リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
隊舎へと戻り、少女を見たときジルヴェスの顔は驚愕に染まった。けれどその直後、落胆と後悔の色が彼の瞳に広がるのをスバルは見た気がした。
「……聖王………?」
それでも、彼は平静を装い、単純に目の前で眠る少女に対する驚きを感じているだけのように振る舞った。
だから、彼に対する違和感を抱いていたスバルではあったが、それについて訊くことは何故だか
「なんやと?ジルヴェスそれは本当なんか?」
そして、その呟きにはやてはいち早く反応する。
「ええ……かの時代の『聖王』オリヴィエに似てます。これで聖王と同じ色彩のオッドアイなら間違いないかと」
気絶しているのか寝ているのかは分からないが、目を閉じているためにベルカの王の持つ特徴であるオッドアイの色彩は確認出来なかった。
「は?なんでそんなことあんたが分かるのよ」
するとジルヴェスの言葉に今度はティアナが反応した。
「…………それは、まぁ、俺が物識りだってことだな。つい、この間勉強したばっかりだし」
「…………あっそ」
ティアナははぐらかすようなジルヴェスの言葉に疑問を抱いたようだが、それ以上は何も言わなかった。
「でも、聖王ってことはクローンってことなのかな。けどそれって違法だよ、ね………」
そんな中、スバルの言葉でフェイトとエリオの顔に翳りが。そして、ジルヴェスもどこか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているようだった。
その雰囲気を感じとったのか、スバルは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ジルヴェスの言うことが本当かはまだ判らんけど、とりあえずはこの件を聖王教会に預けようと思う」
「それで問題ないと思います。連れて行くなら自分も一緒に行きます」
もし、この少女が「聖王」のクローンであるなら、六課のヘリを襲撃したのは、彼女を強奪するか消すための行動だとジルヴェスは考えた。だから、自分も護衛として付き添うことを申し出た。
そして何より、この娘のような存在を出さないために動こうと決意していたはずなのに六課に来てからの自分が弛んでいたからこのようなことが起きたのだと、自らを責める思いもあった。
「ほな、シグナムとなのはちゃんと3人で頼むわ。うち、事件の報告書、書かなあかんから」
「分かりました」
「うん、分かった」
「それでは行くぞ」
3人は少女を連れてそのまま聖王教会へ向かった。
「それでさ、ジルヴェス、なんでこの娘が聖王のクローンだって断言出来たの?さっきの答えは何かはぐらかすような感じだったから。ティアだって納得してなかったでしょ?」
車に乗り込むと早速なのはに先ほどのジルヴェスの言葉について追及されてしまった。
シグナムは事情を知っているからか、我関せずと運転に集中している。
「そんなこと言われても………」
「まぁ、言えないことなら無理に言うことはないと思うけどね」
口ごもるジルヴェスにまだ早かったかな、となのはは訊くのを諦めた。
「すいません。その内に話します」
ジルヴェスのその言葉になのははうなずき、世間話を始めた。
「ごめん、ちょっとだけあのお店に寄ってもいいかな?」
「まぁ、別に構わないが急げよ」
「はーい」
困ったやつだ、と思っているのが丸分かりなシグナムに子供っぽく元気に返事をしてなのはは車を降りた。
「なのはさん、何しに行ったんですかね」
「さぁな、私には分からん。だが、なのはの表情が楽しそうだったからな、きっと悪いことではないのだろう」
「そうですね」
なのはが戻ってくるまで2人は色々話した。
「おまたせ。それじゃ、行こう」
しばらくしてなのはが戻ってきた。
「騎士シグナム、ようこそいらっしゃいました」
「久しぶりだな、シャッハ」
教会に着くとシャッハ・ヌエラが出迎えにやって来た。彼女はシグナムと個人的にも仲が良く、またこれから会う予定の人の秘書もしている。
「ええ。それに、騎士ジルヴェスもお久しぶりです。なのはさんは相変わらずですか?」
「うん。ジルヴェスたちもいるからこれまでに比べれば全然楽だよ」
前は、フェイトちゃんとヴォルケンズだけだったもん、と付け加える。
「シャッハさん、その『騎士ジルヴェス』ってのやめてもらえませんか?」
ジルヴェスも古代ベルカの継承者であることや、彼の知り合いに聖王教会の関係者がいたことから彼も聖王教会に世話になっている。そのため、シャッハとも面識があるのだが、名前の前に「騎士」を付ける教会の慣習に彼はむず痒さを感じていた。
さらに、明らかにシャッハの方が年上なのに敬語を使われるというのもジルヴェスとしては困っている原因の一つであった。
「すいません」
「あと、敬語も……」
「気をつけます。それでは騎士カリムの元に案内します」
ただ、敬語を使うのはシャッハの癖というだけではなく、ジルヴェスの生まれも関係しているのだがそれを知る者は少ない。
「ようこそ。あら、ジルヴェスじゃない。元気かしら?」
六課から来た者の中にジルヴェスもいるのを見てカリム・グラシアは意外そうな顔をした。
「ええ。ま、自分が『聖王』教会にお世話になってるなんて皮肉なことですがね」
「そんなこと気にしなくていいのよ。それを言ったら
きな臭い2人の会話になのはがツッコミを入れたそうにしていたが、シグナムがそれとなく目で制止していた。
「いえ、お気になさらず。それよりも、本題に」
そして、シグナムはカリムに続きを促す。
「そうね。で、この娘がはやての言ってた女の子かしら。たしか、聖王のクローンじゃないかって話よね?」
「はい。かの聖王、オリヴィエによく似ています」
ジルヴェスの言葉にカリムは頷いていた。
「………そうですか。こちらでよく調べてみます。(ジルヴェスが言うなら間違いないかもしれないわね)」
「お願いします」
シグナムは一礼し、件の少女を引き渡した。
眠れる少女はシャッハに連れられて医療棟へ運ばれ、ジルヴェスたちとカリム、の4人は近況報告を兼ねてお茶会を開くことに。
「最近はどうかしら?」
「そうですね、レリックの回収任務においては順調な成果があがっています。フォワードのみんなもめきめき成長していますし」
そう言ってなのははジルヴェスを見る。
「ありがとうございます。でも、あの戦闘機人たちには逃げられてますし、まだまだです」
「そうだな。まだまだひよっこレベルだな」
「シグナムさん………」
はっきりと言うシグナムに、そこは褒めてくださいよ、としょげて見せるジルヴェス。
「ジルヴェス、しっかり役に立ってるみたいね」
その会話を聞いてカリムは満足そうに笑った。
「それはもう。特に隊長陣の情報を向こうに渡さないで済むので本当に助かってます」
「ま、それに関しては同意できるな」
なのはもシグナムも揃ってジルヴェスを褒めるものだから却って居心地が悪く感じてしまう。
「役に立っているのなら私もクライスナーさんに頼んだ甲斐が…………いえ、なんでもないわ」
「もしかして、カリムさんがヴェルさんに俺を
うっかり口を滑らせた、と慌てて誤魔化すカリムだったがジルヴェスはスルーしてはくれなかった。
「……まぁ、そうね。クライスナーさんもなかなか渋ってたわ。というより、ジルヴェスをもともと六課に転属させる予定で打診していたのよ。だけど、簡単に貴重な自分の隊の戦力を放出してくれるわけもなくて。何とかお願いしたけど結局は規則の抜け道を突くような方法でジルヴェスを六課に向かわせてるし…………そりゃ初めから転属扱いにすらしなければ、自分の部隊にいつでも戻せるけど……」
カリムはそう言いながらやはり何か思うところがあるようでため息を一つ吐いている。
「にゃはは、あの人、ちゃっかりしてるね」
「あの人らしいが」
また、なのはとシグナムはそれぞれ思い当たることがあるようだった。
「そりゃそうよ。陸士のくせに翔べて、その上実力も十分だもの。けど、階級が低い。これで欲しがらない人はいないでしょう」
「あれ、ジルヴェスって陸士だったっけ?」
カリムの言葉になのははあれ、と訊ねる。
「なのはさん何言ってるんですか。そもそもなのはさんと会ったのだって陸士訓練校でしたし、陸士の戦技競技会にも来てたじゃないですか」
そんななのはにジルヴェスは呆れ顔で答える。
「いや、だって、初めて会ってしばらくしてからちょっと戦ったときには翔べてたし、陸士ってこと忘れてたよ」
にゃはは、と笑ってなのはは誤魔化す。
「いやいや、笑い事じゃないですって」
「だからてっきり空隊出だと思ってた。でも、どうして陸士学校に行くことにしたの?翔べるのに」
「え、いや、なんとなくです。空隊の『あの』エリート意識が気に入らなかったって言うか。そういうやつらがバカにしてるとこで大活躍してやろうかと。だから卒業後には保護隊に行こうと思ったんですけどね。結局、ヴェルさんに呼び出されて特捜隊に行きました。まぁ、普通に特捜隊も楽しいですよ。忙しくはありましたけど」
この言葉の半分は真実とは異なるが、なのはは気付く気配すらない。
「へぇ、ジルヴェスらしい考えね」
「うんうん」
「なんとなくバカにされてる気分ですよ」
と言って、カリムとなのはをジルヴェスは睨む。
とは言え本気で睨んでいるわけではなくちょっとしたおふざけの延長ではあったが。
「バカになんてしてないよ。けど、今どき珍しいなって。力があるのに私利私欲のために使わないっていうのが」
「それ、なのはさんたちにも言えますよ。ってか、自分となのはさんたち、そこまで歳離れてないですからね。今どきって言ったらなのはさんたちも入りますよ」
実際、3つ違いくらいじゃなかったでしたっけ?とジルヴェスは言った。
「言われてみればそうかも」
「そうそう。『今どき』なんて言葉が似合うのはカリムさんぐらいですよ」
「あら、そう。私はおばさんだと………」
静かにそう言うカリムの背後に鬼が見えてジルヴェスは冗談が過ぎたと痛感した。
「いやー、なんて言いますか……言葉のあやと言いますか」
「まったく……」
ため息を吐きながら、しょうがないわねとカリムは許したのだった。
けれど、そんなほのぼのとした空気を壊すようにシャッハが駆け込んできた。
「シャッハ、どうしたの?そんなに慌てて」
「騎士カリム、皆さんも。すいません、私が少し目を離した隙にあの娘がいなくなってしまいまして」
「本当に?」
「俺、捜してきます」
「え?あ、うん、お願いね」
ジルヴェスの反応は早く、言うが早いかさっといなくなった。
咄嗟にジルヴェスに「お願い」と言ったなのはだったが、すぐに正気に戻り、すぐに捜しに行った。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m