リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
部屋に居てもすることはないから、支度を素早く済ませ、早々に待ち合わせ場所にジルヴェスはやって来ていた。
「少し早く着き過ぎたかもしれないな。それにしても、ホントになのはさんは何で俺なんかに声をかけて来たんだ?」
支度をしていたときの疑問をもう一度考えてみるが、答えは分からなかった。
「まぁ、いいか。せっかくなのはさんとどっか行くわけだから楽しまないと」
ジルヴェスはそんなことを考えるくらいには、なのはたちのおかげで、人付き合いを楽しむようになっていた。
「……そろそろなのはさん来るかな」
しばらく待っていると、そろそろ待ち合わせの時刻になっていた。
「ご、ごめん…待った……?」
そのとき、なのはが走ってこちらに向かってきた。
「いえ、俺もさっき来たばかりですし。そんなに慌てる必要なかったですよ」
「ありがと」
ジルヴェスの気遣いになのははお礼を言う。
「じゃあ、どこに行きますか?」
「え?」
ジルヴェスの質問に、なのはは思わず聞き返していた。
彼としては、なのはがどこか挙動不審なように見えて、何となく心配になった。
「え、って、なのはさんどこか行きたい場所があったんじゃないんですか?」
そして、ジルヴェスはもう少しはっきりとした内容を質問することにした。
「ううん、特には……」
なのははそれに対して少し言葉を詰まらせながら答える。
「じゃあ、何で俺を誘ったんですか?」
そこでジルヴェスはずっと感じていた疑問を訊ねてみることにした。
「分かんない……気付いたら連絡してたの…わざわざ呼んだのにごめんね」
なのはは本当に分からないといった顔つきで、どこか弱々しい印象まで感じられた。
「いえ、別にいいんですけどね。それじゃあ、思いっきり楽しみますか?」
「うん……」
「分かりました。ではでは、遊園地にでも行きましょう」
「きゃっ」
そう言って、なのはの手をとり、ジルヴェスはレールウェイに乗り込んでいった。
手を握られたなのはは軽く驚いて声を上げ、そしてその顔を赤く染めていた。
◇◇◇
「それじゃあ、あれから乗りましょうか」
そう言ってジルヴェスが指差すのは、絶叫必至のジェットコースター。
「え……?あれに、乗るの…?」
見るからに怖そうなコースターを前に、なのはは軽く
「あ、もしかして、怖いんですか?」
ジルヴェスは、怖がるなのはを見て意地の悪いことを言う。
「そ、そんなことないもん」
「本当ですか?」
彼は調子に乗っているのか、なのはの目を覗き込みながらさらに言葉を重ねていく。
「ほ、ほら早く乗りに行くよ!」
それに耐えられなくて、なのはは逆に自分からジルヴェスの腕を掴んで、乗り場に歩いて行った。
「あ、ちょっと待ってくださいよ」
そして、ジルヴェスは足を
◇◇◇
そして、ジェットコースターから降りて───
「大丈夫ですか、なのはさん?」
日陰に設置されたベンチに座るなのはに申し訳なさそうな視線を向けながら、ジルヴェスは心配そうに言葉をかける。
「うん………大丈夫…」
口では大丈夫だと言っているが、ジェットコースターに酔ってしまったのか、なのはの顔色は
「すいません、調子に乗りすぎました」
それを見て、ジルヴェスはまたも謝っていた。
「ううん、大丈夫だよ。次はどこに行く?」
けれど、なのはは気にしてないと言って、次にどこに行くのかを催促した。
「そうですね、なのはさんは何がいいですか?」
「う~ん、とりあえずは激しくないのがいいなぁ」
苦笑いを浮かべながらなのはは言った。
「ですよね。それじゃあ、遊覧船のアトラクションに行きますか?ゆっくり園内を流れる川を下っていくんです」
「それがいいかも」
なのはは、ゆったりとしたアトラクションだと聞いて賛成してくれた。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、ジルヴェスとなのはは目的のアトラクションに向かって行った。
◇◇◇
しばらく、色々と
「なのはさん、これに入りますか?」
「え………?これに……?だ、ダメだよ。私こういうの苦手だから…」
怖がって中に入るのを嫌がり、首を横に振っているなのはが可愛くて、ジルヴェスは、不気味な雰囲気を漂わせているアトラクション──要はお化け屋敷──に入ろうとする。
「大丈夫ですよ。ここはそこまで怖くないんで」
「………本当に?」
「ま、まぁ、おそらくは……」
軽く涙目で訊いてくるなのはに、ジルヴェスは罪悪感を抱いて、言葉を濁す。
「やっぱり怖いんだ…嫌だけど、ジルヴェスがどうしてもっていうなら入るよ……」
なのはは、日頃の凛々しさはどこへやら、とても弱々しかった。
「いえ、いいです。というか、こんなに怖がってるなのはさんを無理矢理お化け屋敷に入れるのは気が引けます」
「あ、ありがとう……」
「じゃあ、時間も時間ですし、最後にあれに乗って帰りましょうか」
そう言ってジルヴェスが指差すのは、いわゆる観覧車。
「うん、いいね。行こうよ」
観覧車と聞いて復活したのか、はたまた、ジルヴェスの気が変わらないうちに観覧車に乗ろうと思ったのか、なのはは再び彼の腕をとって乗り場へと歩いて行く。
「そんな引っ張らないでくださいよ」
そうして、なのはに引きずられるまま、二人は観覧車の乗り場に着いていた。
「そう言えば、観覧車なんていつぶりだろう」
観覧車に乗り込みながらなのははそう呟いた。
「なのはさん、忙しいですもんね。それでなのはさん、今日はどうでしたか?楽しんでもらえましたかね…?」
ゆっくりとゴンドラが上がっていく中、ジルヴェスは対面に座ったなのはにそう訊ねた。
「うん!ときどき、ジルヴェスが私をいじめてきたけど、本当に嫌なことはしなかったから、すごく楽しめた」
なのははとびきりの笑顔を浮かべていた。
「そうですか。良かったです」
「でも、どうしてそんなことが気になったの?」
けれど一転、なのはは真面目な顔つきで問った。
「そりゃ、一緒に遊んで、相手が楽しかったかは気になるじゃないですか。それに、待ち合わせたときになのはさん、何かに悩んで思い詰めていたみたいだったので。俺なんかで役に立てるか分からなかったけど、なのはさんのために何かしたいと思ってたんです」
ジルヴェスはふざけることなく、真剣に答えた。
「ジルヴェス、ありがとう。ジルヴェスのおかげですごく楽になったよ。やっぱりジルヴェスは優しいね」
なのはは笑顔でそう言った。
「そんなことないですよ……ただなのはさんのためになりたいっていう俺の自己満足でしかないですから。
「あいつ……?」
なのはは、ジルヴェスの言葉の中に気になる単語を見つけ、それを呟いた。
「…………」
しかし、ジルヴェスは黙り込んで、なのはの呟いた疑問には答えなかった。
「いつか、教えてね」
「はい」
なのはとジルヴェスは互いの目をまっすぐに見据えて、そう約束をした。
「そう言えば、夏休みが終わったら戦技競技会があるよね?」
なのははふとそれを思い出し、ジルヴェスに確認した。
「確かあった気がしますね」
「いつあるのか教えてもらってもいいかな…?」
「はい。分かりました」
ジルヴェスは「どうしてそんなこと聞くんだ?」と思ったが、訊くのはやめた。何となく訊くのは野暮だと感じたからだ。
◇◇◇
「今日はありがとね。すごく楽しかったよ。また今度遊びに行こうね。フェイトちゃんとかはやてちゃんも誘ってさ」
遊園地を出てレールウェイの改札で、なのははそう言った。
「そ、そうですね。
ジルヴェスは嫌な予感しかせず、苦笑いを浮かべていたが、なのははそれを気にしている様子はなかった。
「じゃあ、私こっちだから」
「はい。俺も楽しかったです。ではまた」
そう言って、二人はそれぞれ別々の電車に乗った。
◇◇◇
「ジルヴェスのために何かしたいってそう思ってたのに、結局私のためにジルヴェスがよくしてくれた……ダメだよ、私……」
ジルヴェスとの「デート」から帰宅して、ベッドで枕に顔をうずめながら、なのははそんなことを呟く。
「やっぱりジルヴェスは優しいな…」
そして地球でナンパに絡まれていたときのことを思い出していると、自然と笑みがこぼれてきた。
「けど、なんで今日はジルヴェスに声をかけたんだろう……?お仕事が休みだと思ったら、どうしてかジルヴェスに連絡してた…」
ところが、なのはは自分の行動の理由が分からず、一転して釈然としない、そんな表情に変わった。
「でも、ジルヴェスに声をかけて正解だったかな。すごく楽しかったし、何より気持ちが楽になった。なんか新しい気持ちだな…」
なのはは初めての感情に戸惑いつつも、何か新しい可能性を感じて胸を躍らせていた。
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