東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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本当に申し訳程度の弾幕要素(しかも主人公蚊帳の外)


第12話

「これで小物とか……妖怪やべぇわ……」

 

荒い息、滴る汗。

 

大百足が藪の中へ完全に消えるのを見送って、男はその場に尻餅をつく。

 

大百足が単純な戦闘力としては、中級妖怪でも上位なのを知るよしもなく。

 

「これを小物とか……。あの嬢ちゃん…霊夢…ちゃん、だっけか?…とかもっとやべぇのか…」

 

その博麗の巫女は、空から封魔針(退治用)による一方的掃射で蹴散らしたのを知るよしもなく。

 

 

 

 

幻想郷のヒエラルキー上位の者達は、能力ありきなところがある。

 

鉄鉱石を砕き山を崩す腕力を持つ妖怪もいることは確かであるが、多くの強者は能力が強力である。

 

境界を操る、死を操る、時を操る、運命を操る……上げれば際限ないが、その能力の前では男は塵芥同然である。

 

例え強力ではなくとも、能力の有無は実力に直結する。

もし、大百足に遠距離攻撃になりうる力があれば、何かもう一手打つことが出来れば…勝敗は変わっていたかもしれない。

 

 

 

 

その点で言えば、男の強みは長い年月を掛けて練磨し、研鑽を積み重ね続けられた格闘技である。

 

大百足との闘いでは、胴回し回転蹴りこそ決まったが、その他は単純な力比べが多かった。

大蛇との戦闘経験こそあった男ではあるが、人間より遥かに大きな昆虫と闘った経験はない。

経験がないということは、即ち方法が分からないということである。

術であり、方法である格闘技は、対処の連続だ。

こうきたらこうする、こうされたらこうする。という手札の比べ合い。

経験さえあれば、方法さえ分かれば、男は膨大な手札の中から最良を選択する。

 

 

もし再戦があればの話だが、今回の経験が、対大百足戦という稀有な状況ですら、男は格闘技を持ってして圧倒するだろう。

 

 

人間の最大の強みは、成長することなのだから。

 

 

 

 

「ちょっとだけ…休むか…」

 

近くの木にもたれ掛かり、男は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

男から離脱していった大百足は、がさがさと藪を掻き分け、真っ直ぐに何処かを目指していた。

彼処ではない何処かを目指していた。

あの男のいない場所を。

 

 

 

勝てない。勝てない。勝てない。

 

 

 

捕食者の誇りは地に落ちた。

妖怪の矜持は根本から吹き飛ばされてしまった。

自我への執着は、生命の危機には抗えなかった。

 

あらゆるものが無くなった跡に、ほんの一つだけ残った生物の本能が逃走を選んでいた。

 

体液は這った後を転々と汚しており、簡単に追跡されそうな様相。

それでも大百足は、がさがさがさがさと足を動かすのを止めない。半分に引き千切られたとはいえ、その体躯はひたすら大きく、藪を薙ぎ倒し進み続ける。

 

 

 

徐々に、体液の足跡が細くなっていく。

 

細く細く。

 

体液の流出が止まっているのではない。

大百足の体自体が縮んでいるのだ。

 

質量保存を無視したその光景は、誰かが見ていれば目を疑っていたであろう。

 

妖怪としての終わり。妖怪としての死。

 

それは即ち、ただの百足への回帰。

 

ただの百足に戻るにつれて、大百足は自分の考える事が理解出来なくなっていく。

妖怪に成り、根付き始めたばかりの自我。思考力が根こそぎ無に戻っていく。

 

百足に残るのは、本能のみ。

 

ただ、生存本能のみが百足の体を動かす。

 

 

遠くへ…遠くへ…とお……

 

 

しとどに流れ続ける体液だけが、百足の生命を証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んあ」

 

間抜けな声をだし、男が目覚める。

 

太陽が幾ばくか傾き、中天を過ぎて木陰を照らす。

心地良い木漏れ日のはずだったが、男の顔に日差しが直撃し始めた。

 

男が眠っていたのは一時間ほどだろうか。

 

魑魅魍魎が跋扈し、妖怪が蠢く幻想郷の森。

軽く遭難している身分で何て呑気な姿だろう。

 

だが幸運なことに、男の眠りを妨げる様なものは通りかからなかったらしい。

 

「ん……ふぁ………いてて」

 

微睡みを振り払うためにグッと身体を伸ばしたときに感じる全身の痛み。

 

「あー……そっか」

 

ボリボリと頭を掻き、身体を見下ろすと擦り傷に火傷、そして肋骨が一本折れているのを感じる。

 

漸く大百足との闘いを思い出す。

 

「楽しかったなぁ……」

 

胡座をかきつつ、激闘を染々と思い出す。

 

ほんの数時間前のことだが、男にとってはなんと甘く香しい思い出だ。

 

 

こんな闘いが、此処にはある。

 

 

それだけで男の身体は火照るように滾る。

 

事実、男の身体は猛烈な勢いで傷を癒そうと、細胞分裂を繰り返し熱を持っている。八雲紫の施した能力の影響は、そのまま男の身体に残っている。

 

解くのを忘れているのか、狙って残しているかは、施した本人しか分からない。

 

 

 

ぐぐぅ~~

 

 

 

その副作用か、相変わらず男は空腹であった。

 

「とりあえず……なんか食うか…」

 

不満の声を上げる腹の虫を、よしよしとなんとか宥めすかして男は立ち上がる。

 

遠くに落ちていた風呂敷を肩に掛け、ノロノロと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

来た時と同じように、豊富な山の恵みを得ながら行く宛もなく山をさ迷い続ける。

 

「なんだぁ……ありゃ?」

 

そんな中、男の目に映ったのは空中をフヨフヨと漂う漆黒の球体。

 

木々の間からでも目に止まる。距離としては遠いが、その異様さは遠目で見ても明らかだ。

 

その漆黒の球体へ向かって飛来するキラキラとした何か。

 

そして、何かが漆黒の球体の周りを飛んでいる。

遠目過ぎて何が飛んでいるかまでは分からないが、その何かからキラキラしたものが出ているようだ。

 

 

「……面白そうだな」

 

 

男は危機感もなく、傷だらけの体をもろともせずにその方向に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ~~……!」

 

木々を駆け抜け、空を舞う何かを追って森を抜けてたどり着いたのは、大きな湖。

 

 

 

その湖の上空では、花火かと思うくらいの鮮やかな光景が広がっていた。

 

赤が、青が、黄が。

 

幾多の球が幾何学模様を描き、複雑なまでの光景を生み出していた。

 

よく見たらその幾多の球をすり抜けるように飛び廻る小さな影。

 

目を凝らして見てみると、青い髪色をした少女がスイスイと弾幕の間を縫って飛んでいる。

 

 

青い髪の少女は、漆黒の球体に何かを言っているようだが生憎と聞き取れる距離ではない。

 

男はあんぐりと口を開けながらその幻想的な光景を見続けることしか出来なかった。

 

 

 

 

男は何分そうしていただろうか。

 

その光景はアッサリと終演した。

 

漆黒の球体と青い髪の少女が織り成す弾幕。

 

 

 

その弾幕を切り裂くかのように、流れ星が墜ちて来た。

 

 

 

いや、墜ちて来たと言うには語弊がある。

何故なら、流れ星は地面と平行に流れているからである。

 

正に流星のような速度で幾つもの極彩色の星を撒き散らしながら、流れ星は青い少女を、漆黒の球体を貫いて行った。

 

 

願い事をするには短く、夢幻と思うには長い時。

 

 

漆黒の球体が忽然と消え、その中から少女が撥ね飛ばされて何処かへと飛んでいく。

青い髪の少女も共に墜落していった。

 

 

「あれ……大丈夫なのか?」

 

 

結構な高さから墜落していった少女達。

 

此処が、幻想郷が、あの世界とは違うのだと改めて実感しつつ、流星のような何かがが流れていった先を見詰める。

 

 

 

すると、視線の先に非常に目立つ建物があるのに気がつく。

 

「うわぁ……」

 

あまり美的感覚がない男をして、その建物は悪趣味と感じざるを得なかった。

 

パッと見は洋風の豪邸ではあるが、その色が問題だった。

 

赤。いや、紅だろうか。

兎にも角にも、真っ赤っか。

 

どんな趣味をした者が住んでいるか想像もつかない。

 

 

建物は湖畔に建っており、湖をぐるっと回り込めば辿り着けるだろう。

 

山ばかりで漸く見つけた人の気配……実の所、彼の館の住人は人より妖怪のほうが多いのだが、それを知る術はない男。

 

 

どうやら流星はその門に突っ込んで行ったようで、遠目に門が大破しているのが見えた。

 

 

「よし……」

 

 

男は一言気合いを入れ、歩を進めた。

 

 

 

 

 

真っ赤な館から背を向けて。




紅魔館キャンセル……っ!!!

次回
もこたんいんしたお
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