個人的にとある女性陣で一位くらいに好きです。他はオリアナと食蜂さんが好き。
好きなキャラはテレスティーナ、オリアナ、食蜂さん、垣根くん。見事に全員金髪美女ですね。
白井や初春と別れた後、賑やかな通りを抜けていつもと違う学園都市を佐天涙子は浮き足立って散策していた。賑やかな街、たくさんの人通り、楽しそうな学生たち。
るんるんと気分上々に歩いていると、その足が止まった。ふと目に止まったのは、土産屋の入り口に置かれたストラップチャーム。
見覚えのあるつぶらな瞳は確かあの人が好きなキャラクターで、名前はゲコ太だったか。
体操服を着たカエルを模したマスコットが風に揺れ、買えと言わんばかりに主張していた。
「へー、大覇星祭限定バージョンか。どうせもうチェック済みなんだろうけど、一応聞いてみますか」
体操服を着たそれを写真に収めようと携帯を手に取り、カメラを起動する。そしてシャッターを押そうとしたその時、何とも言えない違和感に気付く。
「って、誰に?」
携帯に写ったカエルは、誰の好きなキャラクターだったか。まるで脳が霞んだかのようにその人だけが思い浮かばない。
誰だったか、気の抜ける見た目のマスコットを好きな人なんてそうそういないだろうに。
しかしこのマスコットの写真を誰も必要としていないのなら、もうこの土産屋にいる意味もなくなってしまった。
誰に送るか分からない写真に頭を悩ませながら踵を返し、帰路につこうと長い黒髪を翻す。
「あれ?天羽さん?」
振り返って帰ろうとしたのはいいものの、今度は見覚えのある金髪に目が惹かれ、またもや立ち止まった。
白いワンピースの上に黒いジャージを羽織った金髪の女性が機嫌良さそうに通り過ぎる。毛先の桃色がなく、前にあった時よりも背が高いが、あの何とも言えない雰囲気と、ハーフ顔は確かに知り合いの女性だった。
こちらに気づかず路地へ知らない人と入っていく彼女の背を見送りながら、立ち止まり首を傾げる。
「垣根さんと一緒じゃないって珍し。浮気とか?」
高校生で年上の先輩。どうやって知り合ったのかはあまりよく覚えてないが、見た目よりもだいぶ優しくて人当たりのいい人だ。
いつも恋人─恥ずかしさからなのか互いに否定するが─と二人で仲良くしている印象がある彼女だが、少し様子が違う。
というのも見た目からは考えられない清純なワンピースを着た珍しい姿で、これまた珍しく小太りの男と歩いているからだ。下種の勘繰りをしてしまうのも仕方がないのではなかろうか。
だけど。
「まー、あの人たちに限ってないか!」
女を泣かせてそうな見た目の垣根ならともかく、
彼女らに背を向けて歩き出すと、心地よい風が髪を撫でる。何も感じぬまま、何も思わぬまま、一人屋台へ向かった。
◇
上からの命令はめんどくさいものだった。
御坂美琴の無力化、そして今度は彼女のクローン、妹達の確保。面倒な任務だが、やれと言われたら仕方がない。
彼、馬場芳郎の役目はそんなものだ。
だからロボットを使って情報を集め、ようやく一人の女を捕まえた。
「妹さん、という呼び方は妹達の通称から来てるんですか?」
後ろを歩く頭の悪そうな女に声を掛けると、誰もいない開けた場所へ進む。小さな貯水池と大きなパラボラアンテナが建つここは雑木林と繋がっており、人目もないので追い込むにはもってこいだ。
「それとも、本物の妹として紹介されたのかな?まぁ、どっちでもいいか」
池にかかった木製の橋を渡りきると足を止めて貼り付けた笑みで振り向く。
「僕もね、その妹さんとやらを保護するように依頼されてまして、よろしければ、お互いの情報を提供し合いませんか?」
自分の言葉に後ろを歩いていた金髪の女が優しく目を細め笑う。背が高いせいか若干威圧感を放つその女は、警戒心も見せずにニコニコとそこに佇んでいた。
「ふーん?悪いけど、名前も目的も名乗らないような人間に話せることはないんじゃないかにゃー?」
「ま、そうなりますよね。でも、そこをあえて目を瞑って、手掛かりとやらを話してくれないかなぁ」
彼女は物怖じせずに眩しいラメを乗せた瞼で犬のように人懐っこく笑う。場にそぐわない柔和な笑みの彼女に苛立ってしまうのは何故だろうか。
その煌びやかな顔が腹立たしかった。
「でないと、お薬を使って無理やりってことになるよ?」
鬱蒼と生い茂る木々の隙間から犬や猫を彷彿とさせる四足歩行のロボットが静かに顔を出す。
チタン合金と合成樹脂から作られたロボットは静かにくぐもったモーター音を唸らせて女を囲むと、犬のマズルに似た顔面から伸びるホースが鞭のようにしなり、地面に小さな穴を開けた。
「お薬で無理やり?何それ、エロ本の読みすぎじゃね?」
「あまりふざけたこと言ってると、死ぬよ、君」
まずはふざけた口調で嘲笑う目の前の女をめちゃくちゃにしたい。
妹達の行方を上から探せと言われていたが、この馬鹿な女で遊んでからでもいいだろう。
「キミには無理だよ」
触手のように伸びたホースを軽々と避けて朗らかに笑うと、女は橋の手すりに飛び乗る。
ただでさえ背が高いというのに、更に高く見下ろす彼女の視線は不愉快だった。
高位能力者ゆえの圧倒的自信、それが癪に触る。優しい笑みなのにどこか悍ましさが残る彼女の顔は悪魔にも見えた。
「そうかな?君程度の能力者なら僕でも何とかできちゃうと思うよ?
「あれ、あたしのこと知ってんの?」
「第七学区の病院で働いてるんだっけ?随分とお優しいんですねぇ〜!優しすぎて反吐が出ちゃいますよ」
女の顔が少し歪む。やはり見た目通りの馬鹿で浅はかな女だ。
知らないとでも思っていたのだろうか、自分の評判を。
彼女の名前は天羽彗糸。第七学区の名物看護師で、
太陽すら霞む眩しい金髪に、緑と赤のぼんやりとした瞳、煌びやかな化粧で隠した素顔と長身で女らしい体は男なら一度見たら忘れられないだろう。
彼女の能力は『
自他の電気信号を操って傷を塞ぐ究極の回復役。おまけに自分の体に掛けられたリミッターを外し、化け物並に肉体を強化できてしまう厄介な能力。
いつか敵に回ったら厄介なことになるのは目に見えていた。
どんなに重傷でも、どんなに死にかけでも、彼女にかかればあっという間に治され、再び『元気』になってしまう。
人を殺し、殺されるのが日常茶飯事である暗部にとってそれは非常に迷惑な能力なのは明白だ。昨日殺したと思った相手が次の日に生き返って復讐でもされたらそれこそ永遠に物事が解決しない。
しかし彼女は暗部に属しておらず、表の人間。脳内お花畑の馬鹿で役立たずなメスガキ。
そのため上層部に警戒されることも、危険視されることもなかった。
馬鹿な奴らだと、笑ってしまう。暗部にいないからなんだというのだ。
なんの役にも立たない能力を振りかざして聖女ぶる偽善者の危険性を理解していたのは、他ならぬ自分だけだった。
だから個人的に能力のデータは確認していた。外見のデータもインプットされていた。
そんなことも知らずに不思議そうに見下ろす女が哀れに思えてくる。何も知らぬままこの場に立っている彼女は可愛そうにしか見えない。
「善人気取りのクソビッチが、観念して喋っちゃえば痛い目を見なくて済むよ。じゃないとッ!」
T:GDに命令を下し、彼女に飛びかからせる。長いホースと重い体を思い切りぶつけ、橋から落とそうと機械が一斉に動く。
これは勝ったと、一人ほくそ笑む。やはり彼女の情報を知っているのは大きなメリットだ。
彼女の弱点、それは生き物以外に能力が効かないこと、物に触れなきゃ干渉出来ないこと、そして肉体を強化するにしても限度があるということ。
リミッターを解除すると攻撃とともに体に大きな負荷と痛みがかかる。彼女が痛覚を消さない限りたかだか
また、彼女ではないが
それに加え、骨や関節など肉体の強度はそのままのため、彼女の細腕では強化してもせいぜい重い物を投げ飛ばせるくらいだろうか。
そんな欠落品の能力者がT:GDに勝てるとは思えない。
「喋らせたいなら、こんなロボットに頼るなよ」
「なっ」
しかし想像とは違い、砕けるような音と共にT:GDが地面に落ちる。片手で頭を握り潰すと、柱から降りてゆっくりと歩み始めた。
データと一致しない事実に目を見開く。ここまで強化されるとは、どのデータにも書かれていなかった。
「もしかして、あたしのことか弱くて優しい白衣の天使とでも思ってたのかな?なんかごめんねー?」
何かがおかしい。データが改ざんでもされたのだろうか。
場に似つかわしくない落ち着いた優しい声が鼓膜を揺さぶる。ゆっくりと歩みを進める彼女からは、得体のしれない恐ろしさがひしひしと感じられた。
どうしようか。
ロボットを全滅させられたら手に負えない。どうにかして彼女の歩みを止めなくてはいけなかった。
必死に頭で考えながら、ポケットに手を入れる。何か勝つための道具がないかとポケットを弄る手だったが、指に硬い何かが当たると自然と口角が上がった。
━━そうだ、ナノデバイスがあった。
血液に軍用のナノデバイスを注入する、バルーンハンター中の御坂美琴に注入したものと同じ、体の制御を奪うナノデバイス。
インフルエンザのような症状を生み出し、戦闘不能に持ち込むこれこそが、戦況を変える唯一の手段だった。
しかし問題はどうやって打つか。
ナノデバイスを打つのは蚊に似た極小のロボット。その名も
血も流すことも、痛みを感じることもなく打つことが可能だが、対象が動いていると注射針をさせない。
「なら、君じゃなくてさっきの子を連れてくるとするかな」
「……は?」
一瞬でも彼女の動きを止めれば僕の勝ち。
早速ロボットを起動させて、ゆっくりと進む彼女を背にして雑木林に逃げ込む。頭んも弱い馬鹿な女、おつむの足りてない奴の思考を止めるのは案外簡単だ。
相手の予想と反した行動をとればいい
大胆な行動に反応できないマニュアル人間な、単純な脳みそしかない女ならそれで十分だ。
その一瞬だけで、ナノデバイスは注入できる。
「ちょ、ちょっと、待てってのっ!っあ、あれ?」
思惑通り、一瞬脳の動きを止めた彼女は足から力が抜けて音もせずに汚い地面に倒れ伏す。
「まさか、こんな簡単な陽動に引っかかるとは、見た目通り馬鹿なんだね!」
「っく、ぅ、立て、ない」
「無駄無駄、今打ち込んだのは体の制御を奪うナノデバイスだからねぇ。貴重なんでなるべく使いたくなかったんだけど、体を強化する能力者ならこれが一番有効的だしね」
金髪と大きな胸を揺らしながら必死に立ち上がろうとしても、立ち上がることはできない。太ももの、ナノデバイスを注入した場所から血を垂らし、地面に寝転ぶ彼女はとても滑稽だ。
「……ひょっとして、御坂美琴の頼みでこんなことやってんの?見返りも無しに?他人のために?そんなんでこんな目に遭ってるんだから、お笑いだよねぇ」
息を荒げ、力なく倒れた女を覚めた目で見下ろすと、彼女は何か言いたげに睨む。
馬鹿な女の意味のない威嚇。怖いはずもない。
「しっかし、あれも酷い女だねぇ。無関係の人間を言葉巧みに巻き込むなんて。やっぱり
クズばかり。そう続けようとしたところで倒れた馬鹿の口から言葉が漏れた。
「お笑いはお前の方だろ」
「あ?」
「見返りを求めるなんて、テメェの粗末なもんと一緒で小さい器だな。あたしの愛はそんなもののためにあるわけじゃねぇんだよ」
挑発的な目線に思わず笑いが出る。戯言を呟く女があまりにも滑稽すぎた。
火照った顔で絶え間なく荒い呼吸を吐き、視点の定まらない開いた瞳孔で笑う姿は、強がりにしか見えず、馬鹿馬鹿しいだけだった。
「はっ、他人に精神委ねてちゃ二流、その上与えられた役割も果たせないんじゃ三流以下だよね。なのに何が愛だよ、馬鹿かな?」
「自己紹介かよ。イキって上から目線でペチャクチャ御高説語るくせに、自分には他の奴が開発した
あまりの口の汚さに思わず足がでる。白いワンピースを汚すように強く腹を蹴ると、透明な唾液を撒き散らしながら小さな呻き声が足元から漏れ出した。
芋虫のように丸まった背中を抱いて、裾の余った真っ黒い男物のジャージを強く握りしめる彼女の顔は綺麗なままだった。
「ウルセェな!上からもの言ってんじゃねぇぞ!結局、何も出来や、しなかったじゃねぇか!役立たずなんだよ!テメェは!御坂美琴も!ゴミしか使えないなんて!飛んだ災難、」
腹立たしい。
何回も、何回も、腹を強く蹴る。靴が彼女の腹にめり込む度に髪が、胸が、ワンピースが揺れる。
痛みに耐えながら必死に唇を噛む女は、最後はうめき声の一つも言わなくなった。
それでも怒りは収まらず、蹴りを入れると思考を消すほどの高い音が丁度蹴っていた女の腹部から鳴り響く。
「ん?電話?あー、良かった、危ない危ない。情報聞く前に死なれちゃ面倒だ。あーヤダヤダ、下等な奴ほど人をイラつかせるのが上手くってさ」
突如鳴り響いた電話の着信音に我に返り、足を退かすと後ろに座る機械で出来た犬の群れに振り返る。
ワン切りだったようでもうそれ以上音は鳴らなかった。
女の電話からの音のせいとはいえ、止められて良かった。殺してしまっては意味がないのだから。
「T:GD、この女を運んどい、T:G、?」
何事もなかったように犬どもに命令を下し、頼まれた用事を済まそうと歩き出す。しかし、命令を下してもロボットは一歩も動かない。
接触不良でも起きているのかとT:GDに手を伸ばすが、それは叶わなかった。
「あ?っか、あ」
T:GDは愚か、自分の体すらピクリとも動かない。
命令を再び下そうと口を開くが出てくるのは掠れた空気だけ。まるで金縛りにあったように体が動かず、声が出ない。
何が起こっているのか分からない体の異変に瞳孔が見開く。冷たい汗がいたるとこから流れ出し、初めて感じる言語を絶する恐怖が背中を伝う。
「僕を蹴って、満足した?」
地面を踏む音がやけに大きく聞こえた。
聞いたことのないソプラノの少年の声に汗が吹き出る。動かない体は小刻みに震え、あまりの悍ましい声に体が冷えていくのが伝わった。
「さて、改めて自己紹介させてもらいましょうか」
後ろから耳元で囁くように、吐息の多い声が静かに呟く。息が掛かるほど近い距離、背中に感じる暖かさと柔らかさは恐ろしさを増幅させていく。
得体のしれない恐怖、まるで蛇に睨まれたような背筋の凍る恐ろしさが脳を支配した。
「初めまして、藍花悦と申します。
トンっと、肩を押される。自由の聞かない体はいとも容易く横転し、仰向けに倒れると鈍い痛みが体に広がった。
逆光で見えない女の顔がこの世界で何よりも悍ましく感じてしまうのはなぜだろうか。
「っあが、あ」
「嗚呼、ごめんなさい。キミの喉、潰してしまったから何言ってるのか分からないんですよ」
動かない口を金魚のように必死に動かしても、女はトントンと自分の首を指差し、目を細めて薄気味悪く笑うだけだった。
不気味な笑顔に背筋が凍る。しゃがみこんで顔を除く悪趣味な女の顔を殴りたくても、動かない体はそれを叶えることはない。
「ふふ、なんでしたっけ。見た目通りの馬鹿?酷い女?善人気取りのクソビッチ?自分のこと言えるんですかね」
「っう、が!」
なんとかして応援を頼もうと動かない手で携帯に手を伸ばす。しかし、手首を捕まれ、その目論見も白紙に戻った。
どんどん輪郭がぼやけてくる彼女の怒気を含んだ声に脂汗が溢れていく。血の気の引いた冷たい体には、彼女の手は熱すぎた。
「だーめ。他人に精神委ねていては二流なのでしょう?それにこれでは与えられた役割もできないので三流以下ですね」
手首から撫でるように指を絡ませると、薄い笑い声を耳元で囁く。
「女と手を繋ぐのは初めて?」
繋いだままの手はキャンディーを噛み砕くような軽い音を響かせ、耐え難い痛みを全身に広げていく。
リンゴを手で握りつぶしたこのようにぐにゃりと曲がった手に恐ろしいほどの痛みが走ると、嗚咽を漏らし、喉を痛めるように叫ぶ。
「これから先垣根くんの邪魔になったら困るんです。だからぼくはキミを痛めつけて、ぼくに恐怖を抱かせようと思うんですけど、どう思いますか?」
「がっ、がぎ、ね“ッ?!」
「そうですよー、垣根帝督くん。第二位さんですねー、知ってます?彼、ぼくの好きな人なんです、彼を愛してるんです」
「あがッ!」
「彼に迷惑かけるなら、ぼく、キミのこと絶対に許しません。キミを観測し続け、地の果てまで追いかけますからね?忘れぬように」
叫び声に動じもせず、女は恍惚とした表情で頬を染めて呟くと、恐怖を煽るような笑顔で冷たく見下ろす。
名状し難い彼女の悍ましい笑顔に震えが止まらない。もう全て終わったかのように立ち上がって金縛りを解いた女が堪らなく恐ろしかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ようやく動けるようになった体を必死に動かして雑木林を突っ走る。無我夢中で足を動かし、コンテナ置き場へと逃げ帰った。
恐ろしい怪物から逃げ出すほど、もうプライドは壊れて見る影もない。砕かれたプライドはただの復讐心へ変わり、脳にあるのはあの忌々しい女のことだけだった。
「クソガァぁぁ!小娘がぁぁぁ!僕を見下しやがってぇぇ!!」
ボロボロになりながらコンテナ置き場へたどり着くと、止めてあった大きな大型トレーラーを見上げる。なんの変哲も無い地味で大きなトレーラー荷台についたシャッターをボタン一つで開くと、艶のある黒いボディが隙間から覗いた。
「やはり情報だ!最初から能力を把握していれば!僕が負けるなんてありえない!」
現れたのは巨大なカマキリの姿をした大きなメカ。一人を灰にできるほどの火力を持つロボットがあんな女に負けるはずがないと、一人笑う。
「
この屈辱、ただ殺すだけでは到底治らない。ズタボロにして捉えて、女に生まれたことを後悔させてやる。凌虐の様をネットで世界に配信して、心も体も壊した上で、社会的にも抹殺してやる。
そのくらいしなくては、煮え繰り返る怒りは静まらない。
どんなことをしてやろうか、どんな辱めを受けてもらおうか、どんな方法であの体を犯してやろうか。頭の中に出来た復讐後の無様で哀れな姿に興奮で血潮がたぎる。
あの女を地獄の底に落としてやらなきゃ、気が済まなかった。
好きな人がいると言っていたあの女が、女としての尊厳を破壊され、どうせ純潔では無いとはいえ上から散々イキって罵倒していた男に好きにされ、好きな人に見限られたらどれほど無様だろうか!
「本当に?」
滑稽な女の未来予想図に笑っていると、頭上から声がした。
「っな、なぜ!」
「足トロいねー、馬場くん」
勢いよくその声に顔を見上げると、足を組んで見下す女が太陽を背にして笑っていた。
━━なんで名前を……!
くすくすと、少年のような高い声が耳障りで、鬱陶しい。
九月後半の茹だる暑さにやられたのか、動かなくなっていく思考と定まらない視線に違和感を感じながらも女を睨むと、その人間は両手で顔を支えて哀れな子供を見るように呟く。
「言いましたよね、迷惑かけるなら許さないと」
「ふ、ふふ、なんとでもいうがいいさ。誰であろうが、T:マンティスの前では──!」
「お取り込み中申し訳ないんですが、これならもう動きませんよ?」
「──へ?」
蜃気楼のように霞んでいく視界に車椅子に座る白衣の男が映る。その人間の顔は、解像度が下がったかのように朧げで、上で見下ろす人の顔も見えなくなっていた。
「まぁ、何?鬼ごっこはキミの負けってことで、いいよね?」
目の前で話す人間の顔が認識できない。笑っているように見えるこれは、一体誰だったか、もう思い出せなかった。
髪の色は、目の色は。何色だったか。
どんな顔だったかすら、認識できなかった。
ぐらりと、空がひっくり返る。痛みもなく再び地面に倒れた体はもう動かない。苛立ちも、腹立たしさも感じなかった。
どうしてこうなったかも思い出せない。
「食峰ちゃん?一人処理したよ」
意識が遠のく中、ゆらゆらと揺れる白い炎のような人間が聞いたことのない少年声で呟く。黒い携帯電話をに話しかけるそれが誰で、女なのか、男なのか、人間なのかも分からなかった。
覚えているのは藍花悦と、垣根帝督いう名前だけ。
今まで話していたこれは、誰だった?
何もかも忘れてしまった脳はその場でぷつりと、糸が切れたように動きを止めた。
馬場くんはどうやっても噛ませになってしまいますね。ごめんよ