リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「………………あのすぐ後に、ヴェルさんたちが乗り込んで来たんだよな……」
自らの記憶を辿りながら、ジルヴェスはポツリと呟く。
「きっと、ヴェルさんが居なかったら今の俺は居ない。いや、それどころか生きていたかどうかさえ……」
ジルヴェスは自分の過去を思い出して、様々な、「もしも」や「だったら」を考えて、ため息を吐いている。
「…………それにしても、これまで本当に色んな人にお世話になったな……ヴェルさんにカリムさん、はやてさんに教会の方々。それに何より、なのはさんたち…………やっぱり、今の関係を壊したくない…………はぁ、どうしてこうなったんだ……やっぱり俺は弱い…………いつかこうなることくらい、分かっていたことじゃないか……」
一番初め、なのはたちと出会ったときには「仮初めでもいい」なんて考えていたのに、今ではもう、そんなものでは満足出来なくなっていた。
「…………つくづく自分がわがままだと痛感するよ……」
だから、そんな自分に呆れたような呟きを漏らすのだった。
「おーい、ジルヴェス、あんたそんなとこで何やっとんのや?」
すると、ベランダに佇んでいたジルヴェスに、はやてが声をかけてきた。
「え?あ、いえ、何もやってませんよ。ただ、星が綺麗だな、と」
はやてに今の呟きが聞かれてしまったかと焦ったジルヴェスであったが、彼は彼女へと視線を向けることもなく言葉を返す。
「…………まぁ、せやな」
はやてもジルヴェスにつられて夜空を見上げる。
「ところで、一体どんな用ですか?」
「んーとな、ちょっとあんたが悩んでるみたいやったからさ、気になったんよ」
そして、お互いに目を合わせることなく会話は続く。
「そう、ですか……意外と鋭いんですね」
「あんた、うちのこと馬鹿にしとるやろ?はぁ……あんたともう何年付き合っとると思ってんねん。あんたが悩んどるかくらいは分かるわ」
そう言ってはやてはジルヴェスの隣に立つ。そのときの彼女の横顔は穏やかではありながら、とても心配そうであった。
「ですよね。そうだ、はやてさん」
「何や?」
「もしかしたら、俺、みんなに迷惑かけるかもしれません。みんなを傷付けるかもしれません。それでもここに居ていいんですかね」
「何をい…………」
はやては咄嗟に馬鹿なことを言うなと言いそうになった。
が、彼女からは見えないはずのジルヴェスの今の表情が分かってしまって、何も言えなくなってしまった。
「…………ジルヴェス、一つだけ言っとくで。うちは、いや、うちらは、やな。あんたに迷惑かけて欲しいって思っとるんよ。せやからな、そんなこと気にせんでええんやで」
「…………あなたたちは優し過ぎますよ。いっそ突き放してくれる方が気が楽になるのに。とりあえず、俺はもう寝ます。おやすみなさい」
そう言うが早いか、ジルヴェスは足早に去ってしまう。
「……どうしたんやろな、ジルヴェスのやつ。シャルとどっか行って帰ってきたあたりから妙に落ち着きがなかったっていうか、焦ってたっていうか」
はやては彼の後ろ姿を眺めながら、ポツリと呟く。
「それにしても、あいつはいつまでうじうじと悩んどるつもりなんや…………過去に何があったのかは知らんけど、うちならきっと力になれると思うのに……うちだって夜天の罪を背負って生きていくって決めたんやから……」
その呟きからは、あの日、夜天の主となったあの日からずっと抱き続ける一つの決意が窺えた。
「…………うちなんかの護衛なんてせんでええのに……」
ジルヴェスが自分自身のことでネガティブなことを言うのはいつものことではあったが、何となく、今日の彼の悩む姿は本物である気がした。
「……まぁ、うちはあいつやないし、考えても無駄、やな」
はやてはそう言って切り替えると、自分の部屋へと引き上げていった。
◇◆◇◆◇
「ねぇねぇ、シャル、今ちょっといい?」
「え?はい」
シャルルに声をかけてきたのは、なのはだった。
「あのさ、シャル、ジルヴェスと何かあった?」
「ふぇっ!?そ、そんなことはないですよ!」
なのはは、帰り際の、いや、シャルルと一緒に戻ってきてからのジルヴェスの様子がおかしいことに気付いて、それまで彼と一緒に居たシャルルが何か知ってはいないかと考えていたのだが、予想外に慌てるシャルルに、なのははちょっといたずら心が湧いた。
「へぇ、何かあったんだぁ。それって何なの?もしかしてジルヴェスと何か恥ずかしいことしちゃったの?」
ただ、自分で言っていて、なのははすごく恥ずかしく感じていたのだが。
「…………あぅ……」
一方のシャルルはそう言われて、何か思い出しているのか、顔を赤らめ、口をもごもごとさせる。
「え?本当に……?」
けれど、そんなシャルルの様子を見て、なのはは無性に落ち着かなくなってしまった。理由はなのは自身には分かっていなかった。
「…………あっ!そう言えば、途中から急にジルヴェスさん真剣な顔して何か考え事してましたよ」
しかし、シャルルは話を逸らそうと思ったのか、唐突に声を上げると、これまたなのはが食い付きそうなことを言う。
「途中から?」
「ええ。私が、移動中に女性とぶつかってしまいまして。あ、でもちゃんと謝りましたし、相手の方も許してくれました。それで、その方に頭撫でられちゃったんですよ。『仲の良いカップルね』みたいなこと言われながら」
シャルルはそう言いつつ、どこか幸せそうな表情を浮かべている。
「あー、うん……」
なのはとしては何とも言えない気分になりつつ、シャルルの話を聞いていた。
「あ。で、その流れでジルヴェスさんも頭撫でられてたんですけど、その直後あたりから、雰囲気が変わった感じで」
シャルルは再び話を戻すと、真面目な顔でなのはに話す。
「急に?」
「ええ。ジルヴェスさん、そんなに頭撫でられるの嫌だったのかな…………」
シャルルはそんな見当外れなことを呟いているが、なのははそんなはずがないと考えていた。
日頃無愛想にしているジルヴェスではあるが、さすがに露骨にそんなことをする人ではないと、なのはは認識していた。
「…………もしかして、何か事件が起きるってこと……?」
そして、期せずしてなのはある種真実へとたどり着いていた。
「…………今度、聞いてみようかな。でも、やっぱりジルヴェスは教えてくれないんだろうな」
なのはは呟きながら、これからどうしようかということを考えていた。
「……あの、なのはさん」
「何、シャルル?」
そんなこんな会話が途切れた頃、
「今さらなんですけど、ヴィヴィオと帰らなくて良かったんですか?」
なのはは今、シャルルと一緒に武装隊の宿舎に向かっていた。
「本当は一緒に帰ってあげたかったけど、ユナにお土産あげたいし。それに今日はフェイトちゃんが送ってくれるって言ってたから」
だからきっと大丈夫。と、そんなことをなのはは言うのだった。
「そうですか。でもなのはさん、余計なお世話だとは思いますけど、今のまま働いていると、ヴィヴィオとの時間がなかなか取れなくなるんじゃないですか?だから、しばらくはもう少しゆとりのある職場に異動した方がいいと思うんですけど…………」
シャルルは、別に自分がそのようなことを言わずとも、なのははしっかり考えているということは十分理解していたから、とても言いにくそうにしながら、一つの進言をしていた。
「うん……やっぱりシャルもそう思うよね…………色んな人にそれを言われて、少し悩んでたんだ。そりゃ、私もヴィヴィオとの時間を作りたいけど、私の勝手な都合で局に迷惑かけられないし……」
彼女の悩みは至極単純だ。
これまで、とりわけ意識してきたわけではないにせよ、エースとしての自負を持って前線に立ち続けてきたわけで、そんな自分が前線から、一時的にとは言え、
「なのはさんならそう言うと思ってました。だけど、私は知ってますよ。なのはさんの身体の状態が良くないこと。もしも、これからもずっと今みたいな生活を続けたら、きっとその内身体を壊しちゃいます。だから、この機会に一度休むのはどうですか?ヴィヴィオとも一緒の時間が作れますし。すごく良いと思うんですけど…………」
シャルルにそう言われて、なのはは「弱ったな」と思っていた。
また、自分の隠し事に気付いた人が増えてしまった。
まだ駆け出しだった頃に大怪我をして、それから幸運にも復帰してからは、その遅れを取り返すようにがむしゃらになって働いてきた。そして、そんなことをしていれば、当然身体には無理がくるのは不思議でも何でもない。
それを自分自身で分かっているからこそ、シャルルの言葉は強くなのはに突き刺さる。
「……ちゃんと考えてみるよ。まぁ、シャルもユナも居るから、私が抜けても大丈夫だもんね」
だから、今一度しっかりと考えようと思った。
本当に自分の都合を通していいのかという後ろめたさを、おどけることで隠して。
「もちろんです!なのはさんが帰ってくるまで、しっかりと守りきりますよ」
そんななのはの気持ちに気付いているのか、シャルルも、なのはの言葉におどけた感じに言葉を返した。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m
ほぼ一ヶ月ぶりになりました…………今後も少しずつ書き進めていきますのでよろしくお願いします