リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「え…………ジルヴェス、ジルヴェス!」
大量の血を流し、ピクリとも動かないジルヴェスを見てなのはは激しく動揺していた。
そのジルヴェスの姿はまるで、機械兵器に不覚をとったときの自分自身に重なって見えた。だから、余計に動揺してしまったのかもしれない。
シャルルはそんな彼女に何て声をかければよいか分からずただただ無言で傍にいることしか出来なかった。
「…………ダメだよ……そんなことしたら……」
なのはは何事か呟きながらフラフラとジルヴェスの倒れているところへ歩いていこうとする。
「なのはさん、ダメですよ!今のなのはさんが行っても迷惑になるだけです」
けれどシャルルはなのはの腕を掴み行かせない。
確かに、今のなのはは動揺からいつもの聡明さは微塵も感じられない。シャルルの言う通り、足手まといにしかならないだろう。
「…………シャル…………ありがとう」
なのははシャルルの言葉で自分がまともな精神状態にないことに気付いてその場に留まった。
「いえ。きっとクラインさんなら大丈夫だと思いますから。そう信じて待ちましょう」
シャルルのこの言葉になのはは力なく笑いを返すだけだった。
ただ、シャルル自身心配そうにジルヴェスの方を見詰めていた。
「…………クラインさんのこと、まだ何も知りませんけど、あなたはこんなところで終わる人ではないですよね……?」
そして、シャルルはなのはには聞かれないように、ポツリと呟いた。
「…………あぁ……」
ティアナは茫然として、その場から動く気配がない。
「ティア、行こ」
そんな彼女のもとにスバルが歩いていく。
「…………スバル……」
ティアナは何も言えることがなくてただスバルの名を呼ぶだけだった。
「とりあえず部屋に戻ろう。ね?」
すでに、競技会は中止の決定が下され、各訓練生たちは部屋に戻り始めていた。
「……うん…………」
ティアナは力なく頷き、立ち上がり、スバルはティアナの手を取り歩く。ティアナは憔悴しきっていて、なされるがままにスバルの隣を歩いていた。
「……ねぇ、スバル」
部屋に戻ってからもしばらくの間ずっと二人は無言だった。けれど、その静寂を破るようにティアナがスバルに呼び掛ける。
「何、ティア?」
スバルは至って落ち着いた様子で返事をする。
「……私のせいなのかしら……?」
「何が?」
スバルはティアナが何を言いたいのか分かっていた。けれど敢えて彼女は何も分かっていないフリをする。
「……あいつ、クライン訓練生が怪我したの……」
「私は、ティアは悪くないと思うよ。あれは何から何まで全部ジルヴェスくんの魔法だもん。悪いとしたらジルヴェスくん本人だけだよ」
そう語るスバルの言葉は些かジルヴェスに冷たいようにも思えるが、彼女もまた彼が怪我したことにショックを受けているのだ。それは間違いない。
「……そう、ね。私は何も出来なかったものね……」
「そんなことないよ。ティアは十分すごいよ。今回はちょっとタイミングと相手が悪かったんだと思う」
「それ、フォローのつもり?」
そう言うティアナの顔には少し笑みが戻ったようにも見える。
「だけどさ、ティア。ジルヴェスくんってティアが言ってたような嫌な人だったかな……?」
スバルは一言一言、言葉を選ぶようにティアナに訊ねた。
「…………分からないわ……私には全然、あいつのことが分からない」
「分からないなら、これから分かればいいよね」
難しい顔をしてしまったティアナにスバルは微笑みかけた。
「そういうあんたはどうなのよ?」
「私?私はジルヴェスくんはいい人だと思う。すごく優しい人だと思う。さっき戦ってそのことがよく分かった」
そう語るスバルの表情はなんとも清々しいものであった。
「そう…………あんたはいいわね。あたしはそう簡単には割りきれないから……」
ティアナは葛藤の中に苦しんでいるようであった。
「じゃあ、シャル、よろしくね」
「はい……」
なのははジルヴェスのことが心配でならなかったが、仕事をサボるわけにもいかず、苦肉の策として、シャルルを訓練校に残すことにした。
「クラインさんが目を覚ましたら連絡します」
「うん。よろしくお願いね。それに、わざわざ残ってくれてありがとう」
「気にしないでください。この程度のこと、何てことないですよ。それに、なのはさんのお願いです、断るわけないじゃないですか」
そう言ってシャルルはなのはに笑いかけた。
「シャルは優しいね」
「そんなことはないですよ。だって…………」
「…………じゃあ、よろしくね」
何事か言葉を続けようとしてシャルルは途中で止めた。
なのははその言葉の続きを聞くことはせず、訓練校をあとにした。
「クラインさんは本当に大丈夫なのかな……?」
一人その場に残ったシャルルは心配そうに呟く。
「クラインさんとは今日初めて会ったはずなのに、何だかずっと昔に会った気がする…………どうしてだろう……でも素直に喜べない……」
けれど、自分でもよく分からない感情を覚えて、彼女は戸惑ってもいた。
「それにしても、どうしてクラインさんはあんなになのはさんと仲が良いんだろう。そもそも、なのはさんの男性の知り合いってユーノさんたちくらいしか知らないし、クラインさんもなのはさんにとって特別な存在だったりするのかな……?でもまぁ、私が気にすることじゃないか。その内分かるだろうし。それより、私にはやるべきことがあるんだから……早く『あいつ』を見付けて、
シャルルは強い思いをその瞳に宿していた。
けれど、彼女もまた過去の何かに囚われている一人なのかもしれなかった。
「ジルヴェスの野郎、本当に無茶しやがって……」
イライアスは自室に戻り、呆れたように呟いた。
「けど、少し前のお前だったら絶対にあんなことはしてなかったし、これも前に進んでるってことなんだよな……きっと、ナカジマと戦ったときに吹っ切れたんだろう……本当に良かった。俺たちにはお前を連れ出した責任があるから……だから、少しでも前を向いてくれたら、幸せになってくれたらすごく嬉しいんだよ……」
そして、そこにはいないジルヴェスに向かって、日頃面と向かっては決して言わないようなことを言っていた。
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