リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
んー、タイトルが…………
ジルヴェスがアイクの家に引き取られて数ヶ月が経った。
「ジル、早く早く!」
レイナはジルヴェスの少し先でこちらを振り返り彼を呼んでいる。
「レイナちょっと待ってよ」
すっかり怪我もよくなって、今日はレイナ
「もうすぐそこだから、ほら頑張ろ」
レイナは小走りでジルヴェスの元に戻ってくると、そう言って彼の手を取った。
「うん。楽しみだな、とてもいい景色なんでしょ?」
「もちろんだよ。ジルにだけ教えてあげるとっておきの場所だよ」
レイナはとても楽しそうにしながらジルヴェスの質問に答える。
「いいの?そんなとっておきの場所を教えても」
「いいの。だって、すごく綺麗なとこだけど、一人で居てもつまらないし、それに…………ジルに教えるから意味があるんだよ……」
最後の方は顔を赤らめてとても小さな声で呟いたようでジルヴェスには聞こえていなかった。
「レイナ、ありがとう」
「お礼はまだ早いよ。ちゃんと景色を見てから言ってね」
それからはしばらく二人の間には沈黙が流れたが、その沈黙もどこか心地よいものに二人は感じられた。
「わぁ……すごい……」
今ジルヴェスとレイナの目の前には一面に広がる渓谷と深々たる木々、そして
「でしょ?この時間は特にすごいんだ。夕焼けが広がってて」
レイナの言葉の通り、空は夕陽でオレンジに染まっていた。
「なんだか前の家を思い出ーー」
『ーーお前は道具でしかない』
『ーーすまなかった……我々は君にーー』
『ーーどうかお願いだ、これを持って逃げてくれ』
頭を電流が走るかのような衝撃と共に、ジルヴェスの頭の中では彼の記憶が途切れ途切れにフラッシュバックしていた。
『ーーーーーー全部、お前のせいだ』
そして最後にそんな声が響いてきた。
「ーーっぅ!」
その直後、ジルヴェスは突然頭を抑えてよろめいた。
「ジル!」
レイナはすぐさまジルヴェスの肩を掴んで彼を支える。
「……はぁっ……はぁっ……」
「……大丈夫?」
レイナが彼の表情を窺うも、ジルヴェスの息は大きく乱れ、そしてその顔もとても青ざめていた。
レイナはジルヴェスに肩を貸すようにしながら、すぐ近くにあった大木まで行き、そして、彼をそこに寝かせた。
「……ジル、少し眠って……」
寝かせると、ジルヴェスの頭を撫でるようにそう呟いた。すると、彼はゆっくりと瞳を閉じて、寝息を立て始めた。
「………………ジル、私たちのことは信用出来ない?」
どこか安心したように眠るジルヴェスの頭を撫で続けながら、レイナは寂しそうに呟いていた。
「……ふぁ…………」
しばらくしてジルヴェスが目を覚ました。そして辺りを見回す。
「……すぅ…………すぅ……」
すると、レイナがジルヴェスのすぐ横に座って寝ているのが目に入った。
「…………レイナ、ごめん……」
彼は何について謝ったのか。
「……ん……あ、ジル起きたんだね」
ジルヴェスの呟きに反応したようにレイナも目を覚ました。
「……うん」
「具合、良くなった?」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。ごめんね、眠ったりなんかして」
明らかに何かを誤魔化すように、そして動揺した様子でジルヴェスは答え、そして体を起こす。
「…………ねぇ、ジル」
レイナはジルヴェスの名を呼び、そして彼の肩に手を置いて起き上がるのを止めるような動作をした。
「何、レイナ?」
ジルヴェスはレイナの雰囲気にどうしたのかと不思議に思った。
「……私たちのこと、そんなに信じられない?」
「え……?」
けれど、ジルヴェスはレイナにかけられた思いもよらない言葉に言葉を失った。
「……ジルが辛そうにしてるなんてこと見てれば分かるよ。なのにジルはそのことをちっとも相談してくれない。別に私にじゃなくたっていい。でもお父さんにもお母さんにも遠慮してるみたいだし。確かに元々私たちは赤の他人だけど……それでもこの何ヵ月かずっと一緒に居たじゃない。なのにどうして……?私はジルが苦しんでるのを見るのは辛いんだよ……無理して笑うのを見ているのだって辛い……私はジルが苦しんでる原因をなくすことはきっと出来ない。ジルの苦しみを理解することも、それを代わりに背負うことも出来ない。でもね、ジルが何に苦しんでるのかが分かれば、もっとジルのことを知ることは出来る。そしたら少しでもジルの苦しみを和らげることだってきっと出来る。だから…………」
レイナは泣いていた。ポロポロと涙を落としながら言葉を紡いでいた。
「……レイナ…………ありがとう」
そんなレイナにジルヴェスは感謝の言葉をかけた。
「……僕はさ、昔から続く魔法を扱う一族に造られた人間なんだ」
そして、話をし始めた。
「……造られた……?」
レイナはよく分からなかったのか、そう聞き返した。
「そう、造られた。僕はいわゆるクローンというやつなんだよ」
「……そうなんだ……」
「クローン」だと言われてもそのことの持つ意味をレイナは完全に理解していたわけではないからそこまでの驚きを感じてはいなかった。
「でも、ある日突然家は襲われた。襲ってきた奴らは容赦なく僕の家族を殺していった。みんなは僕を逃がすために死んだ。彼らの目的は僕だったから、僕を差し出していればみんなは助かったんだ。なのに、みんなは僕を逃がそうとした。そして死んだ……全部僕のせいだ……」
「………………」
自分を責めるようなジルヴェスの物言いにレイナはすぐに言葉が出て来なかった。
「…………僕は怖かったんだ……本当のことを言ったらレイナが離れて行ってしまうんじゃないかって……アイクさんだって、カンナさんだって……」
そして言葉を重ねる毎に彼の表情は恐怖に歪んでいく。
自分が大切に思っている人たちを失ってしまうかもしれないという恐怖に。
「……ジル、私はジルがどんな運命を背負っているかとか、何者なのかとか、そんなことは気にしないよ。だって私にとってのジルは今、目の前に居るジルだもん。さっき私はジルのことを知らないって言ったけど、知らないならこれから知っていけばいいんだし。それに私はジルの抱えてるものを知りたいって言ったよね。私はジルのことを受け止めるよ。だから、安心して」
レイナはそう言ってジルヴェスのことを抱き締めた。気付けばレイナは泣き止んでいた。
「……うっうぅ…………レイナ、ありがとう……」
そして今度はジルヴェスが涙を流し始めた。
しばらくしてジルヴェスが落ち着くと二人は家へと帰って行った。
あれから数日が経った。
「アイクさん」
「なんだい?」
ジルヴェスの呼び掛けにアイクは柔らかな笑顔を浮かべて振り返った。
「アイクさんはたくさん本を持ってますよね?」
「そうだね。それが私の仕事道具だからね」
「遺跡の調査や歴史の研究でしたよね?」
ジルヴェスの確認するような言葉にアイクは頷く。
「それで…………その研究とか僕にも手伝わせてもらえませんか?」
そして、意を決したようにアイクに問う。
「………………」
対するアイクは突然のジルヴェスの言葉に意外そうな目を向けて、少し黙っていた。
「黙っていましたけど、僕の家は『ファーシャンベルグ』なんです」
「何だって!?」
続いたジルヴェスの一言にアイクは大きな声で驚きを表した。
彼は考古学の世界ではそれなりに名の売れた存在であって、もちろんジルヴェスの言った「ファーシャンベルグ」の持つ意味を十分に理解していた。
だからこそ、今自分の目の前にいる少年がその一族の者だと知って仰天したのだった。
「…………だから、アイクさんの仕事を手伝えると思うんです。僕がどこからやってきたのかも知らないでこんなに僕によくして、優しくしてくれて、それなのに、僕は何もしないなんて出来ないです。と言ってももう何ヵ月も経っちゃいましたけど……でもせめて、何か役に立ちたいんです」
ジルヴェスはそう言ってアイクの返答を待っている。
「…………分かった。初めて君がやりたいということを言ってくれたんだ。断るわけにいかないよ。それに、とても心強い。ファーシャンベルグの遺す『歴史』はとても貴重で重要だからね」
アイクはそう言って彼を歓迎した。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ちなみに、カンナというのはレイナの母親です。どうでもいいですが。