リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
直撃を受けたジルヴェスはそのまま重力に引かれ落ちていく。
「あっ----」
「……………………」
術者が気絶し、しかも彼が使用するのは単なるストレージのアームドデバイス。
そんな状況では当然飛行魔法など持続しない。
そして落下するのは当たり前のことだが、戦いにだけ意識を割いていたティアナはそのことを失念していた。
だから落下し始めたジルヴェスを見て慌て出した。
【…………《Holding net》……】
けれど、すぐさま桜色の光が輝き、墜落防止のための網を張る魔法が発動した。そのおかげで落下の衝撃は柔らかく吸収された。
「……良かった、間に合ったよ」
そう言いながら、その魔法を発動したなのははジルヴェスの元に翔んでいく。
「…………いててて……これは……じゃあなのはさんか」
そして、ちょうどジルヴェスも目を覚ました、というより落下の衝撃が意識を取り戻させたといった方が正しい。
さすがに、その衝撃の全てを吸収出来たわけではないから軽い衝撃は当然あったということだ。
「ジルヴェス大丈夫?」
「ええ、まぁ。これ、なのはさんのですよね?ありがとうございます」
下の魔法による網を指して訊ねるジルヴェスになのはは頷く。
「良かった。とりあえず戻ろっか」
「そうですね」
そう答えるとジルヴェスは立ち上がり、歩き始めた。
そして、ティアナとスバルの二人もエリオたちの居る場所へと移動していた。
「ジルヴェス大丈夫?」
「ああ、問題ない。なのはさんの緩衝魔法もあったしな」
心配そうに訊ねてきたスバルに大丈夫だと返事をする。
ティアナも言葉にこそしないが心配しているのだなということは分かるくらいには落ち着きがなかった。
「そうだティ----」
『ガジェット出現。前線メンバーはヘリポートに集まってください』
ジルヴェスがティアナに何か言おうとしたところでアラートが出て招集がかかった。
「みんな、移動するよ」
そしてなのはの先導で移動を開始した。
「みんな集まったか?」
「うん」
ヘリポートにははやて、シグナム、ヴィータの3人がすでに待機していた。
「今日の任務は隊長陣だけでいく。みんなは待機や」
そして、なのはたちが来たところで、そうはやては指示を出す。
「「「「「はい」」」」」
「じゃあ行こか」
はやての言葉で彼女らはヘリへ乗り込んでいく。
「……ティア、さっきの魔法、良かったよ」
なのははヘリに乗る直前、振り返り、ティアナに笑みを向けた。そして、なのはがヘリに乗るとすぐに飛び立った。
「あ…………」
そんな中、ティアナはなのはの言葉に胸が詰まる思いがしていた。
「よし、じゃあ実質自由時間だけどちょっと話しようぜ。ついてきてくれ」
「私たちもですか…?」
「てっきりティアさんだけかと………」
キャロとエリオは驚いた表情でそう言った。
「まぁそれでもいいんだけどいい機会だからみんなに話しとこうと思って」
そう言いながら食堂まで移動を促すジルヴェス。
そして、4人は言われた通り、彼についていった。
「とある昔話を一つしよう」
移動すると、そうとだけ前置きをしてジルヴェスは早速話し出した。
「………………」
それを邪魔することもなく、ティアナはただ聴いている。
「……あるところに可愛らしい、まだ9歳の少女がいた。その少女は魔法などという力がこの世にあることなんて露ほども知らず、家族や友人と普通だけど、だからこそ平和で大切で幸せな時間を過ごしていた。けれど、彼女はある悩みを抱えていた。その悩みというのは、『自分には何も出来ない、どうしようもないことばかりで、そして自分の手は誰にも届かないのだ』という、9歳の少女が持つにしては深過ぎるものだった。そんな彼女が魔法と出会ったのはまったくの偶然で、そんな偶然がいくつも重なった奇跡みたいな出来事だった。そして、悩みを抱えたまま、彼女は魔法使いになった。しかも、魔法と出会ってすぐにとある事件に巻き込まれ、彼女は魔法の知識も経験もないままに、いきなり『実戦』へと身を投じることになる。事件で対峙した相手もまた9歳の少女であった。彼女と少女との違いは、小さな頃から魔法教育をされていたことと家庭環境、たったそれだけのように思われた。そして、彼女は相手の少女のことを止めたくて、友達になりたくて、一生懸命に、そして、文字通り命懸けで戦った。けれど、まったく敵わず、自分の思いも伝わらず、彼女にとってそれはとても苦しい戦いであり『会話』であった。だがしかし、彼女は生まれ持った圧倒的な魔法センスと、決して諦めることのないその不屈の心を胸に宿して、本気で少女と向き合った。そして、その強い想いと大きな力が事件を大きく動かし、更には少女の心をも動かした。ついには、事件を解決するほどの魔法使いにまでなった。その事件の名前はジュエルシード事件」
「…ジュエルシード事件…………」
「…じゃあ、これってなのはさんとフェイトさんの────」
ジルヴェスの話を聞きながら、そう呟いたのは誰なのか。
「ジュエルシード事件、それが解決して数ヵ月が過ぎた頃、少女はまたも新たな事件に巻き込まれる。その名前は『闇の書』事件。古代ベルカ時代よりもずっと前の時代に創られた魔導書、それを中心に事件は展開していく。その
「………………」
「みんな途中で分かったと思うけどこれはなのはさん、とフェイトさん、はやてさんもかな、の昔話」
「なのはさんにそんなことが…………」
ティアナは予想以上の話に茫然自失といった具合だった。
「でさティア、今なら分かるはずだ。だって、ティアの出した答えはさっき模擬戦を通して見たし、なのはさんも満足してたからな。ただ、一応、この前の任務でどうしてあそこまで怒られたのか、それを知っていてほしかったから今こうして話したんだ。そして、それはティアだけじゃなくてみんなにも知っておいてほしかった」
「……そう」
ティアナは何も自分は分かっていなかったと感じ、内心複雑な思いでいた。
「なのはさんはお前に、いやお前らみんなに自分と同じ思いをしてほしくないんだよ。前にも言ったけど、確かに無茶をしてでも相手を止めることが必要なときもある。自分の全てを賭けてやり遂げなきゃならないこともある。でも、なのはさんはお前らにはそんなことさせたくない。その無茶の代償を、その辛さを人一倍に知ってるからこそ、無茶を許せない。だから、無茶をしなくても相手を倒せる、止められる、そうなれるように訓練してくれてる」
どうしてか、彼の口ぶりからは彼自身のことを考えていないようにも感じられる。
けれど、そのことに気付ける余裕はこの場の誰もが持ってはいなかった。
「……………あたしだって分かってたのよ、それくらい……」
彼女の中で葛藤があったことを感じさせるほど力なく告げた。
「ああ。それと、最後に俺から……力は使い方を間違えたら価値がないってことを覚えていてくれ……そしてそのことで後悔しないでくれな」
そう語ったジルヴェスはどこか自らを責めるような口振りに思えたが、そのことに気付いたのはスバルだけだった。
そして彼女は深く追及することはしなかった。
「じゃ、みんな自由に過ごしててくれ」
ジルヴェスはこれで話はお仕舞いだと切り上げた。
----そうそう、この後なのはが戻ってから六課のスタッフに敬礼で迎えられ、なのはが困惑してオロオロしたことはここだけの秘密である。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m