東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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いや、ちゃんと仕事はしてるけどほらね?時世的にね?
おうちだいすき!


第3話

その言葉は、ビルの下の喧騒が嘘のように男の鼓膜を叩いた。

 

「………」

 

「……?」

 

なんのリアクションもしない男に、女性は小首を傾げる。

 

 

 

道士服をベースに改造されたかのような特異な服装。

ナイトキャップのような独特の帽子。

肌はきめ細かく、下からの遠い光ですらその肌を美しく照らす。

絶世の美女、と言っても過言ではない金髪の女性。

 

 

確かにそんな女性から声をかけられて呆けることもあるかもしれないが、問題はそこではなかった。

 

 

その女性は何もないはずの宙、それも異様な空間から上半身を出しているのだ。

 

その空間からは無数の眼が覗き、ギョロギョロとあちこちを見回し、古ぼけた道路標識や錆び付いた古い電車が見え隠れしている。

 

世界各国を回り、無謀とも呼べるような闘いをし、おおよそ常人とは言えない経験をしている男ですら、このような異形を見たことはなかった。

 

 

 

「えーっと…」

 

「………」

 

相変わらず停止したままの男に、女性は頬を掻く。

 

男の心中は複雑だった。

 

色々な国で見たどんな女性よりも美人が、訳のわからない空間から顔を出している。それだけでも理解不能。

 

 

 

なによりも、男の勘が訴えるのだ。

 

 

 

目の前にいるこの女性は

 

きっと、赤子の手を捻るのより容易く

 

俺を殺せると

 

そんな絶望的な、予感

 

 

それがなによりも恐ろしくて

 

 

「名前…聞いても……いいすか?」

 

「私?私は………」

 

 

それがなによりも嬉しくて

 

 

「八雲紫。妖怪の賢者…と呼ばれているわ」

 

 

短く告げられたその言葉は、男の脳髄にに深く染み込む。

 

 

「八雲……紫……」

 

 

ごちゃごちゃの感情。

 

 

現代社会ではおおよそあり得ない、幻想のその先にいるような妖怪、という単語に反応することなく、男は咀嚼するようにその名のみを呟いた。

 

男から漸くまともにリアクションが返ってきた事に調子を取り戻した女性は、口元を扇子で隠し、何処までも胡散臭く、詠うように語り出す。

 

「強くて強くて強すぎて。社会の表側からも裏側からも恐怖され、忌避され、嫌悪され、見て見ぬふりをされるくらいに強い、貴方」

 

「強くて強くて強すぎて。見て見ぬふりをされ過ぎて、誰からも信じてもらえない。誰からも忘れ去られてしまった、貴方」

 

「人を動物を兵器を、立ち塞がらなくても戦い闘い戦闘(たたか)闘争(たたか)い……その果てで、貴方は何を願うのかしら」

 

「誰も並び立たない強者の頂きに、一人で独りで単身(ひとり)孤独(ひとり)で……その頂上で、貴方は何を欲するのかしら」

 

 

 

「教えて、貴方の望みは?」

 

 

 

その言葉に、男の体は震えた。

男の望みはただ一つ。

 

 

 

「俺と……闘ってくれ」

 

 

 

渇望していた。熱望していた。切望していた。

 

万感の思いを込めて、望みを告げた。

 

「ええ…貴方なら、そう言うと思った。強すぎて強すぎて…闘争の中でしか生を実感出来ない貴方なら」

 

パチンっと扇子を閉じた女性は、ヌルリと気味の悪い空間から身を宙に投げる。

 

自然落下するかと思いきや、フワリフワリとゆったりと落下してくる女性。

それは決して片手にさしている日傘のせいではないことは誰が見ても明らかだ。

 

ストンとビルの屋上に降り立つ女性。

辺りは既に夜。日差しもないのに堂に入った様子でクルリと日傘を回し、優雅に一礼をする。

 

「では、せめてルールを決めましょうか。人間の貴方と妖怪の私。どうしようもない位に隔絶した差を、少しでも埋められるように」

 

「ルール……あぁ…そうだな」

 

男は思い出した。闘いにはルールが有るものだ。

細かい事は何も考えず喧嘩を売り買いするには、目の前に立っている女性とでは、生命の力…みたいなものが違いすぎる。

 

弱者と強者が同じ舞台に立つには必ずルールが必要だと、男はそれをしっかりと理解していた。

 

 

 

 

「私から攻撃するのは?」

 

「そうだな…有りにしておこう。やっぱり闘いだし…」

 

「私が防御するのは?」

 

「それも有りに…。お互いの行動は自由のほうが楽しい」

 

「武器はどうかしら?」

 

「武器も…有りのほうが、色々楽しみが増える」

 

「楽しみは大事ね。急所狙いは大丈夫?」

 

「勿論。俺だって色々鍛えているから、簡単には狙わせない」

 

「頼もしいわ。それじゃあ飛び道具は?」

 

「有りで。闘いのいいスパイスになると思う」

 

「やっぱり肉弾戦だけだとね。大砲や戦車なんかはどうかしら?」

 

「少し難しいけど…うん。やっぱり有りで。ビルが心配だけど」

 

「そこは加減するわ。能力の使用は?」

 

「能力…というと。あぁ、そうか、貴女は妖怪だった。有りにしよう。未知の物に触れられるなんて光栄だ」

 

「私のは特別よ。じゃあ次は……」

 

 

 

 

和やかさすら感じさせるやりとり。次々とルールは決まっていく。

 

殴り有り、蹴り有り、投げ技有り、寝技有り、間接技有り、膝の使用有り、肘の使用有り、頭突き有り、噛みつき有り、頭髪掴み有り、目潰し有り、マウント有り、踏みつけ有り、金的有り、腎臓打ち有り、後頭部打ち有り、場所の移動有り、刃物の使用有り、銃の使用有り、重火器の使用有り、兵器の使用有り、技術の使用有り、能力の使用有り……

 

 

 

「これで大体のルールは決まったわね。あとはそうね…」

 

女性が顎に指を当て少し考えた後、パッと笑顔を浮かべながら問う。

 

 

 

 

 

 

 

「相手を殺すのは?」

 

「うーん、そうだな……」

 

 

 

 

男は数秒考えた後

 

 

 

 

 

 

 

「有りだな」

 

 

 

 

 

 

弾けるような笑顔で、男は答えた。

 

 

 

ルールは決まった。

 

 

 

反則………無し。




話進まねぇなおい。
こ、これからだから(震え声)

次回
人類最強VS妖怪の賢者
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