リリカルなのはStrikerS ~悪魔と魔王と罪の記憶~ 作:台風一過
『ジルヴェス、見つかった?』
少女を捜し始めて30分ほど経ったが未だに見つからない。
「いえ、まだです。なのはさんの方もまだですよね。シグナムさんはどうですか?」
『いや、まだだ』
「そうですか。でも、教会の敷地の外には出てないということですし、もう少し捜せば見つかりますよ」
『そうだね』
お互いどこを捜したのかといった情報を交換して、それぞれ捜索に戻った。
「ここらへんはまだなのはさんもシグナムさんも捜してないって言ってたな」
そう言って探知魔法をかけながら捜しているとガサガサと草木の擦れる音がした。ジルヴェスがその音のした方へ行くと、植え込みから捜していた少女が出てきた。
「こんなところにいた」
そう声をかけてから、ジルヴェスは少女が怯えていることに気付く。ジルヴェスは少女を怯えさせないために目線を合わせるようにしゃがみ、優しく声をかける。
「どうしたの?」
初めは怯えていた少女だったが、ジルヴェスの雰囲気に害意がないことが分かったのか、やがて口を開いてくれた。
「ママを捜してるの……」
ただ、そう言う少女の顔は寂しさに翳っていた。
「ママを捜してるんだ。じゃあ、他に家族はいるのかな?」
「かぞく?」
「そう兄弟とか」
「……ん、わかんない」
そう言ってジルヴェスを見つめる少女は今にも泣きそうだった。
「分かった。ママが見つかるように兄ちゃんが手伝ってあげる。お名前、言える?」
「……ヴィヴィオ」
泣き出さないように、ジルヴェスが精一杯優しい声を出したからか、少女は泣くことなく、小声ではあったが名前を答えてくれた。
「ヴィヴィオか。兄ちゃんはジルヴェス」
「おにいちゃん!」
すっかりジルヴェスに気を許したのか、ヴィヴィオは元気よくジルヴェスに声をかけた。
するとそこへなのはがやって来た。
「ジルヴェス見つけたんだ。良かった」
「…………!」
ヴィヴィオはなのはを見るとジルヴェスの後ろに隠れてしまった。
「ええ。なんでも、ママを捜しているらしくて」
「そうなんだ」
「…………おにいちゃん、誰?」
ジルヴェスが普通になのはと話していると、意を決したように口を開いた。
「ああ、この人はなのはさん。ヴィヴィオの味方だよ」
「そうだよ。ヴィヴィオの本当のママを見つけるの手伝ってあげる」
ジルヴェスはこれまた優しく、なのはもより一層優しい言葉が必要だと悟り、その通り言葉をかけた。
「…………ほんとに?」
「うん、本当だよ」
子供のように純真ななのはの眩いばかりの笑顔を見て、ようやくヴィヴィオは笑顔になった。
「それにしてもなのはさんって、相手が子供だとすごい優しいんですね」
俺のときも、子供と言えば子供でしたし、とジルヴェスは言った。
「何それ、ひどーい。まるで私がいつもは全然優しくないみたいじゃない」
「え、だっていつもは悪魔のような鬼教官じゃないですか」
「悪魔な上に鬼…………私だってショック受けるんだから…」
と、なのははしょぼくれる。地味に涙まで浮かべていた。
「す、すいません……(これは、案外かわいいかも)」
「あ、謝ったって許さないんだからね。帰ったら覚悟しててね」
笑顔でそう言うなのはにジルヴェスは恐怖を感じずには居られなかった。
けれど、強がっているようで怖さ以外に愛しさも感じずには居られなかった。
「(笑顔でなんてこと言うんだ………やっぱり悪魔だ、やっぱり鬼だ…)」
ただ、心の裡で呟いたこの言葉は口にすることは決してなかった。
ヴィヴィオは検査が全部終わってから脱走していたので、ヴィヴィオを捜している間に諸々の結果は出ていた。そして、今その結果を聞くため再度なのは、ジルヴェス、シグナム、シャッハ、カリムが集まった。ヴィヴィオは疲れたのか眠っている。それはいいのだが……
「ジルヴェス大丈夫?」
「ええ、そんな重くないですし」
ジルヴェスの膝の上に座って眠っているのである。
「すっかり気に入られたわね。その歳で『子持ち』なんてね……」
「その言い方はやめてください」
ニヤニヤとジルヴェスを見るカリムに彼は勘弁してくださいと頭を下げる。
「あらあら。まぁ、いいわ。そんなことより今は大事なことがあるもの」
「そんなことって……」
「その娘、ヴィヴィオはジルヴェスの言ってたように人造魔導師ね」
そう言ってカリムはジルヴェスを意味ありげに見て続けた。
「『聖王』のクローンとは断言できないけれど、身体的特徴から考えるとそれに近いものね。ただ……」
「ただ?」
言い淀むカリムを急かすようにジルヴェスは言葉を繋ぐ。
「魔力量が圧倒的に多いわけではないのよ。その歳にしてはなかなか多いけれど、なのはたちも小さいときはこの程度だったもの」
「それっておかしいことなんですか?」
「そうね、クローンと言っても完璧な『複製』とはいかないのよ。だから必ず『オリジナル』とは違うものになる。そう考えれば魔力量に関しては考慮する必要がなくなるわ。けれど、『オリジナル』とは違う『複製』を造ったところで何の利益もないのよ」
「な……」
カリムの言葉になのはは絶句した。
「少なくともクローンなんてものを造っている人間たちにとっては、よ。そんな彼らが完璧な『複製』でないヴィヴィオをそのままにしておくと思うかしら。ジルヴェスなら分かるわよね?」
「…まあ、そうですね」
「どういうこ───」
歯切れ悪く頷くジルヴェスを詰問しようとするなのはの言葉を遮ってジルヴェスは言葉を続ける。
「つまり、彼らにとっての利益をヴィヴィオはもたらしている、もしくはもたらしていたということですね」
「そう。だからヴィヴィオには特別な何かがあるはずなのよ。それが何かは分からないけれど。どう思うかしら?」
試すような視線とともにカリムは何かを期待している質問をした。
「仮にヴィヴィオが何か秘密を持っていたところで関係ないですよ。ヴィヴィオ自身に害意は今のところないわけですし」
「ジルヴェスがそう言うなら任せるわ。幸か不幸かヴィヴィオはあなたに懐いているから」
「分かりました」
ジルヴェスの答えにカリムは満足がいったようだった。
「で、いつの間になのはちゃんと夫婦になったんや?」
「いやいや、ちゃいまっから」
「あんたその口調なんやねん。似合わないにも程があるやろ」
と、はやてはゲラゲラ笑っている。
「いやいや、笑いすぎでしょ」
笑いを隠そうともしないはやてに少しだけジルヴェスはムッときてしまった。
「でも、なのはちゃんが相手やったら別に否定する必要ないやんか」
「だから、違うんですって」
「またまた、そないなこと言うてホンマは嬉しいんやろ?」
はやてはしつこく茶化してくる。
「というか、そもそも自分はヴィヴィオのお兄さんの代わりみたいなもので………それに、なのはさんは全くもって関係ないですから。まったく、どこからそんな話になるのか……なのはさんだっていい迷惑でしょうに」
「……………」
はやては少しジルヴェスを呆れたように見つめてから続けた。
「でもまぁ、あんたが戻ってきたとき驚いたわ。ヴィヴィオやったか?がすごい懐いとるんやもん」
「それには俺も驚いてますよ」
「冗談抜きに仲のええ家族みたいやったであんたら。不覚にもちと嫉妬してもうたわ」
「へ?」
先ほどまでとはすこし気色の違う言葉に気の抜けた声が出てしまう。
「うちの両親小さい頃には亡くなっとったからな。あんまし憶えてないんよ。せやから羨ましい思うて」
「そうなんですか」
そのことは知らなかったのか、はやての話に聞き入る。
「でも、これからヴィヴィオはどうするんや?」
「なのはさんは里親を探すって言ってましたけど」
「なかなか難しいやろうな。こういう事情のある子は特に、や。あんたも分かるやろ?」
はやてはジルヴェスの言葉を継ぎ、さらに意味ありげなことを言う。
「それに、あのヴィヴィオの懐きようやったら里親が見つかっても行きたがらないやろうな」
「そうなんですよ。それが問題っちゃあ問題で…………」
少し苦い顔をして困っているようなジルヴェスの様子がはやての気にかかった。
「どないしたん?」
「いや、はやてさんと話すんでここに来るときにもヴィヴィオ涙目で。今はなのはさんにそばにいてもらってなんとか落ち着いているんですけど。訓練中とかって自分もなのはさんもそばにいてあげられないですし、大丈夫かなって」
「……そこは自分たちでなんとかしてもらわんと」
なんや、そんなことか、と呟きはやては冷たくあしらう。
「はやてさんならそう言うと思いました。ま、頑張ってみます」
「ほな頑張ってな」
「では、失礼しました」
ジルヴェスは一礼して部隊長室をあとにした。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(__)m