ドラクエ勇者の能力を持った一般人がホビットの世界で無双するだけの話 作:空兎81
取り敢えずスマウグを製鉄所におびき寄せようとトーリンが言うので分かれて行動する。何やら考えがあるっぽい。竜の病も焼かれたドワーフ達の死体を見て治ったようだ。いつもの勇敢で誇り高いドワーフの王様だ。
皆でスマウグを挑発しながら製鉄所へ向かう。『こっちだナメクジ野郎!』と叫びながら全力で走る。中々うまくいっているようだ。まあ後ろから炎吐かれているから油断したらすぐ丸焦げだけど。
わたしはビルボとトーリンとバーリンの4人で逃げる。そして製鉄所へ行くための広間を抜けようとした瞬間スマウグに追いつかれてしまった。炎を吐かれる。
わたしとビルボとバーリンはうまく物陰に身を寄せることができたが、トーリンは炎を避けるために採掘穴に飛び込んだ。スマウグがそれを追う。
え、採掘穴って縦穴なんだから空中戦じゃん。そんなの翼を持つスマウグに勝てるわけがない。
幸いトーリンは滑車に捕まっているからただ落ちているわけじゃないが、あんなのふらふらと漂う凧と同じだ。自由に空を飛べるスマウグに敵うわけがない。
ドワーリンが慌てて滑車を引く。これで落ちていたトーリンが戻ってこれるはずだ。
様子を窺うために採掘穴を覗く。するとまさにスマウグがトーリンに噛みつこうとする真っ最中だった。うわあああっ!!!やっぱりやばいじゃないか!!助けないと!
えっと、使えそうな魔法は、『ラリホー』。あんなに興奮しているスマウグがぽっくり寝るとか考えられん。取り敢えずパス!
それからわたしの攻撃魔法は『メラ』『ギラ』『ベギラマ』『イオラ』って、全部炎系の魔法じゃないかちくしょう。炎を吐くドラゴンであるスマウグに炎系魔法って効くイメージがないんですが?勇者って氷系魔法使えないの?ヒャドとか覚えさせてよ。
いや待って。1個だけ炎系魔法じゃない奴あった。これしかない。
「ライデインッ!!!!」
『グォガァァァッッッーーー!!!!』
「なっ、雷!??」
スマウグに向けて一本の光が落ちる。ライデイン、相手に稲妻を落とす魔法だ。シンプルだけど攻撃力は高い。
さすがにスマウグにもダメージを与えられたかな?と思って下を覗き込むとスマウグが坑道に落ちていくところだった。その間にトーリンが滑車から這い上がる。
やべえ、ライデインすげえ。さすがドラクエ屈指の攻撃力を誇る魔法だよ。まあ雷が降ってくる魔法だもんね、そりゃ弱くはないわ。
だけれどもラスボス、スマウグもこれで倒されてくれるほど弱くもなかった。空中で身を翻すとこちらに向かって全速力で飛んでくる。
『魔法使いガァァァァアァっーーー!!よくもヤってくれたなァ!この俺様に傷をつけた事、決して許さんゾォ!!!八つ裂きにし骨も残らぬほど燃やし尽くしてくれるわァァァーーーっ!!!』
「やべえ、めっちゃ怒ってるやん」
ライデインは効いたようだが、その結果スマウグを怒らせてしまったようだ。怒り狂った声が坑道から聞こえてくる。しかもターゲットが私に固定されてしまったようだ。
どうしよう、ヘイト管理をミスったかもしれん。スマウグが全力で殺しに来るとかどう考えても生き残れる気がしませんよ。レベル30でHPも220くらいあるからちょっとは耐えれるかもしれないが単独撃破は絶対できんぞ。むりぽよ。
もうこうなったらトーリンの策に期待するしかない。全力で製鉄所に向かうが、その前に時間稼ぎのためもう2、3発ライデインを落としておく。後ろで『クッ、また魔法を、』『痛ッ、痛いぞこの魔法、え、まだ来るの?ちょ、やめ』って声が聞こえたからワンチャンライデインを打ち続けたら勝てるのかもしれんが、MPに限りがあるのでちょっと自重。ライデインめっちゃ効いてるやん。まほうのせいすいがあったら私は世界を救えたかもしれん。
製鉄所に着くと『どうする?炉を起こすにも火がないぞ?』と皆が相談しあってた。お、それは得意ジャンル。火を着けるのは任せて下さい!
「わたしが火をつけるよ」
「おお、ナノ。やってくれるか」
「うん。ベギラマ!!!」
炉はかなり大きい物だったから1番火力の高い魔法でいく。MPが心許なくなってきたなぁ。この世界だと寝るのとレベルアップ以外に回復の手段が無いからかなりつらい。魔法が使えなくなったら私は図体デカイだけの小娘だよ。いやデカくもないわ。標準サイズの人間です。
トーリンがバーリンに炎玉を作るよう指示したり皆を所定の位置へ着くように伝えていたりしていると、スマウグが壁を破壊して製鉄所に入ってきた。そしてキョロキョロ辺りを見渡すと私を見て吠えた。うわっ、狙われてるのやっぱりわたしかよぉ!
『小娘ェ!よくもやってくれたなァァ!!!消し炭にしてくれるわァ!!』
「わたしばかり目の敵にするのやめて下さい、死んでしまいます」
「ビルボ、やれー!!」
その時トーリンが指示を出し、ビルボが何かのレバーを引く。するとあちこちから水が溢れ出してスマウグに浴びせた。おお、いいね。ジューっと音がしてスマウグが冷やされているよ。そのまま頭も冷えてくれないかな。
だけれども当然それだけではスマウグを倒す事はできない。皆炎玉を投げつけたり鉱石を落としたりしてスマウグの注意を引く。
そうしている間にトーリンは火を着けたことにより溶かされた黄金の川に乗って移動していく。え、エリアチェンジですか?ちょ、どこ行くの?
トーリンが『走れナノ!王の間に誘いこめ!』と叫んだので行き先はわかった。でも名前呼ばれたせいでスマウグの意識もこちらに向いた。うわあああっ!!!
『待て!小娘ェ!!』
「待てるか死ぬわ!」
全力で製鉄所を走り抜ける。ついでにスマウグが暴れたことで足場が崩壊して落っこちたビルボとも合流したので2人で走る。
迫りくるスマウグを背に、滑り台みたいなのを滑り降りて王の間っぽいところへたどり着く。でも入った瞬間スマウグが壁を壊して大きなタペストリーが上から降ってきた。重っ!
王の間に着くとスマウグはあちこち歩き回りながら、『今回のことは穢れドワーフとみすぼらしい湖の民の考えたことに違いない』と言ってエスガロスに行こうとする。
え、ちょ、はあああっ!!!?エスガロスは関係ないじゃん!100歩譲ってドワーフ達はスマウグに戦いを挑んだのだから焼こうとするのはわからんでもないけど、エスガロスはまじ関係なくない?とばっちりにも程がある。このトカゲ、心が狭すぎる。
ビルボが『彼らは関係ない!待て!町へは行かせないぞ!』と勇ましく出て行くが、スマウグは『奴等の死に様を見ているがいい』と言って鼻で笑う。マジ性格悪いなこのドラゴン。人の嫌がることはしてはいけないと習わなかったのかね。友達いないでしょう赤トカゲ。
それでも出ていこうとするスマウグを止めようとしたのが我らが王様トーリンだ。トーリンは何やら建造物の上に立つと『今こそ復讐の時!』と言って鎖を引いた。
すると黄金のドワーフ像が現れた。巨大な巨大なドラゴンよりも大きな金の像だ。あまりの美しさにスマウグも見惚れている。
うん、でもどうやって倒すの?と思った瞬間、像が溶けた。眩いばかりの金色が辺りに降り注ぐ。
高温の金がスマウグに絡みつく。そしてそのままスマウグは黄金の中に沈んでいくんだけど、ちょおおおおっ!!!わたしも沈むぅぅぅーー!!!
王の間にいたビルボと私もおもっくそ巻き込まれた。ちょ、トーリン、何するか事前に言っておいてよ。全力で走って何とか難を逃れる。マジ危なかった。あのままスマウグと一緒に黄金の像にされるところだったよ。邪悪な竜と勇敢なホビットと図太い魔法使いの像、みたいな感じで。あの性悪竜と一緒に固められるのは嫌でござる。
王の間が黄金で満たされる。さすがにこれでスマウグを倒せたかな?と思った瞬間、金色の竜が飛び出す。スマウグは生きていた、死んでいなかった。
スマウグはそのまま身体に纏わりつく黄金を振り払うように身体を捻ると、そのまま湖の町へ向かって飛び立った。
ビルボが『ああ、なんてことを、』と嘆く。スマウグは何があろうともエスガロスを滅ぼすつもりらしい。
ドラゴンの脅威は一時的にだが去った。そのかわり湖の民が危険にさらされている。
あの町にはキーリ達だっている。このままだと彼らの命も危うい。
「わたしが町に戻って皆に竜が来ることを伝えてくるよ」
「ナノ、そんなことができるの?」
「うん、一度行ったことのある町なら戻れる魔法があるんだ。すぐ行ってくる」
もうこうなったら私が戻って皆に事情を説明するしかない。竜はやばい。ドラゴンはやばい。このままだとエスガロスの民が全滅してしまう。
時間が無いから私だけで行く。ビルボにはトーリンたちにそう伝えてくれと頼んだ。
本当言うと全くもって行きたくない。何が楽しくて火を吐くドラゴンのいる町へ戻らないといけないんだ。だけども人命は大切だ。すぐ行こう。そんでもってすぐ逃げよう。
「うん、ルーラ!」
移動魔法を唱えてエスガロスへと戻る。ドラゴンのいる炎の町へと。
この時のわたしはまだ理解していなかった。自分が勇者であるということ、それを真に理解していなかった。
異世界転移者ナノは勇者である。その意味をわたしはこれから知ることになる。
第二部完!