リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
第102話 新たな任務
--時が過ぎるというのは早いものであり、さらにその時の過ぎ去る早さというものは「終わり」が見えると加速度的に早まっていく--
つまりは、六課隊員の六課解散後の進路が続々と決まっていったあの時期はとうの昔となり、今はすでに六課は解散してしまっているのだった。
そう、管理局を大きく揺るがし、世界的な混乱を引き起こしかけたあのJS事件を解決した濃密な一年間は終わりを告げ、元六課の面々はそれぞれの夢への道を再び歩み出し、みな別々の場所へと旅立っていった。
「………………ふぅ、終わった……」
それはジルヴェスも変わらず、六課が解散すると同時に特捜隊の通常任務に復帰していた。
とは言え、ジルヴェスは六課にいた彼女たちとは違い、人に誇れるような「夢」など持っていないと、少なくとも彼自身は思っていたりする。
「…………そう言えばさっきヴェルさんに呼ばれてたんだったな、急がないと」
そんなことはさておき、つい今しがたまで報告書を書いていたジルヴェスは、すくっと立ち上がって部隊長室へ向かった。
「ジルヴェス、来たか」
ジルヴェスがノックし、扉を開け部屋へ入ると、ジークヴェルトはそう声をかけた。
「失礼します」
ジルヴェスは頭を軽く下げながら挨拶をする。
「そうだな、軽く座ってくれ」
「あ、はい」
早速、ジークヴェルトは彼に椅子を勧め、ジルヴェスも素直に腰を下ろした。
「さて、早速だが話をするとしよう」
そして、ジークヴェルトはそう前置きすると話を始めた。
「お前が一年間を共にした機動六課、あいつはなかなかいい仕事をした。あの小狸も案外立派にやってたしな。だが、見るやつが見れば事件解決の影にはお前の尽力があったってことは分かるもんだ。それで、お前に昇進の話が来ているんだ。本来ならもっと早くに話があるはずだったんだがな、所属の違いとかもあって遅くなった。それで、どうだ、話を受けるか?」
「そう、ですね………………」
ジルヴェスは即答は出来ないのか、少し口ごもり考え込んでいるようだった。
「今の階級は一士だが、この話を受ければ二尉になる。まぁ、お前があまり階級に興味がないことは知っているからな、あまり魅力を感じないかもしれないが、空尉や陸尉ほどの階級であれば、今後いい具合に自由を利かせられると思うんだが、どうする?」
ジークヴェルトの言葉を聞いて、ジルヴェスは迷っていたが、そんなときに不意にいつの日にかはやてに言われた言葉を思い出した。
『--この先絶対に守り抜きたいと思えるものと出逢ったときに、力や地位、そして心強い仲間とか、使えるもんは多ければ多いほどええよ--」
そして、ジルヴェスは一人頷くと、ジークヴェルトに向き直る。
「昇進の話、受けさせてもらいます」
「そうか。これからも頑張ってくれ」
「はい」
ジルヴェスはそう言うと部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待て」
けれど、ジークヴェルトはそんな彼を呼び止める。
「はい、何でしょう?」
ジルヴェスは大人しくもう一度腰を下ろすも怪訝な表情は隠しきれていない。
「話は全く変わるんだが、お前にとある任務を頼みたい。六課帯同を終えてそう間もないが、頼むならお前が適任だと思うものなんだ。その任務、任されてくれるか?」
「ええ、全く構いませんが、その任務とは一体…………?」
ジルヴェスとしては部隊長であるジークヴェルトに任命されてしまえばどのような任務であれ拒むなどという選択肢は存在し得なかったし、そもそも、ジルヴェスでは不適当であるような任務を彼に任せるはずもないと思っていたから、ジルヴェスの答えは初めから決まっていた。
ただ、快諾するにしても少しはその任務のことを知りたいと思うのは当然のことだろう。
「ある人物の護衛とでも言うか、そんな感じのもんだ。ちと気になることがあってな。どうだ?やってくれるか?」
十分な答えというわけではなかったが、とりあえずどんな任務かは分かったからそれ以上のことは聞く必要はなかった。
「ええ。喜んでやらせていただきます」
「そうか。とりあえず、半年その任務に付きっきりでいてくれ。護衛さえしてくれれば後は何をしても構わん」
「あ、はい」
ジルヴェスは半年という期間を長いと感じ、違和感を覚えたが、特に気にすることでもないかと、それを無視することに決めた。
本当のことを言えばえもいわれぬ嫌な予感が頭を
「それじゃあ、この場所に護衛対象は居るから向かってくれ」
そう言ってジークヴェルトは住所の書かれた紙切れをジルヴェスに手渡した。
「了解しました」
「また長い任務になるが、よろしく頼む」
そして、今後こそジルヴェスは部屋を後にした。
六課から特捜隊へと戻ってからは、任務、任務、任務と、夏休み最終日に溜め込んだ宿題を一気に片付ける小学生の如く仕事に明け暮れ、荷物はほとんど解いていなかったのが幸いしたか、身支度はすぐに終わった。
そして身支度をさっさと済ませると、次は移動のためのバイクの準備を始めた。
先ほどジークヴェルトから受け取った紙切れに書かれた住所は一見したところバイクで行くのが一番楽そうであったためにジルヴェスはバイクを選んだ。
「護衛任務ね…………」
ただ、準備を整えながら誰に言うでもなく呟く。
「……俺なんかが誰かを守れるのか?」
彼の脳裏に浮かぶのは、JS事件の
結果的に言えば、
だが、ジルヴェスとしては、そもそもヴィヴィオが連れ去られたのは自分の力不足と怠慢が原因だと思っていた。そして、それが故に
いつだって誰かに守られて、自分は守るどころか奪うことしか出来なくて、そんな自分を変えたいからこれまで頑張ってきたのに、やっぱり自分は駄目だった。
結局自分は奪うだけの存在でしかないのだと、ジルヴェスは自覚していた。
だから今回、ジークヴェルトに「護衛任務」を任されたはいいが、果たして自分が適任だったのだろうかと、 内心では疑問を抱いていた。
「……いや、こんな風に余計なこと考えてたら本当に取り返しのつかないミスをしてしまう……気を引き締めていかないと」
だが、ジルヴェスはそう呟くと気合いを入れるように自らの両頬をパチンと叩いた。
「よし、早く向かうとしよう」
そして、整備の終わったバイクに乗って特捜隊の隊舎から走り去った。
「えーと、確か住所はこっちの方だよな……ん?」
バイクを走らせること30分。大体ジークヴェルトに教えてもらった住所の辺りに到着したが、そこであることに気付く。
「……何だ、この辺りには見覚えがあるような…………」
辺りの風景にジルヴェスはどうしてか既視感を覚えていた。
「……確か…………そうだ、去年見たんだ。去年の六課に行く前の時期に……え、まさか?」
そして徐々に既視感を覚える理由となる記憶が蘇ってくる。それと同時に、特捜隊の部隊長室で、ジークヴェルトと話をしていたときに頭を過った嫌な予感が再びジルヴェスを襲い、それはみるみる内に強まり確信へと変わっていく。
「……いや、でもそんなはずはないだろ。だって、だとしたらそもそも護衛なんて要らない……」
だが、確信へと変わり、それが強まると同時に、それはあり得ないと否定する気持ちもまた強まっていく。
「……えーと、そろそろ言われた場所だよな……」
そしてようやく、目当ての場所に着いたジルヴェスだったが、彼はそれまで抱いていた確信が正しかったと、そう認識するしかなかった。
なぜなら彼の目に映った、目の前の邸宅の表札に書かれていた名前は彼の知り合いのものだったのだから。
----そう、彼の知り合いである「八神」の文字がそこにはあった。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m