とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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今回もアンケありです。前回のは締め切りました。


83話:虚言と真実の交差

静かに動くエレベーターを降り、廊下を渡る。マンションの九階から見える夜空はようやく雨と光が無くなり、晴れやかな藍色で染まっていた。

 

「泣き止んだか?」

 

「うん、大丈夫」

 

月から目を逸らし、今度は空と似た藍色の汚れたジャケットで体を包む少女に視線を落とす。

黒い髪はいつの間にか金色へと塗り変わり、瞳の色も星を輝かせながら夜闇の色から鮮やかな赤と緑に変わっていた。

 

ずっと手を握ったまま俯く少女の眩しい金髪は西洋のお姫様のよう。月夜に照らされ輝く長い金髪を揺らしてふんわり笑う彼女はどこか現実離れした姿をしていた。

 

天使の翼が生え、光る輪っかが頭上で回る姿も、かぐや姫のような黒髪も、彼女という存在が全て現実じゃないように感じてしまう。

小さい声で答える彼女はまたどこかへ行ってしまうのではないか、どこか遠くへと去るのではと、嫌な予感が駆け巡る。

 

「ほんとかよ」

 

「垣根くんがいるから、平気だよ」

 

「……そうか」

 

強く手を握り返すと、彼女は優しく体を近づける。

普通の女より背の高い彼女だからか、色濃く香りが広がった。その香りが血の匂いじゃないのに心底安堵する。

もう二度と彼女の赤を見たくないというのに、一時の感情に身を任せたことがなんもと情けない。

 

「林檎寝てるから静かにな」

 

「分かった」

 

たどり着いた玄関にカードを差し込むと、電子音と共にロックが外れる。開いた扉から音を立てずに中に入って靴を脱いだら、なんだか肩の力が抜けた。

 

たかが女ひとり迎えに行くのに九日もの時間がかかってしまった。

こそばゆい感情に頭を振ると掴んだ手を少し強引に引っ張って窓からこぼれる淡い光を頼りに風呂場へと連れていく。

雨の匂いが香る彼女から汚いものを全て落としてしまいたい。

 

「とりあえず泥落として、体あっためろ。風呂沸かしてやるから」

 

「じゃあ、あたし花瓶探してくるね」

 

脱衣所の電気をつけ、風呂のスイッチを押し、ジャケットを脱ごうと彼女の手を離した。

その間手持ち無沙汰の彼女は手に持った一輪の紫陽花を生ける花瓶を探しに背を向ける。ソファとテーブルしかないリビングに花瓶があったか覚えてないが、家主は記憶力がいいのか迷わず棚から透明な花瓶を手にとってキッチンへ水を入れに行った。

少し浮き足立ったような笑顔、そんなに花が嬉しかったかとなんとも言えない感覚が脳裏に沸く。

その感覚を忘れようとものの数分で沸くお湯に軽く手をつけ、温かさを確認するとふと甘い匂いが鼻を掠めた。

 

たくさん置かれたシャンプーやコンディショナーなどのバスグッズ。

優しい香りはここからかと、キッチンの方へ向かっていった彼女を思い出す。ゆっくりと満たされていくバスタブの水面を眺めながら、ぼんやりと温かさと柔らかい香りに目を瞑った。

 

「垣根くん、垣根くん?」

 

「え、あ、あぁ、なんだよ」

 

「お湯、湧いた?」

 

彼女の呼び掛けに気がつくと、香りを振り払って風呂場から離れる。もう花瓶は片付けたのか、洗濯機をいじりながら待つしおらしい少女のそばからは風呂場と良く似たいい匂いがした。

 

「沸いた。あとは入るだけだな」

 

「じゃあ一緒入ろ?」

 

着替える彼女のために脱衣所を出ようと引き戸に手をかけるも、優しく掴まれたセーターの裾を前に手は一瞬にして強張る。

彼女の言葉の真意に惑わされ、脳は呆気なく思考を止めた。

 

『一緒に入ろう』、確かに彼女はそう呟いた。『入ってくる』でもなければ、『先入れば?』でもなく、『一緒に入ろう』と、確かに言った。

甘い誘いの意味を解読できないほど垣根は鈍感でも、うぶでもない。

女が男にそんな言葉を投げかける時は決まってヤラシイ意味である。

 

彼女の思考回路に一瞬脳がショートする。何を持って彼女がそんなことを垣根に言うのか理解が及ばなかった。

 

「……は?何言ってんだお前」

 

「だめなの?」

 

しかしその無駄な考えはすぐに消え失せる。

そうだ、この女は男を知らない。風呂をともにするくらい、彼女にとっては大事な家族との交流程度なのだ。初めて会った時、押し倒してしまったと言うのに悲鳴一つあげなかったことも、今考えれば彼女らしい。

色気があるのかないのか。本人は先ほど経験はあると言い張っていたが、無自覚なあざとさからは男の影を感じることはない。

 

ガキだな、とだけ思う。

甘えたい本心から来るあざとさは、どう見たって子供だった。

 

「いや、強請られても入らねぇよ……」

 

「なんで?」

 

「なんでって、見れば分かるだろ」

 

だからと言って、男女が同じバスタブに浸かるのは大問題で、避けなければならない。ただでさえスキンシップが多く、柔っこい肌の彼女と一緒に入るのは羞恥心が勝つ。

けれど彼女は意味がわからないと言った表情を続ける。

それとなく理由を説明しても、性別の違いとは彼女にとっては些細な問題のようだった。

 

「……貧相な体だから?」

 

「お前が貧相なら第三位とかどうなんだよ、気にしてるみてぇだから可哀想だろ」

 

「あたしは豊満だけど、垣根くんは……えっと……」

 

「あ”?俺がなんだって?」

 

「胸板薄いし、腕細いし……」

 

服の上から胸を持ち上げて首をかしげる彼女の含みのある言葉に思わず反論を口にしてしまう。

気遣うような可愛い笑顔を見せる彼女にどうしてもプライドが傷ついてしまって仕方ない。

 

「俺が貧相っていいいたいわけ?」

 

「……見えてる筋肉は多分ただ脂肪がなくて浮き出てるだけだから、その、なんかごめんね?」

 

「オーケイ、喧嘩売ってるんだな?俺様の体見て風呂場で倒れても知らねーからな」

 

「一緒入る前提なんだ?」

 

「あ”、しまった」

 

申し訳なさそうに眉を下げる顔に苛立ちを感じると、ついムキになって彼女の肩を強めに掴む。馬鹿な女に鼻で笑われるのは不愉快で、考えとは逆に見栄を張ってしまった。

これでは彼女と同じではないか、虚勢を張っていじらしく自分を大きく見せようと健気に頑張る目の前の女と全く同じで反吐が出る。

 

そしてそれが仇となり、からかい混じりの笑顔が咲いた。ムキになることを予見していたのか、してやったりと彼女は優しく笑う。

 

負けを認めざる負えない。今日の彼女はどうも調子が狂う。

 

「……つーか一人で入れるだろ。なんで俺が、」

 

「一人じゃ寂しいから、かな?」

 

いつもなら絶対に言わない言葉を小さく呟く彼女に頭はなぜか冷静に思案する。

 

これは勝てない。

 

どうすれば彼女を傷つけないか、どうすれば間違いを犯さないか。だがそんな配慮は全くのナンセンスで、意味をなさなかった。

張り詰めた思いを最小限のお願いで有耶無耶にしようと健気に背伸びをするお子様に、勝てるすべは思い浮かばない。

 

本当にずるい女。

 

「……………………しょうがねぇな」

 

随分甘くなってしまった。寂しそうに肩を落とす姿を見てノーとは言えない自分が腹立たしい。

 

 

 

 

 

 

 

暖かい空気が体を包む。適温に熱されたお湯の中、静かに膝を抱えてシャワーの音が止むのを待った。

 

「誰かとお風呂に入るのは久しぶり」

 

「そうかよ」

 

「昔はよく妹と入ってたからさ」

 

シャワーを止めると、彼女は遠慮もせず湯船に足を入れる。上機嫌な声に目を逸らしても、触れた爪先が嫌という程彼女の形を思い浮かばせた。

裸くらいどうってことない、見たことくらいある、けれどどうしても見てはいけないと強く警戒してしまう。

それはこの状況だからこそ思うのだろうか、それとも心情の変化だろうか、いまの垣根には上手に解決できそうにない。

 

「……バスボム入れるね?」

 

「勝手にしろ」

 

気持ちを察してか、彼女はどこからか取り出した金色の入浴剤を湯船に落とす。甘いジャスミンの香りを漂わせて音を立てながら湯の中で溶けていく金色の塊は、透明な水を色づけていく。

広がる黄金が少し眩しかった。

 

「さっきはごめんね」

 

「なんだよ、突然」

 

静かな浴室で穏やかな女の声が反響する。溶けていく入浴剤を見つめながら梳かす金髪は染まっていくお湯の色と徐々に同化していった。

 

「酷いことを、沢山したから」

 

「お相子だろ」

 

繊細な少女の苦しそうな声にため息を漏らす。心配性で怖がりが過ぎる彼女に呆れて頭を抱え再び目を瞑った。

寂しそうに困る彼女を直視するのは疲れてしまう。

 

一体何を落ち込んでいるんだか。彼女の思考回路にはいつも驚かされる。

ただの子供の慣れない悪口に垣根が落ち込むとでも思っているのか甚だ疑問だ。まだ可愛げのある精一杯の罵倒に、逆に笑いしか込み上げてこないというのに。

 

「でもね、思いは言える時に言わなきゃ死ぬ時後悔するからさ」

 

「……それは体験談か?」

 

「そうだよ、もう既に一度人生を歩んだ先輩からのアドバイス」

 

溶けきった入浴剤の中から現れたドライフラワーが彼女の周りに散らばる。金色の湯船に浮かぶ深い紫と花びらと白い花がゆっくりと揺れた。

 

「やっぱり、お前は何らかの別世界から来た生命体なのか?」

 

「正解に近い、けれど不正解」

 

なんてことないように常識からかけ離れたセリフを吐く彼女に慎重に言葉をかける。全てを諦めたかのように笑う姿に息を飲んだ。

 

「あたしが生まれた世界はね、少し未来の並行世界(パラレルワールド)。あたし、未来人で異世界人なの。凄いでしょ?」

 

並行世界(パラレルワールド)……?」

 

「この世界はあたしも、妹もいない世界だった。なのに無理やりあたしを物語に当てはめて、藍花悦として舞台を続けている。ここはそういう世界」

 

並行世界(パラレルワールド)とは、バタフライエフェクトの結果である。

ひとつの事柄が違っただけ、ひとつのものが変わっただけ。たったそれだけの要因で未来が捻れ、結果が枝分かれし、もしもの世界がねずみ算式のように増えていく理論の一つ。

 

そして彼女曰く、ここは彼女が生まれなかった場合の世界らしかった。分岐し、ありえなかったもしもの世界、並行世界(パラレルワールド)と呼ばれる異次元からきたと、そう彼女は言った。

 

馬鹿げている。と、普通ならば思うだろう。なんて電波で天然なバカ女なんだろうと鼻で笑って終わらせる嘘くさいお話にしか聞こえない。

けれど彼女を知っていればそんな風にバカにすることは思い浮かばなかった。

 

「……だから自分は誰にも愛されないと思うんだな」

 

「そうだよ。だって天羽彗糸は元々この世界にいなかったんだから」

 

彼女の言葉で全てが繋がる。

科学的にか、魔術的にか、どういう理論なのかは検討もつかないが、この世界でいないはずの彼女は精神だけが別人の体に移された。

学園都市でも、魔術側でも決してありえない話ではない。魔術に執着して、カトリックを名乗っていた彼女なら尚更。

これはきっとタイムリープを含んだシャーマニズム。だから死者であり生者でもある彼女は丸と四角の輪を持つのだ。

藍花悦のなかに植え付けられた自分の現実が歪み、彼女はいつしかこんなにもおぞましい生き物になってしまった。

 

「その頃は……前世と呼ぼうかな、前世のあたしは能力なんてもってない、ただの女だった。だから死んだの。何も無かったから、何も出来なかったから、結末を可哀想に思われて、不憫に思われて、この世界で未練を果たすチャンスを貰った」

 

寂しそうに、そして嬉しそうに彼女は淡々と語る。いつもの笑顔からは想像もつかないほど儚げで、可愛そうな姿だった。

 

「けど、この世界はあたしには少し、ハードモードすぎたみたい」

 

向日葵のような一番星が咲く瞳で優しく手の中から溢れ落ちる金色眺める姿に息を飲む。

キラキラときらめく金色の水面を両手で掬う彼女に目が奪われて他には何も見えない。紫の花びらも、輝く湯も、視界に入るとはなかった。

 

死んだ後も大人に利用されて、未熟な精神のまま同じことを繰り返すとても哀れな子供が目の前で健気に笑い、手元に浮かぶ白い花を見つめ続ける。その姿は可愛そうとしか思えない。

 

想像できるだろうか。

一度望まぬ死で体を引き裂かれたというのに、誰か知らない人の手によってもう一度やり直す。間違いを正して、全てをもとに戻すやり直し。

それが同じ世界ならいいのかもしれない。野心があった人ならば、もう一度全てを一から始められると歓喜するだろう。

けれど彼女の場合は違った。自分の生まれなかった世界で、好きな人もいない世界で、天羽彗糸は生きていかねばならなかった。

異常な精神を持った女には生きていくのも苦しいはずだ。

 

自暴自棄になって、自分で自分を殺めていたっておかしくない。強い野心や、願いがなければ尚更。

だから彼女は正義を役割だと決めつけ生きる。自分が死なないため、生きれるため、頑張れるために。彼女は自ら異常になったのだ。

それを悲劇と呼ばずなんと呼ぶ。

 

彼女は悲劇のヒロインと呼ぶにふさわしい少女だった。

 

「この世界は嫌いか?」

 

「そうだなぁ、垣根くんと出会えてなかったら嫌いだったかも。前の世界じゃ出会わなかったタイプだし」

 

「あ?並行世界(パラレルワールド)の俺に会わなかったのか?」

 

「……ずっと、遠くから眺めていただけ。会いたいと思っても、会えるような人ではなかったから」

 

溶けるように体を深く湯に浸けて息を吐くと、張り付いた金色の髪を撫でて薄っすらと笑う。懐かしさを思い出しているかのような困った笑みに少し苛立ちを感じるのはなぜだろうか。

小さい違和感を感じながらも、その笑顔に全てがどうでも良くなってしまっていた。

 

「それで、前世のお前はどんな人間だったんだ?」

 

「別に、普通の人だよ。旅行好きでよく家を空ける両親と、足が動かないオタクで勉強嫌いな六歳差の妹がいる、ちょっと八方美人で、男に好かれて女に嫌われるタイプのなんてことない長女」

 

知りたい、二度も人生を生きた女を。ゆっくりと時間が進む浴槽の中、白い湯気を纏う金色の少女しか見えなかった。

 

「頭はそこまで良くなくて、愛想と可愛げだけで生きてきたなんてことのない凡人で、何をしても一番になれなくて、誰かのためにしか生きる価値を見いだせない何も無い人なの、あたし」

 

覇気のない声を響かせる彼女の手を緩く握る。緑色のマニキュアで彩られた爪を親指の腹で撫でると、暖かさで下がった目尻がさらに眠そうに蕩けて深く目を閉じた。

 

「昔からお前は自己肯定感が低いんだな。幼稚園卒業時に大学入れる頭はあったんだろ?一応勉強はできるじゃねぇか」

 

「現役で大学院まで行ったんだから、年相応だよ」

 

「は?お前本当は何歳なの?」

 

「……二十四で死んだ。夭折(ようせつ)、って言っていいのかな」

 

彼女の口ぶりに違和感を感じると、少し青ざめた顔でため息をつく。微かに揺れ動いた瞳の星は感情と呼応して少し輝くをなくす。

嫌なことを思い出しているのか、暖かい湯の中だというのに彼女は肩を抱えて縮こまって掠れた声で昔の記憶を絞り出した。

 

若くして死ぬなんて暗部の中では日常で、なんてことない当たり前。いつものことだ。

決して彼女が特別なわけではない。

それでも、ただの事故で妹を庇って死んでいった正義の少女が惨たらしく死ぬ姿は想像したくなかった。

 

「垣根くん、あたしはね、キミにそんな人生送って欲しくないんだ。後悔して、嫉妬して、これからの青春も知らないで死ぬ運命なんか、美しくて可愛いキミには似合わないんだから」

 

「子供のくせに、なにいっちょまえに大人ぶってんだよ、バーカ」

 

「子供は垣根くんの方だよ、何も知らない子供だ」

 

大人のはずなのに、十五歳らしい無垢な笑顔を見せる。

とても嬉しそうでいて、とても晴れやかな笑顔。その腹立たしい笑顔に掴んだ手を緩めると勢いに乗って柔らかい女の両腕が視界に広がった。

 

「子供じゃッ──!?」

 

「あたしから見たら立派な子供だよ。強がりだけど優しい子供、そんなキミが好きなんだよ」

 

湯船から漂う甘い薔薇の香りを巻き上げて視界が回る。強引に引き寄せられた柔らかい肉の塊が景色を覆い、肌色だけが目に映る。

まるで母のような抱擁に言葉にならない悲鳴が押し潰され、女子高校生のくせに大きい胸に息が奪われた。

 

「っガキは、テメェだろ……泣き虫のくせに強がって、我儘も満足に言えない家庭環境に難アリの面倒臭いガキ」

 

「そうだね、あたしも子供だ。キミみたいな子に我儘を聞いてもらえて喜ぶどうしようもない人だけど、それでも君より少し年上で、少し長い人生を歩んできた」

 

一瞬だけ呆けた脳を必死に回転させ素早く体から離れると、まるで思春期の子供を見る母親のような暖かい目線を向けられる。

居心地が悪い空間だった。自分よりも子供な女にそんな目を向けられるのは屈辱以外の何でもない。

 

「大好きだよ、垣根くん。キミの為ならば、どんな間違いも、どんな罪だって犯してあげる。垣根くんが幸せになるためならあたし、死んだっていい」

 

離れたはずなのに、再び肌色が視界を埋め尽くす。壁に両手を当て、逃げ場を奪うと彼女の金髪が牢獄のようにするりと垂れる。

彼女の恐ろしく優しい笑顔から視線が動かせない。

視界が全て彼女で埋まって、彼女の香りが浴槽から漂う薔薇の匂いを掻き消した。心音が跳ね、息が上がる。

どうにかなってしまいたいと、彼女の赤と緑の荘厳な瞳に惑わされて、思考はまとまることがなかった。

 

「……なんで俺なんだよ」

 

「君が一番好きだから。ただそれだけの理由だよ」

 

湯船に張った金色の湯に彼女の金髪が溶けて、この水すら彼女のように錯覚する。金色の牢獄に捕まった思考回路は、どうしようもないほど落ちぶれていた。

蕩けるような甘い言葉の数々を無際限に降らしてくれる目の前の少女が眩しくて、黒い虹彩が少しずつ焼き切れていくよう。

 

「少しでいいから覚えていてね、アナタの幸せを望む人がいることを」

 

女神様が微笑んだ。その衝撃に、全てを理解した。

 

彼女は人形でも、天使でも、悪魔でもない。彼女は神様なのだ。

欲しい言葉を、欲しい時にくれる彼だけの都合の良い神様(デア・エクス・マキナ)

神の言葉を説き、全てを赦し、物語を大団円へと導く、舞台(オルケストラ)の上の主演。

金色の水面に浸かる神様は、女の姿をして優しく笑う。

 

高鳴る心臓はその姿を記憶する。脳を取り換えても、きっと心臓に残った彼女の姿は決して忘れることは無い。

 

この感情は、

  • 無償の愛、妹への愛、家族の愛
  • 初めての恋、女への恋、邪な恋
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