リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「それにしても、お前の回復力にはびっくりだ」
数日経てば、すっかり良くなりジルヴェスは訓練に復帰していた。
「まぁ、そういうもんだからな」
「しかも、あの模擬戦以来、モテモテだよな」
訓練中であるのに、イライアスはジルヴェスを煽ってきていた。
「別にそういうのじゃないから。あと、今は訓練中だぞ。喋るのは終わってからだ」
「おー、恐々。それじゃあ、黙りますか」
ジルヴェスがキッと睨むとようやくイライアスが静かになった。
「…………だけど、イライアス、今まで色々と迷惑かけたな。ありがとう」
ジルヴェスはポツリと呟いて、訓練に集中した。
「なんだよ、照れんじゃねぇか。やっぱ、お前は変わったよ」
イライアスもまたジルヴェスには聞こえないボリュームで言った。そのときの表情はとても穏やかなものだった。
「ジルヴェス、もう訓練に復帰しているけど大丈夫なのかしら」
「気になるなら声かけてみればいいじゃん」
スバルは生暖かい視線をティアナに向けていた。
「な、何よ、その目は……」
「べっつに~。ただ、ついこの間まで射殺さんばかりの視線をジルヴェスくんに向けてたのに、今じゃ心配そうな、親しみを込めたような、そんな視線を向けてるんだもん、ティアって可愛いなぁ、なんてこと思ってないから」
さらに、ニヤニヤとした表情を顔に貼り付けてスバルは言葉を続けた。
「ぐっ……あ、あんたには関係ないでしょ。これ以上言うのは禁止よ。じゃないとあたし怒るわよ」
「あ、ズルいよ~」
ティアナは照れから怒ったような顔をしてしまった。
「でも、まぁいいや。今日の訓練が終わったら話しに行こうよ」
「そ、そうね。スバルがそこまで言うなら行こうかしら」
まったく、素直じゃないな、とスバルは思ったがそれは口にはしなかった。
「そう言えば、なのはさんに直接報告してないな。やっぱ、言った方がいい、んだろうなぁ…」
なのはの性格を思い起こして、ここで言わないと後々になってから色々と言われると考えた。
『…………はい?』
しばらくのコールの後、なのはが通信に出た。
「ジルヴェスです」
『え、ジルヴェス!?もう、怪我はいいの?』
ジルヴェスの声を聞いて、なのはは驚きを隠せずにいた。
「ええ。もうすっかり良くなりました。シャルルに聞きませんでした?」
ジルヴェスは力こぶを作るようなポーズとって体調に問題がないことをアピールする。
まったくもってジルヴェスに似合っていなかった。
『ふふっ。そ、そうなんだ』
だから、なのははそれを見て思わず吹き出してしまった。
「何で笑うんですか!?」
『ごめんごめん。だって、ジルヴェスにそのポーズは似合わなすぎだよ…あはは…』
謝ってはいるが、笑いが止む様子は残念ながらない。
「まぁ、いいですよ。………笑顔のなのはさん可愛いですし………」
ジルヴェスはそんななのは様子を見ながら、最後の言葉はなのはに聴こえないようにぼそっと呟いた。
『でも、私、すごく心配したんだよ?あんな怪我して。あんな無茶苦茶してさ』
しばらく笑った後、落ち着いてから発したその声は怒っているような、けれど優しく労うような、そんな不思議な声音をしていた。
「すいません……」
『でも、良かった……後遺症もないみたいで』
なのはの心からの安堵の言葉には額面通りだけではなく、もう一つ意味があるようだった。
少くともそう感じさせるだけの真剣さを漂わせていた。
「心配させてしまってすいませんでした。でも、スバルとティアナと戦って、少しだけ変われた気がするんです。前を向けたというか。それに、俺の魔法で危うくティアナに大怪我させるところでした。だから自業自得ですよ」
ジルヴェスは微かに自嘲の色を見せていた。
「嘘だよ。あれはああなるって分かってて、ジルヴェスが怪我するところまで理解した上での魔法だったよ。だって、別にあんな魔法を使う必要はなかったもん。違う?」
それと同時に、ジルヴェスはなのはには敵わないな、と正直に感じていた。
「でも、あれを見て、私もジルヴェスは変わったな、って思ったの。それまではただ心配なだけだったけど、今は安心してる。また今度、どこかに行こうよ。そこでゆっくりお話しよう」
「はい。楽しみにしてます」
「それじゃあ、まだちょっとお仕事しないといけないから、切るね」
「あ、すいません。仕事の邪魔してしまいましたか。それではまた今度是非」
そう言って、どちらからというわけでもなく通信を切った。
「ふぅ、なんかいつの間にかなのはさんと仲良くなってきたな……」
コンコン
「ん?誰だろうな」
物思いに耽っているとドアをノックされた。
「イライアス、じゃないよな……」
イライアスは今日、父親に呼ばれて訓練校を出ている。だから、部屋に来たのはイライアスではない、はずである。
それ以前にイライアスとジルヴェスは同じ部屋の住人だ。わざわざ自分の部屋へ入るのに、ノックする者はいないだろう。
「はい、誰ですか?」
誰かは分からないまま、応対する。
「ジルヴェス、来たわよ」
「おう。なんだティアナか」
「あたしで悪かったわね、あたしで」
ティアナは軽くキレていた。もちろん本気ではない、条件反射というやつだ。
「私もいるよ!」
そこにスバルも入ってきた。
「えーと、何しに来たんだ?」
「そ、それは……」
いまいち状況が呑み込めず、そうジルヴェスが訊くが、ティアナは答えを言い淀む。
「えっとね、ジルヴェスが訓練に復帰してたけど、ホントに大丈夫なのかなって…ちょっと心配だったんだ」
スバルは少しは照れているようだったが、スパッと答えた。
「あ、そうなんだ。ありがとう。でも、大丈夫。心配しなくていいよ」
「そう。………良かった…」
最後の方の言葉は声が小さくジルヴェスには聞こえなかった。ただ、スバルには聞こえていたようで彼女はニヤニヤしているのだった。
「もう、大丈夫なのよね。じゃあ、ちょっと自主トレに付き合ってもらえないかしら?この前、約束してくれたじゃない」
「ああ、構わない。先に行って待っててくれ」
「分かったわ」
「私も待ってる!」
スバルとティアナの2人は部屋を出ていった。
「ところで、自主トレに付き合うわけだが、何をやるんだ?」
訓練場に移動して、はたと思い出したようにジルヴェスが呟いた。
「そ、そう言えば何も考えてなかったわ」
「え?ティアが考えてると思ってたのに…」
ジルヴェスに言われて初めて気付いたらしいティアナを見て、スバルは驚き案がないと困っていた。
「まぁ、いつもやってるメニューに交ぜてくれればそれでいいよ。俺は2人に教えられるほどじゃないからさ」
「そう、ね……それじゃあ始めましょう」
ティアナたちは気を取り直して自主トレを始めた。
まず、体をほぐしてからアップがてらランニングを軽く10キロこなす。これには当然、ジルヴェスは余裕でついていく。
次のメニューは筋トレだった。
「へぇ、筋トレまでやってるんだな」
「まぁね、なんだかんだ言っても最後には体力勝負だから、魔法だけに頼らないのも重要だと思うのよ」
「確かにそうだな」
話すのはその程度にして、筋トレをこなす。
腕立て伏せや腹筋、背筋に脚力を鍛えるようなメニューまで軽く1時間ほどはやっていただろう。
「まぁ、こんなものかしらね」
「自主トレはいつもこんな感じなのか?」
ジルヴェスは自主トレについて確認する。
「そうね、今日みたいに体力作りの日と魔法戦を意識した日を日替わりでやってるわ」
「それじゃあ、今日のところはこんなもんか」
「そうなるわね。けど、もう遅いし、あまり時間をとれないのが難点よね」
ティアナは少し考えて肯定を返した。
「でさ、俺に色々教えてほしいって言ってたけど、実際に俺は何をすればいいんだ?」
そして、彼は改まって自分が何をすればいいのか、自分に何をしてほしいのか訊ねた。
「え、いや、それは…」
その問いに対し、ティアナは口ごもる。
「もう、ジルヴェス、ダメだよ」
「な、何がだ?」
呆れるようなスバルの物言いにジルヴェスは何を言っているのかよく分かっていなかった。
「ティアはただジルヴェスと一緒に自主トレやりたいだけなんだから特別何か具体的に教えてほしいことなんてないに決まってるじゃん」
スバルは得意顔でずばり言い切った。
「な、何言ってんのよ、スバル!ずっとあたしたちだけでやってきたけど、あたしたちより強い人も一緒にやれば直接教えてもらわなくても学べることがあると思って、ジルヴェスに声をかけただけじゃない」
焦ったように、スバルの言葉をティアナは否定するも、スバルはその様子に生暖かい視線を向けていた。
「別に照れなくてもいいじゃん。私はホントにジルヴェスと一緒にやりたかったもん」
「あんたが良くてもあたしは恥ずかしいのよ!って、いや、別にスバルが言ったようなことは関係なくて……」
さらに、墓穴を掘るようなことを言ってしまい、ティアナは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「まぁ、とりあえず、自主トレで相手役をやったりすればいいわけか」
「ええ、そういうこと」
「分かった。これからよろしくな」
3人はそれぞれ部屋へと戻って行った。
────これが、ジルヴェス・クラインの、次元世界を救うことになる「エースとストライカーたち」との出会いの物語。
そして、管理局を揺るがすことになるJS事件の始まりの物語。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もしかすると更新が不定期になるかもしれないですが、よろしくお願いします。
なるべく連日更新で頑張ります。