リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
「あ…………」
「なのはさん…」
息がかかるほどに近付いた二人の顔。
そして少しでも動けば、取り返しのつかなくなる距離。
そんな距離でしばらく無言で見詰め合っていた2人だったが、その静寂をなのはが破った。
「ジルヴェス、あのさ、私、その────」
「なのはさん大丈夫ですか?」
「え、あ、うん……」
なのはがジルヴェスに何かを言おうとしたまさにそのとき、偶然か必然か、そこを通りかかったティアナに話しかけられ、なのはは言葉を呑み込み、さらに軽く動揺する。もしもティアナがやって来なかったなら口にしていただろう言葉が頭を
「ジルヴェスあんた何してんの?」
「ん?ティアか。何してるって、なのはさんに襲われてる」
「じ、ジルヴェス!変なこと言わないでよ!」
ジルヴェスが冗談で言っていることはもちろんティアナにも分かっていたが、なのははそれに過剰に反応する。
「あ、すいません。だけど、とりあえず上からどいてもらえます?重いってわけじゃない、てかむしろ軽いんですけど、ティアの視線が痛いので」
ジルヴェスはチラッとティアナの顔色を窺うように視線を動かし苦笑した。
「ご、ごめん…」
なのはは慌てて体を起こしてジルヴェスから離れる。
「それで、何でなのはさんと倒れてたのよ」
「いや、なのはさんが俺から写真を奪おうと飛びかかってきて、あの有り様だよ」
ジルヴェスも立ち上がりながらティアナの質問に答える。
ちなみに、やれやれと首を左右に振るおまけ付きで。
「うんうん。そうなの」
なのはも大きく頷いて、ジルヴェスの言葉を肯定する。
「なんだ、そうだったの…………ちょっと安心…」
ポツリと漏らしたティアナの呟きはこの場の2人には幸いにも聞こえていないようだった。
「ティアこそ何してんだ?」
「あ、あたし?あたしはちょっと散歩してるだけよ。なんだか寝付けなくて」
「ふーん、じゃあ気を付けてな、そろそろ俺部屋に帰るから」
そう言ってジルヴェスは手を振って隊舎の方に歩き出す。
「じゃあ、私も帰ろ」
「あ、なのはさん、ちょっといいですか?」
「うん?いいよ」
ティアナがなのはを引き留めてジルヴェスは一人、部屋へと帰っていった。
「話って何かな」
なのははとりあえずティアナの話を聞こうと話かけた。
「あ、あの、なのはさんはその…ジル…………いえ、やっぱり何でもないです!私も部屋に戻ります。呼び止めてすいません!」
けれど、ティアナはそう言うが早いか走り去ってしまった。
「あれ……なんだったんだろう……?」
なのはは戸惑ったまま一人その場に残された。
「あたしってば何言おうとしてるのかしら………」
「おい、話は終わったのか?案外早かったな」
自分が言おうとしたことを改めて考えて恥ずかしくなり、足早に隊舎に向かっているとティアナの目の前にジルヴェスが現れた。
「ふぇ!?じ、ジルヴェス?なんであんたがここにいるのよ!」
「いや、ティアのこと待ってたんだけど。なんかティア、なのはさんと話したそうにしてたからなのはさんには部屋に戻るって言ったけどな」
「そ、そう」
ティアナはなんだか、自分のことはすべてジルヴェスに見透かされてしまっているような気がしてきた。
「じゃ、もう戻ろうぜ。さすがに今日は疲れた」
「そんな風には見えないけど?」
ティアナは歩きながらジルヴェスに話しかける。
「いや、精神的にな。気分転換のために外に出たらなのはさんに出くわして、あんなことに」
「そう……あんたも苦労してんのね」
「まぁ、な…………あのエースさんたちはみんな個性的だからな」
ティアだってそう思うだろ?とジルヴェスは笑いながら訊いてくる 。
「あんたはなのはさんたちのことどう思ってるわけ?」
「どう、って?」
「…………だから、その………好きとかそうじゃないとか……」
これを訊くだけでも恥ずかしいのか切れ切れに、そして消え入りそうなほどの小ささで言った。
「まぁ、好きじゃなかったら一緒にいたいとは思わないだろ」
「そう……」
「だから、ティアのことも好きだぞ」
「え?」
急に好きだと言われティアナは戸惑いを隠せない。
「スバルもエリオもキャロも。俺は絶対にみんなを守る」
「………そ、そうよね………」
自身の勘違いとは言え、上げて落とされてテンションは下がってしまっていた。
「ん?どうかしたか?」
「べ、別に何でもないわ。それより、あんた隠してることない?」
「え?」
「いや、今日の模擬戦見てて、さ………」
言えないことなら言わなくていいわよ、と言う。
「すまん、言えない。諸事情ではやてさんだけが知ってるけど……それでもあの人にも全部は話していない……」
「そう…………」
ティアナは、ジルヴェスの背負うものが測れず、かける言葉が見付からなかった。
「でも、そのうちに知ることがあるかもな」
「…………じゃ、すぐそこ部屋だから戻るわ」
「あぁ、また明日な」
そう言って二人は別れた。
ティアナはどうすればいいのか、考えていた。
「ふぁ……」
なのはは自室に戻ると顔を赤らめ恥ずかしさに身を震わせていた。
「…………ティアが来なかったら、ジルヴェスに何を言ってしまってたんだろう…………?」
再び、そのことが頭を占め始めてなのは的には軽くパニックだったりする。
「……ジルヴェスは……私のことどう思ってるのかな…………って、こんなこと考えたって仕方ないのに……そもそも私がジルヴェスを気にかけるのはどうしてなんだろう……?」
なのはは自分の心が読めなくて頭を悩ませることになった。
「…………なのは、どうかしたの?」
しばらくすると同室であるフェイトが部屋へと戻ってきた。
「ふぇ!?」
突然声をかけられてなのはは驚いている。
「ご、ごめん。大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
フェイトとしては驚かせるつもりは無かったから思わず謝ってしまったが、それはそれでなのはには少し気まずいものがあった。
「なんか変だったけど、何があったの?」
ともかくフェイトは様子のおかしななのはのことは気になるようで、それを訊ねている。
「あぅ…………その、ジルヴェスが…………写真をね----」
切れ切れではあったが、とりあえずなのははフェイトに今日あったことを話してみた。
「そんなことがあったんだ。だけど、なのはらしくないね」
普通に笑みを浮かべながらフェイトは言う。
「え?」
「だって、なのはは相手の都合なんてお構いなし、でしょ?少なくとも、これまではそうだったよね?」
「そ、それはあくまで子供のときの話だよ。もう大人なんだから、そんなこと言ってられないもん……」
そう言って悩んでいる姿は「大人」などではなく、まだまだ年頃の「少女」にしかフェイトとしては思えないのだが、彼女はわざわざそんなことを言うことはしなかった。
「でも、そう言えば私たちジルヴェスのこと何も知らないね」
そして、フェイトはなのはの求める答えは用意出来ないと別の話題にすり替えることにしたようだった。
「……確かに…………けど、本人が話したくないことなら仕方ないんじゃないかな」
「……本当に大丈夫?」
なのはは自称大人な振舞いを見せているが、それが心から意外なのか、フェイトは本気でなのはのことを心配していた。
「フェイトちゃん、さすがに失礼だよ!?」
そしてさすがのなのはも少し口を尖らせてしまっていた。
「ごめん。でも、なんかなのは、いつもと違うから」
フェイトは具体的にどこがどうとまでは言えなかったが、何となくの違和感を覚えていたのだった。
「そう、かな……?まぁ、心配しなくて大丈夫だから」
なのははいつも通りの笑顔を浮かべて、それ以上このことについてフェイトが何かを言うのを制した。
「……まぁ、いいけど。それにしても、フォワードのみんなの様子はどう?」
フェイトはまたも話題を変えることにした。
「うん。何の問題もないし、この前の任務だってちゃんと出来てたから大丈夫。もうみんなには
「なのは!」
「え?」
「……絶対に一人で抱え込まないってことも約束して?お願いだから」
真剣な眼差しでフェイトが言うものだからなのはもそれなりの思いでもって返事をしなければいけなかった。
「……分かった。絶対、だよ」
「うん」
その返事を聞いて、フェイトは安心したように頷いた。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m