リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~   作:台風一過

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第40話 少女の思い

「んー、空気が美味しいね」

 

なのはは、すーと辺りの空気を思い切り吸い込んで満足そうに頷いている。

 

「同感です!それに、水面に岸辺の桜が映ってすごくキレイですよ。はわぁ……」

 

シャルルはいつもの(ごと)く周囲の風景に感動しきっていた。

 

「シャル、いつもそんなじゃ疲れないか?」

 

だからジルヴェスは呆れたような表情でそんなことを言う。

 

「何でですか?自分が見たことないものを見たりするのはすごく楽しいじゃないですか。それに、私は小さい頃あまりこういう所には来たことないから……」

 

そう言ったときのシャルルはどこか憂いを帯びていた。

 

「いえ、何でもないです!」

 

だが、すぐにいつものように笑顔を浮かべた。

 

「ところで、この湖ってボートを貸し出してくれるみたいなんだ。だからさ、乗りに行こうよ」

 

と、ここですずかが満面の笑みを浮かべながらそんな提案をしてきた。

 

「それいいわね。行きましょ」

「へぇ、ボートなんてあるんですね。楽しみです!」

 

そして、アリサとシャルルはその提案にノリノリで応じている。

 

「ボートなんて乗るの始めてかも。楽しみだね、ジルヴェス」

「ええ。そう、ですね」

 

なのははいつの間にかジルヴェスの隣に来て、彼に笑顔を向けていた。

対するジルヴェスは、なのはへ話をすることが頭を(よぎ)り、気が気でなかった。

 

「じゃあ、早く行こうか」

 

すずかの言葉で5人はボート乗り場へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、する?」

 

アリサはみんなに意見を求めるように、みんなの顔を見渡している。

 

「ボートの定員が4人だなんて…………」

 

シャルルは心底残念そうにそう呟く。

 

「……別に俺はいいんでみなさ----」

「だったら、2人と3人に分かれて乗ろうよ。私とアリサちゃん、そしてシャルちゃんの3人と、ジルヴェスくんとなのはちゃんの2人でさ」

 

ジルヴェスが気にせず乗ってくださいと言うのを途中で遮って、すずかは言い切る。

 

「そうね、それでいいんじゃないかしら」

 

アリサは大して反対する気はないようだった。

 

「え、私とジルヴェスが2人きり?え、何で?」

 

けれど、なのはは当惑しきりだった。

 

「特に理由なんてないよ。ただ、私がシャルちゃんともう少しお話したいなって思っただけだよ」

 

そんななのはを見て、すずかはあからさまに何か企んでます、という瞳をして嘘を吐く。

 

「ほら、シャルちゃん、アリサちゃん行こう」

 

そして、すずかは2人の手を引いて、さっさとボートに乗り込んでしまった。

その直前、ジルヴェスに向けてウィンクを一つ残して。

 

「………………はぁ、機会は整えたよ、ってことか……」

 

ジルヴェスはそのすずかのウィンクを見て、朝の彼女の言葉を思い出していた。

 

「ジルヴェス、どうかした?」

「いえ、何でもないですよ。とりあえず、俺たちも行きましょう。せっかくですからボート乗りましょうよ」

 

ジルヴェスはそうなのはを促して、彼らもボートに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すずか、あんた何企んでるわけ?」

 

アリサは目の前でオールを漕ぐすずかの目を見て、そう訊ねる。

 

「企んでるだなんて、やだなぁ、私は何も企んでなんかないよ。ただ、2人のためを思っただけだよ」

 

けれど、返ってくるすずかからの答えをアリサはよく理解出来ないでいた。

 

「はぁ、まったく。あんた、ここのボートが4人乗りだって知ってたわね?」

「ふふふ。どうかな」

 

すずかはそうやって笑って誤魔化すが、アリサはあまり悪い気はしないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジルヴェス、良かったの?」

「何がですか?」

 

なのははどこか不安そうにしながらジルヴェスに訊ねてきている。

 

「私と2人きりだからさ…………」

「嫌なはずないじゃないですか。それに、すずかさんが俺のために仕組んだことですから」

「え?」

「いえ、何でもないです。それで、俺、なのはさんに話があるんです」

 

湖の真ん中ほどの所でジルヴェスはオールを漕ぐ手を休め、そしてなのはの瞳を真っ直ぐに見据える。

その眼光の鋭さになのはは少しばかりたじろいでしまったが、いつになく真剣な雰囲気を漂わせるジルヴェスに、なのはも真剣な瞳で返す。

 

「……海鳴で初めて会ったときのこと憶えていますか?」

「うん」

「では、そのとき俺がどんな話をしたか覚えてますか?」

「うん。昔、大切だった女の子を傷付けちゃったって」

 

なのはは一言一言、間違えないように答える。

 

「ええ。そして、なのはさんは言ってくれました。絶対に自分は傷付かない。俺の全てを受け入れる、と。でも、俺はその言葉を正直信用出来ずにいました。だから、ずっとなのはさんに対して引け目というか、素の自分を出せないでいて、初めて会ったときになのはさんが言ってたことも出来なくて…………」

「そうだったんだ…………」

「だけど、俺にとってみなさんはもう大切な人たちです。大切な人たちになってしまいました。だから、もしかしたら傷付けてしまうかもしれない、そんな恐怖で、なのはさんたちとの付き合いを上辺だけのものにするのは耐えられなくなってしまいました。……それに、気付いたんです。俺がもっと強くなれば傷付けることもなくなるんだって」

「それは違うよ!」

 

なのははジルヴェスの言葉を途中で否定するようなことを言った。

 

「それは違うよ。ジルヴェスはさっきから大切な人たちを傷付けたくないって、そしてそのために強くなるって言うけど、それはダメだよ…………確かに、ジルヴェスがみんなを守れるくらい強くなれれば大切な人の、()が傷付くことはなくなると思うよ。でも、もしそれでジルヴェスが傷付いたりしたら、今度は、()が傷付くんだよ?私は()が傷付くことよりも()が傷付くことの方がよっぽど辛いことだと思う…………ジルヴェスはそれでいいの?」

「………………じゃあどうすればいいんですか?」

 

若干自棄(やけ)な台詞に聞こえないこともなかったが、自分の歩むべき道を他人であるなのはに請ったという事実は、ジルヴェスが少しずつではあるが、なのはに歩み寄っている証拠に違いなかった。

 

「どうするもこうするもないよ」

 

なのはは優しい笑みをジルヴェスに向け、静かに語る。

 

「私は海鳴であったときにこうも言った。私の前では素直なジルヴェスで居て、って。何も、大切な人を守ろうとかそんな風に気張らなくていいと思うの。何でもかんでも出来る人なんて居なくて、みんな等身大の自分で精一杯頑張ってる。実際、私はこれまでたくさんの人たちをある意味で傷付けてきた。私のせいで怪我をさせてしまったこともあるし、たくさんの心配をかけて、そして悲しませてきた。それに、私自身すごく傷付いたことだってあるよ。だけど、私はそれが普通だと思う。傷付いて、傷付けて、そうやって私たちはお互いに分かり合っていける、ううん、違う。そうしないと本当の意味で分かり合うなんてこと出来ないんだと思うの」

「そんなこと言っても…………」

 

ジルヴェスはなのはの言葉が受け入れ難いのか何か言い返そうとしている。

けれど、なのははそれをさせない。

 

「私は、ジルヴェスにだったら傷付けられてもいいよ。だってそれはジルヴェスが本気で私に向き合ってくれてるからこそだもん。それに、ジルヴェスが昔に大切な娘を傷付けてしまったときの詳しい事情を私は知らないけど、ジルヴェスは優しいから、きっと全部を自分のせいにしてる気がする」

 

そして、ここで一旦言葉を切って、じっとジルヴェスの瞳を見詰める。

 

「ジルヴェスは本当にその娘を傷付けたの?」

 

そして、彼の心に真っ直ぐに届く、不思議な重みを持った声音でそう問った。

 

「そうですよ!俺は俺の魔法でレイナをボロボロにしてしまった」

 

なのはからかけられた問いにジルヴェスは思わず叫んでいた。

 

「じゃあ、言い方を変えるよ。その娘は本当に傷付いたの?」

 

けれどなのはは気にも留めず、至って落ち着いていた。

そして、彼女の言葉の通り、ただ言い方を変えただけ、ただ見方を変えただけ、ただそれだけの問いを再び投げかけた。

 

「そんなの当たり前じゃないですか!」

 

なのはは何を言っているんだ、という疑問はあったが、それを深く考える余裕は今のジルヴェスにはなかった。

 

「でもそれはジルヴェスがそう思ってるってだけのことだよね?あくまでジルヴェスの予想。もしかしたらその娘は傷付けられたなんて思ってないかもしれない」

「……………………」

 

ジルヴェスはなのはからもたらされた、彼にとってみれは革命的なものの見方に言葉を失っていた。

 

「まぁ、本当のところは私には分からないけどね」

 

なのははそう言って苦笑を浮かべる他なかった。

 

「それで、色々言ってきたけど、何が一番に言いたいかって言うと、最初にも言った通り、今のジルヴェスのままでいいよ、ってこと。誰かを傷付けるとかそんなことを恐れずに等身大のジルヴェスで居て欲しいってこと。私はそんなジルヴェスと一緒に居たいと思ってるんだ」

 

なのはは最後、自分の言葉が恥ずかしくなったのか顔を赤らめていた。

けれど、彼女の言葉はしっかりとジルヴェスへと届いていた。

 

「………………なのはさんはズルいですよ……」

 

なのはの言葉の端々から滲み出る彼女の優しさをジルヴェスは感じ取っていた。そして、その優しさは彼の心に沁み渡り、彼の心を彼が抱える恐怖から守るように強くさせる力を持っているようだった。








ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m



そもそも、ここまでの「卒業編」はジルヴェスの過去をなのはに打ち明けて、次のお話に向けてジルヴェスの抱える問題を一つ解決する、ってな感じにするように構想を立ててたんですけど、よく考えてみたら、「過去に大切な人を傷付けた」って話は13話あたりでなのはにしてたんですね(・・;)
それに気付いたのは投稿してからという…………
なので、こんな感じの告白回となりましたが如何でしたでしょうか?
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