リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
しばらく過去話が続きますが宜しくお願いしますm(__)m
転移の魔法によって飛ばされた先は深い緑に覆われたどこかの森だった。
「……ここはどこなんだ?」
幼いジルヴェスにはここがどこなのかも、これからどうすればいいのかも分からなかった。ただ、一族を襲った男たちへの怒りと、そして言い様のない恐怖だけが彼の心を占めていた。
「……僕だけが逃げ延びるなんておかしいよ……どうしてみんなを助ける力があるのにそれを使っちゃいけないんだよ!」
ジルヴェスは自らの不甲斐なさに対する不満を言葉にして叫ばずにはいられなかった。
彼は、自分には「力」があると知っていた。
そして、その「力」を大切な家族のために奮えなかったことに不条理すら感じていた。
だから、彼は周囲の木々にあたるように暴れ回っていた。
「……もう、ここでこのまま死ぬのかな……」
けれど、しばらくすると体力の限界がきて、彼は幼いながら自身の死を覚悟した。
「…………死んでしまったら楽になるのかな……」
そしてそう力なく呟くと、その場に倒れ込み目を閉じた。
「…………んんっ……」
「あ、気付いた?」
「え……?」
ジルヴェスが目を覚ましたその場所は、先ほどの森の中ではなかった。そこは一面綺麗な白の壁で囲まれたどこかの建物の中で、ジルヴェスはベッドの中で寝ていた。
「…………ここは、天国なのかな……」
目を覚ますと身に覚えのない場所にいたことで、ジルヴェスは混乱しきり、そして、自分は本当に死んでしまったのかもしれないという荒唐無稽なことを考えるに至った。
「じゃあ、私はさしずめ天使さまってことになるのかな」
「…………え?」
楽しそうに笑う声にジルヴェスはようやく、この場に自分以外にもう一人、少女が居ることに気が付いた。
その少女は眩しい笑顔を彼に向けていた。
怒りと恐怖とで支配された今の彼の心にはその笑顔は眩しすぎた。
けれど同時に、何故だか安心出来る、そんな温もりをその笑顔は放っていた。
だから、ジルヴェスは本当に彼女は天使でなのかもしれない、そんな馬鹿げたことに少しばかり真実味を感じていた。
「やっと気付いてくれたね」
そう優しく呟くと、目の前の少女はジルヴェスに向かって柔らかく微笑みかけてきた。
「…………あの……」
「私はレイナ。君の名前を教えてくれる?」
そして、何かを言いたげに口を開いたジルヴェスのことを無視するように、レイナと名乗った少女はジルヴェスに名を問った。
「……僕はジルヴェス……」
「へぇ。じゃあ、ジルって呼ぶことにするね」
レイナは初対面の相手にも壁を作らないタイプなのか、それともジルヴェスを安心させるために敢えて壁を感じさせないようにしているのか、それは定かではないが、何にせよ、彼女は全く物怖じせずにジルヴェスと話をしている。
ジルヴェスとしてもこれまでレイナのような人間との関わりは持ったことなどなかったから、どう対応するべきか考えあぐねていた。
ただ、戸惑ってはいたものの、全然嫌な感じは抱いていなかった。
むしろ、とても心が温かくなるような、そんな感覚を覚えていた。
「あ、あの、君はーー」
「レイナ」
ジルヴェスが何かを訊こうとしたとき、それをまたも遮って、レイナは自分の名前を言った。
「え?」
「だから、私の名前はレイナだから、名前で呼んでほしいなって」
「あ、えっと…………レイナ」
「うんっ」
ジルヴェスが名前を呼ぶとレイナは満足そうに笑顔を彼に見せた。
「ところで、ジルは大丈夫?森で倒れてたのを見付けて、ここに運んだんだけど……」
けれど、レイナの表情は一転して心配そうなものに変わった。
「あ、うん……大丈夫だと思う」
ジルヴェスは体を起こして、腕を回したりして色々と確めてみたが、自覚のあるような不調は何もなかった。その答えに安心したのか、レイナはほっと一息吐いた。
「……おや、目覚めたのかい?」
すると、そこに30代ほどの優しそうな男性がやってきた。
「あ、お父さん。ちょうど今起きたところだよ」
この男性はレイナの父親のようで、レイナの言葉にふむふむと頷いている。
「私の名前はアイク。アイク・オルフィンだ。この子、レイナの父親だ。君の名前は?」
そして、彼もまた自らの名を名乗り、ジルヴェスにも名を問った。
「……僕はジルヴェス・クラインです」
「ジルヴェスくんか……いい名前だ。ところで早速で悪いんだが、どうしてあの森の中で倒れていたんだい?」
アイクは、まだ10歳ほどの少年がたった一人で倒れていたことにただならぬ事情があると考え、出来ることならそれを知っておきたい思っていた。
「……それは…………」
けれど、ジルヴェスとしても未だ心の整理は全くついていなかった。
だから、答えに窮してしまっていた。
「あ、答えられないことならいいんだ。ただ、レイナが君を見付けたのもきっと何かの縁だ。だから、出来ることがあれば私は力になりたいと思っているんだよ」
ジルヴェスの反応にアイクは少しだけ慌て、そして、そのように言葉を続けた。
「僕にも何がなんだか分からなくて……家が襲われて、僕だけが逃がされて……気付いたらあの森に居ました」
ジルヴェスはアイクに少しだけでも自分のことを伝えておかなければならないと、どうしてか思った。
だから、自分でも分かっていないけれど、事情を何とか言葉にした。
ただそれと同時に先ほどの森の中で抱いていた自分に対する不甲斐なさ、そして怒り、恐怖、それらの感情が彼の心にフラッシュバックしてきてしまった。
「………………」
それを聞いたアイクは言葉を失っていた。
もしかすると、アイクはジルヴェスの様々なものがない
「あ、あの…………」
何とも言えない重たい空気が流れているのを感じてジルヴェスは何か言葉をかけようと思ったが、肝心の言うべき言葉が思い付かなかった。
「……ジルヴェスくん、申し訳ない。そんな辛いことを話させてしまって。けれど、ということは君は行くところがないのだね?」
「……はい」
長い沈黙のあとに為されたアイクの問いにジルヴェスはしっかりと頷いた。
「ならば、ここで暮らしなさい」
「え?」
ジルヴェスはアイクの口から飛び出した意外な言葉に思わず聞き返していた。
「いや、何もずっとここに居なさいとは言わないよ。君がどこか違う場所へ旅立ちたいと言うのなら止めはしない。でも、しばらくは、そうだね、もっと大きくなって、少なくとも管理局に入れるくらいになるまではここで暮らしていきなさい。君はまだ子供だ。だから、このまま一人で行ってしまっては生きてゆけないだろう?同じ年頃の娘を持つ身としては、そうと分かっていて、私は君をどこかへ行かせるわけにはいかないのだよ。余計なお世話かもしれないが、言うことを聞いてほしい」
アイクは別に偽善でも何でもなく、ただ心から彼を心配していた。
家が襲われ逃げてきたという彼のことを怪しむでも同情するでも奇異の目を向けるでもなく、普通に子供へと向ける、単なる
そして、アイクの優しさはしっかりとジルヴェスの心に届いていた。突然に家族を失った彼にとってはその優しさは正直に言って反則だった。
だからだろうか、気付くと彼は涙を流していた。
「え、ジル、どうしたの?」
急に涙を流し出したジルヴェスに、レイナはおろおろとしていた。
それをアイクは微笑ましそうに見ている。
「…………家族を失うその哀しみは耐え難いものだ。そして、奪わった者に対する憎しみは人を壊してしまう。だから立ち直ってくれよ…………」
そして、アイクは二人に聞き取れないくらい小さな声で呟いた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
前回で過去の回想は終わりませんよ(笑)
あと数話分あります……
しばらくお付き合いください