげて欲しいのです」

 

「はぁ、構いませんが……」

 

長いプラチナブロンドをお姫様のように巻いた少女が困ったかのように笑う。見張りを頼むなんて、これでは考えていた行動プランが台無しだ。

 

「まぁ、御坂さん。私、貴方とは一度ゆっくりお話して見たかったのです。よろしくお願いいたしますね」

 

「あ、はぁ……」

 

よりによって、食蜂操祈の派閥メンバーなんて。

 

「あんまり先生方を困らせてはいけませんよ?」

 

「御坂さんはわんぱくさんですからね」

 

なんだか居心地の悪い会話にやりづらさを感じながら自分を取り囲む少女達に警戒しながら乾いた笑みを浮かべる。

もうすでに車に乗って走り去って行った先生はなぜ彼女達を選んだのだろうか。

 

食蜂操祈は学校内で大きなグループを作って配下に入れた人達に『女王』と呼ばれている。そして目の前にいる彼女達はその取り巻きの一部。

特にプラチナブロンドの彼女、帆風潤子はよく覚えている。背格好や体格が似ている彼女は食蜂に一番忠誠を誓っているメンバー、先生が彼女達を呼び止めたのは果たして偶然だろうか。

罠にはめられたような感覚が消えない。

 

──御坂さん。

 

考えがまとまらないまま彼女達の輪に歩み寄ると突然、頭に声が響く。高い声は耳ではなく、頭に直接響き、それが能力を介してということだけがわかる。

辺りを見渡して声の主を見つけようと視線を動かすと、派閥の一人の目と会う。明るいボブカットが似合う彼女は可愛らしくウィンクをして人差し指を口元に置いた。

 

──見張り役ということなので、御坂さんと回線を繋ぎました。この回線が繋がっている間、私は御坂さんのおおよその位置を把握できます。お逃げになると、私達が全力で御相手することになりますので

 

念話(テレパス)か。

 

含みのある言葉に苦笑いしか返せず、近くにあったベンチに座り込むと静かに足元を見つめる。

振り切ろうと思えば、振り切れる。けど追われながら情報集めるのは流石に厳しい。

それに表向き、派閥メンバーから敵意は感じない。食蜂操祈からなにか聞いている訳では無さそうで、無理に引き剥がせば厄介ごとに巻き込んでしまうかもしれない。

 

とにかく、これ以上動くのは得策ではない。誰かの手を借りることができればいいのだが。

顎に手を当てこの状況を打破する策を考えるが、一向にいい案は思い浮かばない。

一度思考を切り替えようとパッと顔を上げ、道路に面した道に目を向ける。

赤いリボンで結ばれた明るい色のツインテールが視界の端に捉えられると、小さく声をあげた。

 

「ちょっと知り合いと話してきていいかしら?逃げたりしないから」

 

「え、ええ……」

 

黒子、初春に佐天の姿を両目が捉えると、派閥メンバーに一言断りを入れてから小走りで駆け寄る。

もう四の五の言ってらんない。彼女達に手伝ってもらわなくては、妹を助けることはできないのならば、迷惑のかからない範囲で手を借りるのも大切だ。

 

「黒子!ちょっと、頼みたいことが……」

 

色々あって怪我をした黒子は車椅子に乗りながら佐天と初春二人と仲良く談笑しながら道を進む。

偶然にも彼女達がこの道を通ってくれたのは正直ありがたい、笑顔で駆け寄って名前を呼ぶと彼女達は足を止めて振り返る。

ただ、その表情はまるで予想していないものだった。

 

「なんですの?人の名前を気安く呼ばないで頂けます?馴れ馴れしいですわね」

 

「白井さんのお知り合いですか?」

 

「いえ、うちの学校の御坂美琴という先輩ですわ」

 

「え、有名人じゃん!確か超電磁砲(レールガン)って呼ばれてるんですよね!」

 

他人行儀な拒絶。見知らぬ他人と接するかのような冷たい声に自分の顔から笑顔が消えていくのがわかった。

信じられない言葉に体は固まって、脳はまともに動かない。何を言っているのか、理解することを脳が許さなかった。

 

「く、黒子……?みんなで、私をからかってる訳じゃないわよね……?」

 

「何を言ってますの?」

 

「初春さんも、佐天さんも……」

 

「なんで、私達の名前を?」

 

苦笑いを浮かべながら、黒子の座る車椅子を押している初春達に話しかけても、皆困惑したような表情で顔を見合わせる。

 

彼女のことを、忘れたようだった。

知らない他人と接するようなぎこちない彼女達に喪失感がぽっかりと心に穴を開ける。今まで遊んで来たこと、巻き込まれた事件、些細な会話、初めて出会った日のこと、その全てを忘れてしまった彼女達に、なんて声を掛ければいいのか、分からなかった。

 

「白井さんが話したんですか?」

 

「いいえ、私も面識はありませんの。私達のことをどこで耳にしたのか知りませんが、お困りでしたら話を聞きますわよ。風紀委員(ジャッジメント)として……」

 

「いえ……、」

 

そのまま立ち去る彼女達を背にして、強く拳を握る。こんなにも悲しくて、酷く虚しいのに不思議と涙は出ない。

それよりもあの女への怒りや憎悪が膨れ上がる。

 

態度のデカい同級生の顔が脳裏にこびりついて、無性に苛立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、だからと言って何かができるわけではない。あのいけ好かない女の部下に取り囲まれている現状、次に行う競技の準備をしなくてはいけないし、勝手気ままな行動が制限されている。

御坂にできることは無に等しい。

 

仕方がないので競技の準備に取り掛かる。次の種目は風船サンド、ペアになった選手が互いの体に風船を挟んで手を使わずに早くゴールに運ぶ競技で、スタートライン付近に立ち止まると、はあっと息を吐いた。

何もできないのは気にくわないが、チャンスは必ずある、今は待つことに徹しよう。

 

「御坂さん、風船、私が膨らませてもいいかしら?」

 

「あぁ……うん」

 

隣で風船に息を吹き込む婚后の横顔を見ながら顔を伏せる。広い道路を使ったこの競技はペア種目、本当は黒子と出るはずだった。

九月中旬に起きたちょっとしたいざこざで怪我をしてしまったため車椅子のお世話になる彼女は棄権する事を本当に残念がっていたけど、きっと今の黒子はなんの競技に出るかすら覚えていない。

 

気が滅入る。

 

誰よりも御坂を慕ってくれて、仲の良かった親友が彼女のことを覚えていない。そんな認めたくないほどの喪失感と絶望が大きく心に穴を開けていく。

当たり前の愛がもう御坂に向けられない。

彼女たちの繋がりは何よりもかけがえのないものだった事くらい分かっていた、それを失ったら酷く心が傷つくことも。

だからこそ、それを失った今、何よりも強い怒りがあの女に向かって強さを増していた。

 

「そう言えば御坂さんが双子だったとは知りませんでしたわ」

 

「え?」

 

「昨日のバルーンハンター、出てらしたのは妹さんでしょうか?」

 

競技に嫌気をさして俯いていた矢先、思っても見なかった発言に目を見開く。誰にも見抜かれなかった昨日の出来事を突然看破された事実はあまりにも御坂に衝撃を与えた。

 

「婚后さん……!あたしじゃないって気づいてたの!?」

 

「あーら、私、人を見る目は確かなつもりですわよ。醸し出す雰囲気の違いと申しましょうか」

 

全く同じ顔、ほとんど同じ声。性格は少し違うが、誰にも見抜けないほどそっくりな妹達が、まさか転校してきたばかりの彼女に見抜かれるとは思っても見なかった。

得意げに胸を張り、風船に息を吹き込む婚后の手を掴むと彼女の瞳を覗き込む。

 

「あの、婚后さん!お願いがあるんだけど!」

 

これしか道はない。

取る行動は一つしかなかった。

 

 

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