東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

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大体東方の有名な二次創作って読んだけど、ドストレートで刺さったのはハーメルンのチラ裏の例のアレ。もっと能力世界でガチンコバトル増えろ。


第4話

「さぁ……いらっしゃい」

 

 

優雅に、華麗に、絢爛に、嬋媛(せんえん)に。

 

 

まるで全てを包み込むような女神のような。

まるで全てを欺く悪魔のような。

 

天国の門にも地獄の門にも見える、その立ち姿。

一歩踏み込めば何処にでも逝けるような、甘美な誘い。

 

 

 

ゆっくりと両手を広げて男を歓迎する女性。

 

 

その余りに美しい仕草に少しだけ照れながら頬を染め、まるで酔ったかのように男は歩を進める。

 

 

 

一歩、二歩、三歩。

 

ふらりふらりと歩み寄る。

 

「どうしよう……」

 

男が呟く。

 

「どこからどうみても……」

 

男は感じていた。その姿、その立ち位置、その重心。

 

最初こそ戸惑った。誘われているのだと。

上手に、巧妙に、志妙に。隠しているのだと。

 

しかしどうやらそうでもないことに気がつく。

 

 

 

 

「………隙だらけ」

 

 

 

 

音速を伴った踏み込み。

理想的な重心。

神がかり的な身体操作。

音を置き去りにした突き手。

 

 

踏み込みからの力は余すことなく腰に伝わり、連動するかのように回転する腰、上半身の筋肉群で増幅され、鞭のようにしなやかな腕から発射される鋼鉄の拳。

 

 

狙いは顔面のど真ん中。

 

 

人類ではどうやっても避けられない。

仮に目で追えたとしても、そのスピードは脳からの指令を遥かに越える速度で相手にまで届く。

 

電光石火、快刀乱麻、予測可能回避不能の理不尽な全てを終わらせる一撃。

 

 

弱かった頃の男であれば、幾度となく避けられ、捌かれ、反撃された。

しかし、最強と呼ばれるようになってからは外したことはない。

そして、この一撃で終わらなかった事はない。

 

 

男が今まで培ってきた全ての力と技術を総動員して、放った。

 

手加減なく、全身全霊で。

力の解放。技術の解放。

解放のカタルシス。

 

あまりの快感に、頬が弛む。

 

 

 

男は加減なしだなんていつぶりだろう、と心で思う。

常に相手を労っていた、心配していた。甘く見ていたつもりは欠片もない。ただ、手加減をしないと、死んでしまう。

 

鋼の拳を限界まで弛め、筋肉群に枷を嵌める。相手が対応できるくらいまで、自己に負担をかけ続ける。

 

拳では死んでしまうから、平手で。

平手では死んでしまうから、デコピンで。

デコピンでは死んでしまうから、寸止めで。

 

欠伸を噛み殺し、接戦を演じる。

退屈を耐え、死闘を演じる。

 

いつか目の前の相手が、強敵として立ち塞がるのを夢想しながら。

 

夢だった。

 

結局、夢のままだったが。

 

 

 

 

 

 

 

だが、どうだろう。

 

当たる気がしないのだ。

確信にも似た予感が男の頭を支配する。

 

己の全力。己の出来うる限りの最高。

 

 

 

 

パァンッ

 

 

 

 

男の一撃は、空気を叩く。案の定外れた。

 

 

 

 

 

女性は、避けたわけではない。

単純に、男の狙いが外れていたのだ。

 

女性の頭二つ分横。有り得ない外れ方。

無論男は本気で狙い、本気で打突した。

 

男は目を、自身の肉体を疑った。

 

「凄いわねぇ、ほとんど見えなかった。鬼が打ったかと思ったわ」

 

コロコロと鈴が鳴るような笑い声。

 

「人間の可能性…。やっぱり末恐ろしい。恐ろしいのは技術でも武器でも、ましてや力でもない。その意思ね」

 

致命的なまでの隙を晒している男に攻撃することもなく、独白を続ける女性。

 

「シャァ!!!」

 

男が珍しく気迫の籠った声を上げ、振り抜いた渾身の上段蹴り。

 

これもまた理想的なフォームを描きつつ、女性の首を狙う。

当たれば首と胴が別たれる必然性を伴った、死神の鎌。

 

「………あらあら?何処を狙ってるのかしら?」

 

然れど、どんな威力を持っていたとしても当たらなければ、意味がない。

 

「手加減してくれているの?優しいのね」

 

「シッ!!!」

 

息も吐かせぬ、蹴りを織り混ぜたコンビネーション。

 

「ほらほら、こっちよ、こっち」

 

しかしそのどれもが空を切る。

 

回避ではなく、気づくと外れている。

不可解であった。

 

 

不可解ではあるが

 

 

「……違う」

 

「あら?何か言ったかしら?」

 

不意にコンビネーションが途切れる。

 

「いやね……そうだ。そんな感じ」

 

「?」

 

男はモゴモゴと何か呟く。

 

「……ズレてる」

 

「……へぇ」

 

笑みを浮かべていた女性の目が、スッと細くなる。

 

「手元から…数度…いや、もう少し」

 

男はゆっくりと拳を突き出す。繰り返すこと三度。

 

 

「……おっけ、分かった」

 

 

そう呟き、再び男の脚はコンクリートを蹴った。

 

 

「……!!!」

 

 

女性は、今度こそ回避行動をとった。

 

「……まだ…もうちょいか」

 

「…………本当に驚いた」

 

女性の頬からは一筋の赤い線が顎に向かって伸びている。

 

「直ぐ様対応出来るものでは……ないはずなんだけどね」

 

ペロリと頬を伝う血液を舐めとる女性。

次の瞬間には傷は癒え、赤い線が残るだけとなる。

 

感覚のズレは、本来であれば致命的なものである。

なにせ、自分の体が思うように動かなくなると同義なのだから。

何かを掴もうとすることすら難儀する。

 

それを男は数回の突きだけで修正してみせたのだ。

自身の体を知りつくした上で可能となる妙技。

 

 

「敬意を表しましょう。人類最強、伊達ではないわね」

 

それでも尚、女性の口は囀りを止めることはない。

 

「……いいのかい?」

 

「……?」

 

「闘いだぜ?」

 

「!?」

 

急に目の前に激しい竜巻が発生したかのような暴力。

 

拳が。

脚が。

肘が。

膝が。

 

猛烈な勢いで女性へ迫る。

 

今度こそ間違いなく女性へ当たる角度を保ちつつ、超局所的な竜巻が女性へ襲いかかる。

 

 

 

 

 

「そんなに急かさないで。早い男は……嫌われるわよ?」

 

 

 

 

ズルリと、女性が消える。

 

「!」

 

男の動体視力は間違いなくそれを捉えていた。

気味の悪い空間が突如として現れ、そこに女性は身を滑り込ませたのだ。

 

 

「せっかくの闘い。楽しまなきゃ損よね?」

 

 

次の瞬間には、男の背後から声が聞こえた。

 

「……やっぱりすげぇや…。妖怪…?超能力ってやつ?」

 

仕切り直された闘い。

ゆっくりと振り向いた男の顔は満面の笑みだ。

 

「えぇ、まぁそうね」

 

女性はクルリと日傘を回し、再び扇子で笑みを隠した。

 

「“境界を操る程度の能力”」

 

「……境界?」

 

「そう、それが私の能力。便利よ?」

 

クツクツとした笑い声。

 

男は、正直な所全く理解出来てはいない。

 

「楽しい楽しい闘いも、幕引きがなければ冷めてしまう…そうよね?」

 

男にとっては、それは恐れていた言葉であった。

こうして全身全霊を賭けても、届いたのは僅か。それが何よりも楽しかった。

 

 

幕は、強者から引き下ろされるものである。

 

 

幕引き宣言をされたからには、後残り少ない闘いを楽しむことだけが、男に出来ることだ。

 

 

 

 

スカートの両端をつまみ上げ、清楚にペコリと頭を下げる。

 

その様は堂に入っており、見惚れるような礼だった。

 

 

 

 

 

「妖怪の賢者、八雲紫。妖怪らしく、嬲って嫐って甚振って上げましょう。人類最強」

 




せんとうびょうしゃ(雑)

次回
まだまだつづくよせんとうびょうしゃあたりまで
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