とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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猟虎ちゃんって前回言ったけどギリギリ出ませんでした。許してくんなまし……


87話:インディアンポーカー

「インディアンポーカー?」

 

円のように囲むたくさんの機材。頭の輪と繋がれた数本の長いプラグで接続した機材の中、同僚にあたる人からの電話から聞こえた単語を聞き返す。

機材がオーバーヒートしないよう冷房の効いた部屋は少し肌寒かった。

 

「えぇ、自身の経験や技術を他者に継承することが出来るカードよ」

 

「それがどうかしたんすか」

 

「学園都市の科学者の間では最近このカードを使って保険のために自分自身のエッセンスを残しておこうとする動きが見られるわ」

 

心理定規(メジャーハート)の言うインディアンポーカーは夢を匂いとしてカードに閉じ込め、カード使用者にその内容や技を記憶を移すことが出来るもの。

ただのおもちゃを複数改造すれば誰でも使える代物で、表の世界では小さなブームとなっていた。

 

「もちろん望み通りのデータが記録されるかは賭けだけど。それでも試みるものは相当数いるという話よ。科学者の頭の中は文章化できない領域が大きいものね」

 

「ということは例の……」

 

「そう。私たちの探しているピンセット、そのノウハウのカード化による流出が観測されたわ」

 

固唾を呑んで僅かに強く携帯を握る。計画に必要な技術のひとつ、超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター、通称ピンセットの名前に眉を顰めて電話越しの彼女を訝しむ。

学園都市に反旗を翻すために使う小道具、素粒子を掴み取り情報を受け取るこの機械は未だに確認されておらず、彼女の言う情報もダミーである可能性が高かった。

 

「それは確かな筋の情報なんすか?」

 

「さぁ?でも少しでも芽があるなら調べるしかないでしょ?やり方は任せるから当たってちょうだい」

 

ダミーであろうと調べろと、同僚の冷たい声が電話から聞こえるとすぐさま通話が切れる。

冷たい人だとたまに思うが、それでもからかいが過ぎる部下の少女よりはマシか。

 

「はぁ……セキュリティランクaからdの全情報よりインディアンポーカーおよびピンセットとの関連が疑われる会話を抽出」

 

仕事がまたひとつ増えたとため息をつくとサイコキネシスで繋げたコンピュータで情報を引き出していく。

流れ込む情報は目の前のモニターに全ての映し出され、処理された情報を一つ一つ確認していった。

 

「ただの雑談にしか見えないものもあるが……万が一、億が一の可能性もさらっていかないことにはたどり着けないからな……」

 

ヒットした十三件の情報を精査しながら両手を握る。『どんなものでも箸で掴む名人』のカードに関してトークを広げる女子中学生の関係なさそうなデータも混じる画面に再度大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分よりいくらか小さく細い手を引いて明るい道を歩く。

ほんの僅かに緊張しながら前を歩くと、手を引かれて平たいスニーカーで着いてくる天羽彗糸が控えめに声を上げた。

 

「垣根くん、垣根くんっ」

 

「なんだ」

 

「なんでこんなところに?あたし、用事なんて」

 

「服、必要だろ」

 

現在いるのはセブンスミストとは違う高級志向のデパート。

足を止めて未だに垣根のシャツとズボンを借りる彼女の姿を見下ろすと手を握り返さずに彼女は目で不満を訴える。

肩幅と腰回り、腕と脚の長さが足りない。萌え袖とブカブカの肩周り、捲ったズボンの裾とベルトで無理やり固定したズボン。なのに胸元だけボタンが弾けそうで、チグハグだ。

長い黒髪の姿に少しの苛立ちを感じたが、口を噤んでただ彼女の問いにだけ答えた。

 

「じゃあ杠ちゃんたちは?なんで二人っきりなの?」

 

「……別にいいだろ、ガキがいない方が楽だし」

 

つい二日前下された命令に心の中では悪態を着く。

今日二人きりでこんなところに来た理由は暗部に来るかどうか、決定事項みたいなものだがそれを伝えなくてはならない。

そして身分を隠す衣装を与える。そのためにカフェもありまともな服屋もあるこのデパートにやってきた。

 

林檎もカブトムシもいないのは子供の前で暗い話をするわけにいかないから。ただでさえ悲劇を知る子供の前で暗部関連の話はしたくない。

 

けれどまだ本題を言えずにいた。

 

酷く不安で恐ろしい。どんなにおぞましい人でも表で生きて、底抜けに優しくて、どこまでも彼を好きでいてくれる人間に、共に地獄に堕ちてくれなんて言葉、言えるはずもない。

彼女には、暖かい光の中で生きていて欲しいと、暗がりの中の人間は願う。

 

「最近俺の服しか着てねぇから洗濯間に合ってねぇじゃん。いい加減このままもまずいだろ」

 

「あたしはこのままでいいんだけど……ていうか元はと言えば汚いからって全部捨てた垣根くんのせいでわ……」

 

本題を隠して手を引く。頬を膨らませて文句をたらたらと零しながらも手を握り返してくる彼女に、薄く口元が緩んで仕方がなかった。

 

「ったく、金は俺が出すんだ。何が嫌なわけ?」

 

「だって垣根くんがあたしとサシで話したいことって絶対変じゃん」

 

「俺をなんだと思ってるんだよ」

 

「好きでもない人を許しちゃう変な人」

 

「……その論争は前回終わらせたと思ったんだが」

 

膨らませた頬は徐々にしぼんで覇気をなくし、手の力は抜けていく。

困ったように寂しく笑う姿がなんとも胸を締め付けられた。

 

「だって、そうじゃん。好きでも嫌いでもないんでしょ?」

 

「……お前はしょうもないやつだな。言語能力大丈夫か?」

 

「言葉なら通じてるよ?」

 

何かを諦めたかのように薄く笑うと再び手を握り返す。しょうもない女の手を優しく、かつ強く握りしめた。

 

頭が固くて変なところで自己肯定感がなく、そして恐ろしいほどの鈍感。

彼女の生まれを考慮すればそれも当たり前かもしれないが、それでも気持ちが悪くなるほど現実離れした思考に目眩すら起こる。

 

本当に仕方がないやつ。

人の悪意や劣情に鈍感な彼女は垣根なしで生きていけるのか、甚だ疑問だった。

 

「とりあえず見て回ろうか。可愛い服でも着れば自己肯定感もつくだろ、馬鹿」

 

「こちとら自己肯定感マックスだが?低いのは垣根くんでしょ」

 

「はいはい、かわいいかわいい」

 

「話聞いてる?ねぇ!」

 

鳥のようにうるさく喚く彼女を手を握ってデパートの中を進む。

騒がしくも、どこか嬉しそうな彼女の顔に不安を抱きながら、いつ本題に入ればいいか迷っていた。

 

「で、どういうとこ行きたいんだよ」

 

近くにあった案内パネルの前で立ち止まると、彼女は長い黒髪を鬱陶しそうに指に巻きつけながらじっとパネルを眺める。

何か考えているのか、それとも考えてもいないのか分からない気怠い目を見つめながら彼女の言葉を待った。

 

「んー、あ、女児服見たい。あとおもちゃ屋さん」

 

「あー……()()()()()はさすがに置いてねぇぞ。あと赤ちゃんプレイは流石に……」

 

「違うわっ!杠ちゃんになんか買ってあげたいの!なんでそういう話になるのかなぁ!?」

 

真意が分かりづらい優しい目に一瞬はてなが頭上に浮かぶ。一体女児服とおもちゃ屋にどんな因果関係があるのかと下衆な憶測が脳裏をよぎるが、恥ずかしそうな赤い顔に不安は過ぎ去る。

いつもの下ネタへの反応とは違うどこか乙女らしい反応に少し疑問を抱きながらも、黒い頭を叩いてため息をつく。読解能力のない相手はやはり少し面倒だった。

 

「……お前のものを買いに来たって今散々話したよな?」

 

「あたしのは安いとこでいいよ。それより杠ちゃん、どういうおもちゃ好きかな。妹は普通にゲームとブルーレイBOX買ってあげれば良かったからさ、どういうのがいいんだろ」

 

「はぁ、なんでそうなんだろうな」

 

「ん?」

 

自分のものを買えと言っているのに、なぜ林檎の物を買おうと思うのだろう。彼女の世界には彼女が含まれていないのだろうか。

 

「そうだな、おもちゃは最近だとインディアンポーカーを作るための装置が人気なんじゃねぇの?」

 

「えっ、ギャンブル?」

 

仕方なく最近流行りと言われているおもちゃを教えてやると、彼女は首を傾げて人形のような伏せ気味のまつげの隙間から垣根を見る。

いつもと違う黒い瞳に輝く星、その目にかすかに胸が高鳴ると軽く視線を外して何もない空間を見た。

 

「違う。未来人なのにそこは知らないのか」

 

「垣根くんだって、もし過去に行って未来ではどんなタバコが流行ってたか聞かれても吸ったことないからよく分かんないでしょ?それと一緒」

 

未来人だというのにインディアンポーカーについて知らないことに疑問を持つと、彼女はもっともらしい理屈を自信満々に述べる。得意げな顔は小さい童顔のせいで本人が想像しているであろう『かっこいいお姉ちゃん』とはかなりかけ離れていた。

 

「インディアンポーカーってのは組み合わせたおもちゃを使って自分の見た夢をカードに香りとして封じ込めるものだ」

 

「アロマみたいなもの?それで何すんの?」

 

「そのカードを使うと夢の提供者が見たものと全く同じ夢を見ることが出来て、なおかつその経験や技術も引き継げる。例えば水泳選手の見た夢を見れば自分もプロ並みに泳げるようになったりな」

 

インディアンポーカー、それは既存のおもちゃを組み合わせてチェキのようなカードに夢を匂いとして封じ込めた代物。

夢の質や内容によって値段など取引の相場が変わる大規模になったおもちゃで、自分で作ることもできるが多くは取引によって夢を買っていると聞いた。

 

あまり興味はない。けれど社会を知っておかなくてはいつアレイスターに打ち勝つ情報が入るかもわからないため、何事も知らなければならなかった。

 

「相変わらずぶっ飛んだ技術だけど、凄いね。使い道によっては医療に使えるかも」

 

「医療?」

 

「だって、認知症で箸の持ち方も忘れた年配の方とかにもう一度記憶させたりできるじゃん?結構便利かも、それ」

 

基本情報を伝えると、彼女は顎に手をおき楽しそうに口角を上げる。いつまでも他人のことしか考えない思考回路に呆れて乾いた笑みしか浮かばない。

どうしてこんな少女になってしまったのか彼女の記憶を問いただしたいくらい、彼女に呆れてしまっていた。

 

「ちょっと作ってみたいな」

 

「いらねぇ」

 

「でもさ、()()()()()()()()()()()()()()、ない?」

 

可愛そうな女に肩を竦めて息を吐くと、握ったままの彼女の手が指を絡ませ訴えるように強く力を込める。思わず彼女の方へ顔を向けると黒い右目の星と目が合って、囚われて、体が言うことを聞かない。

意味深な言葉と恥ずかしそうな顔に脳は簡単にパズルを組み立てて、間違いとしか思えない恥ずかしい推測が思い浮かぶ。

 

夢でしか語れない秘め事なんて言われたら、許してしまうに決まっている。

 

「……服買ってからでいいなら、あとで寄ってやるよ」

 

「わーい!好きっ!」

 

意外と策略家な彼女に何度目かのため息をつくと、手を握って店へ向かう。要らないおもちゃを買う代わりに、彼女の服を垣根が勝手に選んだって文句は言えないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るい太陽の下、ショーウィンドウを眺めながら鼻歌を鳴らす。

 

「うーん、こっち?いや、こっちの方が…… 」

 

たくさんの時計が並ぶウィンドウに目が奪われ釘付けになってガラスの中を睨む。人に贈るためのショッピングはつい夢中になってしまう。

こんなところを上司(麦野)に見られたら『フレンダァ?何サボってんの?』とか言われるのだろうか。

あの腕力ゴリラお化けの怒り顔を思い出すと少し寒気がする。

 

しかしどうやらその寒気は思い出だけのものではなかった。

ショーウィンドウを眺める自分の金髪と小柄でキュートな姿と共に、道の右側からきな臭い男ふたり組が通り過ぎる。

『Fチーム、現場に着きました』、そんな言葉を電話で報告しながら過ぎ去る男達に同じ雰囲気を感じていた。

 

暗い日陰の匂い。血と硝煙が当たり前の日常を生きる人間の匂い。

素人じゃない。

敵対組織か、それとも同業か。暗部組織(アイテム)として、上司に相談すべきか。

様々な考えが巡りながら自然と彼らの後を追っていた。

 

 

 

 

 

「今晩見るの楽しみだなぁ……」

 

長袖のセーラー服を着た黒髪の中学生が歩道を歩く。手に持ったインディアンポーカーを見つめながら前もみずに歩いていた。

車道に近く細い道は人通りもまばらで誘拐にはうってつけの場所で、無防備な彼女は独り言を呟きながら危機など察知できずに進む。

 

「そうだ、見てみたらフレンダさんに教えてあげよっと!」

 

彼女、佐天涙子とは少しばかりの知り合いだった。

鯖缶が巡り合わせた奇妙な縁、今朝も新しいインディアンポーカー─確か『どんなものでも箸で掴む名人』とか何か─が手に入ったと嬉々としてメッセージアプリで連絡し合う程は仲がいい短い間柄。

 

「あーぁ、何やってんだか」

 

そんな彼女は先程の男たちに軽く噴射型の睡眠剤で眠らされると、通行人の視界を遮るように止まった白いハイエースに押し込められる。

手馴れた動作で誰にも気が付かれないうちに彼女を連れ去った男共と、学園都市だと言うのに警戒もしない平和ボケした中学生にため息を着く。

 

「タダ働きはしない主義だけど……ねぇ、誰か車寄こして。麦野には内緒でね」

 

適当な名前も知らない下っ端に繋いで足を確保する。

一宿一飯の恩義といえばいいか、一度くらい助けたってバチは当たらないと言い訳をしながら携帯片手に腰に手を着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火薬の匂いと、香る土埃。普通に生きていれば嗅ぐときは友人との花火くらいの珍しい匂いの中、微睡む脳を揺さぶる高い女の子の声にゆっくりと瞼を開いた。

 

「おーい起きろぉ」

 

そこに立っていたのは金髪碧眼の小柄な少女。ベレー帽とクラシックな紺のジャケット、赤いチェックのミニスカートから伸びた黒タイツと白いパンプスがフランス人形のような可愛い知り合いだった。

 

フレンダと名乗った彼女とは鯖缶が結んだ奇妙な縁で繋がっており、つい先程も彼女にメッセを送るか悩んでいたところ。

そんな彼女が煙の中何事も無かったかのように車の外で立っていた。

 

手には手錠と、耳にかかった取れかけのアイマスク、そして伸びたヤンキーたちに思考が爆発する。

一体何が起きて、何があったのか分からぬままパニックになっていた。

 

「……えっ!?ここ、どこ!?なんであたし縛られてっ!?」

 

「手錠焼切るからうつ伏せになって?動くと手首無くなるから、じっとしててね?」

 

しかし彼女の悪戯っ子のような微笑みに口元が引き攣り言葉は出ない。

何が起こったのか聞かない方が身のためだと、好奇心旺盛な自分の勘が珍しく告げていた。

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