リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~   作:台風一過

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第35~38話参照の過去回想編の続きにあたる話になります。




第114話 十字架 (過去回想編)

 

 

 

「…………………………」

 

ジルヴェスは自分のしでかしてしまったことで頭がいっぱいであった。

彼は自分自身が今どこに居るのかも分からないまま、森のようなところを歩いている。

 

「…………レイナ……」

 

自分が自らの力を扱い切れず、逆に力に使われたがために、大事に、そして愛しく思っていた少女を傷付けてしまった。

そのショックは彼には大きすぎた。

それに、力に溺れた彼を見たときのレイナの瞳は完全に恐怖に染まっていたように彼には見えた。

それは彼に対する拒絶と同義だ。

だから、彼は少女の命を繋ぎ止めるだけのことをして逃げ出したのだった。

そうして逃げ出したわけだが、今の彼にはこれから自分がすべきことが何か分からないでいた。

 

「…………レイナ、ごめんね」

 

そして、憔悴しきっていた彼はふっと意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん…………ここは……」

 

次に目覚めたとき、そこは森などではなく、どこかの部屋だった。

 

「!」

 

一瞬彼は、再びアイクに家まで連れて帰られたのだと思ったが、よくよく部屋を見渡してみると、そこは見覚えのない空間であった。

 

「おや、目覚めたかな」

 

彼がキョロキョロしていると、何とも黒い笑みを浮かべた男が話かけてきた。

 

「…………誰だ?」

「開口一番それはなかなか辛いね。まぁ、いいさ。私はエル・レイズ、しがない科学者だよ」

 

ジルヴェスの言葉に「参ったな」などと言いながら、エルと男は名乗った。

 

「…………それで何の用だ?」

「何って、そうだね、君に存在価値を与えてあげよう。今君は自分の存在価値に疑問を持っている。だから私がそれを無くしてあげるよ」

 

エルは自分に失望しているジルヴェスにとって、それはそれは、とても甘美な言葉をかけてきていた。

 

「……………………」

「無言ということは交渉は成立だ。それじゃあ、保険を掛けさせてもらおうかな。《シャッテンヘルシャー》」

 

そして、ジルヴェスが何の抵抗もしないことを良いことに、エルは彼に魔法を掛けた。相手の行動を操るという魔法を。

 

「…………………………」

 

元々生気は感じられなかったが、さらに生気を失い、ジルヴェスは虚ろな目をしたまま黙り込んでいる。

 

「…………ふふふ。まずは、こいつがどれだけ使える奴なのか確かめてやるとしよう……くくく……」

 

エルは不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

あれから1年もの間、ジルヴェスはエルの命令するままに幾つもの研究所や施設を襲撃した。

中には管理局と関係している施設もあり、ジルヴェスのやっていることは管理局に対する宣戦布告ともとれるような行動と言えた。

 

「…………くく。こいつは予想外だ。こいつは使える。使えるぞ」

 

これまでのジルヴェスの戦果を思い返して、エルは興奮気味に呟いている。

 

「これならば、ウィンザーの一族を根絶やしにしてやれる…………私のことを裏切ったあいつらには死の鉄槌を下さねばなるまい」

 

そして、エルは一人不気味に笑い続けていた。

 

「……おい、次はここだ。今度も期待しているからな」

 

しばらく経った頃に、ジルヴェスに向かって写真に写った邸宅を見せ、そんな指示を出した。

いつかに掛けられた魔法で、ジルヴェスにまともな判断能力はなく、襲撃などという明らかな犯罪行為に対して何ら疑問を抱かぬままに、エルからの指示に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここか」

 

ジルヴェスはすでに指示されたウィンザー家の邸宅の前に居た。

 

『着いたか?』

「……はい」

『ならば、破壊の限りを尽くせ。君にはそれが出来るだけの力がある』

 

画面越しのエルの言葉に、ジルヴェスは覚悟を決め、そして再び彼の持つデバイスを起動した。

それと同時にバリアジャケットが展開し、漆黒のマントを身に纏った彼がそこにはいた。さらに、何やら仮面のようなものを被り、変装までしていた。

 

「…………お仕事だ」

 

そして、ポツリとそう呟くとジルヴェスは鋭く地面を蹴って、目の前の邸宅へと突撃して行った。

 

「な、何だ!?」

 

突如の襲撃に、そこに居た者たちは驚き、そして自然と抵抗を見せる。

 

「《メテオフォール》」

 

しかし、そのようなことはお構いなしに、ジルヴェスは無慈悲な魔法を放つ。

何もかもを破壊しつくす魔法を。ジルヴェスが全てに失望することになったあの魔法を。

 

「……《飛龍一閃》!」

 

だが、襲撃されたウィンザーの一族の者たちもただ黙ってやられるはずもなく、ジルヴェスに反撃を加えようと、魔法を放ってきた。

けれど、その攻撃はジルヴェスのシールドに阻まれ、彼にダメージを与えることはない。

ジルヴェスには幾人ものウィンザー家の者たちを前にして、一切引く気配がなかった。

 

「…………《バレットシュート》!」

 

それでも、彼らはジルヴェスに向けて魔法を放ち続ける。

早くジルヴェスをダウンさせなければ、先ほど彼が発動した魔法が止むことはないと彼らには分かっていた。

そして、あの魔法が破壊の限りを尽くすだろうことも分かっていた。

 

「君は何のためにここに来たんだ!」

「………………」

 

そんな中でジルヴェスへと問いかける者がいた。

しかし、それにジルヴェスが答えることはない。いや、「何のために」、その理由を本来彼は持ち合わせていないのだから答えられずとも当たり前か。

 

「……まさか!エル・レイズか!?」

 

そこで、誰かがエルの名を口にした。

その言葉にジルヴェスは少し動きを止める。

 

「何故だ!どうしてこんなことを!?」

 

そして、エルの名を口にした者はどうしたままにジルヴェスに向けて訊ね続けている。

 

「…………………………」

 

ジルヴェスは尚も黙り込んだまま、無感情なその瞳を目の前の者たちに向けていた。

 

「……!まさか、ファーシャンベルグの家を襲ったのもお前か!?」

 

かのベルカの時代から続く数少ない家柄の内の一つがファーシャンベルグ家であった。

だから、そのファーシャンベルグ家が襲撃され途絶えたことは、同じくベルカ時代から残る家柄であるウィンザー家にも、自然と情報として入ってくるものだった。

 

「!」

 

しかし、その一言はジルヴェスの心をひどく傷付けるものであった。

自らの家を、家族を、滅茶苦茶にしたその犯人に自分自身が誤解されたことがどうしようもなく頭にきた。

 

「……お前の目的は何だ!?ベルカの血を絶やすことか?」

「うるさい」

 

尚も色々と目の前の男は言ってきていたが、ジルヴェスにはもう冷静な判断力は残っていなかった。

彼の怒りが湧き出るように、彼の周囲には黒の魔力光が煌めく。

 

「…………《ゲフリーレンシュトラーフェ》」

 

そして、凍厳境(ニブルヘイム)を生み出した。

 

「…………カルトザータン……」

 

その魔法を見て、そう呟いたのは果たして誰か。

さらに徐々に魔法の有効範囲は広がっていき、ウィンザー家の邸宅の全てを包み込むほどになった。

そして、全ては凍てつき、そこだけが時間の流れから取り残されたようになっていた。

 

「………………お仕事は、完了だ……」

 

ジルヴェスはポツリと呟いた。

 

「…………何なの?……お父さん……!?お母さん……!?」

 

そのとき、異様な雰囲気のその家へとやってきた少女がいた。

彼女は、凍りつき動かぬ人形となった者たちを見て絶句し、今ジルヴェスがいる部屋の扉のところで固まっている。

 

「え?」

 

ただ徐々に彼らの状況を理解すると、彼女はふらりふらりとジルヴェスの方へと近付いてくる。

 

「…………え……て……」

 

さらに、目の前の少女が何かを呟いた声が聞こえた。

 

「……返して、お父さんとお母さん、みんなを返してよ!」

 

それは、奪われた家族を求める叫び。そして、家族を奪い取ったジルヴェスに対する悲痛な叫びだった。

まだ幼い彼女にはそうやって叫ぶことしか出来なかった。

たとえその憎き犯人を前にしていても何もすることが出来なかったのだ。

その彼女の姿を前に、ジルヴェスの中で何かが崩壊する音が響いた。

それはまるで、彼の意識を現実へと呼び戻し、それと同時に彼の心が壊れ始める合図のようだった。

 

「………………すまない……」

 

そして、彼はそれだけ呟くと逃げるように姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「…………僕は、なんてことをしたんだ……」

 

ジルヴェスは、エルの待つ研究所へと戻りはしたが、彼と顔を合わせることもなく、彼からあてがわれた部屋に篭って、その身を震わせていた。

彼の目を醒まさせ、それと同時に彼の心を追い詰めたのは、幼い少女の目の前でその家族を亡き者にしたという事実だった。

かつて彼もまた目の前で家族を殺されるという経験をした。そして、その犯人に対して強い憎しみを抱くと共に生きる希望を失った。

だからこそ、家族の大切さは人一倍分かっているつもりだったし、レイナたちという温かな人々との触れ合いの中でそれは確かなものになった。

だがしかし、結局彼はレイナを傷付け逃げ出し自身に失望し、さらには、その心の弱みに漬け込まれ、多くの人々を傷付けた。

そして、遂にはかつて自身が受け憎んだ災厄を自らの手で、何の罪もない少女へと降りかけてしまったのである。

しかも、彼はここでも逃げ出した。

自分にとって大切なものを失う経験を一度ならず二度までも繰り返してしまったことが、彼の失望を絶望へと塗り替えた。

ジルヴェスは世界の全てに絶望してしまった。そして何よりも自分自身に絶望した。

自分はもう決して赦されない存在になってしまったのだと思った。

これから自分が何をしても、そして何をされたとしても、決して解き放たれることのない罪の意識に、自分は一生苦しむのだと、そう感じていた。

しかし、それは仕方のないことだと諦めてもいた。

自身の家族の死は結局は自らのせいであり、さらには、彼を温かく迎えてくれた少女を傷付け、その家族を悲しませた。しかもそれだけではなく、名も知らぬ少女を悲しみのどん底へと叩き落としたのだ。

むしろ自身の受けるだろう苦しみは当然のものであるとすら考えていた。

そして、ジルヴェスは数日もの間茫然自失としたまま過ごすことになる。

 

 







ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m


かなり日が空いてしまいました……
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