東方素手喧嘩録   作:寄葉22O

9 / 25
ようやく幻想郷入りに一区切り。
色々考えてはみましたが、そこまで長編にはならなさそう。創作のリハビリにはちょうど良い感じ。
今度こそエタらずに終われるといいなぁ。


第9話

「ふぁあ……」

 

少女は大あくびをしながら居間の襖を開ける。

 

 

誰もいない。布団もキチンと片付けられており、人の気配はない。

雨戸は開かれており、居間には心地好い風と朝日が差し込んでいる。

 

 

少女にとっては誰もいない事がわりといつもの光景だがそこで思い出す。

 

「あれ…?昨日、外来人泊めてた…わよね?」

 

逃げたのか、もしくは既に何処かへ行ったのか。

元より盗まれて困るような物も置いてはいない。それはそれでいいかとあっさりと切り替える。

 

目を擦りながら、朝食の準備をしようかとした時、外に見慣れない者がいるのに気づく。

 

 

 

 

 

 

それは、武そのものであった。

 

 

 

 

 

 

空に円を、線を、点を、幾通りにも描く。

それは、重く、速く、鋭く。

舞うように、駆けるように、翔ぶように。

まるで羽が生えているのかと思うくらいに軽やかに。

まるで地に根が張られているかと思うくらいに力強い。

上着がはだけられ、露出された筋肉は彫像のようにきめ細かく、神に創造されたかのように完成していた。

幾層にも重ねられた醜い傷痕すら、その美しさを損なうことはない。それどころか、荒々しさを表現し芸術性すら感じざるを得ない。

 

 

 

超然としている博麗の巫女をしても、見惚れる。見蕩れる。 魅入られる。

 

 

 

 

人類最強による演武

 

強さの凝縮された結晶体

 

弾幕の美しさとは違う、極限に宿る美

 

 

人の体はここまで器用に動くのかと

人の体はここまで鍛えられるのかと

人の体はここまで極められるのかと

 

 

 

確かに男は空は飛べない。

確かに男は何も操れない。

確かに男は妖力を持てない。

確かに男は霊力の適正はない。

確かに男は魔力を引き出せない。

確かに男は奇跡を起こせない。

確かに男は時間は止められない。

 

 

確かに男に能力は……ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、どうした?

 

 

 

男には鋼の拳がある。

男には二本の脚がある。

男には二本の腕がある。

男には頑強な肉体がある。

男には膨大な経験がある。

男には柔軟な対応力がある。

男には積み重ねた技術がある。

 

男には、人間の闘いの叡知が詰まってる。

 

 

 

そう思ってしまうほどに、流麗な演武。

 

少女は息をするのも忘れて、暫くその光景を、眼に映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が起きてくる暫く前。

 

 

男は日が顔を出す前に、誰が起こすでもなくパチリと目が覚めた。

いつもなら少し微睡んだ後に寝床を後にするのだが、気持ちは逸っていた。

 

無性に体を動かしたくて仕方がない。

 

昨日まで鈍痛が響いていた全身は既に全快しており、不自然な火照りもない。

 

空腹感はあるが、それよりもアドレナリンが体を動かす。

 

 

男は飛び出して行きたい気持ちを抑えつつ、布団をいそいそと片付け、雨戸を引き開ける。

 

案の定辺りは薄暗闇。しかし、気の早い小鳥は鳴き始めている。

薄暗いが手元を見るのに苦はないため、昨日の焚き火跡を片付け始める男。

 

若干黒っぽい汚れは残っているが、それなりに綺麗になったことに満足する。

 

 

少女が起きて来る様子はない。

 

気は急いている。昇って来た朝日に、怪しく照らされる森。快晴の空。そこにはどんな刺激があるのかと、ワクワクと心が躍る。

 

そわそわと落ち着かない感覚。

 

しかし、このまま出ていくのも義理に欠ける気がした男は、少しでも発散しようと拳を振るう。

 

 

 

いつもしていた暇潰し兼用の鍛練とは趣が違う。

 

鍛練というよりは、準備運動。

 

退廃的ですらあった男の鍛練。

無意味ですらあった男の鍛練。

思いもなく目的もなく、他にやることがないからやっていた暇潰し。

 

 

だが、今の男の鍛練はどうだ。

 

 

その打突はその蹴撃は、煌めきすら放っているように舞っている。

未だ見ぬ強敵を夢想しながら振るわれる腕は脚は、天まで届けと飛翔している。

 

 

闘いが楽しくて楽しくて、仕方がなかった10代。

徐々に相手に苦慮し、闘いにならなくなってきた20代。

頂に立ち、大切な何かが失われようとしていた30代。

 

 

そして30代の半ばに差し掛かり、幻想郷が男の胸の奥に、再び熱を宿した。

男の気持ちを写すかのように、その武は今、躍動している。

 

 

 

幾度、武を振るったであろう。

辺りはすっかり明るくなった頃に、男を見る視線に漸く気づく。

 

「あっ…お、おはよう?」

 

些か間抜けな挨拶であった。

 

「おはよう。……もう、終わり?」

 

「えっと…あー…うん」

 

「そ。裏に井戸があるから汗流してきなさい」

 

少女は手拭いを男へ放り投げ、何事もなかったかのように居間へ引っ込んでいく。

その姿を唖然としながら見送る男。

 

「気づかなかった…いつから見てたんだ?声かけてくれても…よくね?」

 

大の大人が夢中になっているところを見られ、多少ばつが悪かった男は誰に言うでもなく呟いた。

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

「い、いただきます」

 

男の目の前には、白米に味噌汁焼き魚おひたしと、純和風の朝食。

 

 

黙々と箸を進める二人の間に会話はない。

 

 

迷い箸引き箸とお世辞にも行儀がいいとは言えない男に比べ、見事とも呼べる箸使いで食事を進める少女。

 

チラリと少女の食事を盗み見る男。

 

(魚って…あんなに綺麗に食えるんだ…)

 

親と子でも有り得るような歳の差の二人は、何を言うでもなく朝食を終える。

 

「……あ、俺、洗う……」

「いいわよ、茶碗割られたら困るし」

 

少女のつっけんどんな態度に粛々と引っ込んで行く男。

男に出来るのは机を拭くことくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ生乾きだけど、仕方ないわね」

 

いつの間に洗ってくれていたのか、男のTシャツとジャージ。流石に下着は渡せずに着たままである。

 

「あ、そしたらこの服…」

「持ってっていいわ。どうせ箪笥の肥やしになってた物だし」

 

思わずその場で脱ぎ出そうとする男へヒラヒラと手を振る少女。

 

「はい、あと風呂敷。鞄も何もないんでしょ?ないよりはマシでしょ」

 

「あ、有り難う…ございます」

 

少女の至れり尽くせり具合にどうしていいか分からなくなる男。

 

「はいはい。お礼は生きていたら賽銭でも入れに来てくれればいいわ」

 

生きていたら。

 

そう、生きていたら。

 

「……必ず入れに来る」

 

「期待しないで待ってるわ」

 

最後まで飄々とした態度は崩さない少女に、男は苦笑いする。

 

 

 

 

 

 

寸足らずな着物に身を纏い、肩には風呂敷、中身は元の服と火打ち石。

 

来たときよりは上等過ぎる佇まい。

 

「なんつーか…お世話になりました」

 

「ん」

 

ヒラリヒラリと風を凪ぐ少女の細腕。

 

相変わらずの態度は別れの際も健在で、男には逆にそれが安心する。

 

「あ、そうだ」

 

「まだなんかあんの?」

 

「いや…名前…聞いてなかったなって」

 

「名前?」

 

「恩人の名前も知らないなんて……えっと、なんかこう不義理な気がして」

 

「別にいいんだけど……」

 

わたわたとする男へ、心底面倒そうに返す少女。

 

 

 

「博麗霊夢。当代博麗の巫女よ」

 

「はくれい…れいむ」

 

男は不思議と、この超然とした年下の少女にピッタリとした名前だと思った。

 

「…で?あんたは?」

 

「えっ…お、俺?」

 

「当たり前でしょう。他に誰がいるのよ」

 

誰かに名乗るなんて、誰かに名を聞かれるのなんて、いつ振りだろうと思い出す。

 

男に寄ってくる誰も彼もが、男ではなくその強さに惹かれて来る。

 

男の名前は、やべーやつ、標的、戦闘狂、人類最強といった看板に上書きされていた。

 

久しぶりに名乗る。

元は何処にでもいたような、子供。

珍しくも何ともないその名前。

ただ強くなる才能があり、闘いが大好きで、頂点に立った男。

 

 

 

 

「…(たける)。佐藤…武。武道の武って書いて、(たける)

 

 

 

 

「そう、武さん…ね。貴方にピッタリの名前じゃない」

 

そう言って、いつも仏頂面だった少女は花が咲くように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

妖怪が蔓延り

 

人間が畏れ

 

妖精が唄い

 

神が祈り

 

少女が飛び回る

 

幻想郷

 

 

幻想に生きる者達と、闘いに生きる男。

二つが出会い、物語が動き出す。




メイン対戦者としては今のところ三人考えてます。
というか、能力次第で勝負にもならない奴ら多すぎぃ!

次回
VS妖怪辺りまで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。