リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「本当にジルヴェスさんが来て良かったです。これまで、フォワードの男は僕だけで戸惑ってたりしてたので……」
前線唯一の男子だったエリオは心からの声を漏らしていた。
さすがにいくら10歳とは言え、女性ばかり、しかもかなりの美人揃い、の中に男一人というのはなかなかに酷なことだろう。
まして、周囲はエリオがまだ小さいからと、まるで警戒心がないのだから
そのエリオの心からの訴えにスバルとティアナはバツが悪そうに目を背けた。
「あぁ、確かに大変そうだな。特にティアの相手が。けど、年下相手なら態度も柔らかかったりするのか……?」
ジルヴェスとしては、誰に対してもティアナはツンツンした態度をとっているものだと勝手に考えていた。
そうは思いながらも彼女の面倒見の良いところも知っていたから自分よりも明らかな年下相手なら優しいお姉さんなのかもしれないと考えたりもしていた。
「ジルヴェスあんた、さらっと失礼なことを言うわね」
ティアナは彼を睨み付けるように視線をやりながら呟く。
「でもホントのことだろ。訓練校のときも初めはすごくツンツンしてたじゃないか。俺が見てないからって罵詈雑言の雨あられ。ホントに酷かった……」
ジルヴェスは遠い昔を思い返すような目をしていた。
「あ、あのときは……」
「うん、あのときはわたしも結構大変だったなぁ」
「スバル、余計なこと言わない!」
ジルヴェスの話に口ごもっていたティアナだったが、それにノって何か言おうとするスバルの機先を制した。
「そう言えば、ジルヴェスさんとティアさんたちってどうして仲良くなったんですか?」
ただ、そんな会話を聞いてエリオとキャロは興味を持ってしまったようだったが……。
「俺の個人的感情の変化ってところかな」
「え、ジルヴェスさんがどちらかのことが好きだったんですか?」
エリオは意外に思っていることが伝わってくるくらい驚いた顔でそう訊いてきた。
「いやいや、違うって」
なかなかに直球な物言いのエリオにジルヴェスは苦笑いを浮かべつつ、あり得ないだろ、という言葉が続きそうな、そんな言い方をした。
「まぁ、なんて言うかな、その頃の俺は今よりもっと性格がひねくれてたんだよ。まぁ今もそこそこひねくれてるけど。で、昔あったことを引きずっててな。それで、訓練なんかも適当に流してたんだ。そんでもって、ティアナはそういうやつが大嫌い。だから、俺にかなり腹を立ててたみたいなんだよ。そんなときに模擬戦を訓練校でやる機会があって、スバルと戦ったんだ。そこで気付かされって言うかな。まぁ、スバルの言葉に目を覚まさせられた感じで。そのあとにティアナとも戦ったんだが、今度は俺がティアナを諭す側になって。要は、スバルがいなかったら俺はここにはいないってことだ」
「へぇ、スバルさんって大人ですね」
ジルヴェスのちょっとした独白の後、おもむろにエリオが口を開いた。
「いつもはこんなちゃらんぽらんなのにね」
ティアナはいつものごとく親しいが故の毒を吐く。
「ティア酷いなぁ」
「……でも、僕のことを助けてくれたときはすごく優しくていい人だなって思ったんですけど」
スバルが拗ねる横でエリオが思い出したように言った。
「エリオ、こいつが何したの?」
「迷子になってしまった僕をフェイトさんのところまで連れて行ってくれたんです」
「へぇ。でもジルヴェスがそんなことするなんて意外ね。しかも、それってうじうじしてた時期なんでしょ?」
本当かしらね、とティアナは疑惑の視線をジルヴェスに向けている。
「そうか?この俺、心の優しいジルヴェスさんだぞ?やっぱり、自分の本質に嘘は吐けないっていうか」
「それが嘘でしょうが」
「失礼だな!」
そんな掛け合いをしている2人はとても楽しそうに他の3人の目には映った。
「まぁまぁ、二人とも」
「まぁ、いいや。じゃあ俺、隊長陣に挨拶してくるから」
スバルに宥められるとそう言ってジルヴェスは4人のもとを離れた。
「ジルヴェスです。失礼します」
「どうぞ~」
食堂から出たジルヴェスはなのはたちの部屋に来ていた。
「あ、ジルヴェス。いらっしゃい」
「はい、お邪魔します」
部屋に入るとすぐにフェイトと目が合い、ジルヴェスはペコリと頭を下げた。
「さっきの出動のときはありがとね、助かったよ」
「いえ、フェイトさんたちからすれば要らぬ援護でしょう」
「そんなことないよ。なるべく手の内は見せたくなかったから一撃であれだけの破壊力のある魔法を軽々使うジルヴェスにはすごく助けられたよ」
本当だよ?と、フェイトは付け足す。
「そうですか。あの程度の魔法ですけどね。まぁ、お世辞でもありがたく受け取っておきます。でも、俺もあまり手の内は見せたくないんですよ?」
「そうなんだ。なら安心かな」
「何がです、なのはさん?あとお久しぶりです」
ジルヴェスの言った言葉からするといささか見当外れなことをなのはは口にした。
「いや、あれだけの魔法を『あの程度』って言えるだけのものをまだ持ってるってことだもんね」
「………やはり、『エース』の名は伊達じゃないですね」
「まぁね。ジルヴェスの『実力』にはすごく興味があるんだ。なんだかんだ言って、まだ一度もジルヴェスの本気は見たことないし」
「期待に沿えるように頑張りますよ」
ジルヴェスは内心では、自分の「本気」が出ないに越したことはないだろうと思っていた。けれど、それはわざわざ言うことではない。
「でも、もう一人のフォワードがジルヴェスだって聞いたときは驚いたよ」
「俺も驚きましたよ。ヴェルさんから聞いたんですけどね。しかも、他のフォワード全員と知り合い以上の関係だったので、余計に驚きが」
「うん、でもなんではやてちゃんは最後まで秘密にしてたんだろ」
今になって、更なる疑問が沸いてきた。
「俺にはサプライズだとか言ってましたけど、あの人のことはよく分からないので。いつもなんか企んでる感じですし」
「あぁ、それはちょっとあるかも。はやて、他にも内緒にしてることあるみたいだし」
私たちにも教えくれてもいいのに、となのはは頬を脹らませてむくれている。そんな様子を可愛いなとジルヴェスが思ったのは本人だけの秘密だ。
「そうですね。隠し事されると、無理矢理にでも聞き出したくなるんですけど、あの人は無駄に強いですからね、そういうわけにもいかないんですよね。まぁ、本気でやれば別ですけど、そこまですることではないですし」
「へぇ。ジルヴェス、やっぱりはやてちゃんより強いんだ」
ジルヴェスの言葉に彼の自信を感じたなのはは、目を輝かせる。
「いや、はやてさんが強いってのは性格のことを言っただけで。はやてさん、何言ってもヘラヘラしてるんですもん」
「なんだ、そんなことかぁ…………あっ、いいこと思い付いた!」
ジルヴェスは、おそらく「いいこと」ではないんだろうなとは思いつつもとりあえず話を聞くことにした。
「明日、私と模擬戦やろうよ。そしたら少しはジルヴェスの本気も見れるかもしれないしさ」
案の定、ジルヴェスにとっての「いいこと」ではなかった。
「え……フェイトさん、どうしたらいいですかね」
困ったようにフェイトに助けを求めるジルヴェスだが……
「うーん、手っ取り早いのは、なのはのやりたいようにやらせることかな…」
ごめん、と手を合わせながらだったが、遠回しに「諦めろ」と言われてしまった。
「ですよね………けど疲れそうだからやりたくないんですよ」
「私に言われてもな………でも、模擬戦やれば他の子たちには勉強になるんじゃないかな」
「そうですかね……俺の場合、一切見本になりませんよ?見てもらえば解りますけど、俺の魔法は俺個人のポテンシャルに依存しているので」
だから、わざわざ他の4人の訓練の時間を奪ってまでやることではないとジルヴェスは言った。
「いいよ、いいよ、そんなこと。私がジルヴェスの実力を知りたいだけだからさ。なんなら訓練の後でもいいし」
「だから、疲れるから嫌だって言ってるじゃないですか」
もう、いい加減にしてください、と言おうとする前になのはが言葉を続けた。
「じゃあさじゃあさ、ジルヴェスが勝ったら何でも一つ言うことを聞いてあげるっていうのは?」
「!」
やる気のなかったジルヴェスも、なのはのその言葉には興味を示す。
「その代わりジルヴェスが負けたら私の言うこと、一つ聞いてもらうからね」
「……いいでしょう。その話、のります。でもいいんですか?最近また腕上げましたよ?あー、楽しみだなぁ。なのはさんのあんな姿やこんな姿を────」
「え!?あ、いや。それは困るよ!ちょっとは手加減してよ!」
なのははジルヴェスの言葉に動揺を隠せないでいた。
「いや、普通逆ですからね?本局のエースがそこらへんの局員を相手に模擬戦なんて……しかも、負けたら言うこと聞かせようってんだから……なのはさんって鬼畜ですね」
「うにゃ!………フェイトちゃん、ジルヴェスがいじめるぅ…」
ジルヴェスにいいようにあしらわれフェイトに泣きつくなのは。
「いや、ジルヴェスの言うことも正しいんじゃないかな…」
「がーん、フェイトちゃんまで………」
けれど、ある意味フェイトに裏切られてちょっとショックを受けてうなだれていた。
「それじゃ、失礼します。あ、模擬戦はいつでもいいですよ」
「絶対に手加減なんかしないんだからぁ!」
「手加減なんていらないですよ。その方が面白そうなんで」
大人げなく振る舞うなのはに対してジルヴェスは余裕綽々な様子だった。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m