東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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人里編。
展開に迷った結果がこれです。


第16話

日が昇り始め、人里で飼っているニワトリがけたたましく鳴き声を上げる早朝。

 

 

 

「………えっと?」

 

「すまないねぇ、どうしてもって聞かなくて」

 

 

 

寝ぼけ眼で寺子屋の戸を開けた男の前には、屈強な男数名が立ち塞がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨晩二人と夕食を共にした後、早々に寺子屋に戻る。

一張羅になっている和装を丁寧にたたみ、寝間着代わりにTシャツとジャージに着替えた後に就寝の床についた。

 

 

もとより娯楽とは縁遠い男であるし、寺子屋荷は暇を潰せるような物は置いてはいない。強いて言えば教科書等の本はいくらでもあったが、男が自ら進んで勉学に励むことはなかった。

 

 

ゴロンとやや薄い布団に寝転がり、頭で腕を組みながら天井を眺める。

 

木造の天井にはなんの面白味もないのは確かだが、男はニヤニヤと天井を眺め続ける。

 

 

頭を過るのは、身を焦がすように焼き付いている闘いの記憶。

 

 

あそこでこうしたら。

ここでそうしたら。

 

あの攻撃はこうして。

あの防御はこうして。

 

あれはこう捌いて。

あれはこう避けて。

 

 

 

自然に男の筋肉がピクリピクリと反応する。

顔面に向かってくる何かを想像した時に、無意識に体が反応するような現象。

 

リアルシャドーなど出来ない彼の貧困な想像力でも、その程度の妄想は出来た。

 

 

自分を見てくれるモノがいる。

 

嗚呼…なんと楽しい事か。

嗚呼…なんと嬉しい事か。

 

自分と闘ってくれるモノがいる。

 

嗚呼…なんて待ち遠しいのだろうか。

嗚呼…なんて心沸き踊るのだろうか。

 

自分と張り合えるモノがいる。

 

嗚呼…なんと幸福な事だろうか。

嗚呼…なんと幸運な事だろうか。

 

 

自分を……やっつけてくれるモノがいる。

 

 

嗚呼………

 

 

 

なんて…

 

なんて……

 

 

 

「嗚呼……闘いてぇ……」

 

 

 

男は震える。

今だ見ぬ強敵を夢見て、夢を見る。

 

 

 

その夢は、人によっては悪夢とも呼べるようなものだったが、男は幸せそうな寝顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして朝。

冒頭に戻る。

 

 

「いやねぇ、適当な守人衆に昨日の事話したらこんなことになっちまってなぁ。ホント、すまんね」

 

「……そっすか」

 

男は感じる。

この壮年の男性。

 

 

(狸くせぇ…。この人が……一番闘いたがってる)

 

 

男は壮年の男性が周りを焚き付けたのをなんとなく感じた。

 

「稗田の守人衆は互いに修練積んじゃいるんだが、どうにも相手に困るんだよね。退治屋とはあんまり折り合い良くないし。無名の猛者が来たとあっちゃ疼く奴らが多いんだよ」

 

「はぁ…。別にいいんすけど…」

 

男としては今さら人間を相手にするのも億劫ではあるが、慧音の翻訳を待つばかりの身としては丁度良いかと思い直す。

 

この幻想郷という異世界の人々の強さ。

それを知る、良い機会だと。

 

「いいね、それじゃ流石にここでおっぱじめる訳にもいかないし、守人衆の道場に行こうか」

 

そう言って先導する壮年の男性。

若い男達は、胡散臭げな視線を男に送ったまま踵を返してついていく。

 

「……なんでゾロゾロ此処まで来たんだ……?つか、まだ着替えてもいないんだけど……」

 

男の呟きに、誰も振り返りはしなかった。

 

男は嘆息しつつ、Tシャツにジャージという現代人スタイルで後を追うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

昨日行った稗田家から程近い場所にあった、古風な道場。

 

中は剣道場を彷彿させる作りである。違う点を上げるとするならば、壁に掛けられている得物が全て真剣で、日本刀から鎖鎌まで、凡そ戦国時代くらいの近接武器が分別なく飾られていることくらいか。

 

朝の稽古前なのか、道場の中では数人の少年達が雑巾掛けをしている。

 

少年達がこちらに気づくと、慌てて立ち上がり、おはようございますと腰を90度に折る。

 

「おーう、ご苦労さん。今から場所借りるわ。見てぇ奴らがいたら構わねぇよ」

 

壮年の男性が気安くそう言うと、少年達は互いの顔を見合わせる。

 

「見てるなら、あぶねぇから隅で見るんだぞ。下手に近づいて怪我しても知らねぇからな」

 

壮年の男性は少年らをヒラヒラと手を振り道場の隅へ誘導する。

 

未だに何が起こっているか理解出来ていない少年達だが、道場の隅で正座をして男達を見回す。

 

壮年の男性は少年達の横にドカッと胡座をかいて座り込む。

 

「時間もないしおっぱじめるとしますか。にぃさん、いいかい?」

 

「……どぞ」

 

「余裕だねぇ…。んじゃ、先鋒は…

「俺にやらせてください」

……だろうなぁ」

 

木刀を持ってズイッと男の前に立ったのは、門番をしていた若い男。

 

「そいじゃ、始め……「ぜぁ!!!」

 

不意討ちと言われても可笑しくないほどに容易く告げられた始めの号令。

 

しかも、その半ばで木刀を振り下ろす若い男。

 

男は卑怯とは思わない。

なんせ、始めの号令までしてくれたのだから。

よーいどん、を待てばいいなんて…なんとお気楽。

 

 

烈迫の気合いと共に振り下ろされた一撃は、スピード、パワー共に申し分無い。

当たり所が悪ければ命をも奪いかねないものであったが、軌道は鎖骨付近を狙っていたことで命まで獲るつもりはないことが窺えた。

 

だが、そんな一撃を

 

 

パシン

 

 

「なぁ!?」

 

 

ただの掌で受け止めた男。

 

「馬鹿かっ!貴様!真剣だったら……」

「でもこれは真剣じゃない」

 

グッと木刀をそのまま握り締め、歩き出す男。

 

「ぐっ!なんて…力……!」

 

若い男は両手で木刀を握り締めるが、男はまるで犬の散歩の様に軽快に歩く。

 

ズリズリと若い男を引き摺ったまま、男は目的の場所まで辿り着くと、パッと手を離す。

 

「ほら」

 

男は壁に掛けられていた真剣を若い男に投げ渡す。

 

「………正気か?」

 

優しく、と言って良いくらいに放物線をかいて投げられた刀。

容易く若い男は鞘をつかみ取る。

 

まごうことのない、真剣。

当てて引けば、人の皮膚など容易く切り裂くであろう、人を殺す武器。

 

 

「難なら、後ろの全員纏めて掛かってでも…構わない」

 

 

その言葉に、背後で控えていた男達も殺気立つ。

 

「おーおー、にぃさんが良いって言うならそうしなそうしな。……まぁ、しないだろうけど」

 

おどけた様子で煽る壮年の男性。

この場にいるのは、稗田の守人衆。

 

そのプライドが、立ち上がらせる事をさせなかった。

 

 

「……………」

 

 

若い男は、受け取った刀をグッと握り締めた後に、腰に帯びる。

そのまま無防備にも男から背を向け、改めて距離を取る。

 

 

 

男は、その姿を見て、微笑む。

 

 

 

クルリと若い男は向き直り、一礼。

 

「……尋常に」

 

「……あぁ、それでいい。闘いは、これでいい」

 

若い男は、否応なく理解していた。

 

不意討ちとはいえ、急所を外したとはいえ。

自身の持てる技術、膂力を込めた、渾身の一撃を容易く受け止められた事実。

 

 

 

捕まれた木刀の先に幻視したのは、巨大な岩に根本まで刺さった木刀であった。

矮小な自分が如何な力を込めても押せども引けども出来ない、万力の留め具。

 

若い男は、新参の守人衆の中で頭抜けて腕が立つ。それ故に彼我の戦力差に否が応にも気付いてしまった。

 

天と地、月とすっぽん、玩具の短刀と抜き身の真剣。

 

比べるのも烏滸がましいほどの戦力差が、自分とこの男にはあるのだと。

 

木刀で、だなんて失礼だった。

 

茶室へ土足で踏み入れるような奇行。上質な料理にハチミツをぶちまけるような愚行。

まるで礼儀がなっていなかった。

 

真剣を持ってして舞台に上がることを漸く許される戦力差。

 

いや、真剣でも足らないことは若い男は重々承知している。

此処にいる全員で…いや、守人衆全員でも足らないかもしれない。

だが、男は真剣を持ってして、舞台に上がることを許してくれた。

 

壮年の男性が言っていた事は、間違いではなかったと。

 

負けん気とプライドが先に立っていた自分を恥じた。

 

そして、力がない自分を嫌い、憎んだ。

 

 

 

 

なればこそ。

 

 

 

 

若い男は、本気で闘い、本気で学ぶ。

 

 

「ぜぁ!!!!」

 

 

真剣で丸腰相手に切り掛かる。

 

 

惨劇を想像した少年達は、思わず目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それからどうなったのですか?

 

「ん?どうもこうもない、勿論避けられた…と言う他ない」

 

その場に居合わせた一人の稗田の守人が烏天狗の取材に答える。

 

 

 

話題は勿論、今話題の奇特な外来人に関してだった。

 

 

……何か含みの有るような言い方ですね。

 

「あぁ…少なくとも俺の目には当たって見えた。だが、切れていない。だから避けたのだろう」

 

……え?当たったのに?切れていない?

 

「身体は勿論、衣服すら。確かに当たって見えた。しかし、次の瞬間には何事もなかったかのようにそこに在った。何も変わらずにな。何か奇術でも見せられているのかと思うくらいだった」

 

……あやや、でも当たって見えたのですよね?

 

「…それだけじゃない、当たっているように見えたのが、段々とすり抜けていくようになった。まるで幽霊にでもけしかけているような、そんな光景だった」

 

……どういうことですか?

 

「そのままの意味さ。彼奴がいくら剣を振っても、一歩も動かないままに避けられていたんだよ。彼奴は若いが腕は確かだ。守人になってそこそこ経っている俺でも、ヒヤッとさせられるばかりの成長頭だ」

 

……それは魔術とかの類いでは?

 

「そう思いたかったが、守人頭があれは純然な体術だっつってた。あの人が言うんだから間違いないだろう」

 

……稗田守人衆の古強者。中級妖怪をも切り伏せたと言われている…。

 

「あぁ。実際あの人は里の退治屋すら歯が立たなかった人食い妖怪を切ってるしな。あの時は頭もボロボロだったが」

 

……その方は他に何か?

 

「その時あんぐりと口開けて、上手過ぎて、巧み過ぎて参考にもならないって言ってたわ。実際どんな体捌きすればあんなことが出来るのか想像も出来ないってな」

 

……上手過ぎて…。やはり噂通りの達人と言うことでしょうかね?…おっと少し話が逸れました。それで、その後は?

 

「なんのどんでん返しもない、あの男の圧勝さ。終いにゃ彼奴に剣を教えだしたよ」

 

……なんと、かの人は剣術にも造詣が深いのでしょうか?

 

「どうなのかねぇ。ただ、彼奴の剣はみるみるうちに鋭く、速くなっていったよ。もう俺じゃ相手にならないかもな」

 

……あやや、外来人の達人は武芸百般に通じているのでしょうか?

 

「さてな。俺も変な自尊心持ってないで稽古付けてもらえばよかったと後悔してらぁ」

 

……おや?かの人は幻想郷で暮らすとの噂がありますが…人里に住むのなら機会はありそうではないですか?

 

「いや、その後なんでかしばらく道場に顔出してたんだが、もう旅立ったんだと。何処かは知らねぇが……ま、ろくな所じゃなさそうだ」

 

……ふむふむ。これは追調査が必要ですね。

 

「まぁ嬢ちゃんもあんまり取材取材で追っ掛けて噛みつかれない様にな。ありゃ頭と同じで、戦闘狂の気がある」

 

……あやや、それはそれで楽しそうではありますが、連れ去りたくなってしまいそうなので遠くから見るに留めますよ。

 

「……やたら友好的だと勘違いしちまうが、嬢ちゃんも妖怪だものな。くわばらくわばら…」

 

……私くらいの妖怪が下手に暴れると、某神社からいらぬ誤解で撃ち落とされてしまうので。

 

「ほぉ…博麗の巫女もなんだかんだで仕事してるんだな」

 

……霊夢さんだけではないですよ。方々のしがらみは勿論、うちのお偉い様方からも圧力がありますから。下手に他所と事を構えるなって。

 

「まぁ山頂にゃ守矢の神様も居ることだしな。妖怪も世知辛いこって」

 

……全くもってその通りです。…おっと、それでは此方の御礼を…。

 

「へっへっへ、有り難く」

 

守人衆の一人は妖怪の出した一本の瓶をそっと受け取り、懐に忍ばせる。

大きさはワンカップ程度の大きさで、河童の謎技術によりラベルには尻小酒、と達筆な字が書かれていた。

 

 

……不良守人ですねぇ。

 

「それを買収した嬢ちゃんが言うのか…。だがまぁ、この味を知ったら止められないんだわ」

 

ぺんぺんと懐に忍ばせた瓶を撫でる守人衆。

 

……まぁ河童の醸造酒は妖怪の山でも稀少品ですからねぇ。私は伝がありますが。

 

「まぁまたなんか聞きたいことありゃこれで手を打つぜ」

 

……その時はお願いします。それでは、件の守人頭さんにでも聞き込みに行きましょう。

 

「…あ、それは無理だ。多分…後数週間は無理じゃないか?」

 

……あやや?

 

「いや、その後守人頭が戦ったんだよ。その外来人と。そしたら見事に顎砕かれてな。飯も粥しか食ってねぇ。なに言ってるか分からんし」

 

……それは確かに無理そうですねぇ。

 

「それじゃあ……もう一瓶あればうっかりそん時の話が溢れ出そうな気がするなぁ」

 

……それはそれは、お酒があると口が滑るものですからねぇ。

 

「へっへっへ…、そりゃあ滑る滑る。思わずいらんことも喋っちまうくらいにな。……頭には黙っててくれよ?」

 

カランカランと、守人衆の懐に入った二瓶が軽くぶつかり硬質で小気味良い音が鳴る。

 

 

……えぇえぇ。情報提供者の守秘義務は守りますとも。清く、正しくがモットーな私ですから。

 

「ホントに頼むぜ。んじゃあそうだな……彼奴が体力が尽きてぶっ倒れたところからだな」




刃牙といえばインタビュー形式。それだけがやりたかった。

次回
VS守人頭
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