リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「…………ふぅ……」
ジルヴェスは真夜中に一人、部屋を抜け出して、旅館の庭園に一人で佇んでいた。
「……みんな優しくて、この時間はすごく楽しい……でもやっぱり、これ以上近付くのは怖い…………」
そして空に浮かぶ月を見詰めながらポツリと呟きを
「やっぱり、ジルヴェスくんは何かを抱えているんだね」
すると、どこからかジルヴェスに語りかける声が聴こえてきた。
「ふふふ」
ジルヴェスがどこから声が聴こえているのか窺っていると頭上の方から笑い声がした。そして、すぐ傍にある桜の木を見上げると、そこに声の主が居た。
「……すずか、さん……?」
けれど、その人物が意外過ぎて、ジルヴェスは戸惑いを隠せずにいる。
「うん」
そして、彼女は頷くと、ピョンと木から飛び降りた。
「危ない!」
ジルヴェスは突然のことに反応しきれず、ただそう声を上げることしか出来なかったが、すずかは何ということもなく、サッと着地した。
「………………」
すずかの意外な身のこなしにジルヴェスは目を見開いて驚いている。
「……ふふ、びっくりした?」
それを楽しそうに笑いながらすずかはジルヴェスに問いかけてくる。
「……ええ、まぁ」
ジルヴェスもぎこちなく答えを返すことしか出来ずにいた。
「ねぇ、ジルヴェスくん」
「はい?」
先ほどまで微笑んでいた顔を一転してすずかは真面目なものにする。
「何か隠してることがあるよね?」
「っ……………………」
ジルヴェスは心のどこかで予想していたけれど、まさかあり得ないと、そうたかをくくっていた、そんな問いがすずかからなされ、息を呑むが無言を貫く。
「別に、教えてくれなくてもいいんだ。でもね、ジルヴェス。今のままのジルヴェスじゃ、きっとその秘密を隠しきれないよ。私にはジルヴェスくんが何に悩んでいるのかは分からないけど、それでも、何かに悩んでいるっていうことは分かる。そして、なのはちゃんはそういうのを放っておけないってこと、ジルヴェスくんなら分かるんじゃないかな?」
「………………」
「何に悩んでいるのか、それを言えないなら悩んでいることそのものを隠さなきゃ。悩んでいることを隠せないならそれをなのはちゃんに相談しなくちゃいけないよ?」
「…………どうして、そんなことを言うんですか?」
それまですずかの言葉を無言で聞いていたジルヴェスだったが、徐にそう口を開いた。
「……それは、ジルヴェスくんと私が似ていると思うから、かな」
「どういう意味ですか?」
けれど、彼女から返ってきた答えはジルヴェスが理解するには少々難解だった。
「………………私はね、普通の人間じゃないんだよ」
そう語り出した少女は悲しげだった。
「私は人間じゃない、化物なの。所詮は化物でしかない、吸血鬼なの……」
「え?」
「ジルヴェスくん驚いた?そうよね、普通は驚いて、そして畏怖の目を向けるものよ」
「……俺はそんなことはしません!」
すずかから突然になされた告白に、一瞬驚いてしまったが、すぐに、彼女の言葉の一部を否定するように話を遮る。
「すずかさん、あなたが吸血鬼だろうと、人間だろうと、俺にとっては大した違いじゃありません。俺にとって重要なことは、俺が大切に思ってしまうかどうかです。そして、俺はあなたたちを大切に思いたくはありません!」
そして、吐き出す言葉は、その通りに受けとればただ拒絶するだけの言葉だが、こう言ったジルヴェスはどうも悲痛な胸の内を吐き出しているようにしか、すずかからは見えなかった。
「どうして、そんなこと言うの?ジルヴェスくんは私たちのこと嫌い?確かに私はジルヴェスくんとたまにしか会わないけど」
「違う!そうじゃなくて、これ以上近くに行ってしまったら大切な存在になっちゃうから…………そうなったら
ジルヴェスはどうしてか理由は分からなかったけれど、何故か自分の気持ちを語っていた。
「…………そう簡単に居なくなったりはしないよ。特になのはちゃんたちはちょっとやそっとのことじゃ離れてなんて行かない。私がそれを証明してあげる。だから、ジルヴェスくんも素直になろうよ」
「……………………」
しかし、ジルヴェスの心の叫びを聞いて尚、すずかは揺るがない。
「…………ずっと自分に嘘吐いてると、いつか自分の本当の気持ちまで分からなくなっちゃうよ。そうなってからじゃ遅いんだよ?」
「……………………」
ジルヴェスは先ほどからずっと黙り込んでいる。
「……小さな頃に大切だった女の子を自分の手で傷付けてしまったからって、それからずっと他の誰かと関わることから逃げ続けていたらダメなんだよ!」
「え?」
ジルヴェスは自らが話したことのない自身の過去を目の前の少女が知っているという事実に驚きを隠せないでいた。
「表面上だけで仲良くして、ジルヴェスくんは満足なの?…………私は嫌だよ。そして、そんな人がなのはちゃんと一緒にいることは許せない。だからジルヴェスくん、決めて、本当の意味でなのはちゃんたちに心を開くか、なのはちゃんたちの元から居なくなるか」
そう選択肢を突き付けたすずかの瞳は彼女の本気を窺わせるほど強い意思を感じさせた。
「…………明日の朝、私は自分のことに決着をつける。だからジルヴェスくんも、そのときにはどうするか決めておいてね」
そして、そうとだけ言い残して、彼女は去っていった。
「…………心を開く、か……」
ジルヴェスはすずかの後ろ姿を見送りながら自分の過去を思い返していた。
◇◇◇
かつて、古代ベルカ時代において「武帝」と呼ばれ、彼の諸王すら対立することを忌避した王とその一族が居た。
その名は、ファーシャンベルグ。
この一族は絶大な力を有しながら、諸王の繰り広げる争いには不干渉を貫き、そして、他からの干渉をも排斥していた。そして、彼らが行っていたのは「正史」の編纂。完全中立だからこそ語りうる「歴史」を記していた。
しかし、時代は流れて、一族の血は徐々に薄まってしまっていた。そうなってしまえば、過去の影響力は弱まり、ついには単なる「名門の歴史家の一族」へと世間の見る目は変わっていた。
だから彼らは考えた。
かつての「武帝」に比肩しうる存在を生み出せば、造り出せば、世界に影響するだけの力を手に入れることが出来るだろうと。
そして彼らは、当時とある科学者が基礎を作り上げた「プロジェクトF」を用いてクローンを造ることを実行した。
その中で生まれたのが、ジルヴェスだった。
当初、ジルヴェスは「武帝」に比肩することを確認、証明するために地獄の日々を味わった。
しかし、あるときファーシャンベルグの一族の者たちはふと気付いてしまった。
「力」を持つものを造り上げ、そして手に入れた名声に一体どんな価値があるのだろうかということに。
そして、それからは人が変わったようにジルヴェスに対して優しく接するようになった。
いや、元々彼らは善良な人間であり、狂ったように力を求めていたことの方がおかしいのであった。
それはともかく、彼らの変化に戸惑っていたジルヴェスだったが、徐々に心を通わせるようになり、本当の「家族」になることが出来ていた。そしてそこには確かに「温もり」があった。
けれど、そんな幸せはある日、突如として崩れ去るのだった。
『大変です!何者かに襲撃を受、あぁっーーーー』
突然に入った通信からは襲撃と、そして連絡してきた者もまた襲われたことが伝わってきた。
この連絡と遠くで徐々に大きくなってきている喧騒の音に、この家の主であろう男は決心したように腰を上げた。
「ジルヴェス、お前は逃げるんだ」
そして、目の前にいる少年の頭を撫でながら優しく微笑みかける。
「そんな、みんなを置いて僕だけ逃げるなんて、出来ない!」
けれど、少年は頷こうとはしない。
「私たちはお前にひどいことをしていたな。そのことを許してほしいなどとは思っていない。そんな私たちだが、ジルヴェス、お前に生き延びてほしいのだ。私たちは弱い。襲撃してきたという者たちには恐らく敵わないだろう。だからせめて、お前だけは無事に逃げてくれないか?」
主の男はぐっと頭を下げた。
大の大人が子供へ頭を下げるというのは不思議な光景であった。
「だったら、だったら僕が戦う!僕には力がある。これは今みんなを助けるためのものだよ!そのためなら僕は怖くないっ」
けれどジルヴェスはそう言って手に握ったデバイスを掲げ、そして立ち上がろうとした。しかし、主の男は腕を掴んで止めていた。
「それはいけない。確かにお前は強く、そして強大な力も持っている」
「だったらーー」
口を挟んで言い返そうとするジルヴェスに彼は首を横に振りながら言葉を続ける。
「だが、それと同時にお前はまだまだ未熟だ。本当は我々がその力の使い方を、使い道を教えなければいけなかった。しかし、もうそれは叶わぬことだ。いいや、こんなことはどうでも良い。そもそもお前の持つその力を我々のために使ってはいけない。我々は罪を犯した。それは到底許されるべきものではない。それだけの罪を犯してしまったのだ。そんな我々に守る価値などない。それに、お前のその力はいつか、多くの人たちを救い、そして人びとを強く照らす光になれるだけの可能性を秘めている。だから、こんなところでお前を失うわけにはいかないのだ。だから、逃げ延びてくれ。そして、ジルヴェス、これだけは覚えておいてほしい。どんな力を持っているのかが大事なのではなく、その力をどう使うのかが大事なのだと」
彼がそう言い切ったとき、扉が吹き飛び、その部屋に何人もの男たちが入ってきた。
「その小僧が、かの武帝さまってわけだ。おい、おっさん!命が惜しくばその小僧を俺たちに寄越せ」
そして、その中のリーダーとおぼしき男はこの家の主に怒鳴りつけた。
「それは断らせてもらう」
けれど、主の男はゆっくりとした口調で拒絶の言葉を発した。
「はんっ、おっさん、自分の立場が分かっていないようだな。とっととしろ。殺すぞ?」
対して襲来者のリーダーは彼の対応を鼻で笑い、そして明確な殺意を剥き出しにして最後通諜を言い放った。
「勝手にしてくれ。元々命などもう惜しくはない。だから殺したいなら殺せばいい。だが、この子の力は
「何?」
そして、そう言うと、相手が動くより数瞬早く、ジルヴェスに向けて転移魔法をかけた。
ジルヴェスは突然のことに驚き、何も出来なかった。そして魔法の行使から発動までのその一瞬の間に見たのは、自分にこの魔法をかけた、父親とも言える人が、襲来者によって殺されてしまった光景だった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
突然な感じだとは思いますが、ジルヴェスの過去に言及する話へと突入させます。
ほんわかした日常パート的な話を求めていた方、すいません。少しの間付き合ってくださいm(__)m