東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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人里編最後。
ようやく終わりです。




第22話

「ん?ふぇへいふのふぁ?(ん?出て行くのか?)」

 

「うす、世話になりました」

 

いつもの朝食を終え、とりあえず守人衆の道場に挨拶回りに来た男。

守人頭の顎は徐々に治ってきたのか、以前よりは聞き取りやすい。以前よりは、というだけで、意味不明ではあるのだが。

 

「ふぉうふぁ、ふぁひひふふぁふふぁ(そうかぁ、寂しくなるなぁ)」

 

「……まぁ気が向いたら戻ってきます」

 

「ふぉんふぉひは、ふぁふぁふぁほうへ(そん時は、また闘ろうぜ)」

 

「いいっすけど…今度はもっと強めにいきますよ」

 

「ふぉほふぉはふぃふぉはふぃ(おお怖い怖い)」

 

「それまでもっと強くなってて下さいよ」

 

軽口を叩く程度には打ち解けた、それもこの人里で結んだ縁だ。

 

「し……兄者!!今日も御指導御鞭撻頂きたくぅ!存じます!!」

 

別れの際というのに、のんびりと道場の壁にもたれながら話している二人。

それを目敏く見つけた若い男が今日も微妙に暑苦しく男の元へやってくる。男の指導をもってして諦めの悪い馬鹿が数人背後にいる。

 

「わりぃ…今日は用事があってな」

 

「なっ!!??まっまさか!至らぬ身の自分についにお見捨てになられっ!?」

 

「違う違う…。明日人里離れるから…準備とかね」

 

「………っ!!!ししょ……兄者が…里をお離れに!?」

 

「まぁ…元々こんなにいるつもりはなかったんだけどな」

 

「むぁさぁかぁっ!?武者修行を!?是非自分もっ!!自分もお供したく!!」

 

「ふぁはふぁふぉう、ふぇふぇえふぁふぁふぇふぁ(馬鹿野郎、テメェは駄目だ)」

 

「頭、何言ってるか分かりません」

 

「…ふぉふぇへ、ふぁんふぁふぉへふぉふぁふふぁふぃふぁふふぃふぁっふぇふぇ?(お前、何か俺の扱い雑になってねぇ?)」

 

「是非お供を!!お共をぉ!!!」

 

「ふふぃふぁふぉ……(無視かよ……)」

 

「あー…悪い。無理だわ」

 

「っ!?や、やはり実力不足…っ!?」

 

「まぁ…そうだな。普通に死ぬかもしれないし」

 

「くっ!やはり………口惜しいっ!!しかし、師匠…兄者の足を引っ張るわけには…っ!!」

 

「次来るときまで…精進しろよ?後、師匠じゃない」

 

「師匠っ……!!未熟な身ですが…精進しますっ!!」

 

「だから…師匠じゃねぇって……」

 

そんな言葉を聞くこともなく、猛烈な勢いで素振りを始める若い男。

 

「うおぉぉぉぉおおおーーー!!!精進!精進!!精進!!!」

 

ビュオンビュオンと唸りを上げる風切り音。

その太刀筋は、明らかに以前のものよりも速く鋭かった。どの振りにも腰が入っており、筋肉群が連動し共鳴しているのが男には分かった。

 

師匠ではないと固持していた男だが、教えた者の成長に僅かに頬を緩める。

 

「…ふぁふふぁ…ふふぁふふぇ(なんか…すまんね)」

 

「……うす。俺も…楽しかったっすから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道場を後にした男、その懐からジャラジャラと金属片が擦れる音が鳴っていた。

 

「ふぉっふぇへふぉっふぇへ。ふぃふぃふぉうふぁほ?(持ってけ持ってけ。入り用だろ?)」

 

と言って渡されたのは守人頭からの餞別…というよりは、今までの指導料とのこと。

最初こそ遠慮していたが、受け取らないと若い男にチクると脅された?為に、有り難く頂戴した。男の指導料なんて聞かれでもしたら、悪い魔女に臓器すら売り払ってでも金子を用意しかねない。

 

幻想郷には…というか、人里には貨幣の概念が浸透している。物々交換もそれなりに行われているが、大体の取引は通貨をもってして行われている。

元締めが誰かは…誰も知らないが。

 

慧音からおつかいを何度か依頼されていたため、物価も通貨の価値もなんとなく理解はしている。

 

旅立つ身として、旅支度まで慧音におんぶに抱っこになりかねなかった男にとっては、この餞別は渡りに船ではあった。

 

霊夢から譲り受けた着流しは、大百足によりほつれや破損が目立つ。旅には食料や道具は必須。

 

かといって、物欲も特にはなく、食料も現地調達出来る男は、日持ちする食料を少しと同じ様な着流しを一着、雑貨屋に売られていた火打石を一セットと小さな小刀だけ購入して準備万端になった。本人的には。

 

 

受け取った餞別は、大きく減ることもなくジャラジャラと懐で音を立てている。

 

仮住まいの寺子屋に荷物を置き、風呂敷に包むと、来たときよりは立派に膨らんだ旅支度となった。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

後は何かなかったかと考えていると、やり残した事があったのを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猛烈な勢いで景色が後ろへと飛んでいく。

鼻歌混じりで疾走していく姿は、妖怪かと思うほどに速く、最早飛んでいるのではないかと思うほど一歩が長い。

 

辺りは森林だが、比較的整備された道を男は駆け、数えるのも馬鹿らしいほどの石階段を五段抜かしで駆け上がる。

 

 

古びた境内。

人っ子一人いない。

 

正に寂れた、と形容するのがピッタリな博麗神社。

 

 

古ぼけた賽銭箱に、ジャラジャラと残った金子の半分を適当に放り込み、錆びかけた鈴をガランガランと鳴らしパンパンと柏手を打つ。

参拝の礼儀としては全く不適当であった。

 

 

「二礼二拍手一礼よ」

 

 

そんな声と共に母家から見知った紅白の衣装を身に纏った、素敵な巫女さんが姿を現す。

 

「お…霊夢ちゃん。久しぶり」

 

「まだ死んでなかったのね、久しぶり」

 

随分なご挨拶だったが、男はそんな巫女に苦笑するだけだった。

 

「上がってく?賽銭を入れてくれたなら茶位は出すわよ?」

 

「ん…いや、いいよ。賽銭入れに来ただけだし。約束したからさ」

 

「そう…律儀なのね」

 

「まぁ次いつ来れるか分かんなかったしね…」

 

霊夢は、軒先にあった箒を手にして草鞋を履く。

 

秋に差し掛かりつつある境内は、多くはないが落ち葉が散見される。

掃き掃除だろうかと男は思うが、拒否されている感じもしないため、少しだけ話をしてみることにした。

 

「今まで人里に世話になっててさ、慧音さんと妹紅とか守人の人に良くしてもらってるよ」

 

「それは重畳。そのまま人里に住むの?」

 

「ん…いや、明日…旅立とうかと思ってる」

 

「…止める気はないわけね。何処に行くの?」

 

「とりあえず…二、三行きたいところあるけど…少し迷ってる」

 

「そう。ま、精々気をつけて。賽銭はいつでも歓迎しているわ」

 

霊夢は懐からピッと一枚の札を差し出す。

 

「はい、あげるわ。奮発してくれたみたいだしね」

 

「えと…お札?」

 

「ご利益があるかは知らないけど」

 

「ん…有り難う」

 

不思議な模様が書かれたお札。男は丁寧に懐に忍ばす。

 

「んじゃ…また」

 

「ええ」

 

それだけ言って、ゆったりと掃き掃除をし始める霊夢。

 

男は相変わらずなんともとらえどころがないなと頭を掻くが、その素っ気なさが心地よい。

 

自分を特別視しない、一個人としてフラットに接してくれている。

また余裕ができたら必ず来ようと、この超然とした巫女と、他愛ない話をしようと。そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社から風のように戻った後、ひとしきり人里を巡り、知り合った者に挨拶をしていく。力仕事を手伝った人、子供達の親、全体で見ればその数は少なかったが、旅立ちを惜しまれた。

 

 

夕日が人里を照らす頃に慧音の家に戻った。

 

トントンと包丁がリズミカルにまな板を叩く音。肉の焼ける香ばしい匂い。

良い香りがじゅるりと唾液の分泌を促す。

 

「ただいまっす」

 

「おかえり。丁度いい時に帰ってきたな。夕飯ができるぞ」

 

出迎えてくれたのは慧音であった。

ちゃぶ台を拭き、食器を準備していた。

 

「あれ…慧音さん?つーことは…今料理してるのは……」

 

「ああ、妹紅だ。珍しく自分が用意するとな」

 

「あぁ…だから焼き鳥の匂い…」

 

「ふふふ、張り切っていたぞ?わざわざ屋台から道具まで持ち出して」

 

慧音は手際よく食卓を整えていく。

 

「そしたら俺も手伝いますよ」

 

「今日の主賓は佐藤だ。出来上がるまでゆっくりしててくれ」

 

「そ、そうっすか?」

 

少しだけそわそわと座り込み、夕食を待つ男。

大体の準備が整ったのか、同じく男の対面に座り男を眺めている慧音。

どこを見ていいか分からなくなった男は口を開く。

 

「な、なんかついてるっすか?」

 

「んー…いや、なんとなくな」

 

何が楽しいのか、挙動不審な男をニコニコと眺め続ける慧音。なんとも居心地が悪い。

不意に男は思い出す、懐の重みに。

 

「……そういや、これ」

 

ジャラジャラと懐から取り出したのは、博麗神社に賽銭をした残り半分の金子。

数日の食費にも満たないものではあったが、それでも男の持てる感謝を現す物といったらこれしかなかった。

 

「俺、慧音さんにはなんも恩返し出来てないっすから…せめてこれ、受け取ってくれないっすか?」

 

「いらんよ」

 

「でも……」

 

「恩返しもなにも、寺子屋の仕事も手伝ってもらっている。……なにより」

 

「…なにより?」

 

「恩返しというなら、これからしてもらうだろう」

 

「これからって……正直、人里に戻ってくるかも分からないんすけど…」

 

「それでもいい。幻想郷の歴史を一項でも残してくれるなら、それが恩返しだよ」

 

「へ?……はぁ、そ、そうなんですか?」

 

「あぁ。今から満月の夜が楽しみでならない…なんてな」

 

「ま、満月?」

 

「佐藤は気にせず、自分の道を行くといい。それが私への恩返しと思ってくれていい」

 

「は、はぁ…」

 

如何にコミュニケーション上手な男であっても、ほとんど慧音の真意は分からなかった。

 

「お、佐藤も揃ったな。出来たぞ」

 

奥から大皿を持った妹紅が顔を出す。

大皿にはもも串にねぎま、鳥皮につくねとところ狭しと並べられ、その食欲を増進する香りが部屋一杯に広がる。

 

男はヨダレをズビッと飲み込み、目の前のタンパク質に熱を上げた。

以前の奢られた焼き鳥も素晴らしい物だったが、空腹のスパイスがない今でもその焼き鳥の魅力になんら遜色はない。

 

「待ちきれないようだな、ほらご飯」

 

「食いねぇ食いねぇ、おかわりもあるぞ」

 

慧音から茶碗一杯の白米を受け取り、その純白の炭水化物はホカホカと湯気を上げている。飯で飯を食えるのではないかと思うくらいに粒が立ち、日本人であれば恋い焦がれた香りがする。

そこにタレが滴る焼き鳥、テラテラと光り、香りが鼻腔に満ちていく。

これは最早、食の台風、全てを巻き込む食の渦だ。

 

 

「じゃあ、いただきます」

 

 

会釈。目の前の食事に、作ってくれた人に、食材になった生き物に、そこに関わった人々に。いただきます…と。

 

男は熱中する。

 

食へ。没頭する。

 

一人でただ摂取していただけの飯とは違う。大量生産された物ではなく、誰かが自分に作ってくれた物。

 

 

ただ漫然と食すのではない、一口一口。噛み締める。

自分が何を食らっているのかを意識して。

 

 

それが義務。食す者の義務とばかりに。

 

 

甘じょっぱいタレが、肉味を余すことなく伝えてくる鶏肉が、白米の甘みが口で弾ける。

 

ムグリと口にし、歯が弾力を感じる。

熱をハフリと逃がし、口腔一杯に味が満ちる。

 

米が甘い?

タレがしょっぱい?

焦げが苦い?

 

分からない。分からないが…調和していた。全てが丸く収まっていた。

 

一口では足りず、二口では足りず。

 

かき込みたい衝動。

 

飯を思う存分、かき込みたい。

 

 

ええい、まどろっこしい!

と、思わざるを得ない。

 

 

無作法を知りながら、抑えることは出来ない。

 

 

 

どうしても…せずにはいられなかった……

 

 

 

 

焼き鳥丼。

 

 

 

 

串から鶏肉を外し、無造作に白米へ騎乗させる。

タレは白米に染みこみ一粒一粒を濃厚に彩る。

 

 

輝いているのではないかと思うくらいの焼き鳥丼。

 

 

白い大地に染み込んでいく恵みの茶色い雨。

その姿は正に恵み。

唾液が止めどなく溢れる口腔。

視覚に美味しく、嗅覚にも美味しい。

 

 

乗せただけ、かけただけだというのに劇的に起こる食の化学反応。

 

その白と茶は、一体どんな反応結果をもたらすのだろう。

 

 

タレが染み込み、ホロホロと崩れる白米を必死に箸で繋ぎ止め、危ういバランスをとりながら鶏肉と共に厳かに口へ運ぶ。

 

 

ハモリ………

 

 

まず感じたのは食材の…暖かさ。

 

作りたて?焼きたて?炊きたて?

 

そしてあとを追う様に口腔に広がる香り。

 

米?肉?醤油?砂糖?

 

 

そして最後に、味。

 

 

 

間違いない。天に賜りし味の調和。

 

なんて魅惑的。白米と焼き鳥の調和。

 

好みはあるだろう。嗜好はあるだろう。

 

 

 

しかし、この一言に尽きる。

 

 

 

「………うまぁ」

 

 

 

タレが鶏肉が白米が、織り成すハーモニー。

 

カッカッカッと、走る箸が止まらない。

 

 

男は今、食事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹紅、良かったのか?」

 

三人の夕食は、別れの前でもいつも通り終わり、いつも通りに男は仮住まいに戻っていった。

 

美味かった、と妹紅に感謝して。

 

妹紅にとって、それだけで良かった。

何の気なしに始めた焼き鳥屋ではあったが、始めて良かったと素直に思った。

 

 

「まぁ…自分なりに考えたんだけどさ。我ながら難しく考え過ぎてたことに気がついた。慧音に言われた通りだったわ」

 

「その様子なら、やはり自分なりに答えを出せたってことだな」

 

「慧音は相変わらず見透かした様に言うなぁ」

 

長い付き合いがあり、聡明な慧音。

そんな慧音だからこそ妹紅は唯一の理解者なんだと思えた。

 

「それで?止めるのか?」

 

「いんや…なんもしない」

 

「ほう?」

 

「考えてみたら、全然関係なかったんだよ」

 

妹紅は独白する。

 

「蓬莱人とか人間とか、死ぬとか死なないとか。慧音に言われてなるほどって思っちまった。私が何をしたいかって考えたら、全然関係なかった」

 

そんな妹紅に、頷き先を促す慧音。

 

「アイツはまた焼き鳥屋に来るって約束した。アイツ、見た目に反して相当律儀だから、きっと来る。それをのんびり待ってるのが、私らしいさね」

 

なんとも気長で、悠長。

 

「…驚いたな」

 

「何がさ?」

 

「てっきり追っ掛けてでも止めるんだと思っていた」

 

「しないしない…。気が向いたら分からんけどな、アイツが本当に闘っている所も見てみたいってのもあるし。まぁ今は待ってるのも悪くないって思ってる」

 

そんなようやく自分に正直になった妹紅を見て、慧音は微笑む。

…微笑むが、少しだけ意地悪く茶化す。

 

「…夫の帰りを待つ妻のようだな」

 

「……お前…ほんっとの馬鹿」

 

赤らめた頬を隠すようにそっぽを向く妹紅。

 

 

夜が更けていく。別れを明日に控えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでもない。そう、なんでもなく。終わった。人里での最後の夜が明けた。

 

翌朝、日の出と共に起き出した男は、簡単に掃除をしてから荷物を纏める。

 

霊夢から貰った一張羅に着替えジャージとTシャツを畳む。昨日買った物、そして幻想郷縁起を丁寧に風呂敷に包む。なんとも簡素な旅支度だ。

 

 

最後に慧音と妹紅に挨拶をしに行こうと思っていたら、二人はすでに寺子屋の前にいた。

 

「早いんだな」

 

「いや、二人に挨拶を…って思っていたんですけどね。お世話になりました」

 

「ん、気をつけてな」

 

「おう」

 

二人は本当にあっさりとした言葉でその姿を見送った。

 

 

後は…往くだけだ。

 

 

「佐藤!」

 

 

そんな背中に、妹紅は声を掛けた。

 

 

 

 

「これから…何処に行くんだ?」

 

 

 

 

その言葉に、振り返り答える男。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

→紅の門番の所へ

 

 花の満ちる畑へ

 

 地底の宴会場へ




色々な誰々と対戦。の様な感想をいただきましたが、この三人との素手喧嘩を書いていこうかと思います。名前は出ていないですが、少しでも東方知っている方は余裕で察せるはず。

しかし、仕事やなんやらで更新速度は遅くなりそうです。時世が悪すぎんよ…。
なんにせよ、エタらないを目標に細々と投稿していきたいと思います。

次回
初戦導入…あたりまで
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