リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「気付いたらこんな時間に……アイクさん怒るかな……怒るよね、連絡も何もしなかったんだから……」
ジルヴェスはずっと図書館に居て、気付くと陽も傾いていた。
「早く帰らないと……」
ジルヴェスはそう呟いて、レイナとアイク、そしてカンナの待つ家に向けて駆け出した。
「………………あれは……」
しかし、しばらく走ると視界に何やら不穏な雰囲気を放つ人の塊が見えてきた。
ジルヴェスのところからはよく見えなかったが、どうやら何人かの男たちが固まっているようだった。
「……邪魔、だなぁ…………」
ジルヴェスは急いでいるから出来れば面倒事は勘弁だな、と思いながらその一団へと近付いていく。
けれど、ある程度近付いたとき、状況は変わった。
「……あれは、レイナ?どうして?」
ジルヴェスは先ほどから見えている一団が、一人の少女を、しかもジルヴェスのよく知るレイナを囲んでいたのだった。
「----助けて、ジル!」
そして、そのとき助けを乞う少女の叫びが、恐怖で泣くことしか出来ない少女の悲鳴が、ジルヴェスに届いた。
ジルヴェスはその声を聞くと同時に強く地面を蹴った。
「やめろ!」
そう叫ぶと、まさにレイナを掴もうとしていた男の後頭部を思い切りに蹴りつけた。
「っ----」
ジルヴェスに蹴られた男はそのまま前方へと吹き飛び、のびてしまった。
「誰だ!?」
「…………ジル……?」
レイナは信じられないものを見たという表情を浮かべ、レイナを囲んでいた男たちは、仲間をノックアウトした犯人を求め、辺りを見回す。
すると、彼らは一人の少年を見た。
怒りを露にする少年を。
そして、彼らが捜していた少年を。
「レイナに手を出すな!」
ジルヴェスはそう言ってレイナの元へ駆け寄ろうとする。
しかし、その行く手を阻むように一団のリーダーが立ちはだかる。
「これはこれは、
そして、ジルヴェスの神経を逆撫でするような言葉と口調で彼に話し掛ける。
「黙れ…………」
ジルヴェスは改めて目の前の男の顔を見て分かった。彼らが、ファーシャンベルグの家を襲った男たちなのだと。
「お前ら、その小娘をちょっと面倒見ておいてやれ」
「ああ」
そして、男は再び、仲間たちに指示を出して、ジルヴェスと対峙する。
「やめろ!レイナは関係ない!」
ジルヴェスは必死にレイナへと危害が加わらないように叫ぶが、男たちは当然、そんな言葉に耳を貸すわけもなくレイナに手をかけた。
「やめて、やめてよ!ジル、助けて!」
レイナは必死に抵抗して、ジルヴェスに助けを求め続ける。
「…………レイナ……」
「あの小娘に危害を加えたくなければ、我々と一緒に来てもらおう。見付けるのに手間取ってしまった。大人しく着いてきてもらると助かるんだがな」
ジルヴェスの目の前に居る男は、手にデバイスを握ってジルヴェスを威嚇している。
「…………レイナ、ごめんな……」
ジルヴェスは自分は敵わないと、何となく感じていた。そして、男の言うことを聞くしかないのだと。
【(力を、欲するか?)】
「……え?」
諦めかけたそのとき、頭の中に声が響いてきた。
【(汝が欲するのなら、汝の求める力を与えよう)】
その声は、レイナを守りたい、そして男たちには着いて行きたくないと思うジルヴェスにとって甘美な誘いだった。
「……もちろん、力が欲しい」
「何を言っている?」
ジルヴェスが聞く声はジルヴェスにしか聴こえていないようで、ジルヴェスの呟いた答えに男が反応する。
【(ならば、汝の持つ、そのデバイスを使うのだ)】
「…………分かった。だがお前は誰だ?」
【(我か?我は、ディスペル、汝の手にあるデバイスだ--)】
ジルヴェスは声を聞いて、首から下げる待機状態のデバイスを握り込む。
すると、彼の足下には三角形の黒い魔方陣が展開し、ジルヴェスは彼の魔力光である黒の光に包まれる。だが、その黒は何者にも染まらぬ強さを感じさせるものというよりは、全てを呑み込む闇を感じさせるものだった。
そして、ジルヴェスを包む黒の光は周囲の呑み込もうと広がっているようだった。
「…………レイナに近付くなよ」
真っ黒な輝きが晴れるとジルヴェスは目の前の男を睨み付け、そしてレイナに手をかけている仲間の男に手をかざすと、その男は吹き飛ばされた。
ジルヴェスはそうしてすぐ、目の前の男の脇をすり抜け、レイナの元に駆け寄った。
「……ジル……早く逃げよ?」
レイナはジルヴェスにそう提案するが、ジルヴェスは首を横に振った。
「あいつらは僕の家族を殺した。そして、レイナにも酷いことをした。だから、絶対に許さない」
そう話すジルヴェスは激しい憎悪に心を奪われているように見えた。
「…………ダメ、だよ……そんなことでやり返したら、ジルもあの人たちと何も変わらないじゃない!」
だから、レイナはジルヴェスの目を醒まさせようと語りかける。
「…………そう。レイナは僕を裏切るんだね…………」
「そんなこと言ってない!ジル、どうしちゃったの?」
しかし、ジルヴェスは全てを悪い方へと考えるようになっているのか、落胆したような、
「……うるさいな。レイナ、少し黙っていてくれないかな」
ついにはレイナに対して脅すような言葉遣いさえしてしまっている。
「《メテオフォール》」
そして、ジルヴェスは周囲の男たちへと目をやり、そして、魔法を発動した。
すると、辺り一面を埋め尽くすように真っ黒な塊、魔弾が降り注ぐ。
「……全て無くなっちゃえばいいんだ!」
そのときのジルヴェスは歪んだ笑みを浮かべていた。
「…………………………」
この魔法で男たちは全滅した。だが、未だに魔法の効果は有効なようで、空からは魔弾が降り注ぎ続けている。
けれど、男たちの全滅を認識すると、ジルヴェスの纏っていたジャケットは光となって消え、ジルヴェスは元の格好に戻った。
そして、ジルヴェスが見たのは、少し離れたところで座り込んでいるレイナだった。
「レイナ!」
ジルヴェスは慌てて彼女の所へ駆け寄る。
「…………ジル……?っ!」
しかし、ジルヴェスが彼女に触れようとした瞬間、レイナは恐怖の表情を浮かべ、自分の肩を抱いて彼から距離を取ろうとした。
そのときの恐怖は間違いなく本物だった。
「……え?」
「あっ…………」
レイナの反応に、ジルヴェスは悟ってしまった。
やはり自分は大切な人を傷付けることしか出来ないのだと。
悟ってしまったその事実にジルヴェスが絶望してしまったそのとき、レイナ目掛けて、漆黒の魔弾が襲いかかり、そして直撃した。
「レイナ?レイナ!?」
ジルヴェスは慌てて彼女を抱き上げ、揺するが、反応はない。
彼は激しく動揺しながらも、家を目指してレイナを背負って駆け出した。
「ジルヴェス、遅か----」
アイクは、ジルヴェスの帰りを感じ、家を出ると言葉を失った。彼が見たのは、憔悴しきったジルヴェスと、ジルヴェスに背負われ、意識のないレイナだったのだから。
「アイクさん、僕が悪いんです……僕のせいでレイナは…………」
ジルヴェスは涙を流している。
「今すぐレイナの手当てをお願いします…………僕はもう、ここに居てはいけませんから、消えます。これまでお世話になりました…………そして、レイナのことを傷付けてしまって本当にすいませんでした。赦してもらえるなんて思ってませんから……」
「ちょっと待っ----」
そして、アイクの制止にも応じずジルヴェスは走り去ってしまった。
そこには意識のないレイナと、何があったのかすら理解出来ていないアイクだけが残された。
◇◇◇
「……………………」
ジルヴェスは自分の過去を振り返り、そして涙を流していた。
「………………もっと俺が強ければ、レイナはあんなことにはならなかったのに……」
そう呟くジルヴェスは自身の不甲斐なさを悔やんでいるようだった。
『----そう簡単に傷付いたりしないよ』
けれど、ふと先ほどのすずかの言葉が思い出された。
「……なのはさんなら本当に、俺のことを受け止めてくれるのかな…………」
そして、彼の心には淡い期待が生まれ始めていた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
これで、過去の回想シーンは終わり、再び現在の時間に戻ります。