リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~   作:台風一過

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第103話 気まずい空気

 

 

 

 

「…………どういう、え……」

 

ちょうど目線に近い位置に付けられた「八神」の表札を前にして、ジルヴェスは言葉を失っていた。

だが、それも無理のないことだろう。

「護衛」となれば、何かしらの脅威に晒されている人物を対象にして行うものであるというのはある意味で常識的な認識であり、そこまでの脅威が自分の知り合い、しかもごくごく親しい人物の身に迫っているというのだから、その衝撃は計り知れない。

 

「……………………」

 

だがしかし、いくら衝撃が大きくても住宅を前にして何をするでもなくただずっと立っていれば誰だって不審に思うことだろう。

 

「そこ、うちの家になるんですけど、何か御用ですか?」

 

だから、非友好的な口調をした人が、今すぐ通報しますよ?という目でジルヴェスの背中を見ていても何もおかしくはない。

とは言えそんな目で見られていることは彼には分からないのであるが。

 

「ああ、いえ、そういうわけでは…………って、え?」

 

そして、ジルヴェスは声のした方を振り返ると唖然とした様子で再び固まった。

 

「え?」

 

しかも、声をかけてきた人もまた驚きを感じているようだった。

 

「なんで、あんたが居んねん……?」

 

そして、ジルヴェスを指差し疑問の声を上げる。

 

「あー、仕事、ですかね……」

 

ジルヴェスとしては、「護衛」という言葉は使いたくないという思いがあり、仕事という一言で誤魔化した。

 

「は?仕事でうちに来るんか?」

 

はやては訝しげな目でジルヴェスを見て、彼に決まりの悪い思いをさせている。

 

「……何も聞いてないんですか?」

 

ただ、そこでジルヴェスは気付いた。

ジークヴェルトが自分をはやての護衛に寄越したわけだが、それをはやて自身は知っているのだろうか、ということに。

 

「何のことや?」

 

けれど、返ってきた答えは「何も知らない」というもの。ジルヴェスはどうしようかと、背中に嫌な汗をダラダラと流していた。

 

「…………ちょっと待ってもらっていいですか?」

「え、ちょ--」

 

ジルヴェスははやての答えを聞くことなく、少し離れたところに移動して徐に個人通信を発信する。

 

『何だ、ジルヴェス。何か問題が発生したか?』

 

通信に出たのはもちろんジルヴェスをここに送ったジークヴェルトその人。

 

「問題というわけではないんですが、例の『護衛』の話は()()()()()にしてもいいんですかね」

 

そしてジルヴェスは「はやてさん」のところに意味ありげにアクセントを置いて、ジークヴェルトに訊ねる。

 

『ジルヴェス、少し怒ってるか?』

「いえ、別に……」

『悪かったな、ろくに話もしないで向かわして。ただ、カリム嬢が面白いだろうからそうしろって言ってきてな……』

 

ジークヴェルトはジルヴェスと目を合わせようとはせずバツが悪そうに言い訳などをしている。

 

「別に、本当に怒ってはいませんよ。ただ、『護衛』の件、はやてさんは知っているんですかね?」

 

護衛をされるということを本人に言わない方がいいのではないか、ジルヴェスはそう思っているから、先ほどからしつこくそのことについて訊いているのだった。

 

『まぁ、知らせてもいいんじゃねぇか。相手は八神だ。護衛されていると知ったからと言って不必要な恐怖を抱くこともないだろうし、むしろまともな理由も言わずにお前が傍に居続けるのは逆に無理だと思うんだが?』

「……そうですね」

 

なまじ親しいから理由なく傍に居るのは不審に思われるだろうというジークヴェルトの意見にジルヴェスは同意していた。

 

「お忙しいところお邪魔しました。失礼します」

 

そして一礼するとジルヴェスは通信を閉じ、そのままはやての元に戻る。

 

「はやてさんお待たせしました」

「あ、ああ……」

「それで、俺がここに居る理由ですけど」

「あ、ちょい待ちな」

 

ジルヴェスがいざ話そうとしたとき、今度ははやてが彼の話を遮った。

 

「とりあえず家の中に入らんか?……荷物が重いねん」

 

そして、少しだけ辛そうにしながら玄関の鍵を開け、ジルヴェスへ家に入るよう催促する。

先ほど不意にジルヴェスが離れたときも、はやては律儀に同じ場所で待っていた。

 

「あ、はい。すいません……お邪魔します」

 

ジルヴェスはよくよく考えてみると、どうしてわざわざ家の外で話していたのだろうかと思い至りそそくさと家の中に入っていった。

 

「あー、とりあえずリビングの方で(くつろ)いでてくれるか?」

 

はやてはやることがあるのか、そう言うとどこか別の部屋へと消え去った。

 

「え……ちょっと……」

 

知り合いの家と言ってもそう何度も来ているわけではなくジルヴェスとしては、そこでいきなり一人にされてしまうというのは気まずさを感じて仕方のないことであった。

しかも、これからはやてに対して「護衛任務」という不安を掻き立てるような話をしなくてはいけないのだ、彼自身が不安やら緊張やらを感じていても、さほどおかしなことではない。

 

「参ったな…………どうやって切り出そう……何かタイミングを逸した」

 

ただ、何も知らない第三者からしてみれば、今のジルヴェスはこれから告白しようとしていて落ち着きのない人、というように見えそうなものであった。

 

「それにしても、はやてさんはどこに行ったんだ?」

 

任務の話をするということから意識を外すためにジルヴェスは別のことを考えることにしたようだ。

と、そんなこんな過ごしているとパタパタと小走りに近付いてくる足音が響いてきた。

そしてすぐに部屋の扉が開かれてはやてが入ってくる。

 

「すまんすまん。思ったより時間がかかってしもうた」

 

そう言ってジルヴェスの目の前に現れたはやては白いワンピースの上にエプロンを着けていた。

 

「いえ、そんなに待ってませんよ」

 

ジルヴェスは、着替えていたのかなどと一人得心したりしていたが、それはさておいてとうとう話をする時だと内心ドキドキだったりする。

 

「ほんまか?ならええねんけど」

 

そして、はやては「お茶淹れたるわ」といって再びジルヴェスの元を離れるが、すぐに急須と湯呑みを2つ盆に乗せて戻ってきた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ジルヴェスは湯気の立ち上る湯呑みを受け取り、軽く頭を下げる。

 

「おおきに。そんで、今日来たんは仕事やってさっき言っとったけど、どういう意味か教えてくれるか?」

 

湯呑みに口を付け、一息つくとはやては本題へと入る。

 

「……まず、自分は詳しいことを知っているわけではありませんが、はやてさんの身に何らかの脅威が迫っているらしいんです。そこで、はやてさんの護衛として自分が派遣されました」

「へぇ……」

 

ジルヴェスの話を聞いたはやては平然としているようだった。それがジルヴェスには意外で仕方なかった。

 

「…………驚かないんですね」

「あ、いやこれでも驚いてるんやで?せやけど、何て言うかな、仮にうちを護衛してくれるにしてもジルヴェスはないだろうなって思うとったから、それに驚いてしもうて、逆に普通にしとるっちゅうか……」

 

はやては、何となく自分自身に対する微かな悪意のようなものを、薄々とではあるが感じとっていた。だからいきなりではあるが「護衛」だと言われても必要以上に驚くことはなかったのだが、その護衛役というのがジルヴェスであるというところに彼女は驚きを感じていた。

というのも、はやては何となくではあるが、ジルヴェスが他人を守るということに対して特別な思いを抱いていることに気付いていた。

だから、そんな彼が仮にジークヴェルトから任命されたからだとしても「護衛」の任に就いていることが意外で仕方なかった。

 

「……確かに、俺なんかが誰かを守れるのかって思いましたよ。実際今も思ってます。だからもしかしたら俺は役に立たなくて迷惑をかけてしまうかもしれません。でも、俺は今の俺に出来ること俺なりにやっていこうとも思ってますよ。だからこれからよろしくお願いします」

「よろしく…………って、これからっちゅうことはしばらくあんたの世話になるんか?」

 

と、そこではやてはそんなことに気が付いた。

 

「ええ、ヴェルさんには半年は付きっきりでいろみたいなこと言われましたね。基本的にはやてさんの傍に居るつもりなので」

 

そしてジルヴェスから返ってきた答えにはやてはアワアワと慌て出す。

 

「どうかしました?」

「……あ、いや、何でもあらへん。せや、何でもあらへんよ」

 

訝しげに見詰めてくるジルヴェスにはやては乾いた笑いで返すしかなかった。

 

 

 

 







ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m
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