リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
ジルヴェスは音もなくティアナのもとへ走る。
「一刀両断っ!」
そして、正面から斬りつけた。
「くっ……」
辛うじてデバイスで受け止めたが、ティアナは体重の乗った一撃に後方へ飛ばされた。
「《水龍一閃》!」
さらに、吹っ飛ばされ、宙に浮いて回避のとれないティアナへスバルにも使ったあの魔法を続けざまに放ち、追撃する。
ティアナはさらなる攻撃と、吹き飛ばされビルに直撃した二重のダメージを受けた。
「痛っ……でも、倒れてなんていられない」
しかし、すぐさま立ち上がり、魔力ワイヤーをビルの外壁に向けて放つ。
そして一気にビルの屋上へ移ると自身のコピーを造り出した。
「……はぁっ……はぁっ……」
けれど、ティアナの息はすでに上がっていた。
なのはが指摘したように、ここまでくる間の試合でもかなりの魔力を消費し、先ほどのジルヴェスの攻撃によるダメージも軽くはない。だから、相当コンディションは悪かった。
「……でも、そんなこと言ってられない……私は勝って、この『魔法』を証明しなくちゃいけないのよ……」
猛執にも似たその感情だけが、彼女にここまでさせていた。
「《メテオシューター》!」
自身のコピーを含めた複数のデバイスから一斉に魔法を発動し、手当たり次第に魔力弾を撃ち込む。
半ば自棄になっているようでもあった。
さらに、ティアナの魔法で辺りの建物は半壊状態になっている。
「おいおい、さすがに無茶だろ……」
ジルヴェスはいたって冷静で、ティアナが常識的に有り得ないことをしていると考えていた。ここで言う常識的に、とはモラルとして、ということであって、ティアナがこのレベルの魔法を使えることにとやかく言っているわけではない。
こんな滅茶苦茶な魔法の使い方は、敵に囲まれてどうしようもないときか掃討戦のときでしか普通はしないからだ。
だから、今のティアナは滅茶苦茶だと思った。だが同時に分かってしまった。ティアナも自分と同じように、過去の「何か」に囚われていると。
分かってしまったから、ジルヴェスは覚悟を決めた。
「スバルが言ってたのはこういうことか……」
ジルヴェスは地面を蹴り、ティアナのいる屋上に跳んだ、ように見えた。しかも、一瞬で。
「ほぇ?」
ジルヴェスとティアナの戦う様子を見ていたシャルルは思わず声を上げていた。
「どうしたの?」
「いや、さすがに、クラインさんのやってることは有り得ないんじゃないかなと……」
「今の……?」
「ええ。一見すると跳んだようにも見えますけど、あの高さと距離を一蹴りで、というのは不可能じゃないかと」
彼女の想定を超えるジルヴェスの動きにシャルルの理解はまったく追い付いていなかった。
「だから、翔んだじゃないか、ってこと?」
「はい…」
「さすがに違うんじゃないかな。まぁ、翔べても驚かないけどね」
なのはは苦笑いを浮かべて、話を続ける。
「どちらかと言うと、転移系の魔法じゃないかな。かなり素早く移動してたし。あまり、考え込まなくてもいいと思うよ」
「ああ、転移系ですか……なら納得です」
シャルルは簡単になのはの言葉に納得していた。
それは彼女が何も考えていないからではなく、魔法に関してなのはの言うことは正しいという信頼によるものだった。
「えっ?」
ビルの下にいたはずのジルヴェスが次の瞬間にはビルの屋上、しかも、自分の背後に移動したことにティアナは驚きを隠せないでいた。
「驚くことはないだろ」
「はん、そういうことね。あんたは『才能持ち』なわけ」
「才能持ち」すなわちレアスキル保有者と分かり、ティアナは鼻で笑う。
「ランスター訓練生はどうしてそこまで必死なんだ?」
「…………」
そして、ジルヴェスからの問いかけも無視し、構えを保つ。
「俺には分かる。君も何かを抱えてるって。それに囚われて周りが見えてないって」
「そんなこと、あんたには関係ないでしょ?ただ、私はあんたに負けるわけにはいかないの」
ティアナはジルヴェスを無視していたが一言素っ気なく、そして親の仇でも見るように睨み付けながら呟いた。
「まぁ、話してくれなくてもいい。けど、俺も負けるわけにはいかないから。それに、いくら力があっても使い方を間違えたら意味がないんだよ」
自嘲的な笑みを浮かべながらそう言って、ジルヴェスは構え直す。
「吹き荒れよ、《インペリアルブリザード》っ!」
そして、魔法を発動するとジルヴェスを中心に猛烈な吹雪が発生した。
夏から秋に移り変わってきているとは言え、まだまだ暖かいにも拘わらず、その勢いは衰える様子はなく、むしろどんどん増してすらいる。
「………《
さらなる魔法を発動すると、先ほどまで吹雪く雪だったものが、次の瞬間宙を飛び交う氷の粒へと変化した。
ティアナはそれらの飛び交う吹雪のフィールドから逃れるように一歩、また一歩と後退していく。
その間も反撃とばかりに魔力弾を撃ち込むが、それらは全てジルヴェスの周りを飛ぶ氷の粒に掻き消されていた。
その中心に佇む姿はまさに、帝王のようであった。
「くっ………」
ティアナは心底悔しそうな表情を浮かべる。
そんなティアナに向かって、ジルヴェスは彼の周りを飛び交うものより一回り大きな氷の塊を投げつけた。
「何のつもりよっ」
ティアナがそれをデバイスで叩き落とそうとしたとき
「…《
ジルヴェスがそう口にした。
するとティアナの目前に迫っていた氷塊がいきなり消えた。
その代わりに、そこを基点にするかのように爆風が広がる。
その爆風にティアナは吹き飛ばされ――――
――――――屋上から投げ出された。
「あっ…………」
ティアナは、自身を支えるものが何もなく、周りの景色が下から上へ流れるのを見て、覚悟を決め目を閉じた。
そのまま落ちていれば間違いなく大怪我をするだろう。
「…………え?」
けれど、いつまでも地面に激突する衝撃はなく、恐る恐る目を開くと、つい先ほどまで立っていた屋上に仰向けの状態で横になっていた。
慌てて立ち上がり、周りを見渡すがジルヴェスの姿はなかった。
その代わりに聞こえてきたのは何かが硬いものとぶつかるような鈍い音。それこそ、人が壁に激突するような、そんな不吉な物音。
「っ!」
ティアナは不意に嫌な予感がして、屋上の縁まで行って恐る恐る下を見る。
「……そ、そんな……うそ……嘘よ……!」
そして、眼下の様子を見て動揺を隠せなかった。
ジルヴェスは仰向けになって、動く様子がない。さらに、血も流れているようで、地面が赤く染まっていた。
『中止!模擬戦は中止だ!』
『医療班は至急駆け付けろ!それまでは無闇に彼を動かすな!』
そして、ジルヴェスを囲んで教官たちが大声で各方面に指示を出していた。
ティアナはそんな教官たちの声を遠くに聞いて、ただ呆然としていた。
「………何が起きたのよ…あいつは何なのよ……」
呆然とする中、ポツリと呟いた。
その声は風に流され誰の耳にも届かなかった。
----本人ですら呟いたことに気付いていなかったのだから。
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