東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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ハーメルン初投稿です。
東方は星蓮船までしかやってませんし、原作より二次に強い影響を受けています。一番やりこんだのは永夜抄。




第1話

男は、強かった。

 

 

 

学歴社会と声高に叫ばれる世の中。

腕っぷしの強さ。きっとそれで大成したとしても格闘技の世界、或いは暴力が支配するような裏の社会だけ。

世の中を動かすことは出来はしないだろう。

 

 

 

男は、ただ強かった。

 

 

 

純然たる事実として、現代社会を動かしているのは、学力であり知識であり財力であり血筋であり権威であり技術であり知恵である。

 

 

男は、ただただ、強かった。

 

 

そんな社会の営みに逆らうかの様に、その男は、ただ最強であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男が格闘技に興味を抱いたのは義務教育が終わる頃だった。

偶然テレビ中継がされていた総合格闘技の世界戦。

 

 

その技に、力に、闘争に、魅せられた。

 

 

親の猛烈な反対を押しきり、入学の決まっていた高等学校を辞退。両親とは喧嘩別れし、それ以来会っていない。

 

都合良く住み込みでバイト兼務出来るボクシングクラブに入会してからは、クラブの雑用をこなしながら夜な夜なサンドバッグを叩いた。

 

 

 

男には才能があった。

ただ強くなる才能が。

 

 

 

スパーを見るだけで、試合を見るだけで、渇いた砂漠のようにみるみる技術を吸収していった。

サンドバッグを叩くだけで、シャドーを繰り返すだけで、隆起する大地のように筋力が上がっていった。

 

 

18才になる頃にはクラブには階級差を越えてもスパーを組める相手もいなくなり、プロを熱望されるのに飽き飽きとした男はボクシングクラブを辞した。

 

 

住所不定の無職。

若い身の上で路上生活。それでも男は幸せだった。ルール無用のストリートファイト。その闘争を男は心から楽しんだ。

法に触れる事が日常茶飯事であり、ろくでもない方法で日銭を得る毎日。

時には警察に捕まりそうになりながら、場所を転々とする日々。

 

 

その生活に慣れ、もっと強い相手を求める。

道場破りもした、暴走族に片っ端から喧嘩を売り、格闘家の後をつけては人目のないところで挑発しストリートファイトの日々。

 

空手、テコンドー、ムエタイ、中国拳法……。ありとあらゆる格闘家と戦い、学び、勝利した。

 

男が各地で都市伝説の様に語られる頃には、男は世界を目指した。

 

 

驚異的な身体能力を駆使してタンカーに忍び込んでは世界各国を巡る。

 

学の無い男は、無論現地語などはわからなかったが、闘争は嘘をつかなかった。

 

時には親の敵のような扱いを受けた時もあれば、ボコボコの顔のまま肩を組んで酒を飲み交わしたこともあった。

 

拳のみで語り合えることがあるのだと男は学んだ。

 

 

 

そして男はホモサピエンスの垣根を越える。

 

最初の相手は野良犬だった。

ゴミ箱から漁った戦利品を横取りされた時、その足の早さに驚いた。

 

なんという、機動力。

なんという、跳躍力。

なんという、瞬発力。

なんという、生存力。

 

 

なんという……闘争力。

 

 

 

犬でこれなら、狼なら?虎なら?熊なら?

 

 

対徒手空拳戦に限界を感じていた男は歓喜した。ゾクゾクと這い上がるような歓喜の震えが指先から脳天に向かって走る。

 

 

まだ戦う相手がいる、と。

 

 

それから男の行動は早かった。

密入国を繰り返し、サバンナへ、ジャングルへ、時には動物園で死闘を演じたこともあった。

 

虎に寝技を掛け、大蛇の締め付けから逃れ、象と力比べをしたと思えば、熊に丸腰で立ち向かった。

 

 

 

浅くはない傷の数々が男の体に刻まれたが、その何れの闘争にも、勝利した。

 

 

 

対生物に飽き初めた頃。

男は現代社会に矛先を向けた。

 

 

深夜の繁華街に。

薄暗い路地に。

裏社会の取引現場に。

紛争地域に。

 

 

闘争を求めた。

 

 

対刃物。

対拳銃。

対重火器。

対戦車。

 

 

思い付くであろう、ありとあらゆる兵器に立ち向かい、そして攻略し、撃退し、勝利した。

 

 

 

 

無論、現代社会も黙ってはいない。

 

 

 

警察が、軍隊が、政府が、国が……彼を亡き者にしようと企む。

しかし、結局はその全てが男の糧になっていった。

軍が、スナイパーが、暗殺者が、指導者が、大統領が…彼の強さに匙を投げた。どうすることもできないから、見て見ぬふりをすることにしたのだ。

 

 

「奴を殺したい?そうだな、爆撃でもするか?核でも使うか?ハハハ、そうしたら私は英雄であり歴史上最低最悪のテロリストさ」

 

と、快活に、それでいて何処か諦めたように語ったのは、男を知っているとある大国の軍部総司令官である。

 

男の身の置き場は、社会であったからだ。

いくら社会の歯車から逸脱しても、男は社会に身を置いていた。一人の人間相手に大量破壊兵器を使うには、規模が、規格が、全てがわりに合わなかった。

例えば広大な砂漠など、行動原理が全く分からない男が、ひとっこ一人いない環境に行くのを予測して、準備にすら金も手間も掛かる計画を立てて実行する。その途方も無さに大量破壊兵器を用いた暗殺作戦は終ぞ実行されなかった。

 

しかし、その男がたまたま紛争地域で受けた絨毯爆撃すら生き延びたのを知った司令官は、口が塞がらなくなったとか。

 

 

 

 

そのうち男は、社会から、悪い夢だと目を反らされ続けることになった。

 

 

 

 

数多くの兵器、数多くの腕利き、その道のプロ、目まぐるしいほどに多種多様な闘争、幾億通りの闘争にもそのうち男は飽きていった。

 

どんなに高性能な兵器も、人間が扱うとなればどうにでもなると男が気づいた後は、生傷が増えなくなり、銃痕が過去のものとして男の体に刻まれるのみになっていた。

 

 

男は最早、欠伸混じりに近代兵器を撃退するようになる。

 

 

昆虫は巨大になりはしないし、地底人が侵略を始めたりも、宇宙人が攻めてきたりもしない。原始人が現代に解凍されたり、クローン人間が作られたりもしない。ましてや子供どころか彼女すらいない男には、打倒親父を掲げる息子が出てくることもない。

 

 

男の血を滾らせるような闘争は、男が満足するような闘争は、地球上からなくなっていた。

 

 

好敵手が、いなくなったのだ。

 

 

 

男は既に、頂点にいた。

 

 

 

いくら周りを見渡しても、目指すべきものがない。

なんという空虚、なんという虚無。

 

いつしか男は絶望し、退屈しのぎにするストリートファイトにも嫌気が差してくる。

無論、闘争が嫌いになったわけではない。寧ろ熱望するが故に、弱い者に興味を抱けなくなっていた。そんじょそこらの者では闘いにならなくなっていた。

 

とは言え、死ぬ選択肢を選ぶほどの絶望ではない。男は退屈を胸に秘めたまま、単なる一般人として生活することしかやることがなくなり、流れ流れて生まれ故郷、日本に辿り着く。

 

住所も学歴も、戸籍さえ危うい男は現代社会ではマトモに働くことも難しく、身元の怪しい者も受け入れていた工事現場で日々の飢えを凌ぐだけの稼ぎを得る、無意味な日々。

 

 

 

男は強くなりたかったわけでもなければ、最強を目指したこともなかった。

 

腕っぷしの強さを誇るわけでも、傲るわけでもなく、誰かを倒してやりたいわけでも、守りたいものがあるわけでもなかった。

 

男は、闘争だけが生き甲斐だっただけであり、人類最強を名乗れるほどの才能があっただけなのだ。

 

ただ、その才能が異端過ぎただけ。

 

ただ、その欲望が異質過ぎただけ。

 

誰よりも強いはずの男は、誰よりも闘いに飢えていた。




東方を題材にしておいて、この刃牙感。
東方どこ…ここ?


次回。
ようやく東方キャラが出てきたと思ったら出てこないあたりまで。
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