とある科学の肉体支配   作:てふてふちょーちょ

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90話:交友

黒いツーサイドアップを揺らしてクソリア充、もとい標的の少女たちを追いながらデパート内を見て回る。

完璧に客として擬態し、服の下に装着した狙撃銃を悟らせないように振る舞えば、彼女らに見つかることも無い。

 

彼女、弓箭猟虎の武器は体の中にある銃。

腕の曲げ伸ばしで自由に組み立て、分解が可能なこの銃は炭酸ガスを用いておりほぼ無音。

標的が銃痕で気づくことも、素振りで気がつくことも無い。

ステルス特化のスナイピング。

 

どこにいるのかも分からない敵に怯え、気付かれずに銃弾を撃ち込まれ、絶望に浸る最中、彼女たちはどんな声で最期鳴くのだろう。

楽しみで仕方がない。じわじわといたぶって、丁寧に噛み殺してみたい。

 

サディズム。

獲物が弱る瞬間を見続けたいサディスト。

 

しかしだからといって時間もかけてられない。

口煩い教育係に上から目線でまた色々と怒られてしまうのが目に見えていた。

 

急がなければ。そして楽しく殺さなくては。

 

楽しみに浮かれている中、黒い髪の中学生が人混みの中、ゆっくりと一人こちらに歩いてくる。

顔を伏せて周囲を伺うようにゆっくりと。

 

弓箭猟虎のトラッキングは後追い。

狩猟民族が獲物を追跡するのに使う技術で、残された痕跡から獲物の情報を読み取るのが主な使い道。しかし、これは痕跡を追う技術、戻ってこられたら途中の行動が把握出来ず、獲物にありつけない。

だから来た道を戻る今の彼女は自分の技術を封じる手段にもなる。

 

一瞬バレたのかと思うも、周囲を警戒する彼女の様子にそれは杞憂だと思い直す。

恐らく偶然。わざと敵陣に出て襲撃者を特定しようとしているのが丸分かりな仕草だった。

 

黒毛を囮に使ってリア充金髪が人混みを観察、黒毛に反応した人物を襲撃しようという魂胆であろう。

 

━━無駄だというのに。

 

ぼっち……ではなく、暗殺術を極めた彼女は人混みに完全に溶け込み違和感を与えない。

視線、表情、身のこなし。全てが完璧に自然体。

黒毛を見捨てて一人だけ逃げた可能性もあるが、弓箭にとってそれは楽しみが増えるだけのこと。

 

━━ 友情なんて上辺だけなのに。

 

ふとデパート内のマップとサービス情報が表示された店内のパネルから目を離して黒毛へ視線を移す。

人混みから抜けて彼女の全貌が見えると、自分の考えがあまりにも甘いと悟ることとなった。

 

見捨てるどころじゃない。人形を沢山抱えた黒毛に目を見開く。

金髪の目的は使い捨て、人形の姿をした爆弾を持たせて目撃者も襲撃者も全て始末する算段だと黒毛の抱えた人形を見て確信した。

あのクソリア充にとってこれは、自分はのうのうと逃げおうせて目撃者全員の口封じをし、弓箭の始末ができる一石三鳥の妙手。

しかしそんな無差別殺人を犯せば組織ごと潰されるのは必死。

それで窮鼠が猫を噛んだつもりなのか。

 

黒毛の腕から人形がひとつ落ちる。

床に落ちた人形が抱えた時計の大きな秒針が動き、かちっと音が鳴る。

 

爆発する。

落ちた爆弾に恐れて柱の陰に逃げ込む。最悪の事態を想定し、覚悟を決めた。

 

しかし火薬の匂いも、吹きすさぶ風も、溶ける熱も弾けなかった。

爆発しないと分かると一気に体の芯が冷えていく。

しまった、やらかしてしまったと、後悔だけが押し寄せた。

 

「みーつっけ、たァ!!!」

 

「ガ、フッ!!」

 

悔いる時間も与えずに右頬に白いハイヒールがめり込む。

飛び蹴りをしてきた低身長の金髪は勝ち誇った笑みで腹を蹴飛ばし、距離を取った。

 

「結局、ぬいぐるみを爆弾と認識するのはあんただけってわけよ。コソコソネチネチいたぶってくれたけど、百倍にしてぶっ飛ばしてやるわ!」

 

「……返り討ちです」

 

膝を着いて見上げた先の女が見せる腹立たしい笑みに右腕で照準を合わせて撃つ。

柱に穴を開け、コップや携帯、床にも銃痕を残しながら避ける女を追って床を蹴る。

 

叫び声をうるさく喚き散らしながらパニックに陥った群衆に目もくれず、逃げていく女に銃弾を撃ち込みながら設置された館内マップの横へ回り込む。

反対側に移った女の脳天目掛けて右腕から弾を噴射するも、飛ばされた紺色のジャケットによるフェイントで遅れをとり、無防備な横腹に強い蹴りが直撃した。

 

一度体制を立て直そうと素早く後退すると、三面ダイスによく似た灰色の何かが二つ、宙を舞う。

しかしダイスと違い、数字の代わりに火薬の香りが脳裏に焼き付く。

 

それは小さな爆弾だった。

 

破裂する風と熱量、焼ける空気の匂い。

破片効果のない衝撃波のものとはいえ、近接戦闘に爆弾なんて酔狂な女なのか。

 

しかし腕のダメージでまともに投げられず、投げかけた爆弾を容易く銃で弾いて追撃を阻止する。

驚異にはなり得ない。こんなもので狩れるなんて、底が知れる。

 

「あらあらぁ!!大口を叩いた割にたわいなぁい!!百倍にするとかなんとか……もう、立つこともできませんか……?」

 

後ろに後退した彼女の腹につま先を蹴り入れると、痛みが酷いのか床に這いつくばって嗚咽を漏らしながら肩で息をする。

強気な女の倒れ伏す姿はなんとも興奮しがたい愉悦を感じさせた。

 

「……ハッ、結局立ち上がらないのが、伏せてる方が安全だからって訳よ」

 

「ッ、しまっ──」

 

それが仇となる。床に伏せて満身創痍の体で金髪はスイッチを押そうと不敵に笑う。

勝ちを確信した腹立たしい顔に、なすすべはなく押し寄せるだろう風に身構えた。

 

「何が安全ですって?」

 

強い風の代わりに、優しい女の声が響く。何も起こらない事実に衝動的に瞑った目を開くと、一人の女が目に飛び込んできた。

そしてその後ろで人形を抱えて飛ぶ何十匹もの白い蟲。

 

酷く長い黒髪と、空色の上品なワンピース、白いパンプスとカチューシャをつけた長身痩躯で人形のようなハーフ顔の綺麗な女性だった。

長い前髪に隠れた左目と、露出した右目には眩い星が瞬いて、黒い目に輝きを彩る。

神秘的な魅力を持った不思議な人だった。

 

「垣根くん、キミはこのことをご存知で?」

 

「予想外だよ。全く、誉望の野郎……なんで報告しねーんだ」

 

「ッか、垣根さんッ!!?」

 

初めて見る女性に手を引かれる長身の眉目秀麗な男性はどう見ても上司で超能力者(レベル5)の垣根帝督その人。

思わず上擦った声でその場に立ち尽くすと、彼は物凄く嫌そうな顔でため息を吐いた。

 

「まずは、目的から貰おうかな。弓箭猟虎ちゃん」

 

「……?」

 

ちいさなリモコンを向けられると、四人しかいない広い空間にかちっとボタンを押す音だけが響く。

何をしたいのか分からず首を傾げるも、全てを見通したかのような呆れた顔で今度はクソリア充に視線を移した。

 

「……なるほど、佐天ちゃんね。で、キミはただのお人好しと言うわけ?」

 

「ッ……ッ!ッッ!」

 

「喋らなくて結構です。どうせ全て改竄しますから」

 

声も出ず、体も動かない金髪に冷やかな視線を送ると大きく息を吐いて深呼吸し、もう一度リモコンを押す。

 

「………………二キロ先までの十分間を消しました。荒い処置ですが、健康に被害は出ないでしょう」

 

「は……?体晶も使わずに……?」

 

「そして佐天涙子もどうやら何も知らないようです。無駄骨でしたね、お可哀想に」

 

嫌そうな顔で単調な敬語を話す彼女に少し驚いたような表情をする上司から察するに、彼自身も彼女の能力を知らない様子。

ネームドの組織に所属する彼ならばどんな情報でも得られるはず。

だというのにこのリアクションはどういうことだろうか。

 

よく知られておらず、かつ垣根ともあろう方がなすがままにされるほどの実力者で、わざわざ共に行動する相手。

そんな目の前の女に少し心当たりがあった。

 

「……藍花、悦?」

 

「おや、どうしてぼくをご存知で?」

 

「新しい部下って……」

 

学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)、その六番目を冠する正体不明の謎多き人物。

その名前が新しく来る構成員との話を教育係から軽く聞いていた。

けれど彼女はそれを知らないのか、恐ろしく低い声で後ろに立つ垣根に声をかける。

 

「……垣根()()、ご説明を」

 

後ろを向いた彼女の顔を見ることも無く、その言葉を最後に自分の体は力なく地面へと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れた二人の少女をよそに、罰の悪そうな顔をする垣根を軽く見上げて腕を組む。

怒っているのは天羽の方だと言うのに、彼の方が背が高いのが腹立たしい。

 

「説明」

 

「……どうせ中身みたんだろ」

 

「垣根さんのお口から聞きたいんです。言わないなら彼女たち起こしますよ」

 

リモコンを倒れた少女たちに向けると、そんなに嫌なのか彼はため息を一つ吐いて頭を掻きながら面倒くさそうに呟く。

なんだか腹立たしい仕草に寂しさを覚えるのは気のせいだろうか。

 

「上から藍花悦を勧誘しろって言われたんだよ」

 

「ぼくを?なんでまた」

 

「知るかよ」

 

ぶすッとあさっての方向を見ながら不機嫌そうに告げる彼の横顔に嘘はない。けれどもその内容に疑念を抱くのは当たり前だった。

 

アレイスターは知っている、彼女がなんだってできることを。ならば行動が制限される組織、ましてや反逆を企んでいる垣根の元へ送らないはずだ。

一体何がしたいのか。十月九日が目前に迫っている今、何かしらの思惑があることに違いない。

 

「……ぼくを使いたいのか?あの人は」

 

十月九日、全てが決まる日にアレイスターは天羽に何かをさせたいのだろう。

死か救済か。どちらかは分からないが彼は何とかしてでも藍花悦を物語に組み込んで、さらなる発展を望んでる。

一方通行が未だ覚醒していない現状、木原数多の持っていた笛を所有している彼女に役を全うすることを望んでいるのだろう。

 

こんなまどろっこしいことをしなくたって、未来はすでに決まっているというのに。

 

「何の話だよ」

 

「ふん、ぼくのこと信頼してない人に教えることはありません。教える義務とかありませんしー?」

 

「あ?テメェが信頼に値しないのは自分の行動のせいだろ」

 

怪訝そうな顔をする垣根の横を通り抜けて、虫にぶら下がった爆弾人形しかない豪華なデパートを歩く。いつもより少し早めに、低いヒールでコツコツとタイルを踏みしめて遠ざかる。

しかし彼も負けじと長い足で追いついて後ろにピッタリとくっついて離れない。一人にしてくれない彼に、胃の奥から粘りのある怒りがドロドロと溶け出してく。

 

「……ぼく、君と同じ超能力者(レベル5)です。第一位とキミと、第五位さんと下位互換ではありますが、ほとんど同じことができます。キミのためだけに力を振るう覚悟もあります」

 

「でも俺より弱いだろーが。見栄張ってんじゃねぇぞガキ」

 

「弱さなんて関係ありません。ぼくはキミが大好きで、キミの幸せのために死ねる。体を売ることだって、金品を差し出すことだって、人を殺すことだって。この運命を捧げます。それだけで十分じゃないですか」

 

腹立たしいセリフに思わず立ち止まると、勢いよく後ろを振り向いた。振り向きざまに舞った男物のウッディな香りが鼻を掠める。

ひどく甘い空間に吐き気がしてたまらない。

 

「弱い奴が、俺と一緒に地獄に落ちてくれるのかよ?」

 

「垣根くんためなら、弱くたってキミを幸せにして見せます」

 

もう後戻りができないほど心酔しているというのに、この男はこれ以上何を望むのか。思い詰めたような瞳で見下ろす彼が何を考えているのか分からない。

キミのために汚れたい。

キミのために全てを失いたい。

キミのために死んでしまいたい。

 

理解してくれないことが堪らなく嫌だった。

 

「答えになってねぇけど……そうだな、お前はそういう奴だったな。心配しただけ杞憂か」

 

彼はただ呆れたように大きな手で頭を撫でてから再び手を握る。何を言っても譲らないとわかったのか、手をとって歩き出した。

面倒だと言いたげな横顔で前を進む彼にもどかしい感情しか覚えられない。何を考えているか分からない少年に、いつまでこんなにもかき乱されなければいけないのだろうか、

 

「じゃあ買い物、続けるか?藍花サン?」

 

「……悦って呼んでよ、先輩」

 

腕に体を押し付けて軽くため息をつく。急に態度を変えた彼にわずかな苛立ちを感じながらも、結局文句も言えずについて行くしかない。

歩くたびに揺れるプリーツスカートは、買ったばかりだと言うのにさっきの混乱で汚れたようだった。

 

美しい服を汚したくない、彼のそばで綺麗でいたい。

エプロンでも買おうかと思考を巡らせながら、また二人並んで歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ仕事ご苦労。お前たちのおかげでピンセットの情報が集まった」

 

ガラスブロックから差し込む夕焼けが眩しい午後、仕事から戻ってきた弓箭猟虎とその教育係、誉望万化の前でリーダーが手持ちのインディアンポーカーを眺めていた。

近くのソファでその光景を見つめながら、唯一おかしな点に言及せずただ彼の言葉を待つ。

 

「現在の所在こそ不明なものの、近日中に霧が丘学園近くにある施設で実際に使用されるのは確定。今回のソースはまともらしい。この図面で行く。必要な計算を……」

 

「あの……垣根さん、その前に……」

 

「なんだ」

 

「彼女は……その、どなたで……?」

 

しかし待てが出来ない誉望万化は恐る恐る手を挙げてちらりとリーダーの隣で静かに立つ女性に目を向ける。

 

背の高い女だった。一七〇はある高い背と同じ長い黒髪と、前髪で隠した左目と唯一見える右目に咲いた輝く星。

人形のような冷たく儚い顔、大きな胸、お淑やかなお嬢様風の風貌。男が好きそうな女、そんな印象だった。

 

「初めまして、藍花悦と申します。ぼくのことはお気になさらず」

 

「ぼくっ娘……」

 

微笑みかける女に誉望万化がほんのりと目を見開いて耳を赤く染める。

青空色のパステルカラーで染った上品な高級ワンピースの上から白いエプロンを着て、同じように白い靴とカチューシャを付けた彼女は昔の看護師のようで、暗部の人間としてはかなり異質だった。

 

「こいつは俺と行動する。ちょっかいかけたら殺す、とくに誉望」

 

「っは、はいぃ……」

 

侍らせた彼女を大事そうに横に置いて威嚇するリーダーに九月三十日の出来事を思い出す。

藍花悦と名乗った彼女をその日に見たことがあった。会話を一言二言交わした程度だったが、その時は平らな胸と広い肩幅で、中学生くらいの少年にしか見えなかったというのに、今の彼女はどこからどう見ても良家のお嬢様。

 

「大丈夫ですか、誉望さん。彼のことは気にしなくていいんですよ」

 

「ぇ?あの……」

 

「悦」

 

「はいはい、相変わらず彼氏面が酷いですね」

 

「うっせ」

 

輝夜姫のような風貌に似合わない凶器的な大きさの胸部から視線を外さない部下を遮って、低い声で下の名前を呼ぶと藍花悦は小さくため息を着く。

仕方ないと言いながらリーダーの隣に戻る彼女の顔は朗らかだった。

 

「えっとというわけで、本日付で配属?されました。第六位、藍花悦と申します。よろしくお願いしますね」

 

柔らかく笑うと、彼女は小さくお辞儀をして再度名乗る。

優しそうな笑みに甘い香りが舞う。同性だというのに、言葉に言い表せないような甘い香りのせいで無条件で好きになってしまいそうだった。

 

「よ、よよよよろしくお願い致しますわ!!わたくしたち、お友達ですものね!!手取り足取り全部教えてあげます!」

 

「こんにちは弓箭さん。お昼ぶりですね」

 

毒牙にもう既にかかっている弓箭猟虎はリーダーを恐れもせずに藍花悦に抱きついた。

大きな胸を衝突させながら生き別れの恋人かと勘違いするほどの大袈裟な挙動で抱き合う弓箭さんに一種の恐ろしさを感じるも、そんなこと気にせずに藍花悦は笑みを絶やさなかった。

 

「ららら猟虎って呼んでください!わたくしたちお友達、いえ、もう親友ですから!わたくしもええええ悦さんと読んでもよろしいでしょうか!!??」

 

「いいですよ、猟虎さん」

 

「ッッッ!!おおお友達ですから後で遊びに行きましょうね!!お洋服もお揃いにして!!あとメアド交換して!!それから、それから!」

 

押し当て合う互いの豊満な胸のせいでそこまで密着できていない体をぎゅうぎゅうに押し込む弓箭の頬を触る。

黒く長い髪をカーテンのように垂れ流して弓箭猟虎を見つめる姿は恐ろしくも惹かれてしまう。

 

「猟虎さん、そんなに大急ぎでやったら楽しいことがすぐ終わってしまいますよ。お揃いもメアド交換も逃げませんから、少しづつ楽しみましょう?」

 

「ふぁ、ふぁい……」

 

至近距離で優しく笑う藍花悦の落ち着いた言葉に弓箭も大人しく従って体を離して機嫌良さそうに近くの椅子に座った。

末恐ろしい女、自分でさえ扱えなかった弓箭猟虎という部下をいとも容易く手懐け静かにさせる。

カラクリがあるとしか思えない精神操作に不安しか感じない。

 

「キミも」

 

「……えぇ、よろしく」

 

次にソファに座る心理定規に手を差し出して握手を求めると、彼女は眩しい星が瞬く瞳を微かに歪めて小さく声を潜めた。

くすくすと妖精のような笑い声。外見も相まって酷く恐ろしかった。

 

「よろしくね、極彩海美さん?」

 

誰も知らないはずの名前を吐息混じりに恐ろしいほど優しく呟くと、彼女は甘い香りを残してリーダーの元へ帰ってしまう。

小さく呟いた声は自分にしか聞こえず、ただただおぞましい。

 

「なんて言ったんだ?」

 

「んふふ、なんでもありません」

 

これは宣戦布告で、忠告。彼を傷つけたら許さないという一方的な警告だった。

リーダーの腕を取り、悪魔のような笑みをする彼女に息を飲む。

なんでも知っているかのような態度が恐ろしくて、言葉を発することもままならない。

 

こんな女に心酔するリーダーに、信頼など置けるのか甚だ疑問である。

そんなことを思う片隅で、カチッと小さくボタンを押した音が聞こえたような気がした。




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【挿絵表示】


金髪ならデカめのアリスに見えなくもない。
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