リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「あ、やっと戻ってきた」
「すいません、遅くなりました」
2人きりのデートもどきから帰ってきたジルヴェスとシャルルを待っていたのは、2人の帰りが遅いことを心配していたなのはと、自分を構ってくれないことが不満足なヴィヴィオ、ジルヴェスがシャルルと2人きりだったことが気に食わないティアナ、そして、残り全員からの生暖かい視線だった。
「……はやてさん、その目を止めてください。何か無生に腹が立ちます」
そんな状況でジルヴェスははやてへと抵抗の矛先を向けることにしたようだった。
「何やねん、その理論は。うちはあんたのこと何とも思ってへんよ。別に、シャルルと2人で何してたのか、とか、まるでデートやな、とか、そんなに仲がええなら戻ってこんでも良かったんやで、とか、そんなことは全く思っとらんからな」
それに対するはやての返しは、何か色々と気になることがあるぞ、という嫌味ったらしいものだった。
とは言え、はやてとは付き合いの長いジルヴェスや、なのはたちには、それらのはやての言葉はどれも冗談としての嫌味であることは容易く見分けが付いていたのだが。
ただ、そうは言うものの、はやての悪い冗談だということが分かっていない人もいるわけで、特にジルヴェスと一緒に居たシャルルは居心地の悪い思いをしていた。
「その言い方はシャルルがかわいそうなんで止めましょうか?」
しかも、ジルヴェスとしては冗談とは言っても、そのように嫌味なことを言われる筋合いはないと思っていたから、割と強気な態度ではやてに向かっている。
「…………何であんたはそんなに怒ってんのや。ちょっとした悪ふざけやんか……」
はやてはジルヴェスが本当に不機嫌なのを感じ取って少しショボくれていた。
実際ジルヴェスは苛立っているが、その理由は、はやての嫌味な言葉などでは全くもってなかった。ただそれはジルヴェス以外の知るところではないが。
「あ、いや、なんかすいません」
そしてジルヴェスもまた、妙に気を落としているはやてに申し訳なさを感じて謝罪の言葉を発したのであった。
ちなみにシャルルは、
「………………何だ、冗談か。良かった……はやてさんを怒らせちゃったかと思った……」
と呟いて、安心したようにほっと一息吐いていた。
そのあと、残りの閉園時間までの間、みんな揃って色々と巡ったのだった。
◇◆◇◆◇
「………………まずい……」
ジルヴェスは夜風に吹かれながらぶつぶつと呟きを漏らしている。
あの謎の女に絡まれた後、すぐにでも行動を起こしたいのを我慢して、みんなが解散するのを待ち、焦る気持ちを鎮めながら、はやてたちと共に帰路についたのだった。
そして彼は今、誰かに通信をかけていた。
『…………はい』
「ユナか?俺だ、ジルヴェスだ」
『え?お前どうしたんだ?何かあったのか?』
対するユナは意外な相手に驚いていた。
「何かあったと言えば何かあったし、何もなかったと言えば何もなかった」
『は?』
全く意味のないことを言うジルヴェスに、ユナは「アホなのか、こいつは?」と内心思っていた。
「ユナ、単刀直入に言うぞ」
『…………ごくっ……』
ただ、ジルヴェスのいつになく真剣な面持ちと視線にユナは喉を鳴らして続く言葉を待つ。
「もしも俺に何かがあったときは全てをユナに任せる」
『…………え……?』
けれど、ユナはジルヴェスからの想定外の言葉に唖然としていた。
「もしかすると俺は厄介事に巻き込まれるかもしれない。そのときは申し訳ないがみんなに迷惑をかけることになると思う。だから、ユナにはそのフォローと、出来れば解決を頼みたい」
そんなユナの様子はお構いなしにジルヴェスは言葉を重ねていく。
『…………ちょ、ちょっと待て。どういうことだよ?意味分かんないぞ。ちゃんと説明してくれ』
「悪い、それ以上のことは言えない。というか、俺自身よく分かっていない。ただ、すごく嫌な予感がするんだ。だから、もしもの時のために、ユナには心の準備をしておいてほしい。俺の
ユナはジルヴェスのとても真剣な眼差しに、事の重大さを
『…………分かった。出来る限りのことはやる。でも、何も出来ないかもしれないからな』
そして、不承不承といった具合ではあったが、とりあえずユナは頷いた。
そもそも彼女にジルヴェスからの
それは実際のところ、本当のことだろう。
ジルヴェスが半ば強引にユナを六課へと連れて行ったわけだが、そうでなかったのならば、彼女もまたナンバーズの面々と同様の扱いを受けていたことだろう。仮に社会復帰が出たとしても、過去に起こした事件というものは一生着いて回るものであり、人によっては、ユナのような、そして、はやてのような、大きな事件に深く関わったことのある人間を、今現在の彼女たちを見ることもなく、全否定することだってあるだろう。
それでもユナが今、彼女の幸せを噛み締めていられるのは、ジルヴェスが自分に手を差し伸べてくれたからだ。
だから、彼のためになら何だってしようと、そう思っているのだった。
その感情は些か彼に対する依存が強すぎるかもしれない。
けれど、ユナ自身を認め、尊重してくれたのはジルヴェスが初めてだった。そして、彼は彼が最も隠したいであろう過去をユナへは話してくれた。
それは、彼がユナへと心を開いているからこそ、信頼してくれているからこそのことでもある。
だからその彼の気持ちに応えたいとユナは思うのだ。
「ユナ、ありがとな。任せたぞ」
ジルヴェスはそれだけ言うと通信を切ってしまった。
「………………何なんだ、全く……」
突然連絡してきたかと思うとしっかりした説明もなしに、とても重要そうなことを言い残し、またも勝手に通信を切ったジルヴェスに、ユナは呆れて物も言えなくなっていた。
「厄介事って何なんだよ。それを知りたいんじゃないか。じゃなきゃユナが何をすればいいのか分からないで、全部後手に回ってしまうじゃないか。お前はどうして、そうやって一人で抱え込むんだよ。…………いや、抱え込んではいないのか、ユナを頼ったんだから」
ユナは、これから先に何が起こるのか分からず不安を抱いていた。けれど、特に理由はないが、自分の身近なところでとても悪いことが起こるという予感がして、彼女の抱く不安をさらに強めることになっていた。
「……何かあったらユナが必ずお前を救うから…………お前がユナにしてくれたように」
それでも、その不安の中でユナは強く心に誓うのだった。
「…………とりあえず、今後のための布石は打った。これできっと最悪の可能性は摘み取れた……けど」
ジルヴェスはそこで一度言葉を切ってため息を吐く。
「やっぱり、俺のことを全部知られたのは痛いな…………」
遊園地で彼とシャルルが出会ったあの女が一体何をしたのか。
それはジルヴェスとシャルルの記憶のトレースであった。
直接触れた相手の記憶を読み取ることが出来るスキルを彼女は持っていたのだった。
そしてそれを、ジルヴェスたちに対して使用したこと、そして、今現在ジルヴェスの就いている任務のことを考えると、彼女がはやてを狙う犯人であろうことは想像に難くない。
だからこそ、ジルヴェスは自分のことを知られてしまったのを大きな痛手に感じていたのだった。
相手に自分の手の内が知られてしまっていることは、相手と戦いにくいということに繋がるのだから。
相手は自分の情報を持っていて、自分は相手の情報を持っていない。そのことが戦況に見逃せないほどの影響を与えることはほぼ確実なことであるとジルヴェスは考えていた。
「…………それに、
そして、ジルヴェスは自分の隠しきりたい過去へと思考を巡らせ、彼個人にとっての最悪の事態に小さくはない焦燥の念を抱いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m