とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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ぼっちちゃん……


88話:狩猟

枝垂桜学園。青々とした木々の間に紅葉した木が混じる並木道を歩き校門へと向かう。

賑やかな少女たちの話し声が響く中、一人静かに歩く弓箭猟虎には心地よい風の音しか聞こえない。

 

「弓箭様、弓箭様?」

 

いつもの日常に妥協していると自分の苗字を呼ぶ声が耳に入る。

本当に自分が呼ばれているのか半信半疑になりながらも、本当に自分の苗字だと遅く理解すると慌てて返事をして足を止めた。

ゆるいお下げが似合う茶髪の学生と、黒髪のお淑やかな学生がこちらに優しく微笑みかける。

 

「えっ、はは、ははははいっ!?」

 

「私達、これから学び舎の園の外を冒険してみたいと思うのですが、ご一緒に如何ですか?」

 

クラスメイトの穏やかな笑顔に思わず声が上擦って唖然と立ち尽くす。

いつぶりかのお誘いに興奮と高揚が抑えきれなかった。

 

「あの?」

 

「わわわわわたくしとでございますか!?」

 

「えぇ」

 

「よよよよろこんで……あ」

 

熱が上がった顔をほころばせて頭を縦に振ると、電話の着信音に熱は冷めていく。

ご学友との大切な時間を邪魔するうるさい音に苛立ちながらも携帯を手に取り軽やかにお辞儀をした。

 

「すすすすみません、ちょっと失礼します……」

 

急いで離れると携帯を耳に当てて言葉を待つ。

電話口から聞こえる聞き覚えありまくりの男の声に落胆すると彼は言葉を続けた。

 

『猟虎、今平気か?』

 

「あぁ誉望さん……」

 

『仕事だ。Fチームの逃がした標的を捕獲して欲しい』

 

「え、今からですか?その、これからご学友と、」

 

『無理そうか?』

 

仕事内容を伝える教育係、誉望万化の陰鬱な声に焦り気味に言葉を返すと圧の強い返答が想定通りに返って来る。

仕事だから仕方ないとはいえ、彼女たちと一緒にオトモダチらしいことが出来ないのがひたすらに悔しかった。

 

「……いえ、はい」

 

『そうか、仕事の情報はすぐ送る。早く持ち場につけよ』

 

「はい、ですよね……」

 

力なく頷くと携帯を閉じてご学友に頭を下げる。

電話がなければ今頃楽しく談笑しながらこの並木道を通って学び舎の園から外の街へとお出かけしていたというのに。

誉望さんに恨みしか感じず、腹が立ってしょうがなかった。

 

「あの、申し訳ございません。用事が入って……」

 

「まぁ、それは残念ですわ」

 

「では、またの機会に」

 

別れたご学友の背中を見送って項垂れる。この足で戦場へと向かうのは酷く気が重かった。

 

 

 

 

 

 

土埃と火薬の香る戦場に立つ。黒いボレロの制服を脱いで全身を覆う黒いタイツを隠す白シャツと黒いミニスカート、茶色いハーネスに着替えると、思考回路は一気に仕事に変わる。

 

白い砂利が覆う工事現場。戦場の痕跡から獲物は二匹、一匹は奪われたターゲットなので襲撃者は一匹。

砂利に着いたローファーとハイヒールの跡を察するに、二匹ともメス、歩幅から逆算するに体長はハイヒールが一五五センチ、ローファーが一六〇センチ程。

 

「はぁ……一年半ぶりにクラスメイトに声をかけられたのに……!」

 

残された残骸を目にしてため息を着く。

ぬいぐるみに偽装した爆弾の布や綿が散らばる現場は阿鼻叫喚としており、倒れた男たちと無残にも引きちぎられた人形のクズで汚くなっていた。

 

「ぼっちからの脱却、そのままクラスの人気者!学園のアイドルになるはずだったのに……!」

 

落ちているぬいぐるみの頭を茶色いウエスタンブーツで踏み潰し奥歯を噛み締める。

破れた人形からはみ出る白い綿が砂利と混じって汚い灰色に変わっていった。

 

「輝かしい未来を潰したからには、せめて、楽しめる狩りであってくださいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな店内、洗練された商品とシンプルかつ煌びやかなデザインの少し高めの店はよく行く店舗で、メンズもウィメンズもある今の彼女にはピッタリの店。セレクトショップのため多様な系統を置いてあり、なかなか便利である。

隣にいる馬鹿のためにアテンドスタッフに服を選ばせてる最中、自分でも色々見渡していると隣の女は何食わぬ顔でスマホを片手に垣根の袖を掴んだ。

 

「ね、高速道路沿いの建物が爆発したって。怪我人とかいなかったかな」

 

「テメェ、男と買い物してて呑気にSNSか。スマホ叩き割るぞ」

 

ニュース通知を開いて速報を見る天羽彗糸のスマホを取り上げてワインレッドのスーツのポケットに突っ込むと困ったように手を出して返せと訴える。彼女の服を見ているというのにスマホに夢中とは、何も思うところがないのだろうか。

 

「やめてよねー?バックアップ取ってないから面倒じゃん」

 

「ならやるな。気が散るだろ」

 

取り上げたスマホを返すと、今度はズボンのポケットから自分の携帯が着信音を鳴らす。

仕事をしているはずの部下からの電話に少し苛立つと、ため息を吐いてから天羽の黒く長い髪を撫でた。

 

「誰から?」

 

「仕事の連絡みてぇだ。スタッフと服の相談してろ、すぐ戻る」

 

「女と買い物してる時は携帯いじるんですか。ふーん」

 

「うるせぇばーか、俺はいいんだよ」

 

丁度よく現れたスタッフに彼女を預けると、一度店の外に出て電話を取る。

今まで話していた女の華やかさが無い、普通の男子高校生の業務連絡だと分かっているからか電話に出るのが物凄く億劫だった。

 

「要件は?」

 

『ピンセットの情報を持っている可能性がある学生を追っていたのですが、下にやらせたら失敗しました。それで猟虎を向かわせたことので報告をと』

 

部下である誉望万化の報告に天羽が言っていた高速道路付近の爆発についてのニュースを思い出す。

関係しているのかは分からないが、もしそれが関連しているのなら確かに失敗しているのだろう。スムーズに事が進めば基本爆発なんて稀にしか起きない。

 

「あー……分かった、あとはテメェらに任せる。こっちはまだ、スカウトの途中なんでな」

 

『藍花悦でしたっけ。上じゃなくて垣根さんに頼むってなのに上層部から蔑ろにでもされてるんですかね?情報はあんなにガチガチだったのに』

 

「……そろそろ戻る、切るぞ」

 

少し都合の悪い質問に無理やり電話を切ると、再び天羽の待つ店内に戻る。

どうぞと、スタッフにドアを開けてもらい、大きな鏡のある試着室に足を踏み入れた。中にいる長い黒髪は、選んでもらった服をクルクルと周りながら確認して、嬉しそうに声を弾ませる。

 

「誉望くんなんだってー?」

 

「なんで知って……いや、未来人だったな。で、それは?」

 

そこにいるのは大人な少女。

モード系のシンプルで面白みのないペンシルスカートのOLじみたセットアップはいつもの幼さを隠し、いつもの彼女より大人に見せる。

 

「似合うー?」

 

「やだ」

 

「えー……かっこいいけどなぁ」

 

はっきり言おう。嫌だと。

弱い少女でいて欲しい垣根にとって、大人びた姿は癪にさわる。

まるで一人でどっかいってしまいそうで。

 

だから目で言う。着替えろと。

 

そして天羽はその目に逆らえない。好きな人だから。

垣根の冷たい言葉にため息をつくともう一回更衣室から退出するよう促される。

別に裸などいまさらだったが、仕方ないとまたもや着替えを待つ。

 

めんどくさい男のこだわりと、自分をわかっていない女の長くて短い攻防戦が始まった。

 

「これは?」

 

「だめ。露出あるのはNG」

 

ミニスカートとヘソだしキャミソール。いわゆるゴスに近い、ゴツゴツベルトとレザー。

脚に腹に腕に胸の谷間に、肌はほぼ全て露出している。

 

女を前面に押し出したスタイルに間髪入れずに拒否すると、天羽はとても悲しそうに顔を伏せる。

渾身のコーデだったのだろう。しかし垣根はただ淡々と呟くだけ。

 

次。

 

「これ可愛くない?」

 

「ズボンは嫌」

 

「露出してないのに!」

 

「可愛くない」

 

三着目に選んだのはズボン。いつもの彼女が着るようなストリート系で、ブカブカのカーゴパンツに体に張り付くニットのセーター。

タバコを吸ってそうな年上のお姉さんという感じで、またもや苛立つ。

天羽はその言い分に納得せず食い下がるが、垣根の心底嫌そうな目つきにそれ以上言えず。

おずおずと更衣室に戻る彼女はもはや疲れ果てていた。

 

「これは……ちょっと……」

 

しばらく時間がかかって出てきたのはパフスリーブ印象的な膝丈のワンピース。腰の切り替えから揺れるプリーツスカートは上品なのに可愛げがある。

そんな少女らしいヘブンリーブルーのワンピースはあまりに甘くて、天羽の普段からは想像できない。

 

「いいな、それ。うん、それにしよう」

 

「嘘でしょ……」

 

案外可愛い物好きだというのに自分が着るのは解釈違いなのか、彼女は少し目を伏せて口を噤む。下を向いたその頭にはフリルの多い白のカチューシャが乗っていた。

 

「……垣根くんって、少女趣味?」

 

「お前が嫌そうな顔してるのが好き」

 

「こ、この人意地悪だ……!」

 

嫌がるということは、それだけ彼女の思惑と逸れているということ。姉ぶりたい、大人に見せたい、そんな思惑から。

天羽が考えるプランの全てを壊したい。彼女のちっちゃなプライドを折ってしまいたい。彼女を自分の思い通りにしたい。

だから垣根の趣味でなくとも、似合っていてもいなくても、彼女の嫌がる服を着せたかった。

 

「まぁ、いいや。あたしのカード持ってきた?これ桁が予想よりゼロ多かったんだけど」

 

「俺が払うって何度言えばわかる」

 

中で履いてるスポーツ用の下着が丸見えなのが分かっているのか分かっていないのか、確認するように無防備にヘブンリーブルーのワンピースの裾を翻す。

靴も新調し、清楚な雰囲気はどこぞのお嬢様のよう。

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「……まだテメェの、藍花悦の一張羅を探すんだよ。ほら、こないだ破っちまっただろ?」

 

代金を全額一括で払い終わり店外に出ると当たり前とでも言うように手を繋いできて期待した顔で見上げてくる。

どちらかと言うと遊び足りないとでも言いたげな顔に手を強く握り返して、複雑な心境を悟らせないよう口角を上げた。

 

「あー……確かに、藍花悦のチャイナ服はボロボロになっちゃったし、バレたといえど藍花悦と区別する服は必要だよね」

 

「そうだろ?だからもう少し、な?」

 

調教されてきた犬を離さないよう手を解いて腰を強く掴む。

二度と赤い色に染めたくないと思っていても、暗がりに引き摺り下ろさなければならない自分の立場と、手に入れた光を失いたくない心情。袖に絡まった黒く長い髪のように酷い不安が心に絡みついて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐天涙子を颯爽と助け、逃げた先は街の真ん中。

車が走り、そこそこ多い人の喧騒の中、目の前で頭を下げる彼女の感謝を冗談めかして笑い飛ばした。

 

「ありがとうございます、フレンダさん」

 

「無事でよかったわー。私がいなきゃどうなってたか」

 

「ですね。でも携帯もないし、さっき買ったカードもなくなっちゃったし。スキルアウトって怖いですね……」

 

困ったように笑いながらつむじを見せるが、すぐに笑顔が消えるとポケットをまさぐってため息を着く。

持っていたカバンも無くなり酷い有様だと言うのに、学園都市によくある馬鹿のやんちゃとしか見れていない彼女に自分も同じように大きく息を吐いた。

 

「アレ、イタズラ目的の不良集団じゃなかったわよ?狙われる心当たりとかないわけ?」

 

「ないですよそんなの!ていうか警備員(アンチスキル)に通報を……!」

 

「あー、それはアタシがしといたから」

 

「え?そうなんですか?」

 

表舞台の人間である彼女に暗部が関わっているとは直接言えず、適当にはぐらかしながら腕を引っ張って話を変える。

そのまま道なりを進み、二人並んで雑談に花を咲かせた。

 

「そうそう。ほら、感謝してるならスーパーでサバ缶大量購入して、またカレー作りなさいよ!」

 

「えぇ、今からですか!?」

 

「他に何作ってもらおうかな!カレー以外なら他に鯖が美味しい料理といえば、例えばそうね───ッ!」

 

掴んだ腕を恐ろし人の多い道を進む中、音もなく痛みが貫いた。

左肩から吹き出た真っ赤な血が綺麗な歩道に散らばり、汚い模様を作る。

 

「えっ……?え、血……?何が……?」

 

唐突な出来事でも案外頭は動き、慌てて佐天の腕を引っ張って死角へ走る。

何も理解出来ていない彼女に痛みを悟られないよう必死に腕をかばいながらデパート近くの壁にへばりついた。

 

「ちょっ、どうしたんですか……!」

 

慌てる佐天を横目に肩の傷と周りを確認して壁に背をつける。

一体どこから狙撃された?何故?

色々な考えが脳を巡るが、弾丸が貫通したものの左肩の感覚はある事実は不幸中の幸いだった。

 

麦野達に連絡をしなくてはと、ポケットからスマホを取り出し電話帳を開いて通話ボタンを押そうとした時、弾けるようにガラスが飛び散る。

綺麗に銃弾を撃ち込まれたスマホが地面に落ちると急いで佐天の手を取り近くのデパートに逃げ込んだ。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「中入るわよ!」

 

周囲の建物からは見えない角度のはずなのに、銃弾は見事に小さいスマホに命中した。

これは遠距離からの狙撃ではなく、近距離、しかも通行人に悟られないほどの手馴れ。

同業者か敵対組織か、佐天を狙う誰かさんに心の中で舌打ちを鳴らしてデパートへと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前に走り去った二人組のクソ女の跡を辿りながら薄く笑う。

黒毛と金髪の学生二人が今回の標的、獲物を見つけた興奮を抑えながらゆっくりと、そして正確に彼女たちをつける。

 

あの金髪クソリア充女に残る、捕獲班の皆さんの血の匂い。

それこそが獲物へと導く道標。

 

ご学友の誘いを断ってまできたお仕事で、仲良さそうにイチャイチャするリア充共を見せつけられてとても腹立たしくてならない。

黒毛は生け捕りとの命令ですが、もう片割れは、狩ってもいいオモチャ。

この鬱憤を晴らすのにちょうどいい。

 

落ちた血液を地面から救いとって舐めると鉄の味が舌にじんわりと広がる。

彼女たちの行動は、この鼻が手に取るように教えてくれた。

 

逃げた先のデパートに足を踏み入れ観察し、匂いを観測する。

デパート内に逃れ逡巡の後、エレベーターで上階に移動したのだろう、匂いがエレベーターの中で途切れてしまった。

 

「楽しませてくださいよ?」

 

楽しみを奪った人達、ならば相応の娯楽を提供してもらわねば釣り合いは取れない。




それはそうと、デート(?)してる女女と男女とお仕事をする猟虎ちゃん……不憫で可愛いですね。
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