とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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前回はアンケート投票ありがとうございました。
大体7割の方が天羽をヒロインと判断したそうです。なのでもう少し互いに思い合ってても怒られませんよね?
なんだかんだ垣根はたった一日しか一緒にいない林檎ちゃんを助けに行くくらい甘ちゃんですし……


78話:不本意なデート

彼女がいない日が過ぎる。

何日も、何日も。

 

だからと言って、どうということはない。今までもうるさい鳥がいない生活を送っていた。

何不自由のない生活。昔に戻っただけのなんてことない生活。

 

殺し、殺され、畏怖され、嫌われる。

仮面を被って日常を送り、夜に仮面を脱ぎ捨てる生活を繰り返して、繰り返して。

頬に跳ねた血を拭って、匂いを消すためにシャワーを浴び、緊張の中眠りにつく。それだけの日常が戻ってきただけだ。

 

それに今は自分が初めて救えた小さな少女も傍にいる。暗闇を知っている暗い髪の少女は、過ごした時間と比例して微かな感情が芽生えていた。

守らなくてはいけない。この小さい子供を、垣根をかっこいいという愚かな子供を、初めて救った命を。

 

 

━━なら、あの寂しがりの少女は?

 

 

あの藍色の天使は、誰が守る?

金色と濡羽色の少女が鮮烈な赤に書き換わる光景を想像して酷い眩暈が襲う。

 

彼女に何がしたい?何をさせたい?何を思いたい?

彼女を、どう思っている?

 

 

纏まらない思考が脳を掻き乱したまま、暗い路地へと身を投じた。

止まらない情動に焼き切れそうになりながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮やかな夕焼けが溢れる窓際で柔らかな桃色に爪を塗る。鼻につくネイルの匂いと、仄かに香る知らない誰かの血の匂いが部屋に漂う。

九月三十日、月が変わるこの日は午後に雨が降ると予報されており、窓から見える雲の隙間から降り注ぐ赤い光は雨を予感させた。

 

硬さのあるソファーに座り、真っ赤な夕焼けを眺めているとガチャリとドアが開く。赤い空から目を離すと、慌ただしい様子の少年が勢いよく部屋に滑り込んだ。

 

「おかえり、任務はどうだったのかしら?」

 

「どうもこうも、大変でしたよ……あの人ここ最近ずっと機嫌悪いし、めんどくさいっつーか、なんつーか……」

 

くたびれた長袖を着込んだ少年は大きなため息を吐いてドアに背を預ける。酷く困憊しているようで、土星の輪を思い出すフォルムのゴーグルを外し、少年、誉望万化は場所も弁えずに愚痴を零し始めた。

 

心理定規(メジャーハート)さん、あの人何とかなりませんスか?」

 

「何で?」

 

「いや、『何で』じゃなくて……下手したら俺らが殺されそうなんスけど。結構怖いんっスよ」

 

ボサボサとした黒髪を掻きながら服から汚れを軽く払うと、眉間にしわを寄せる。最近機嫌の悪い上司に振り回される彼は随分と困り果て、疲れ果てた様子だった。

この場にいない上司の困った八つ当たりから察するに、彼はどうも限界のよう。

 

「……仕方ないわね」

 

気が重い。

女関係のいざこざにあまり茶々を入れたくなかったけれど、仕事に支障が出ているのならば自分がなんとかするしかあるまい。

どうしようもない人をデートにでも誘おうかと、重い足取りでソファーから体を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人で賑わう放課後の百貨店。ちらちらと向けられる熱のこもった女性の視線が鬱陶しい空間の中、人工的な甘い匂いが鼻の奥を突き刺した。

 

「これはいい香りね、一つ買っておこうかしら」

 

「……おい」

 

様々なテスターから溢れる多様な香水の匂いが混じる。年不相応なピンク色のドレスを着た背の低い少女が瓶詰めの香水を手にとると、その匂いが一気に纏わりついた。

人の呼びかけもまともに聞かず心理定規(メジャーハート)は豪華に巻かれたポニーテールを揺らす。

キャバクラの嬢にしか見えない寒そうな服装をする齢十四程度の外見は、ちぐはぐで可愛げはない。

 

「この口紅は……ちょっと濃すぎるかしら。私には似合いそうもないわね」

 

「……おいって」

 

キラキラと光を反射する香水瓶をおくと、次は口紅のテスターに移る。ドレスと同じ赤い口紅は彼女の好みではなかったようですぐに視線は別のところへ向かった。

いつも見る金髪よりだいぶ低い身長を目で追うが、慌ただしく目を移りする同僚に呆れて物も言えない。

 

「あと必要なものはって何かあったかしら。靴はこの前買ったし……あぁ、季節物の服も見ておかないと。次は服のコーナーに行くわよ」

 

「……おいっ!ちょっと待て!」

 

理解する間も無く言葉をまくし立て次の場所に向かおうと背を向ける。慌ただしく服屋が並んだ階に向かうその背に抗議の声をあげるとようやく彼女はこちらを振り向いた。

 

「あら、どうかした?もしかして何か欲しいものでもあった?」

 

「ねぇよ、欲しいものなんて。それよりなんだこの状況は」

 

簡単でクソみたいな任務が終わって、帰ろうとしていたはずだった。

あの女が帰ってこないのに腹を立てながら林檎に勉強でも教えてやろうと、天羽の家まで向かっていたのだ。

しかし現在いるのはセブンスミストのコスメ売り場。心理定規(メジャーハート)に頼みがあると連れてこられた若い女がこぞって集まるスペースは、高身長のイケメンがいる場所ではなかった。

 

「なにって、貴方に気分転換してもらおうと思って」

 

「はぁ?そんなもん要らねぇよ、俺は帰るぞ」

 

「最近イライラしっぱなしで、部下たちが怖がってるのよ?ガス抜きは必要じゃないかしら?」

 

今すぐ帰ろうと踵を返したところで、核心に触れるような言葉に足が止まる。呑気に会計を済ませて店を出る彼女の顔から表情は伺えなかった。

 

「気遣いは結構だが、お前の買い物に付き合うのが気分転換になるのかよ」

 

「あら、私の買い物に付き合うのも悪くないはずよ?喧嘩してる相手が女なら特にね」

 

「喧嘩なんかしてねぇよ。アイツが一方的に怒ってるだけだ」

 

「なら尚更ここにいるべきよ。私が買うもの見てれば、自ずと彼女にお詫びに何をあげればいいか分かるじゃない?」

 

「……俺が謝る必要性が感じられねぇな。それに、テメェみてぇな年上相手に小銭稼ぎする女の好みがあいつとが同じなわけねぇだろ」

 

一刻も早く帰りたい気持ちを削ぐようにあの女の存在を匂わせる。心理定規(メジャーハート)の言い分に少し興味が湧いたものの、すぐさま彼女の顔を思い出すと興味は薄れていった。

金のために男相手の個人的メンタル相談窓口なんて純粋とは程遠い仕事をする目の前の女と、他人のために生きるため看護師なんぞ聖職につく女、全く違う両者が同じ好みで、同じ方法で宥められるとは思えない。

 

「まるで彼女の好みを知ってるみたいな言い分ね。仲良しで妬けちゃうけど、女が機嫌を損ねたときは男から折れた方がいいわよ?」

 

「ほざけ。それよりいつまで買い物してんだ。早く帰りてぇんだよこっちは」

 

「まだまだ、こんなの序の口よ。女には色々必要なの。天羽さんと買い物した時だって、こんな感じだったんでしょう?」

 

「俺はアイツと二人きりで買い物なんてしたことねぇけど」

 

服の売り場がある階に二人並んで向かう。いつもより目線も一部分の体積も違う隣に違和感しかないが、なるべく考えないようにしてエスカレーターに乗り込んだ。

 

「デートもまだってこと?随分と奥手なのね」

 

「なにか誤解してねぇか?アイツはただの協力者だ。上条当麻や、その他の接点を繋げてくれるな。あとは林檎の保護者もしてもらってる、ただそれだけだよ」

 

「ふーん。そういうことにしておくけど、本当に彼女と買い物行ったことないの?」

 

「あ?……林檎に必要なもの買いに行ったくらいか?でもあれは三人だったし、忙しかったしな。ねーんじゃねぇの?」

 

「呆れた、同棲まがいのことしておいて、デートすらしてなかったなんて」

 

「テメェが勝手に関係を勘違いしてただけで、俺らにはなんもねぇよ」

 

言い訳を並べ立て関係性を否定しても、呆れた顔をするだけで真剣には聞いていない。訪れたフロアで最初に目についた店頭に向かうと、もうすでに違う話に変わっていた。

色とりどりの服が並ぶ店先、女物の衣服に囲まれる状況と腹立たしい事しかいわない同僚にそろそろ飽き飽きする。

 

「なら安心したわ。ところでこの赤と青の服なんだけど、どっちの方が私に似合うと思う?」

 

「……知るかよ、自分で考えろ」

 

おもむろに手にした眩しい赤と、深い青のワンピースが視界に入った。キャバ嬢が着ているような露出の多いドレスの眩しすぎる色は、白い肌と白い翼についた鮮血と、最後に見た青い下着姿の可愛そうな女を思い出させる。

 

きっと、背が高く、色の薄いあの女ならばどんな色でも着こなして見せるのかと思うと心拍数が増す。あの日の紅も、この間の藍も、彼女の持つ確かな色。

赤も、青も、緑も、黄色も、白も、黒も、どんな色でも彼女の色がちらついて集中が削がれる。

思わず目を逸らして平常心を装うと、勝手に勘違いをした彼女は赤いドレスを持って鏡の前に立った。

 

「赤い方を見てたわね。青も少し見てたけど、こっちの方が好みなの?そうね、私もこっちの方がいいと思うわ」

 

「人のことを勝手に判別機にするんじゃねぇ。つーか、こういうのはお前の客について行ってもらえよ。男も多いだろうし、そいつらの方がよっぽど協力的に買い物に付き合うだろうぜ」

 

柄になく狼狽えてしまった言動を勘違いしてくれるのはありがたいが、その扱いが判別機と同列なのは少しムカつく。勝手に判断されるのも、機嫌が悪いと言われ垣根が悪いかのように認識されるのも、何もかもムカつく。

なんでこんなところにいなくてはならないのか、益々分からない。

気分転換と適当に言いくるめて、これをさせたいだけなら、別のやつに頼めばいいとしか思えなかった。

 

「それは駄目。客の人達だけは絶対連れていけないわ」

 

「あん? どういうことだ?」

 

「彼らとは今までお話するだけっていう関係だったけど、買い物になんて誘ったらその関係が崩れちゃう。一度崩れれば『もっといけるんじゃないか』って邪な発想が生まれるものよ。距離を弄って修正することもできなくはないけど、一々面倒じゃない?」

 

「はぁん、そんなもんか」

 

女、しかも若い女と喋る事実だけで男という生き物は邪な発想を生むのではないかと、男を甘く見ている少女を見て思う。極端ではあるが、全人類は豊かな胸が好きだと思って、ある程度男の性を理解しているあの女の方がまともな異性観を持っている気がしてならない。

 

巨乳で、気さくで、優しく、暖かい女だからそういう考えを持っているのか。

しかし、胸にだけ集中する男の視線を鈍感で阿呆な彼女が理解しているとは思えないので、きっと職業故の考え方なんだろう。

 

だからなんだという話だが。別にあの女が誰に股開いてたってどうでもいい。

どうでもいい。何も思ってない。

けれどなぜか想像が広がり、脳に霧がかかる。言葉にできない感情を見て見ぬ振りして小さな同僚に背を向けた。

 

「……それにこんな大事な買い物は信頼できる相手と一緒じゃないとできないわ。私の言ってることわかる?垣根帝督……」

 

しかしすぐに足を止める。脈絡もなくスーツの上から纏わりついた細い腕に止められた体に苛立ちが増していく。

子供のマセたからかいとは分かっている。けれど、不愉快な体温にそろそろ我慢の限界を迎えそうだった。

 

「信頼できる相手だ?」

 

纏わりつく腕を振り解くと、舌打ちを響かせ冷たく彼女を見下ろした。面倒な言動にいちいち振り回されるのもいい加減嫌気が差す。

 

「俺みたいな悪党が信頼できる相手に見えるのか?いよいよ買い物のしすぎで頭でもバグったのかよ」

 

「……でも天羽さんはこんなこと言わないのかしら?」

 

「アイツはそんなこと言わねぇよ」

 

黙っていて欲しいと静かに願う。あの女を理解していない人間に、彼女についてとやかく言われるのは非常に不愉快だった。

深淵を覗いたこともない人間が彼女の何がわかる。

ただの狂人でも、聖人でもない、おぞましい少女の何を知っているというんだ。

 

「ふーん、こういうことを言う相手には気をつけてって言おうとしたんだけど、あなたには必要なかったわね。いっそ清々するくらい戸惑ってくれないみたいだし」

 

「当たり前だ、この程度で動じる俺じゃ、ねぇ……?」

 

向けた背に、優しい香りがすれ違う。ずっと焦がれていた甘い香りに、体は愚か、脳も機能を停止した。

微かに舞った淡い匂いに勢いよく振り返る。蕩けるような甘くて優しい不思議な香りがぶわっと膨らむ先に伸ばした手は、指先で微かに恐ろしく長い黒髪に触れた。

 

「っ、垣根くん……」

 

「……天羽?」

 

目元の隠れた少年と目が合う。可愛らしい少年声と、幼い顔と年齢に似合わない長身。平らな体を隠す藍色のカンフー服に息を飲む。

 

顔の見えない姿と、違う声に体つき。判別できるのは長い髪と彼女の優しく甘い匂いだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻り、夕方。

 

誰もいないホテルの一室、大きなベッドに体を預け白いシーツのシワを伸ばす。手にした黒い携帯電話に表示された九月三十日の文字にため息をついてゆっくりと起き上がると、ガラス張りの壁から突き刺す眩しい赤に目を細めた。

 

「何から手をつけようかな……」

 

持ってきた学生カバンから藍色のカンフー服と白いシャツ、白いズボンと靴、そして胸を潰すための小道具を取り出す。藍花悦に成るための儀式のようなものだった。

 

現れた藍色の綺麗な下着も脱ぎ、上から大きな矯正バンドで潰すと更にガムテープで補強する。

その上からシャツを着ようとベッドに投げた服に手を伸ばすが、ふと黒いジャージが視界に入ると迷わずそれを掴む。

 

「……会いたいなんて、我儘が過ぎるよね」

 

優しい匂いはもう消え失せ、懐かしい香りは何処かへ旅立ってしまった。もう二度と彼の優しい香りを感じられないのはほんの少しだけ寂しかった。

 

昔から独りで生きていたのに今更かもしれない。寂しさを覚えたことなんて一度もなかったのに、死んだ今になって永遠に会えないことを嘆いてしまう。

 

クソみたいな女。こんな人間生きていなけりゃいいのに。

 

シャツの代わりに布面積の少なくなったジャージを着て、上から大きな藍色で隠す。胸を平らにしたせいか、昨日ではあまりゆとりのなかった上半身は今となっては隙間だらけだった。

 

 

着替えが完了し、うねった髪を遺伝子操作でまっすぐ伸ばす。長い黒髪と両目を隠す前髪を満足げに触ると、ルームキーを持って日が落ちそうな曇り空を背にして外へと向かった。

 

ドアノブに手を掛ける。不意に鳴ったチャイムよりも早くドアを開けると、薄い色素が優しく光を反射した。

 

「誰……?」

 

チャイムと同時に開けたドアの先、そこにいた女性の長いポニーテールが揺れ、メガネの奥で薄く睨む青い瞳と目が合う。

 

「警戒心無さすぎだな、クソガキ。チェーンくらいは付けろ」

 

「テレスティーナさん……?」

 

久しぶりに会った彼女に目を見開く。面倒くさそうに腕を組んでドアの目の前に立つ彼女に驚きを隠せず薄く口を開いて立ち尽くすと、大きなため息をつかれ、嫌そうな目で睨まれた。

 

「なんつー顔してんだ、クソガキ」

 

「な、なんでここに?あたし、教えてない……」

 

「出かけるぞ」

 

「……へ?」

 

思考がついていかないまま長い袖を捕まれドアの外に体を引き出される。

バタンと大きな音を立てて閉まるドアを背に、返答もないまま前へ前へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い袖が更に伸びるのではと心配になりながら連れていかれた場所はなんてことない百貨店。

建物に繋がるガラスの自動ドアを潜ると暖かい空気が体を通り抜ける。暖房が程よく効いた建物内の明るい光は暗くなる外と比較するからか余計に眩しかった。

 

「……それで、なんであたしをここに連れてきたの?」

 

腕を引かれ、コスメのフロアを抜けるとエスカレーターを上る。

先程から黙ったままのテレスティーナだったが、エスカレーターを降りるとようやく口を開いた。

 

「体晶、使ったか?」

 

「え?使ったけど……」

 

「テメェを連れ出したのはその使用報告と、メンタルケアの為に美味しい飯でも食いに行こうかと」

 

今度はゆっくりとした足取りで袖に隠れた手を繋いで歩く。能力体結晶の使用について聞くにしては優しい口調になにか意図を感じるのは、おそらく気のせいではなかった。

 

「……前者は分かるけど、メンタルケアって何」

 

「実験をする際、被験者は基本的に心身ともに健康でなくてはならない。それは分かってるだろ?モルモットの管理はしなくちゃな」

 

「そうじゃなくて、メンタルケアが必要なほどあたし病んでないって言ってるの」

 

「クソガキと喧嘩したんだろ?家にも帰ってねぇみたいだし。杠から聞いたぞ」

 

掴まれた手を強く握り返して歩みを進める。いつの間に杠ちゃんとお知り合いになったのか気になるが、それよりも大きな勘違いの方に意識は向く。

心配、というよりただの事実確認に近い口調に僅かな苛立ちが生まれた。

 

垣根くんと喧嘩なんかしてないのだ。ただ、垣根くんの隣に彼女が必要ないだけ。

垣根くんが彼女を嫌うのだから、隣にいれないのだ。

 

今まで通り、彼が天羽を隣に置く理由がない限りは彼に近づけない。

嫌われていることを知っているから、そんな行動しか取れなかった。

 

「……体晶の使用報告なら後でレポートまとめて送る。今日は色々忙しい日だからもう帰る」

 

「おい帰るなよ、忙しいってなにがあるんだ」

 

「色々よ、いろい、ろ……」

 

少し強引に手を振り払うとすれ違った少年から懐かしい香りが舞う。

黒い髪の隙間から辛うじて見えた彼は、ずっと好きだと誓った綺麗な少年と同じ姿をしていた。

 

「垣根くん……」

 

「……天羽?」

 

同じ声と呼び方に彼が本物だと理解する。掠れた声で呟いた名前はいつもと違う少年の声だというのに、彼もまた天羽だと理解した。

 

堪らなく嬉しい。けれど、同時にチクチクと胸を刺す痛みに悶え藍色の服を掴む。

隣に立つ金髪の子供と二人でデートをする姿に、なにか、心の奥で憎悪が渦巻いた。

 

 

 

 

 

 

━━嫌いな女に、思わせぶりな態度を取らないでよ。

 

 




めんどくさい人達やな
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