ドラクエ勇者の能力を持った一般人がホビットの世界で無双するだけの話   作:空兎81

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ゴブリンの巣穴

 

ドワーフたちが出発して半日経っていたこととわたしというお荷物がいたせいで中々彼らに追いつけない。

何故かわたしを過剰に評価するガンダルフとビルボという癒しのない旅は地味にわたしの精神をすり減らした。ふたりきりなことをいいことにガンダルフはこんこんとイスタリについて説いてくる。むやみに魔法は使ってはならぬぞ。なるべく中つ国のことは中つ国の人間に解決させて我々は助言のみにとどめとくのじゃ。など色々いわれるんだけどわたし勇者(仮)だしイスタリではないと思うんだよな。魔法使うのを自重したら詰む気がする。

 

このままガンダルフのいう正しいイスタリの行い通りにしていたら死にそうなので恐る恐る自分がイスタリでないことを主張するとガンダルフは優しく笑いながらそのうち記憶も戻って姿も知識も落ち着くじゃろう、という。いや、記憶はしっかりしているから時間が経っても新たになにか思い出すことはないと思うし姿が落ち着くとはどういうことだよ。わたしの姿は年を取る以外では変化しませんよ?イスタリは姿を変えることもできるんですか?え、じゃあガンダルフは本当はおじいちゃんじゃない可能性があるのか?いや、深く考えるのはやめておこう。その方が精神安定上いいです。

 

そのうち自分が異世界から来て現在の職業が勇者であることを言わないといけないんだろうなー。大して力もないのに自分が勇者であるとかそんなの名乗りたくないです。

 

悪天候の中、ドワーフたちの軌跡をたどりながら進んでいくがある洞窟でプツリと彼らの痕跡が途絶えた。どういうことだろうと首をかしげているとガンダルフがこのあたりにはゴブリンの巣があるからそこに落ちたのじゃろうという。ゴブリンに見つからないように巣穴に忍び込み様子をうかがうと大量のゴブリンがドワーフたちに襲い掛かっていた。うわあ、大ピンチじゃないか!

 

すぐさまガンダルフが飛び出し魔法を使ってあたりを照らす。ゴブリンたちが光に怯んだ隙にガンダルフがドワーフたちに戦えと檄を飛ばす。そしてそれに呼応しドワーフたちが武器を取り立ち上がる。よし、じゃあ逃げますか!

 

襲いくるゴブリンから全力で逃げていく。もう、どこ見渡してもひたすらゴブリンだ。何百、いや何千はいるゴブリンから逃げだすなんて気が遠くなりそうだ。取り敢えずガンダルフが魔法はあまり使わないようにとか言ってたことは聞かなかったことにする。自重したら死ぬわ。

 

MPは18でニフラム9回分。いや、戦闘だからメラの方がいいのだろうか?取り敢えず杖を構えて後ろを確認した瞬間、血の気が引いた。走ってくるドワーフの中に小さなホビットがいなかったのだ。

 

 

「ビルボ!ビルボがいない!ビルボはどこに!!?」

 

 

「あいつは逃げて故郷に帰った!振り返るな行くぞ!」

 

 

逆走しようとした瞬間腹にドンと強い衝撃を受けそのまま足が宙に浮き誰かに担ぎ上げられたのを悟る。トーリンだ。トーリンがわたしを持ち上げて走っているのだ。わたしはむちゃくちゃ混乱した。ビルボはいないしわたしはトーリンに持ち運ばれているしなんでこんなことになっているのだろう。

 

でもこのまま運ばれていればビルボに永遠に会えなくなるような気がした。トーリンの手の中から逃げようともがくががっちりと抱えられていてまったく外せそうにない。

 

 

「うわああっ!!トーリン手を離して!わたしはビルボを探しに行く!」

 

 

「バギンズ殿はもうここにはおらんのだ!ここでそなたを離して無駄死にさせるわけにはいかん!」

 

 

ぎゅっとわたしを拘束する力が強まった。この時初めてトーリンがわたしを逃がさないために抱えているのだと悟った。そしてわたしが逃げても意味はない、戻ってもなにもないのだということを理解した。

 

トーリンは義に厚く仲間想いの人だった。ビルボのこともわたしのことも気にくわないと思っているんだろうけれどもそれでも見捨てるようなことはしないのだ。そのトーリンが戻るなという。いろんな思いが頭の中をぐるぐるめぐり考えがまとまらない。

 

じんわりと目の奥が熱い。ビルボ、会いたいよぉ

 

だが泣いている暇などまったくなかった。あたり一面には大量のゴブリンが埋め尽くされていてわたしたちの行く手を邪魔している。おぅ、シリアスに浸る暇もないじゃないか。ゴブリンまじやばい。とりあえずゴブリンがいるから、ゴブリンがいるからダメなのだ。なら使う呪文は決まっている。

 

 

「メラ!メラ!メラッ!」

 

 

近づいてくる敵に手当たり次第炎をぶつける。炎を浴びせられたゴブリンは突然のことに驚き暴れながら周りを巻き込みながら落ちていく。何回か『メラ』を唱えるとレベルアップを告げる軽快な音が頭の中に響く。だけれども皆が死ぬ気で剣を振るっている中その軽やかな音があまりにマッチせずイラっとした。

 

レベルアップとともに最大HPとMPが上がり体力と魔力が回復する。戦えば戦うほど力があがりそして回復するのが勇者の特性だ。なんか魔法を使えば使うほど元気になっている気がするよ。勇者ってチートやわ。

 

MPが回復したことによりまた魔法が打てるようになる。メラを唱え後方の通路を燃やしこれ以上後ろからの追撃を受けないようにする。弓矢を持つゴブリンを優先的に狙い橋を支える縄を燃やしてゴブリンを谷底に落とす。またレベルがあがった。メラを唱える。レベルが上がる。

 

丸太で敵を薙ぎ払い振り子の橋を渡って岩を転がしながら敵を退け出口に向かう。そしてあと少しというところでゴブリンの王が通路の下からあらわれ行く手を阻んだ。進むべき道をふさがれぞくぞくと集まってくるゴブリンに皆が剣を取る。トーリンもわたしを床に落とすと剣をとった。

 

ゴブリンの王は巨大な体を振り回して戦う。だけれどもそれに負けずガンダルフは果敢に立ち向かいゴブリンの王の腹を切り裂きとどめを刺した。ゴブリン王は倒せたけどその重みに床が耐えられずわたしたちを乗せてソリのように滑りながら谷を駆け下りていくことになった。

 

風圧で顔が歪むような速度で谷を滑り落ちなんとか全員無事に谷底に到着した。うん、シートベルトのないジェットコースターってこんな感じなんだろうな。もう二度と乗りたくないです。

 

一息つけたと思ったがすぐに大量のゴブリンも谷を駆け下りてきた。わたしたちは太陽の下を目指して全力で走り出す。

 

松の木の林を走り抜けガンダルフがイチ、ニ、と人数を数えていって『ビルボは!?ビルボはどこじゃ!?』と叫び声をあげた瞬間ずきりと痛い現実が戻ってくる。そうだ、ビルボがいないのだ。

 

最後に見たのは誰じゃ!とガンダルフがビルボを探す言葉をかけているとトーリンが声をあげバギンズ殿は帰った。ずっとホビットの暖かな寝床のことしか考えてなかったからな!と叫ぶ。

 

そしてそのまま蹲るわたしの元にくると肩に手を置き『そなたももう帰れ。ここにいても仕方ないであろう』と声をかける。

 

うん、そうだ。ここにいてもどうしようもない。ホビット庄に帰ってビルボとお菓子を作りたい。けれども、

 

 

「わたしが帰っても家にビルボはいないですよね」

 

 

「…」

 

 

言葉を返す者はいない。つまりそういうことなのだ。

 

ビルボはもういないのだ。トーリンがビルボが家に帰ったというのも本気でそう言っているのではなく、そうであれば皆の気が休まるからそういっているのだ。誰もがあの小さなホビットの死を受け入れたくないんだ。

 

ポタポタと涙が地面に染み込んでいる。ゴブリンから逃げるのに夢中で目をそらしていた現実が戻ってくる。

 

ビルボ、本当にいなくなってしまったのだろうか。もう一緒にお菓子を食べることもできないのだろうか。いやでも死体みたわけじゃないしやっぱり生きているんじゃね?メタ読みだけど主人公補正でひょっこり帰ってくるんじゃないかと期待している自分がいるんだよね。こんな序盤で死なんだろう。

 

 

「うん、確かに家に帰っても僕には会えないかな。だってまだここにいるし」

 

 

「!!!ビルボぉおおォ!!!」

 

 

なんて思ってたら本当にひょっこり木の後ろからビルボが現れた。うわああぁぁん!!ビルボ会いたかった!大丈夫だと思いつつも不安でいっぱいだったんだよぉぉ!!よかった生きていて!!

 

ビルボが現れたことであちこちから歓声が上がる。とりあえずビルボ大好きクラブ会員NO.1のわたしとしてはビルボに飛びつかずにはいられないので全力のタックルをビルボに仕掛けた。ちなみにわたしとビルボの身長差は30cm以上ある。それだけの体格差がありながらビルボに飛びついたらどうなるかというと、当然倒れます。下敷きにされたビルボが痛ぁと叫んでいるが気にせず転がりながら力いっぱいビルボを抱きしめた。

 

周りもビルボの生存を喜んで声をあげた瞬間トーリンが何故戻ってきた!と声をあげる。思わずビクッと震えて立ち上がりビルボの陰に隠れる。たぶんこれもビルボに対して怒っているのではなく心配しているのだろうけど声と顔が怖すぎる。

 

そんなトーリンに対してビルボは怯むことなく『確かに僕は家に帰りたい。だけれども君らにはその故郷がない。だから力になりたいと思ったんだ』とまっすぐトーリンに向けていった。ヤバい、感動した。ビルボ、君はそんな立派なことをいえるようになっていたのか。あ、次はナノが喋れとか言わないでくださいね?わたしにはこんな立派な志はないです。

 

ゴブリンと一悶着あったけれども誰も欠けずに全員が揃うことができたのだった。

 

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